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「死にたい」


 魔王の真横で、ミランダは頭を抱えていた。

 前から思っていたけれど、なんだろうあの子は。ちょっといい子すぎないだろうか。そんないい子をあそこまで追い詰めたのは誰だ。私だ。


「死にたい」

「死んでるが」

「死にたい」

「落ち着け」


 本当に、開き直っていた自分を殴り飛ばしたい。まさかあそこまで、親友が落ち込んでいるとは思わなかった。気付くべきだったのに。

 それに、今の話から察すると、王女もまずいかもしれない。自分の報告が兄の友人を殺したとなると、それが正しい行いでも、王子とは顔を合わせづらくなるだろう。

 もしかしたら今日の学園の案内が王女ではなくフローラだったのも、それが理由かもしれない。


「魔王様。私に、何かできることはあるでしょうか」


 あの子たちのためなら、今なら何だってできる。してみせる。そう思ったけれど。


「あると思うのか?」


 呆れた様子の魔王に、ミランダは肩を落とした。


「忘れるな。今のお前は死人、ただの幽霊だ。俺だからこそ会話ができるが、本来ならあり得ないことだ」

「そう、ですよね……。申し訳ありません……」


 分かっている。そんなことは分かっている。分かっているけど、やはり何かしたいのだ。


「復讐も、こうして話を聞くと、やはり相手はいないみたいですね……」


 全員が、やるべきことをやった。ただ、それだけの結果だ。

 そう思ったのだが、魔王の考えは違うようだ。


「それについては、少し疑問に思うところもある。あの王子を見ていれば、国王はまともなようだからな」

「まとも……」


 その言い方はあまりに失礼だとは思うが、魔王自身も王であり、そして誰よりも長く生きている。魔王だから許されるかもしれない。そう思っておこう。


「一先ずは今晩の宴が先だ。王と話す機会もあろう。まあ待っておけ」

「はい。分かりました」

「ところで、お前は共に来るのか?」


 晩餐会に、ということだろう。ミランダの頬がわずかに引きつる。それを私に聞くのか、と。


「魔王様」

「うむ」

「大勢の貴族が来て、そしてとても豪華な食事が出てくるのです」

「そうだな」

「私は誰とも話せず、何も食べられないわけです」

「ふむ……」

「ちょっとした拷問とは思いませんか?」


 別に寂しいとか、食い意地が張っているとか、そういったことではない。ないったら、ない。

 でも、だ。大勢の人がいるのに、ミランダは何もできず話せず、ただぼんやりと見ておくことしかできない。

 とても美味しそうな料理がたくさん並ぶだろうに、ミランダは見ることしかできなくて食べることはできない。

 他の人がどう感じるかは知らないが、ミランダにとっては拷問に等しい。


「お前、意外と食い意地が張っているのだな……」


 そんなことを言ってくる魔王を、ミランダは蹴り飛ばした。もちろん素通りしてしまった。




 夜。ミランダは窓から夜景を眺める。人通りの多い通りには魔道具を用いた街灯が並んでいるため、夜でも比較的明るい。家々にも同じ魔道具があるため、まだまだ暗くなるには時間がかかりそうだ。

 便利な魔道具ではあるのだが、ミランダはこれがあまり好きではない。人が働く時間が延びてしまった原因に思えてしまうためだ。


「まあ、私が言えたことではないわね」


 そこまで考えて、自嘲しつつ呟いた。生前、面白い本があれば、明かりの魔道具を頼りに夜更かしして読みふけっていたものだ。間違い無く魔道具の恩恵を受けている側だろう。

 それに、今はこの明かりが綺麗だとも思えてしまう。人の営みを身近に感じられると、なんだか妙に落ち着いてしまう。

 そうしてぼんやりと夜景を眺めていると、魔王が戻ってきた。ドアを静かに開けた魔王は、予想に反してさほど酔っていないようだった。なんとなく、宴などがあれば魔王は人以上に酒を飲みそうなイメージだった。


「おかえりなさい、魔王様。飲んでいないんですね」

「いや、それなり以上に飲んだぞ」

「え」


 思わず、間抜けな声が漏れた。まじまじと魔王を見つめていると、魔王は苦笑して肩をすくめる。


「酒には強いからな。そうそう酔わんし、顔にも出ない。元々の体質だ」

「はあ……。それは……。お父様が羨ましがりそうです」


 ミランダの父は、とても酒に弱かった。他家との付き合いもあるので少しは飲めるのだが、調子に乗るとすぐに酔いつぶれて寝てしまう。それ故に、父はいつも酒に強くなりたいと嘆いていたものだ。


「お前の父君か……。機会があれば話してくれ。興味がある」

「はい。是非」

「うむ。今はそれよりも、本題だ」


 魔王がベッドに座りながらそう言う。ミランダは彼の前に浮かび、姿勢を正した。どういった内容になるかは分からないが、とても大事な話になるのは間違い無い。

 少しばかり緊張の色を浮かべるミランダに、魔王は小さく笑いながら言った。


「王と話すことができた。やはりあの王子の父親だな。あれは良い王だ」

「そうでしょうとも。我が国の王様ですから」


 こき下ろされたらどうしようかと思ったが、魔王から見てもこの国の王は良い王であるようだ。少しだけ安心する。


「だからこそ、腑に落ちないな」

「えっと……。何がでしょう?」

「あの王なら、一族で処刑など許さなかったはずだ」


 例え法で定められていたとしても、やりようなどいくらでもある、と魔王は言う。

 例えば、子供は未成年だから公開処刑はしない。そう言っておいて、他国へと留学などさせて、折を見て呼び戻す。家名は捨てさせるしかないが、選択肢としては悪くないだろう。


「あの王なら、能力のある者、見込みのある子供ならそうしたはずだ。無論、毒にしかならないような子供なら、まとめて処刑してしまっただろうがな」

「えっと……。つまり私は、見込みがなかった、と?」


 違う、と魔王は首を振る。首を傾げるミランダに、魔王が続ける。


「間違い無く、連座へと誘導した誰かがいる。万が一にもエルメラド公爵家の血が残らないように、公開処刑にと踏み切らせた誰かが、な」

「つまり……ええっと……。復讐相手、います?」

「いる。おそらく、この国にとっての毒となる者だ」


 なるほど。どうやらミランダには、やることがしっかりとあるらしい。それなら、こうして幽霊になっていたのにも意味があると思っていいだろう。

 この先、友人たちがこの国を背負って立つ時のために、毒は潰しておくに限る。


壁|w・)誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。

ではでは。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 晩餐会でミランダは食べるのか? それとも食べれないのか? シュレディンガーの猫のような実験な状況になりそうですね [気になる点] この国を潰そうとしている者に恨みをぶつけましょう そう…
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