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転移の魔方陣でエルジュ王国へと転移して、馬車に揺られて王都へ向かう。さすがに魔王本人が訪れた時ほどの熱気はなかったが、それでも歓迎ムード一色だ。
中には魔族の姿を見て怯える住人もいるし、帰れと心無い言葉を投げつけてくる者もいたが、留学生たちは誰も気にしていないようだ。
「いやしかし、少しぐらいは反応があると思ったのだがな。怒りとかあるんじゃないのか?」
寮の前、馬車から降りながら魔王が留学生たちへと聞く。ディーゴが首を振って、
「いえ、予想はしていましたから。私たち魔族でも、人族を嫌う者は未だ大勢います。人族にも魔族を嫌う者がいて当然でしょう」
「それに、ルークさんが本当に何も気にしていないみたいですしね」
続いて言ったのはドワーフのガルツだ。なるほど、と魔王は頷いて、
「そこまで理解しているのなら問題ないな。寮にいる学生にも、未だ偏見を持っている者はいるだろう。寛大な心を持ち、器の違いを見せつけてやれ。間違ってもこちらから手を出すなよ」
「畏まりました」
「あと、俺はお前らと同じ留学生だ。気楽に話せ」
「ぜ、善処するよ……」
ディーゴとガルツが頬を引きつらせながら頷いた。
仕方がないとはいえ、魔王も無茶を言うものだ。自国の王へと気楽に話せと言われても、はいそうですかと応じられるわけがない。
「あまり無茶を言うとかわいそうですよ」
魔王の側に寄ってそう言うと、魔王はいたずらっぽく笑って、小声で返してきた。
「面白いだろう?」
「確信犯ですか……」
お茶目と取るべきか、嫌らしいと取るべきか。少なくともミランダはこの立場に立ちたくはない。がんばれ若人。いや、年は大して変わらないけど。
堂々と寮へと向かって歩いて行く留学生六人。もっとも、そのうち五人は表情にわずかに緊張が見える。間違い無くどこかの魔王のせいである。
そんな六人を寮の前で出迎えたのは、王子のロイドと、侯爵家のフローラだった。
「ようこそ、エルジュ王国へ。僕はロイドだ。王子という肩書きはあるけれど、学園内では身分は考慮されないことになっているから、気にせず話しかけて欲しい」
にこやかに、ロイドが笑って手を差し出す。魔王も笑顔でその手を取った。
「うむ。俺はルークだ。よろしく、ロイド。短い期間ではあるだろうが、仲良くしよう」
この魔王の態度に、学生側が一様に驚きを顔に浮かべた。反対に、ロイドは本当に嬉しそうだ。わずかに怪訝そうにする魔王に、ミランダは耳元でそっと囁いた。
「身分は考慮しない、とありますが、有形無実となっている制度です。ロイド王子はその通りにしたいみたいですが、他の学生はへりくだっています」
なるほど、と魔王が小さく頷いたので、ミランダはそっと離れた。
「では俺の友人たちも紹介しておこうか。……気になっているんだろう?」
是非、とロイドが促してくる。その反応に、魔王も気を良くしたようだ。自分の国の子を紹介できるのが、ちょっとした自慢のようで嬉しいらしい。
ディーゴの紹介では女生徒たちが黄色い悲鳴を上げて、ルルエラとエーシャの紹介では男生徒が興味を示してくる。特にサキュバスのルルエラの時が顕著だった。これだから男は。
ミランダから見ても格好良いと思えるディーゴの紹介での黄色い悲鳴があるので、あまり強く言えないのが少し悲しいところである。
ガルツとレンザの紹介の時は、今まで反応を示していなかった生徒が興味深そうにしていた。技術関係を学んでいる生徒や、騎士を志す者などだ。
留学生の五人はそれらの反応に戸惑いつつも、安堵の表情を浮かべていた。やはり、嫌われるよりも歓迎された方が嬉しいだろう。
「食堂でささやかだけど、パーティの用意をしてあるんだ。もちろん、君たちの歓迎の、ね。是非とも参加してほしい」
「もちろんだ。参加させてもらうとも。ただその前に、部屋に行ってもいいだろうか? 荷物を置きたいし、少しばかり休ませてもらいたい」
「ああ、大丈夫だよ。男子諸君は僕が案内しよう。フローラ。ルルエラさんとエーシャさんをお願いできるかい?」
「畏まりました」
フローラがルルエラとエーシャの前に出て、頭を下げる。ルルエラたちも慌てたように頭を下げた。自己紹介をして、三人で寮の中へと入っていく。
「それじゃあ、僕達も行こうか」
ロイドの案内で、魔王たちも寮へと足を踏み入れた。
寮に入ってすぐはちょっとした広間になっていて、学生たちの憩いの場となっている。食堂や大浴場も一階に集中しているらしい。というよりも、学生の部屋以外の施設のほぼ全てが一階だ。
二階は平民や下級貴族の部屋が集まっている。三階はもちろん上級貴族だ。今回、留学生は全員が三階に部屋を与えられている。
「身分を考えないというわりに、寮ではっきりと扱いを変えているのだな」
これでは意味がないだろうに、という魔王の呆れ声に、ふわふわ浮かんでいるミランダだけでなく、ロイドも苦笑しつつ同意を示した。
「言いたいことはよく分かる。僕もそう思うよ。でも、部屋ぐらいはわけておかないと、色々とトラブルが起きてしまうんだ」
「だろうな。今まで特別扱いをされていたのに、突然平民と同じだと言われて納得できる貴族はいないだろう」
故に階層ぐらいは別にしたというのは分からないでもない。ロイドとしては、これすらもどうにかしたいそうだが、さすがに王子一人の意志でどうにかなる問題でもないだろう。
「ちなみに、僕の意見に賛同してくれた子もいるんだよ。ミランダという子で、平民にも分け隔てなく接していた優しい子だった」
「本人がいないからって余計なこと言わないでくれます? いるんですよここに。おいこのやろう」
「……っ」
「ん? ルーク、どうかした?」
「い、いや、何も」
ロイドの周りをくるくる回りながら文句を言っていると、魔王が噴き出しそうになってしまったのが分かった。恐る恐る魔王へと視線を戻せば、微妙に睨まれているような気がする。
これ、後で怒られるやつだ。ミランダはそっとロイドから離れた。
「えっと……。ロイド、と呼んでいいのか?」
ディーゴが聞くと、ロイドは驚いたように振り返って、そして嬉しそうに笑った。分かりやすいと思うが、対等に接してもらえるのが本当に嬉しいらしい。
「子犬王子ですね」
ぼそりと呟くと、一瞬だけだが魔王に睨まれた。黙れ、ということだと思う。
そっと距離を取ったミランダの耳に、ロイドの嬉しそうな声が届く。
「ああ、いいよ! もちろん! それで、何かな?」
「お、おお……。びっくりした……。寮の見取り図はもらってるんだけどさ、俺たちの部屋ってどこになるんだ?」
「空き部屋がいくつかあるんだ。とりあえず全てを案内するから、そこから選んでもらえるかい?」
「分かった」
納得したようにディーゴが頷いて、その視線はそのまま魔王へ。魔王は振り返ることはせずに、軽く手を振った。
好きに選べ、と言いたいのだろうと、今までの付き合いでミランダは理解できるが、他の留学生に伝わるはずがない。案の定首を傾げてしまっている。
ミランダは魔王の隣に立つと、魔王へと言った。
「今のはこの子たちに伝わっていませんよ。ちゃんと口にしてあげてください」
「む……。そうか」
壁|w・)感想返信できてなくて申し訳ありません。
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ではでは。




