ヘンゼルとグレーテル 〜生き残るのは誰だ?〜
コメディーかな?これ。
ある所に貧しい木こりの夫婦と二人の子供が住んでいました。
子供のお兄ちゃんはヘンゼルと言い、その歳には珍しい程の落ち着きを見せる男の子でした。
妹の女の子はグレーテルと言い、いつもニコニコしている明るくて愛らしい子でした。
ある年、飢饉になり、貧しい木こりの収入では家族4人の食べ物を買うことが出来なくなってしまいました。
母親は木こりに対して、口減らしのためにヘンゼルとグレーテルを森に捨ててくる事を提案しました。
木こりは二人が可哀想だと反対したのですが、ついに押し切られ、口減らしを容認してしまいます。
その話を聞いていたヘンゼルは、夜にこっそりと家を抜け出して、月明かりに照らされて光る石を沢山集めておき、ポケットに入れておきました。
ある日母親が「森に山菜を探しに行こう」と二人を誘い、森に着くと「忘れ物をしたから取りに帰るわ。また迎えに来るから待っててね」と良い、二人を置き去りにして帰りました。
事前に犯行内容を知っていたヘンゼルは、来る途中に少しずつ集めていた石を落としておき、帰り道が分かるように対処していました。
「グレーテル。お母さんはウッカリしてるから、戻って来ないかもしれない。だから、山菜を採って、夜になったらお家に帰ろう」
なんて出来たお兄ちゃんなんでしょう…。
夜になり、案の定迎えに来ない母親にため息をつくヘンゼル。
「グレーテル!そろそろ帰ろう!帰り道は光る石が置いてあるから、それを見れば帰れるよ」
「ふぉぉ!ホンマや、兄ちゃん!帰り道光っとるで!」
ヘンゼルとグレーテルはたくさん集めた山菜を持ち、帰宅します。
無事に帰ってきた二人を見た木こりは、「良く帰って来たね!」と喜び、母親は「ごめんなさい!迎えに行くのを忘れてたわ!私ってウッカリさん!」と、白々(しらじら)しいウソをつきながら帰宅を喜ぶフリをしました。
当然見抜くヘンゼル。
「お母さんは普段からバカみたいにウッカリしてるからね!最初から期待してなかったよ」
チクリと嫌味を返す余裕すらあります。
「そ…そう…。でも、良く帰って来れたわね…?どうやったのかしら?」
母親は怒りを必死で隠そうとしていますが、全然隠しきれていない表情で、どうやって帰って来れたかを確認しています。
「お母さんに言うと、ウッカリ妨害されちゃ…「兄ちゃんが光る石を置いといたんやでー!」…あぁ…」
ヘンゼルは母親の妨害を恐れて方法を言うつもりが無かったのですが、グレーテルは母親が自分たちを捨てようとしている事に気付いていないため、元気よく答えてしまいました。
「へぇ!そんな方法があったのね!さすがお兄ちゃんね」
ニヤニヤと笑いながら、ヘンゼルを見る母親。
ヘンゼルは悔しそうな顔です。
「明日も山菜を採りに行くから二人は早く寝なさい」
母親はそう言い、二人を早く寝る様に促します。
どう考えても、明日も同じ様に森に置いてくるつもりです。
ヘンゼルはまた捨てられると気付きましたが、グレーテルの前で言う訳にもいかず、また、言った所でどうにもならないのでグッと言葉を飲み込みました。
皆が寝静まった頃、ヘンゼルは起きてまた光る石を探しに行こうと外に出かける準備をしました。
ところが、部屋の外に出ようとしたのですが部屋の外からカギをかけられてしまい、光る石を取りに行く事が出来ません。
どう考えても、母親が光る石を取りに行く事を妨害しています。
ヘンゼルはならばと窓に近付きます。
窓から脱出するつもりなんですね。
ところが、窓を開けようとしても一向に開きません。
窓をよく見ると、窓が開かない様に釘で固定されています。
「あのヤロウ…ここまでするか…!」
更によく見てみると、窓の外に有刺鉄線が張り巡らされており、その鉄線の先には発電機と思われるモノが付いています。
「クソっ!有刺鉄線に電流を流してやがる!?窓を壊しても抜け出せないようにするためか!…ん?よく見ると、地面の土の色も一部分違う…。何か埋めてやがるな?……はっ!まさかっ!?」
ヘンゼルは何かに気付いたかの様に部屋のドアに近付き、ドアの下の隙間から外を覗きます。
すると、ピアノ線の様な細く丈夫な糸が垂れており、その先にパイナップルに似た形の何かに刺さっているピンが繋がっていました。
「無理矢理ドアをこじ開けたら、ピンが抜けてドカン…か。あのヤロウ、自分たちも巻き込まれるって分かってるのか?それとも死なば諸共とか考えているのか?窓の外の地面に埋めているのも恐らくは地雷…。何なのあいつ?なんでここまで警戒してるの?…どちらにせよ、下手な事が出来なくなったな…」
…母親は何処のソルジャーなんでしょうか…?
