竹取物語 〜それはご褒美です〜
今は昔、竹取の翁と言ふ者ありけり。
……まぁ竹を刈り取ってそれを売るお仕事をしてるお爺さんがいたって事ですね。
彼は結婚していましたが、望んでいたのに残念ながら子宝に恵まれませんでした。
そんなある日、いつもの様に仕事の竹を取りに向かうと、竹の中の1本に金色に光る節を見つけました。
コレはきっと中にお宝が眠っているに違いない!と張り切ってその竹の節を切らないように切り取り、妻の待つ家まで飛んで帰りました。
「おーい!コイツを見てくれー!」
家が見えると、彼は大きな声を出して妻に知らせました。
「アンタ、仕事はどうしたんだい!」
仕事を放り出してこちらに走って来る旦那を見つけて、理由を聞きます。
「おいばあさんや!仕事なんかより、コレを見てくれ!」
そう言ってお爺さんは持って帰ってきた光る竹の節を見せます。
「お爺さん…何コレ…?光る竹?え?…何それ怖い…」
「お…おぅ…」
お爺さんはお婆さんとの温度差に若干戸惑ってます。
「お爺さん、それ気持ち悪いから早く捨てて来て下さいよ」
「おぉっと!まぁまぁ、一度割って中を見て見よう。もしかしたら金が入ってるかも知れんじゃろ?」
お婆さんは気味悪がって捨てて欲しい様です。
お爺さんはそんなお婆さんを説得しようと頑張っています。
「お爺さん…金は自ら光りませんよ?つまり、金では無いという事ですよ」
お婆さんは意外と冷静な様です。
「相変わらず婆さんは夢が無いのう…まぁ開けてみたら分かるじゃろ!」
そう言って竹の節ギリギリを切って中を確認します。
「ば…婆さん…コレを見てみぃ…」
お爺さんが驚愕している様子に、お婆さんも少し興味が出た様です。
「一体何なんですか?お爺さん…」
その竹の中に居たのは…小さな可愛らしい子供だったのです!
お爺さんとお婆さんはひと目見た瞬間にその子の虜になってしまいました。
「婆さんや!ワシはこの子を育てるぞー!」
「お爺さん!私も同じ気持ちですよー!」
ムダに熱くなって叫ぶ二人でした。
「名前は…そうじゃのぅ…光輝く竹から生まれたから、かぐや!かぐや姫じゃ!」
こうして、かぐやと名付けられた子は、二人に育てられる事になりました
その子はどんどん成長して行き、数年が過ぎた頃には、かぐやはとても可愛らしく、美しい美少女に成長しました。
(※本来は数ヶ月くらいで大人になったそうですね)
「かぐやー。またお主にファンレターとプレゼントが届いておるぞー」
お爺さんがかぐやに大量のファンレターとプレゼントを持って来ました。
「おぅふ!かぐや可愛い!ワシの心が洗われる!」
「……おい。登場するなりいきなり気持ち悪いわ!……てか、なんでまたファンレターとかが来てるんだよ……前に断っただろ…?」
「仕方ないじゃろ?かぐやは都でも評判の今をときめく美少女じゃぞ?」
不機嫌そうなかぐやにお爺さんは平然と答えます。
「……(イラッ)!…なぁ…何度も言ってるよな……?」
「ん?何がじゃ?」
「オレは男だ!なんで美少女ってウワサになってるんだよ!!!」
……えぇ、そうなんです。
彼は正真正銘の男の子なんです。
白雪姫の時の様に、身体が女の子で心は男の子とかではなく、身も心も完全な男の子なんです!
