赤ずきんちゃん 〜この世の真理は弱肉強食〜
ある街に昨日10歳になったばかりの可愛らしい女の子が住んでいました。
ある日お母さんから「あなたもついに10歳になったんだね。貴女には一族の真実を話さなきゃいけないね。」と言われます。
「一族の真実?お母さん、それはなぁに?」
純真な女の子は不思議そうにお母さんに聞き返しました。
お母さんは少し躊躇った後、アップルパイの入ったバスケットを少女に手渡しながら、こう言います。
「貴女には病気のおばあさんが居るの」
「病気のおばあちゃん?何処にいるの?」
「森の奥深くに一人で住んでいるんだよ」
「どうして病気なのに森の奥深くに一人で住んでいるの?それって虐待じゃないの?」
少女が疑問に思うのも仕方ありません。
病人のおばあさんを森の奥深くに一人で住まわせるのは、どう考えても普通ではありません。
「…そうだね。でもね、それは一族の……いや、貴女は直接おばあさんから聞いた方が良いかもね」
「???」
少女はますますよく分かりません。
「10歳を迎えた女性は真実を知る、これも私達一族の掟なんだよ。だから、このアップルパイを持っておばあさんの家に届けて、そして真実を知って欲しいのよ」
「よく分からないけど…分かったわ!これを持っておばあちゃんの家に行けば良いのね?」
「ええ、お願いね。あ!貴女は孫だから大丈夫だと思うけど…くれぐれも襲われないように気をつけるんだよ!」
「大丈夫よ!私、近接格闘術超得意だもん!」
そう言って、少女はバスケットと護身用の武器を持って家を出ていきました。
残されたお母さんは、「本当に…気をつけるんだよ…」と心配そうに、じっと少女の出ていった玄関のドアを見つめていました。
「一族の真実って何なのかしら?」
少女は日焼け止めも兼ねて赤い頭巾を被って森を歩いて行きます。
便宜上、少女を赤ずきんと呼ぶことにしましょう。
「真実…?秘密…?まぁこれから行くおばあちゃんに聞けば良っか!初めて会うおばあちゃんってどんな人なのかなー?」
暢気に森の中を歩く赤ずきん。
その背後の木の陰からそんな赤ずきんを覗く一匹の獰猛な獣がいました。
「くくく…柔らかそうで美味そうな人間がいるぜ。初めて会うおばあさん?はっ!いい事を思いついた!先回りしてそのおばあさんとやらの家で待ち伏せしてやる。おばあさんは前菜として美味しくいただいて置いてな!」
そう言って一匹のオオカミは森の奥に駆けて行きました。
そんな事になっているとも知らない赤ずきんは、「あら?あそこに木苺が成ってるわ!一緒に摘んで持って行きましょう!」と、幸せそうに木苺摘みをしていました。
先回りしたオオカミは森の奥に1軒の家を発見します。
「こんな所に家があるなんてな…くくく…不用心なヤツだぜ。こんな森の奥に住んでいることを後悔するんだな」
そう言って、家に侵入します。
「あら?誰かお客さんかしら?」
物音に気が付いたおばあさんは、物音がした方に近づいて行きます。
するとそこには獰猛なオオカミが立っており…
「キャー!!!」
ところ変わって、森の中に小さな野原があり、近くに小川が流れている場所で、ランチを食べていました。
「ちょうどお腹が空いたなぁって時に野ウサギがいるし、念のために護身用武器の中に投擲ダガーと塩を持って来ておいて良かったわ♪」
……ランチは森の中で自己調達した様ですね(白目)
近くから枯れ枝を拾い集め、火を起こして手早く捌いて焼いて食べてしまいました。
「ふぅ、美味しかった♪小川も近くて助かったわ!すぐに血を落とせるんだもん♪じゃあまた血の匂いに釣られて野犬が襲って来る前に、そろそろ出発しましょうか!」
そう言って食事中に襲って来た野犬の群れの首を刈り取ったグルカナイフをキレイに洗い、赤ずきんはおばあさんのお家に向かって歩いていきます。
しばらく歩いていると、森の中に小さなログハウスを見つけました。
「あ!あのお家がおばあちゃんのお家ね!ちょっとドキドキするわ!」
そう言ってドアをノックしました。
すると奥から「どなた?」と聞こえたので、赤ずきんは大きな声で答えます。
「おばあちゃーん!貴女の孫でーす!お母さんから一族の秘密とか真実とかを知りなさいって言われて訪ねて来ましたー!」
「おや、そうなんだね。どうぞ入っておいで」
赤ずきんは『不用心ですね…』と内心思ったのですが、まぁ会った時に言えば良いかと家に入って行きます。
