一寸法師 〜届かぬ思い〜
むかしむかし、京の山奥の村におじいさんとおばあさんが住んでいました。
ある時、神様が二人に子供を授けてくれたのですが、その子は大きくなっても1寸(3.03cm)にしかならず、『一寸法師』と名付けられました。
おじいさんとおばあさんはそれでも一寸法師を可愛がり、すくすくと成長した一寸法師は「いつか偉いお侍さんになるんだ!」と言っていました。
そんなある日、一寸法師は京の都には有名な貴族がいる事を知りました。
「貴族に売り込みをかけたら武士になれるかもしれへんな…ちょっとアピールでもしてみよかな?」
漠然とした目標です。
「アピール…オレが大食いな所を見せたら驚くかな?」
…アピールの方向が間違ってませんかね?
てか、大食いなんですか?
「ふふふ…オレがお米を4粒も食べられるのを見たら、きっと『4粒も食べるなんて、なんと器の大きな男だ!』とか言われるかもしれへんな。まぁ、普通は1粒でも『大食いやなぁ』っておじいさんやおばあさんを驚かせているから、4粒も食べるなんて誰も思わへんやろな!」
…まぁ3cmですからね。それを考えたら大食いなのかな?
「よし!そうと決まればおじいさんとおばあさんに言って、京の都に行こう!」
一寸法師の決意は固いようです。
一寸法師は家に帰るなり、おじいさんとおばあさんに宣言します。
「オレ、京の都に行って武士になって来るわ!」
おじいさんとおばあさんは驚いています。
「一寸法師や…本気なのかい?」
「もちろん!オレはいつでも本気で生きてる!」
「どうやって京の都まで行くんだい?京の都までは遠いよ?」
「ふふふ…オレに秘策があんねん。お椀の船で川を下って行けばあっという間に都まで行けるハズ!」
おじいさんとおばあさんは一寸法師の決意が固い事を感じ、おじいさんは一寸法師のためにお椀の船と舵取り用のお箸の準備をしてくれました。
おばあさんも、裁縫用の針を刀として、麦藁で鞘を作ってくれました。
一寸法師もその間に大食いのイメージトレーニングをして、いつでもお米4粒を食べられるようにしています。
そして、カッと目を見開いて自信のある顔でこう言いました。
「…うっすらと…うっすらと見えてきたで…5粒の壁の超え方を…!」
一寸法師はすごいドヤ顔ですが、おじいさんとおばあさんは暖かい目で見守っていました。
「一寸法師や、お椀の準備が出来たよ」
「一寸法師や、あなたの刀と鞘ですよ」
おじいさんとおばあさんが一寸法師にそれぞれの準備したものを渡します。
「ありがとう!じゃあ都に行って武士になって来るわ!」
一寸法師は颯爽と駆け出し、家の近くの川にお椀を浮かべます。
「じゃあ行って来るわ!」
一寸法師はおじいさんとおばあさんにそう言って挨拶をして、ひらりとお椀に飛び乗り、勢い余って川に転覆しました。
先行きが不安な旅立ちですね。
途中、川の流れに攫われて、何度も転覆を繰り返し、何とか京の都に到着した一寸法師。
河原で服を乾かしながら襲いくるノラ猫と死闘を繰り広げているところに、お供を連れた身分の高そうな若い女性がやって来ました。
「あらあら、猫が興奮しているなぁと思っていたら、小さくて可愛らしい人がいました。こんにちは。あなたはだぁれ?」
「ちょ!まずはこの猫をどうにかして!あ!アカン!お尻に噛み付かれた!?…あぁ…だんだんと目の前が真っ暗に…なって…きた…」
一寸法師が名乗りを上げる前に、天に召されようとしています。
「あらあら、それは大変ね。しっしっ!猫さんちょっとあっちに行って下さいな?」
こうして辛うじて一命を取り留めた一寸法師は、女性の元で無事目を覚ましました。
「く…来るな!やめろ!やめてくれー!!……っはっ!なんだ…夢か…」
どうやら悪夢でも見ていたようですね。