ただ、見た目が絶世の美少女なだけのただの男の娘なのです…
「来る日も来る日も知らない男からファンレターが届くとか、なんの拷問だよ!!オレは女の子にモテたいんだよ!」
「仕方ないじゃろー?その可愛さは反則じゃろ?となりに立ちたいと思う女の子はほとんど居るまい」
そうなんです。彼が美少女過ぎて、女の子からは羨望や僻み、または逆に比べられるのを嫌って敬遠されているんです。
「なんでだよ(泣)!!そもそも、なんで都中にこんなウワサが広がってるんだよ…!!」
かぐやは半泣きで嘆いています。
「そりゃあ、ワシと婆さんが近所に自慢しまくっとるからのぅ!」
お爺さんはドヤ顔で答えます。
「お・ま・え・かー!!自信満々に言うなよ!やめてくれよ(泣)!!」
「HAHAHA!ソレは無理じゃ!!かぐやが可愛いから自慢したくなるんじゃ!」
お爺さんに反省の色はありませんでした。
そんなある日、かぐやのウワサを聞きつけた貴族達がかぐやに求婚をしてきました。
「おーい、かぐやー。お主に貴族から求婚の手紙がたくさん届いておるぞー。どの貴族が良いのじゃ?」
お爺さんはかぐやに大量の手紙やお見合いの手紙を持って来ます。
「……なぁ、……何度言えば分かるんだ?」
「ん?」
「オレは女の子が好きなんだ!男と結婚するかー!!!」
かぐやはプリプリ怒っていますが、怒られているお爺さんはと言うと…
「おぉう♪なんじゃその可愛さは!もっと来い!」
……喜んでいるようですね。
「絶対結婚しねぇからな!手紙を叩き返してくれよ!」
この頃のかぐやは都中のアイドルの様なものになっており、迂闊に外に出れなくなっていました。
そこで、お爺さんに手紙を返してくる様にお願いをしています。
「とは言え、相手は貴族じゃぞ?ダメですって返す訳にはいかんじゃろ?」
「う…まぁそうだよな…」
かぐやもさすがに貴族相手には下手な事を出来ません。
「そうだ!オレと結婚したいならオレの指定する宝を持って来るように言ってくれ!『相手が望む宝を持って来れない様な甲斐性なしには結婚したくない』とか何とか言って」
「ふむ、まぁそれくらいなら大丈夫かの?で、何の宝を要求するんじゃ?」
「じゃあ…『仏の御石の鉢』か『蓬莱の珠の枝』か『火鼠の裘』か『龍の首の珠』か『燕の産んだ子安貝』のどれかで!」
「なんじゃそれ?」
簡単に言うと、当時に話でしか聞かないような珍しいお宝なんですが、ぶっちゃけそんなもの存在しません。
まぁ当時はあると思われていた様ですが…
かぐやがお爺さんに説明すると、
「むぅ、じゃあ貴族にはそう伝えておこう」
お爺さんは了承しました。
それを聞いた貴族の一人は、お寺の鉢を持って行き「偽物じゃねぇか!」とかぐやに罵られてしまい、意気消沈して……
「罵倒ありがとうございます!」
…して……無い様ですね。
別の貴族は蓬莱の珠の枝を職人に作らせたのですが「接着剤の後が残ってるんだよ!バカか!?」とバレて怒られてしまい、憤慨して…
「もっと!もっと怒って下さいぃぃ♪」
…して……ませんよね。
また別の貴族は、胡散臭い笑いをするセールスマンから「ホーッホッホッホ!コレが火鼠の皮です。火にくべても燃えませんよw」と言われて購入しました。
かぐやの所に持って行ったのですが、まぁ当然燃えました。
「燃えてんじゃねぇか!」
かぐやに高いお金で買ったものを燃やされて、さすがに貴族も怒る……
「拙者もかぐやたんに萌えているでゴザル!」
……はい、ドーン!
また別の貴族は龍の首の珠を探しに大海に出て、遭難して酷い目に合いました。
さすがにかぐやも「お、おい…大丈夫か?」と心配しましたが、
「かぐやたんに心配されるオレ!もう死んでも良い!!」
と喜んでました。
最後の貴族は、燕の巣の中からそれらしい貝を見つけたのですが、足を滑らして転落し怪我をしてしまいました。
その怪我をおして持って行ったのですが、
「コレ燕のう○こじゃねぇか!うん○持って来んなよ!」
と言われて、さすがに貴族もショックを受け……
「かぐやたん!私も!私ももっと蔑んだ目で『このクソ野郎!』って罵って下さいぃぃ!」
……もうヤダ、コイツら。
とは言え、誰も(存在しない)宝を持って来ることが出来なかったので、結婚しなくて良いと安心していたかぐやですが、そうは問屋が卸しません。
かぐやのウワサを聞きつけた帝がかぐやと会いたいと打診してきたのだ。
かぐやは頑として会いませんでしたが、諦めきれない帝はかぐやにバレないようにこっそりと会いに来ました。
「ふむ、翁よ。ここにかぐやがいるのだな?」
「はい、今は部屋で今期アニメの録画消化をしている所です」
…当時の人達は暇な時何してたんでしょうね?