ヘンゼルは外に出るのは諦め、部屋の中で何かないかと探しているようです。
ですが、有用なモノは見つからず、夜が明けてしまいました。
「クソっ!タダでは終わらん…!」
ん?ヘンゼルは部屋に何かを仕込んでいるようですね。
「ここをこうして…と。よし!コレで出来た!」
何かが終わった時にグレーテルも起きて来ました。
「兄ちゃんおはようー」
「あぁ、おはよう、グレーテル」
ガチャッ。
ちょうど母親も部屋のカギを開けた様です。
「グレーテル、じゃあ朝ごはんにしようか」
そう言って、ヘンゼルはグレーテルを部屋の外に促します。
「あら、早いわね?じゃあ朝ごはんを食べて、山菜を採りに行く準備をしなさい」
母親はヘンゼルを見てニヤリとします。
「あら?ヘンゼルは眠そうね?どうせ夜更かししたんでしょう?悪い子ね」
ヘンゼルが夜中に抜け出そうとしていた事を言っているようです。
「ゴメンねお母さん。お母さんは信じられないくらいバカなウッカリをよくするから、使えないお母さんの代わりに山菜採りの準備をしようと思ったんだけど、上手くできなくて…」
若干悔しそうな顔で答えるヘンゼルですが、母親はタダの悔し紛れの反撃としか思っておらず、ニヤニヤとした顔を崩しておりません。
そうして、朝ごはんを食べ終わると山菜採りに出発です。
ヘンゼルは朝食のパンを半分残して、行く道に少しずつちぎって落として行きます。
ヘンゼルとしても苦し紛れの策とはわかりつつも、念の為に落としている感じです。
昨日とは別の方向で、更に森の奥深くまで来た後、母親は用事があるからと家に帰りました。
案の定、夕方になっても戻って来ない母親にウンザリしながら、ヘンゼルはパンの欠片を探します。
ですが、森の鳥や虫たちに食べられてしまった様です。
「やはりパンの欠片じゃダメだったか…」
どの道戻ってもまた捨てられるだけと諦め、事前に準備していたサバイバル用の道具を取り出してグレーテルに言います。
「お母さんはどうやらまた迎えに来るのを忘れたみたいだね。帰り道はお兄ちゃんも分からないから、今日はここでキャンプしようか?」
そうは言ってもきっとグレーテルは不安になると思います。
「わかったー」
グレーテルはなんとも楽しそうに答えました。
…グレーテルはのんき過ぎます。
ヘンゼルは山菜採りの最中に仕掛けた罠を見に行くと、ちょうど野ウサギがかかっていたので、火を起こしてウサギを捌き、持ってきていた岩塩をふりかけて焼いて二人で食べました。
「グレーテル、ウッカリお母さんの事だから多分ここまで来れないと思うんだ。だから、明日は少し移動してみようか?」
「お母さん仕方ないなー!わかったでー」
…グレーテル素直すぎませんかね?
翌日、森を探索していると、お菓子で出来た家を発見しました。
「兄ちゃん!家がお菓子で出来とるで!?」
グレーテルもテンアゲ…もとい、驚いていると、ヘンゼルは冷静に答えました。
「お菓子で出来てるから、強度が不足しているね。危ないから近付いちゃダメだよ?」
おっしゃる通りです。
すると中から魔女のお婆さんが出てきました。
「ちょっと!ちゃんと魔法で補強してるから、強度は問題ないよ!風評被害はやめとくれ!」
……そっち?
