かちかち山 〜触らぬ鬼に祟(たたり)なし〜
リハビリ作ですねw
むかしむかし、とある田舎におじいさんとおばあさんが住んでいました。
いつもの様におじいさんが畑で仕事をしていると、悪いたぬきがやって来ました。
『おうおうおうおう!やいこのじじい!誰に断ってココで仕事してんだよ?』
おじいさんは急になんの事か分かりませんでしたが、ちゃんと答えてあげました。
「断りも何も、元々ここは私の畑ですけど…?」
たぬきはおじいさんの言葉を聞かず、更にイチャモンを付けてきました。
『何言ってやがる!ココは極悪たぬき組がナワバリにしていたんだよ!荒らされたく無ければ場所代払えや!』
このたぬきは本当に何を言っているんでしょうか?
「たぬきさんは、うさぎ組には話を通してるのかい?」
『あ゛ぁ?うさぎなんて知らねえよ!』
「はぁ…。ただのチンピラか…。分かりましたよ!支払いますのでこちらに取りに来てください!」
たぬきは悪態つきながらも、内心では上手く行ったと喜んでいました。
おじいさんからお金を受け取ろうとおじいさんに近づいて手を伸ばしたその時、急におじいさんから手を掴まれ、驚く間もなく体勢を崩されてしまいました。
『え?』
たぬきはそう呟くと同時に、おじいさんは掴んだ手を捻りあげて、崩した重心を使い足払いしてたぬきを投げ飛ばしました。
更におじいさんはワザと掴んだ手を離さず、そのまま投げ飛ばされたたぬきの背中に回して関節を極め、反対の腕で頸動脈を締めてたぬきをオトしました。
「ふぅ、老体にはちとシンドいわい」
息も乱れていないおじいさんはそう呟くと、畑仕事の道具の中から丈夫なロープを取り出し、器用にたぬきを縛って行きます。
あまりにも華麗に小手返しからの関節極めを放つこのじいさんは一体何者なんでしょうか?
夕方頃に意識を取り戻したたぬきは、今の状態を認識して大声を出します。
『い゛でででで…!なんで縛られてんだ!?』
たぬきは段々と思い出してきます。
『そう言えば、じじいを脅して金をむしり取ろうとした…ハズ…?ん?確か、その後世界がぐるっと回った…?』
「何じゃ?気づいたのか?」
たぬきが目を覚ましたのをおじいさんも気がついた様です。
『やい!じじい!俺をこんな風にして、タダで済むと思ってんのか!?俺のバックにはあの極悪たぬき組がつおているんだぞ!』
たぬきはおじいさんを脅そうとしていますが、おじいさんは意に介しません。
「うるさいたぬきじゃのう。バックに何が居るか知らんが、どうやって伝える事が出来るんじゃ?死体は喋らんぞい?」
…。え?このじいさんマジで何者?
さすがにたぬきもヤバいと感じたのか大人しくなります。
『いえ、なんでもありませんでした!』
たぬきは内心『コイツ何者だよ?てか、俺このまま消される?ヤバいヤバいヤバい…このじじいヤバいヤツだ!!』と思っていますが、激しく同意したいです。
「さて、では家に帰るかの」
そう呟くと、おじいさんは畑仕事の道具を片付け始めました。
もちろん、たぬきは放置です。
『あの…この縄をほどいて頂けませんか?』
たぬきは慎重におじいさんに問いかけます。
「ん?何故ほどかにゃならんのじゃ?せっかく捕まえたたぬき鍋の肉を」
…食べる気でした!たぬき鍋の肉としか思ってない様でした!
『ひぃぃ!!イヤだイヤだ!死にたくない!死にたくない!』
たぬきは必死に逃げようとしますが、このおじいさんから逃げられるワケもなく、家に連れ帰ってしまいました。
おじいさんが家に着いた時に、おばあさんが家から出てきます。
「誰だい?うるさいよ!近所迷惑になるだろう!」
「あぁ、ばあさんや、このたぬきを鍋にしようと思うんじゃ。どうかの?」
おじいさんは家から出てきたおばあさんに向かって、捕まえたたぬきを見せます。
「たぬき?このたぬきかい?コイツ臭そうだし、肉も美味しそうじゃないじゃない。ホントに食べるの?」
『俺、雑食だから肉臭いですよ!見てくださいよ、このたるんだお腹!運動してないから脂身ばかりで美味しくないし、カロリーも高いですよ!』
たぬきも食べられまいと必死です。
と言うか、野生のたぬきなのにたるんだお腹…?