部屋の奥に寝室があり、そこにおばあさん?がいました。
「貴女が私のおばあちゃんですか?」
「えぇ、そうよ」
少しくぐもった、ガラガラの声が聞こえました。
赤ずきんは『病気だし、そんなものかな?』と深く気にすることなく、おばあさんに話しかけます。
「一族の真実を知りたいのですが、その前に…アップルパイを持って来ましたので、一緒にいただきませんか?」
…どうやら赤ずきんはアップルパイが食べたい様です。
相手の贈り物なのに、さも自分が一緒に食べるために持って来たように話をしていますね。
「え…えぇ、そうね、私は調子が良くないから、後でいただいても良いかしら?」
おばあさん?も戸惑っています。
「そうですか…では、後にしましょうか…」
さすがにおばあさんに持ってきた物だと自覚ある様ですね。赤ずきん一人で食べる事はしませんでした。
「それはそうとおはあちゃん、少し疑問に思うことがあるのだけど、聞いても良いかしら?」
「なんだい?」
そう言って赤ずきんはおばあさんを見て疑問に思った事を聞きます。
「おばあちゃんはどうしてそんなに大きなケモ耳をしているんですか?まるでイヌ科の様な…?」
そうなんです。おばあさんからは明らかにオオカミの耳が見えているんです。
「…!!!そ、それはね…獲物の気配を察知するために音を良く聞こえるようにするためだよ」
おばあさんに扮したオオカミは慌てて普通に答えてしまいます。
「そうなのね。では、何故そんなに鋭い目をしているのかしら?」
「そ…それは…獲物を見逃さないためだよ」
「では、何故そんなに鼻が前に出ているの?本当にイヌ科の動物みたい」
「っ!それは…それはね、弱った獲物を探すために、血の匂いを良く嗅ぎ分けるためだよ」
もうオオカミは騙すことを諦めたのか、正直に答えています。
一方の赤ずきんも困惑しています。
『どう考えても犬かオオカミじゃないの?もしかして、私達の一族は狼獣人の血を引いているのかしら?』
赤ずきんは心の中で意外と冷静に考えでいました!
「では、どうしてそんなに大きなお口なのかしら?口が大きく裂けて見えるのだけど…?もしかして…口唇裂の横顔裂なのかしら?大丈夫よ!これは500人に一人の割合で産まれてくる病気で、ちゃんと外科的な治療法があるのよ」
赤ずきんはちょっと余計な心配をしていますが、オオカミさんは意を決して答えます。
「それはね…お前を食べるためだー……って言いたかったんだけどね…もうムリ…」
ん?
おばあさんに化けたオオカミは何故かプルプル震えています。
「あら、貴方はやはりオオカミさんでしたか。という事は私の一族の真実とは…」
「あぁ、違う違う。何を考えているのか分からないが、オレはお前のおばあちゃんとやらじゃねぇよ」
オオカミは素直に正体を表しました。
「そうだったんですね。では、何故貴方は私のおばあちゃんのフリなんかを?」
赤ずきんが疑問に思うのも仕方ありません。
「お前のおばあさんに頼まれたんだよ。森でお前を見かけて、お前がこのばあさんの家に向かっている事を教えたら、留守番しておいてくれってな」
あれ?
オオカミはおばあさんを食べたのでは?
「ありゃとんでもねぇばあさんだぜ…」
そう言って、おばあさんと遭遇した時の事を語りだしました。
*****回想*****
「あら、誰かお客さんかしら?」
そう言って物音がした方に近づいて行くおばあさん。
すると目の前に獰猛なオオカミが現れます。
「キャー!!!」
驚くおばあさん。
「くくく…お前を食って…」「キャー!中々良い身体してるじゃない、このオオカミ!よく見りゃ中々良い男だよ!」
ん?
「なんだい、なんだい。私の家にやって来て!夜這いは普通なら夜するもんだよ?まぁせっかく来たんだ!ちょっとこっち来な!」
そう言ってオオカミの首根っこを掴んで寝室に連れていくおばあさん。
…あれ?
「や、やめろォ!」「良いじゃないかい。ちょっと天井のシミの数数えている間に終わるよ!」
……(赤面)
「うぅ…もうお婿に行けない…ぐすっ」
「はっはっはっ!アンタ、中々良かったよ!私のモノになりな!」
泣いているオオカミを全く気にせずに、おばあさんは楽しそうです。
「い、いや、その…」
「なんだい、嫌だってのかい?」「いえ、そんな事は…」
これは…なんでしょう?パワハラ?