「しかし、気を失う前はホンマに起こっていた出来事のハズ。あぁ何と言うことや…。この京の都にも凶悪な猛獣(※猫のことです)が跋扈しとったなんて…。村にも猛獣(※猫のことです)がおったけど、都でも出くわすとわな…。気を引き締めて行かなアカンな」
…まぁ一寸法師にしてみれば、猫は命の危険を感じる猛獣と思ってしまっても仕方のない事でしょう。
「あらあら?目が覚めたん?」
と言いながら、そこに河原で会った貴族と思われる女性が一寸法師の元にやってきました。
「あなたは猫に襲われていたのよ?覚えているかしら?」
「あぁ…今思い出しても恐怖で体が震えて来るわ…」
「あら大変!でももう大丈夫よ?このお家には猫はやってきませんからね」
「もしや、貴方様があの猛獣(※何度も言う様ですがネコのことです)助けてくれたのですか?」
「猛獣…?多分、私…かな?」
「おぉ!そうなのですね!ならば、私の命の恩人っちゅー事になりますね!」
「はぁ…まぁ…」
「こう見えても、私は武士(を希望している人)なんです!恩返しに、貴方に武士として仕えさせてください!」
「えぇえ…?」
一寸法師は、どさくさに紛れて、武士として雇ってもらおうとしているようですね。
でも、猫に襲われる武士って一体…
「安心して下さい!こう見えても私、村では最強(※ただしジャンケンで)やったんです!今回たまたま猛獣(※何度も…以下略)に不意を突かれまして。次は今回の様なヘマはしません!」
「はぁ…じゃぁ、お試し期間という事で…」
「わかりました!必ずや満足させて見せましょう!」
心の優しい女性はしぶしぶ護衛として一寸法師を雇うことにしました。
それから数日が過ぎ、特に何も起こらず平穏な日々が過ぎて行きました。
「むぅ…何も起こらへん…!このままでは普通に屋敷の周囲を警備していただけで雇用のお試し期間が終わってまう…!こうなったら大食いの特技を見せる時がやって来たな…。でも、それは最終手段!他に何か…何か起こらへんやろか?」
何やら物騒なことを考える一寸法師ですね。
ただ、そんな一寸法師の願い?が届いたのか、貴族の女性は祖霊の供養のため、お寺に行くことになりました。
ただ、その道中は鬼が出るとの噂があるのです。
「あぁ、鬼が出るって噂があって怖いわ。どうしましょう…?」
さすがに女性も恐怖を感じているようです。
「私に任せて下さいませ!この刀で、鬼をみじん切りにしてみせましょう!」
一寸法師もここがチャンスだと言わんばかりにアピールをしてきます。
「えぇ、ありがとう。期待していますよ。…はぁ、どうしましょう…?」
「うぉぉぉ!俺は期待されている!おばあさんから貰ったこの針の刀で、鬼なんぞ細切れにしてくれるわ!」
明らかに期待していない女性の態度なのですが、言葉通り受け取った一寸法師はヤル気を漲らせていますね。
結局、貴族の護衛は一寸法師と侍が3人の計4名となりました。
一行が御参りをしていると、案の定鬼が現れます。
「ふはははは!男は大人しく俺の寝所に来い!女は…まぁどうでも良いが…せっかくなので食ってやろう!」
侍達に一気に緊張が走ります。
まさか、狙われたのは男の方でした。
もしかすると貴族の女性だけで御参りに来ていた場合、スルーされていた可能性がありますね。
とは言え、今は食料として見られているので、過ぎた事を悔やんでも仕方ありません。
「姫!ここは我々3人が防ぎます!一寸法師!姫の護衛は頼んだぞ!」
「姫の護衛は任された!」
「皆さん、ご無事で!」
「なに、易々(やすやす)とこの尻をくれてやるつもりはありませんよ。逆に、この刀をヤツの尻にくれてやります!」
「そうですよ!俺には綺麗な妻と幼い息子が居るんです!簡単に殺られる訳にはいかないんです!」
おや?
「俺もこの戦いが終わったら婚約者に結婚を申し込むんです!隊長も娘さんの結婚式があるんですよね?」
おやおやおや?
