笠地蔵 〜筋肉は裏切らない〜
むかしむかしある所に、ムキムキのお兄さんと、これまたムキムキのお兄さんが仲良く住んでいました。
え?なんでお兄さんしか居ないって?
ゲイのカップルなのであってますよ?
彼らはお互いガチムチ好きで、なおかつ一人はバリタチ、もう一人はバリウケなので相性もとても良いのです!
お互いがガチムチ好きなので、日々筋トレは欠かせません。
食事も高タンパク低脂質を心掛けており、プロテインも常に1年分のストックを保持しています。
そんなある年の年末のこと。
その年は天候が悪く、作物もあまり育たなくて、年貢を納めた後に残った蓄えがあまりありませんでした。
「小次郎(※バリタチのお兄さん)、どうする?このままでは年を越す為のプロテインのストックがなくなってしまうぞ?」
「確かに、武蔵(※バリウケのお兄さん)の言う通り今年は雨が少なくて作物があまり取れなかったからな…。売る為の作物が少なくて予備のプロテインを補充出来なかったのが痛いな…」
「あぁ、おかげて1年分あったプロテインのストックが残り3ヶ月分しかない…。このままではいざと言う時にプロテインが切れてしまう!」
…残り3ヶ月分もあれば年を越す事出来るのでは…?
「馬鹿野郎!ストックは最低でも6ヶ月分は欲しいんだ!」
「突然大きな声を出してどうした?武蔵」
「いや、スマン。何故か急に叫びたくなってな…」
…。
まぁそう主張(?)するので、実際年を越せないのでしょう……多分。
二人はどうしたものかと悩んでいます。
「おい武蔵。お前、確か昔は笠職人と付き合ってたと言っていたな?」
「よく覚えてたな。確かに、俺は小次郎に出会う前は笠職人と付き合ってたな。アイツによく笠を作るのを手伝わされたな…」
「それだよ!武蔵、笠を編んでくれないか?それを俺が街に売りに行く!」
「なるほど!その売ったお金でプロテインを買うんだな!」
「あぁ!」
武蔵の昔の彼氏から得た技術を使って笠を編む事にした二人。
山狩りをして集めた草を編んで笠を6つ作りました。
「さすがに冬だからな…材料が取れん。結局6つしか作れなかった…」
想定より少ない数に若干落ち込んでいる武蔵。
ですが、小次郎は明るい顔で武蔵に言います。
「いや、良くやった武蔵!後は俺に任せておけ!」
「小次郎……!ふっ。相変わらずカッコイイじゃねぇか」
「武蔵、お前のおかげだよ…」
そう言って二人は見つめ合い…。
「小次郎…♡」
「武蔵…♡」
と、合間にイチャイチャを挟みつつ、完成した笠を売りに、小次郎は街に行きました。
この描写必要か?
小次郎は街に着くと早速上着を脱いで、そのはちきれんばかりの筋肉を魅せつける様に、タンクトップと短パンに着替えました。
タンクトップの上からでも分かるシックスパックの割れた腹直筋。
盛り上がった三角筋や上腕二頭筋。
時折ピクピクと動く大胸筋。
短パンの裾が敗れそうなほど盛り上がった太ももの大腿筋。
それらの芸術的な筋肉が映える様にして、様々なポージングを混ぜ込んで、街ゆく人に声をかけています。
「笠は要らないかー?ガチムチのイケメンが編んだ笠は要らないかー?お、そこのいい身体したお兄さん!おひとつどうだい?もしくは、俺と一緒にやらないか?」
「いえ、結構です」
「残念っ!」
小次郎は街の往来で、片っ端からいい男に声をかけては笠を売ろうとしていたのですが、あいにくもう年の瀬。
既に笠はほとんどの人が持っており、誰も買ってはくれませんでした。
「くそっ!武蔵になんて言ったら良いんだ…。せっかくアイツが編んでくれたアイツの筋肉から滴り落ちた汗が染み込んだ、こんなステキな笠を売れなかったなんて言えないぜ…。俺の筋肉が足りなかったばかりに…」
…いや、筋肉が足りなかった訳では無いと思うんですけど…?