とにかく、帝はすき間からかぐやの部屋を覗きました。
「おぅふ!え?めっちゃ可愛いやん!え?男の娘?マジで?ウワサ以上やん!」
帝は一目でかぐやの虜になりました。
バンッ!と部屋に入る帝。
「かぐやよ!私の妃になれ!」
部屋に入るなりいきなりの告白です。
かぐやも最初は突然の乱入に驚いていたのですが、だんだんと状況が分かってきて、怒りがこみ上げます。
「いきなり入って来んなー!てか、誰だよお前!アホか?アホなのか?とにかくとっとと出ていけ!この変質者!!!」
かぐやは相手が帝とは気付かずに、帝を部屋から蹴り出しました。
初めて顔面を蹴られた帝は、当然お怒りに……
「あふん♪かぐやたんのおみ足柔らかい。なんかいい匂いもしたし何コレ?もしかしてご褒美?」
……お怒りになりませんでした(泣)
「こんな気持ち初めてだ…コレは…恋?」
…むしろ、何か勘違いした様です。
その日から帝は毎度追い払われますが、かぐやの元に通い続けました。
例の貴族も当初は帝に遠慮していたのですが、そんな帝を見て「俺達も通おうぜ」と思い、帝と一緒にかぐやの元に通い続けました。
ある日は
「「「かぐやた〜ん!一緒に蹴鞠しない?」」」
「うるせぇ!さっさと帰って仕事しろ!」
「「「うは〜♪かぐやたんに怒られた♪」」」
とか、
またある日は、
「「「かぐやた〜ん!一緒に和歌でも詠まない?」」」
「毎度毎度、邪魔なんだよ!壁に向かって一人で詠んでろ!」
「「「蔑んだ目頂きましたー♪ありがとうございます!」」」
とか、
またある日は、
「「「俺ん所来ないか?」」」
「キモイ!(・∀・)カエレ!!」
「「「コレはご褒美!!」」」
とか、
挙げ句の果ては、
「「「かぐやたんはどうしてそんなに可愛いの?」」」
「何度も言ってるが、オレは男だー!!!」
「「「もちろん!こんなに可愛いのに女の子のハズがない!!!」」」
等々…
そんな日々が数年過ぎた頃、かぐやは自身の秘密を思い出しました。
自分が月の民だと言う事を。そして、もう月に戻らなければならない事を…
「爺さん、婆さん!話がある。育ててくれて感謝してるんだが、オレ、実は月の民だったみたいだ!」
「「つ、月の民じゃとー!」」
「騙すつもりは無かったんだ…」
「「うーん、まぁ最初から普通の人間とは思っておらんよ?」」
「え?」
「「だってお前さん、光る竹の中にいたしw」」
……まぁそうですよね。
「そ、そうなのか…でも、もうそろそろ月に帰らなきゃいけないんだ」
「「なんと!もう少しこっちに居られないのかい?」」
「オレも月には戻りたくないだけどな…あそこ、アニメ放送して無いし。でも、なんかあっちの国の偉い人らしいんだよな、オレ。だから、一度戻らなきゃならないみたいなんだ」
「「ワシらのかぐやが居なくなると悲しくなるのぅ…」」
かぐやと翁達がしんみりと話をしているのを、盗み聞きしていた帝達はショックを受けました。
「俺達のアイドルが月に行ってしまう?」
「いやいやいやいや、ちょっとソレは無理!」
「俺達、何を楽しみにして生きていけば良いの?」
「かぐやたんに会えないのは悲しすぎるでゴザル」
「でも、月から使者が来るって…」
「かぐやたんハァハァ…」
一人ちょっとアレですが、彼らは決意します。
「「「俺達が使者を死者に変えてやる!!!」」」
そして夜、月からの使者がやって来る時がきました。
「かぐや…どうしても行くのかい?」
「あぁ、本当に帰りたくないんだけどな。でも、仕方ないんだ。今までありがとな…」
そんなやり取りをしていると、外から声が聞こえます。
「「「かぐやた〜ん!!!帰りたく無いんだろ?俺達に任せろ!!!」」」
「ん?なんでアイツらが…?」
そしてかぐやの前に、帝や貴族達は完全武装した状態で現れました。
「「「かぐやたんが帰りたく無いって聞いてな!月の使者を追い返してやるぜ!」」」
「お前ら…!でも、ムリだ。月の使者は強い!」
「「「ふん!月の使者がなんぼのもんじゃい!」」」
ちょうどその時、月から光が降り注ぎ、月から馬車が降りてきました。
『迎えに参りました、姫』
ん?姫?