「ははは!無駄口叩いているヒマがあったら、サッサと突撃する準備をしろ!」
「へへっ!そうですね!」
あぁ…フラグが建っちゃいましたね…。
「よし、お前達行くぞ!」
「「応!!」」
そう言って果敢に鬼に突撃する侍達でしたが、それぞれ一撃で昏倒されてしまいました。
フラグなんて建てちゃうから…。
このお侍さん達はフラグの一級建築士か何かなんでしょうか?
「大漁じゃ、大漁じゃ!」
鬼は一度に3人の男が手に入りご満悦の様子です。
「では、ついでに女の肉でも食べようかの?」
あらら、ちゃんと覚えていたみたいですね。
「さぁ、大人しくワシに食われろ!」
あぁ、貴族の女性も一巻の終わりか!と言う時、我らが一寸法師がカッコ良く登場しました!
「ひひひ姫様ににに…てて手を出しゅなぁー!おおお、大人しく男を連れて立ち去れー!」
……。
まぁ、鬼を相手にガンバっているんではないでしょうか?
「ほう?可愛らしい男子じゃのう。可愛らしくて食べちゃいたいわい!」
「ひぃぃぃ!」
あぁ、なんということでしょう…
抵抗らしい抵抗も出来ず、あっという間に一寸法師は鬼に食べられてしまいました。
「あぁ、一寸法師まで…。お父様、お母様。先立つ不幸をお許しください…」
貴族の女性もついに観念してしまいました。
「う!うぅぅ!!!」
と、急に鬼が苦しみ出したではありませんか!
「ごふぅ!」
鬼が口から血を吐いて、苦しみもがいています。
「一体これは…???」
「ぐあぁ…「姫ー!!!」…ぁあ!」
なんと!鬼の口の中から一寸法師の声が聞こえるではありませんか!
「姫!私が鬼の身体の中から攻撃をしています!危ないので少し離れて下さい!」
一寸法師はそう言って、鬼の中で至る所を針の刀で刺しまくっています。
そして、運良く突き刺した刀が心臓に突き刺さり、鬼が死んでしまいました。
しばらくして、のそりと口の中から一寸法師が出てきて、倒した鬼を見ています。
「はぁ…恐ろしく臭かった…。鬼は一体、普段から何を食べているんだ?」
…どうやら相当臭かった様ですね。
「ん?鬼が持っているのはなんだ?打出の小槌?なんだそれ?」
なんと、この鬼が持っていたのは、願いを叶えてくれる不思議な小槌でした!
「姫ー!ご無事ですか?鬼が変な小槌を持っていたのですが…?」
「よく退治してくれましたね、一寸法師。どうやらそれは願いを叶えてくれる不思議な小槌の様です」
「願いを…!」
「ええ、この戦いの功労者の一寸法師。あなたの願いを叶えてあげるわ。なんでも言ってみて」
「じゃあ…俺を普通の成人男性並に大きくしてください!」
「ええ、分かりました」
そう言って、貴族の女性は一寸法師に向かって小槌を振りました。
すると、どんどん一寸法師が大きくなっていき、立派な青年になったのです。
「まぁ、立派な青年になって…」
「ありがとうございます、姫。これで、私を正式に雇っては頂けないでしょうか?」
「ええ!もちろんよ。あなたのお陰で私は助かったのだから」
「よっしゃ!ええ感じやん!これは俺の時代が来たんちゃうか?」
一寸法師は願いが叶って大喜びです。
「姫!あと、私と付き合っていただけないでしょうか?」
なんと!一寸法師は調子に乗って、貴族の女性に告白をしました!
確かに一寸法師は大きくなってカッコ良くなりましたからね。
「え?」
貴族の女性も突然の告白に驚きです。
そして、少し時間を置いて、女性はゆっくりと話し始めます。
「あの………ごめんなさい!」
「え?」
え?
「私、同じ女性しか愛せないの!」
!!!!?
「え?」
「あなたは確かにカッコ良くなりました。けど、恋愛対象にはならないの!ごめんなさいね!」
「え?」
こうして、京の都で起きた人喰い鬼の事件は無事完結し、一寸法師も念願のお侍になる事が出来ました。
めでたし、めでたし
「え?」
願いが叶って良かったね!
一寸法師「え?」
おしまい