「仕方ない、もう暗くなるし雪も降ってきたようだ。今日は一旦帰るか…。また筋肉を鍛え直して、明日出直そう…」
そう言って、小次郎はしょんぼりとして帰宅準備を開始しました。
心なしか彼の筋肉もハリが無くなっているようです。
帰宅途中。
だんだんと暗くなってきた中、雪も積もり始め、道が白く色付いてます。
「はぁ…。このままでは明日は積もりそうだな…。売りに行く事が出来ないかもしれんな…」
そうつぶやき、歩みを早めていると、頭に雪を積もらせたお地蔵様が7柱並んでいました。
それを見た小次郎は、少し立ち止まりました。
「むぅ。さすがにお地蔵様もこの雪の中では寒そうだな…。どうせ明日からは雪が積もって笠を売りに行く事も出来ないしな…」
そう言って、お地蔵様の頭に、街で売る予定だった武蔵の汗が染み込んだ笠を被せてあげました。
「む?笠が一つ足りないか…。仲間はずれは可哀想だ。……。よし、代わりと言ってはなんだが、俺のタンクトップを使おう!」
小次郎はおもむろに脱ぎ出し、一番下に着ていたタンクトップを脱いで、笠の足りなかったお地蔵様に着させて上げました。
「笠は無かったが、代わりにこれで暖まってくれ。大丈夫!さっきまで歩いて来ていたし、そのタンクトップはしっかりと暖まっているハズだ!」
小次郎は街から歩いて来ていたので、当然身体が暖まってきています。
そして、肌に一番近いタンクトップが一番体温に近い温度にまで暖まっているので、迷うことなくタンクトップを着せてあげたのです。
小次郎は本当に親切心から、小次郎の汗が染み込んだタンクトップを着せてあげただけなんです!
他意は無かったんです!信じて下さい!
小次郎は『俺、良い事したなぁ!』と思いながら、武蔵の待つ家に帰宅しました。
「おかえり、小次郎。笠は売れたのか?」
「すまない武蔵。俺の筋肉が足りなかったばかりに、売れなかったんだ…」
「そうか…。いや、気にするな!仕方ないさ!それよりも外は寒かっただろう?ササミを炙ったのがもうすぐ出来るから、それを食べて筋トレして暖まるといいさ」
武蔵は小次郎を責める事無く、優しく小次郎を迎えました。
まぁ武蔵はバリウケで迎え入れる側なので、攻める(責める)事はないのですけどね!
……あ、やめて!すみません!石を投げないで!
「ありがとう、武蔵。そう言えば帰りに……」
小次郎は武蔵に帰りにあった出来事を話しました。
「やるじゃないか小次郎!確かにこの雪だ。もう売りに行くのは出来ないだろうし、お地蔵様の役に立てたなら、俺の笠も喜んでるだろうぜ!」
「そう言ってくれると助かるぜ、武蔵!」
「なに、プロテイン費用の方は、また明日にでも別の案でも考えようぜ!」
武蔵は良い笑顔で小次郎のした事を褒めて受け入れてくれました。
その夜中…
二人の家の扉を叩く音が聞こえてきました。
「おい、武蔵。気付いているか?」
「あぁ。外に気配があるな。……。…6人…いや、7人いるな…」
武蔵と小次郎は突然の来訪者に対して、落ち着いて外の気配を探っています。
小次郎は頭の中でサッと戦力を分析し、武蔵に提案をします。
「俺が左側の4人引き受ける。武蔵は右側にいる3人を受け持ってくれ」
「わかった。3秒後に出るぞ?」
武蔵も小次郎の言葉に従い、飛び出す準備を始めます。
「よし、3……2……1……行くぞ!」
バンッ!!!と小次郎がドアを開けると、そこに人影はありませんでした。
代わりに、大量のプロテインとササミや大豆等が置いてあります。
「いったいなんなんだ…?」
小次郎は呆然とそのプロテイン等を見ています。
「小次郎!あっちを見ろ。ソリか何かを引きずった跡がある。その先に、笠を被ったヤツが6人と、タンクトップのヤツが1人いる!…もしかして…?」
武蔵はプロテイン等の近くにあったソリの跡を発見し、その先にいる人影を見つけたようです。
「あぁ、俺にも見えたぜ。ありゃ俺のタンクトップだ…」
小次郎は少し呆けた顔をして、武蔵が指し示した先にいる人影を見ていました。
「どう言う事だ?確か小次郎のタンクトップはお地蔵様に…」
武蔵は不思議だと思っている表情で小次郎に問いかけます。
「そうだ。確かに俺はお地蔵様にタンクトップを着せた。だからきっとこのプロテインは…」
「…お礼……って事か?」
「かもな…」
そう言って二人は見つめ合い、どちらからともなく、ふふっと笑い出しました。
めでたしめでたし