「おい、オレは男なんだが…?」
かぐやが月の使者に訂正します。
『いえ、そんなに美しいのに男の子のハズが無いじゃないですか…』
月の使者は呆れたような顔をしてかぐやを見ます。
かぐやは若干イラッとして言い返そうとしましたが、それを遮り、
「「「バカ野郎が!こんなに可愛いんだ!女の子のハズが無いだろ!!!」」」
帝達が反論します。
「「「男の娘を認めない月の使者など、俺達が再教育してやる!」」」
「お前ら……!!……ん?なんか違う気がする様な…?」
帝達は月の使者を倒すため、月の使者に飛び掛りました!
彼らもやる時はやるんです!
「「「可愛いだろ?男の子なんだぜ?むしろ、男の子だからこの可愛さを出せるんだ。女の子は計算で可愛さを出したりしてる所があるけど、見てみろよ、このかぐやたんを!すっげぇ天然な顔して可愛い表情を浮かべてるだろ?このよだれを垂らして寝落ちしてる姿とかコッチがよだれが止まらないぜ!」」」
……これまでのかぐやの可愛い写真や動画を見せて洗脳を始めている様ですね。
『う…あぁ…か、可愛い…!コレは女の子…?男の子…?あぁ…どう言う事だ…?可愛いから男の子…?いや、違う!!!男の娘だ!!!』
……あぁ、洗脳された様です。
「「「かぐやたんが月に戻ったらどうなる?アニメ見られないかぐやたんはすごく悲しむぞ?そんなかぐやたんをお前は見てられるのか?」」」
『……!ダメだ!かぐやたんが悲しむのは見たくない!一体どうすれば…?』
「「「なに、簡単さ!かぐやたんはコッチに残って、かぐやたんの助けが必要なら、その時だけお前がこっちに来ればいいじゃねぇか」」」
『……!そうか!だが、かぐやたんの可愛い姿が見られない…』
「「「安心しろ!俺達がちゃんと記録してブルーレイに保存してやる!かぐやたんの可愛い姿をな!お前がコッチに来たら渡してやるよ!」」」
『それならば…!よし!ブルーレイ頼んだぞ!ちゃんと4K画像で撮るんだぞ!』
「「「よし!話はまとまったな!」」」
一連のやり取りにかぐやは呆然としています。
そして少しずつ理解出来て来て、ふつふつと怒りがわいてきました。
「お前ら…いつの間に写真や動画を撮ったんだよ…!バカなの?お前ら本当にバカなの?」
『「「「ありがとうございます♪」」」』
「もうヤダ、コイツら…!……でも、ありがとな!」
「「「ふぉぉぉお!!!かぐやたんが、デレた!!!結婚しょう!!!」」」
「するかバカー!」
「「「ありがとうございまーす!!!」」」
そんなわけで、かぐやはこれからも愉快な変態…もとい、帝達やお爺さんお婆さん達に囲まれて、いつもの様に騒がしく暮らしていきましたとさ。
めでたし、めでたし。
これが『男の娘アイドル』の先駆けである…(ウソ)