「そもそも、アンタはなんで私の家に来たんだい?ホントに夜這いだったのかい?」
「いえ!そんな事は思ってもいませんでした!」
「あ゛ぁん?」
おばあさんが不機嫌な顔に変わりました。
オオカミは慌てて続きを話します。
「あ、貴女がこんなにキレイな女性とは思わなかったので!」
「そうかい。なら、なんで家に来たんだい?」
「実は、森の中で貴女のお孫さんを見かけまして…一族の真実?とか何とか。それで、ここにオオカミがいると驚くんじゃないかな?って思いましてね。」
オオカミは必死に食べようとしていた事を隠しながら話をしています。
「あぁそうか、確か娘が子どもが産まれたと10年前くらいに言っていたね。そうか、女の子で10歳になったんだね。」
おばあさんは少し思案した後、オオカミに言います。
「ちょっと孫を歓迎するために、街に買い物に行って来るよ。アンタはここで留守番してな」
「なっ!なんでオレが!」
「あ゛?」
「あ、いえ、なんでもないです、はい」
「わかりゃ良いんだよ。あ、もしうちの孫に何かしてみな。どうなるか分かってるんだろうね?」
おばあさんはギロリとオオカミを睨みます。
「そんな!(その後が怖くて)そんな事するわけないじゃないですか!」
「あぁ、そうだ。アンタ、私のフリをしてな!孫も突然オオカミに出会うと驚くからね」
「えぇ…」「あ゛ん?」「いえ、分かりました!」
*****回想終了*****
「と、いうわけだ。何なんだよ、お前のばあさんは…」
「はぁ、おばあちゃんを食べようとしたら、逆に喰われた…と」
ガクガクと震えながらオオカミは涙目になっています。
と、そこへ
「ただいま!孫は居るかい?」
おばあさんが帰宅した様です。
「私ならここです!貴女が私のおばあちゃんですか?」
おばあさんと赤ずきんの感動?の対面です。
「ふむ、確かにアンタは私の孫の様だね」
「じゃあ私のおばあちゃん!」
赤ずきんは少し嬉しそうにおばあさんに抱きつきます。
「おぉ、初めまして、だね」
「はい、初めまして!早速ですが、一族の真実って何なんですか?てっきり私の一族は狼獣人なのかと思っちゃいました!ところで、なんでおばあちゃんは猟師さんを引き摺っているんですか?」
そうなんです…おばあさんは何故か気絶した筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)のハンターさんを引き摺っていました。
「あぁ、コイツは帰り道にちょっとね、良い男だったから連れてきたんだよ。後で美味しく頂こうかと思ってね。そうだ、一族の真実だね?」
「はい!」
赤ずきんはおばあさんの連れてきた発言をスルーして、続きを促します。
「うちの一族の女はね、何世代かに一度、私の様な驚異的な性欲を持つパンセクシュアルが産まれるんだよ。それ以外は普通のか弱い女さ」
「ウソつくな!」
オオカミがすぐにツッコミますが、誰一人気にしていません。
「パンセクシュアル?」
赤ずきんはオオカミをスルーして、おばあさんに問い掛けます。
「そうさ、全性愛と言って、相手の性別に関係なく愛することが出来るステキなセクシュアリティなのさ!」
「へぇー!」
「私もそんなパンセクシュアルでね、でも性欲が強すぎる上に惚れっぽくてね。ついつい街で色々とやっちまってね、自粛するために、こんなに森の奥に住んでいるのさ」
※実際のパンセクシュアルはそんな事はありません!好きになる相手に、性別は関係ないだけです。好きになった人が好きと言うだけです!
もちろん、オオカミを襲う事など有り得ません!
「ほえー、おばあちゃんが虐待されてたのではないのですね。おばあちゃんも大変ですね」
赤ずきんはどこか他人事です。
「はははっ!虐待なんかじゃないよ。自粛しないとついつい喰いすぎちまうからね」
真実は街中のイケメンや美女に手を出して、危険視されて森の奥に隔離されている様ですが、全く効果が無いだけの様です。
「ふふふ、そうだったんですね。良かったです。あら?なら、私も襲われちゃいますかね?」
「安心しな。この血は何故か血縁者には欲情しないからね。でも、アンタも楽しそうだね?」
「ええ、私達の一族にそんな秘密があったなんて驚きました」
なるほど。
行く時にお母さんが心配していたのは、森の中で野党に襲われるのでは無く、おばあさんに襲われる可能性を心配していたんですね。
おばあさんはどことなく楽しそうな赤ずきんを見て、ふと何かに気づいた様です。
「ん?アンタちょっとこっち来な?」
おばあさんは赤ずきんの瞳を覗き込みながら言います。
「へぇ、どうやらアンタも私と同じ様だね?」
「あら、そうなんですか?」
「あぁ、そうさ。もしこれから先、性欲が抑えられなくなったらウチに来な。コイツら(オオカミとハンター)で色々と教えてやるよ」
「ひぃっ!」(震えるオオカミ)
「ふふふ、それは楽しみですね!」
こうして、赤ずきんはおばあさんと初めての邂逅を果たしました。
おばあさんもオオカミやハンターさん(※つまり獲物)を見つける事が出来て幸せそうに笑っています。
その後、赤ずきんがおばあさんのお家に頻繁に遊びに行く様になるのですが、それはまた別のお話。
ひとまずこれにて、めでたし、めでたし。
え?オオカミとハンターさん?
……強く生きた、とだけ言っておきましょう。
パンセクシュアルは物語に書いてある通り、全性愛と言います。
好きになった人が好きなタイプと言う方ですね。
バイセクシュアルは男性も女性も好きと言う方ですが、パンセクシュアルは中性の方や無性の方も含めて、その人と言う個人を愛することが出来る方です。
もちろん、物語の様に、誰彼構わず人を襲う事はありません。