「なんだい、なんだい?こんな森の奥深くに子供二人なんて…。親はどうしたんだい?」
ヘンゼルはグレーテルには分からない様に、
魔女に事情を話しました。
すると魔女はオイオイと泣き始めました。
え?なんで!?
「そうかい、そうかい。親に捨てられるなんて辛かっただろうね…」
…ヘンゼルとグレーテルの境遇に涙した様です。
ヘンゼルは魔女に問いかけます。
「お婆さんこそ、なんでこんな森の奥深くに住んでいるんですか?プライベートな事をお聞きして申し訳ありませんが、一人で暮らしているんですか?パートナーとか子供とかいらっしゃらないのでしょうか?」
…かなり失礼な質問ですね…。
「あぁ結婚ね…。子供は欲しかったんだけどねぇ。坊やはアセクシュアルって知ってるかい?」
魔女は少し困った顔でヘンゼルに問いかけました。
「はい。性的な欲求を持たない人ですよね?」
「そうだよ。私はね、アセクシュアルなのさ。若い頃は男共が私を見て付き合おうとかしつこくてね。昔はモテたんだよ?で、それが嫌でこの森の奥深くに来て、一人で住んでたのさね」
「そうなんですね。不躾な質問ですみませんでした」
「いや、結婚せずにいることは別に後悔はしてないから良いよ。ただ、子供は欲しかったのさ…」
魔女は少し遠い目をして、昔を思い出しているようです。
「そうだ、アンタ達は行くところ無いんだろ?しばらくウチで暮らすかい?」
と、魔女は提案してきました。
「いえ、ご迷惑をおかけするワケには…」
「気にしなさんな。言ったろ?子供が欲しかったって。それに、魔女として色々な薬を作って街に卸しているからね。お金は心配しなくても良いよ。気になるなら私の仕事を手伝っておくれ?」
魔女は善意から提案しているようでした。
それがわかったヘンゼルは魔女を信用したようです。
「グレーテル。このお婆さんが、お母さんが迎えに来るまでこのお家に住まわせてくれるみたいなんだ。どうする?もちろん、住まわせてもらう代わりにはお仕事を手伝わないといけないよ?」
「兄ちゃん!このお家に泊まれるん!?お菓子のお家ってめっちゃ気になっててん!良えの?やったー!」
グレーテルも特に気にしていない様ですね…。
そんなワケで、ヘンゼルとグレーテルは魔女のお家で住まわせてもらうこととなります。
魔女も子供が出来たようで嬉しそうにしています。
ヘンゼルもグレーテルが大きくなって、飢饉で口減らしにあった事が理解出来るようになるまでは、魔女の申し出を感謝して受けるようです。
そうして、ヘンゼルとグレーテルは魔女と一緒に仲良く暮らしましたとさ。
めでたし、めでたし。
「そう言えば、アンタ達を捨てた母親もひどいね。飢饉とは言え、別の方法があったかもしれないのに…」
魔女のお婆さんはヘンゼルにそんな事を言います。
「さすがに夜にあんな凶悪な罠を仕掛けられているとは思いたくありませんでしたよ…」
ヘンゼルも少し残念そうです。
「まぁ地雷とか手榴弾とかはやりすぎさね…」
魔女のお婆さんも呆れています。
「まぁ、ちゃんとお礼はさせていただきましたけどね」
ヘンゼルはスッキリとした顔でそう言いました。
「どう言う事だい?」
魔女のお婆さんは不思議な顔をしています。
「今頃、大変な事になっていると思いますよ」
ヘンゼルは朗らかに笑いながら詳細は語りませんでした。
その時、遠くの方から微かにドーンと言う爆発音が聞こえてきて、魔女の家から遠く離れた所から煙が立ち上ったのが見えました。
「兄ちゃん!あっちの方でなんか煙が上がっとるで!?」
おしまい。