「おじいさん?まぁ今日の晩のご飯はもう作ってるから、また明日話をしようじょないかい」
「そうじゃな。早く飯にしよう」
どうやらたぬきは1日命が伸びた様です。
翌日、おじいさんが畑仕事に向かうと、たぬきはおばあさんの説得を試みます。
『おばあさん!俺食べないですよね!美味くないですし!あ、なんなら家事手伝いましょうか?こう見えて、家事得意なんですよ!』
「はぁ?たぬきなのに家事が得意なのかい?」
『ええ!ひとり暮らしも長くて、ひと通りは出来ますよ!』
まさかの家事代行アピールです。
とは言え、おばあさんがそんな見え見えの言葉に引っかかるハズもなく…
「じゃあお願いしようかね?」
はい!家事をお願いしちゃいましたー!
『では、何しましょう?あ、このままじゃ手が使えないので、まずはこの縄を外して貰えませんかね?』
「仕方ないね。じゃあ縄をほどいたら洗濯物をしておくれ。腰を屈めるのも最近つらくてね…」
そう言いながら、たぬきの縄をほどくおばあさん。
縄がほどけた瞬間、たぬきは即座に逃亡を測りました。
おばあさんは特にそのたぬきを追う訳でもなく、ただただ笑顔でその背中を見ているだけでした。
「たぬき鍋臭いからね…」
逃亡したたぬきはすぐに自分の組に戻り、事情を話しました!
すると、その日のお昼過ぎに、おじいさんとおばあさんの家から不審火が上がりました。
おばあさんはちょうど洗濯で川に出ていたので、死人は出ませんでしたが、おじいさんがコツコツ貯めていたヘソクリもろとも家が燃え尽きてしまいました。
夕方、家に帰って来たおじいさんは愕然としてしまいました。
そりゃ家が燃え尽きてたら愕然としちゃいますよね。
そこに、夕飯の買い出しからおばあさんが戻ってきました。
「あぁ!おじいさん!川で洗濯している途中で急に家が燃えたんだよ!本当に運が良かったのよ」
おじいさんはおばあさんの無事を喜びました。
「おぉ、ばあさんが無事ならそれで良い!ホントに無事で良かったわい!」
おじいさんはそれは嬉しそうな笑顔です。
ですが、おばあさんは困った顔です。
「でも、家が無くなっちゃったし…」
「なに、問題ないわい!また家なら建てれば良い!ワシの昔の仕事の時の弟分に建築士もいるし、貯えもある!」
おじいさんはそれでも問題ないと喜んでいます。
おばあさんもそんなおじいさんを見てホッと安心出来ました。
おじいさんはふと思い出し、おばあさんにたぬきの事を聞くと、逃げた事を知りました。
「まぁ良い。運が良かったと言う事じゃな」
おばあさんが無事だったので、逃げたたぬきの事等どうでも良いみたいです。
と、そこにおばあさんがポツリと一言。
「そう言えば、おじいさんがコツコツ貯めていたヘソクリは家の中にあったから、全て燃え尽きてしまったね」
まぁおじいさんはおばあさんが生きていただけで喜んでいますからね!
そんなの笑って許すハズ…
「…殺す!誰か知らんが、放火した奴をみじん切りにしてやる…!」
と、朝に逃げたたぬきが1番怪しいと思い出し、おじいさんは放火の犯人はそのたぬきと目星を付け、証拠になりそうなものを探します。
「何か、犯人の特定に繋がる証拠が見つかれば良いのじゃが…」
そう言って、近くの人にも聞き込みを続けていると、近所の住人から『お昼過ぎに大勢のガラの悪いたぬきが家の周りで何かをしていた』と言う重要な証言を手に入れます。
おじいさんはたぬきが『極悪たぬき組』と言っていたのを思い出し、おそらく組に報復されたのかと思いました。
さすがのおじいさんも組織相手となると分が悪い…ハズ!
今回ばかりはさすがのおじいさんも諦め…
「絶対潰す!すり潰す!地獄ですら生ぬるいと思えるくらいの地獄を見せてヤる…!」
…。諦めてはいませんね。
さて、おじいさんが組を潰す算段をしていた所、とある来客者がやって来ます。
『もしもし?どうしたんですか?』
「あぁ、うさぎ組の若頭ですか。いえね、たぬき組とか言うゴミがちょっかいをかけて来ましての。すり潰す算段をしていた所じゃよ」
うさぎ組?なんでしょうか?
その若頭?のうさぎさんの様ですね。
『おぉ、すり潰すなんて穏やかじゃありませんね?たぬき組ですか?この辺りのシマはウチの任侠うさぎ組のハズですが?少し詳しく教えてくれませんか?』
「若頭。邪魔をするとうさぎ組もすり潰しますぞ?」
おじいさんの目が鋭くなります。
『おぉ怖い。ご安心を。戦場で『殲滅鬼』とか『血の湖の管理人』と呼ばれた貴方と敵対するほどウチの組はバカじゃありませんよ。ただ、ちょっかいを出した最初のたぬきが気になりまして。ウチのシマで何かをしていたんでしょう?』
どうやらうさぎ組はおじいさんの正体をご存知の様ですね。
厨二病な満載の通り名まであったんですね…
「あぁ、あのチンピラか。アイツくらいなら
くれてやる。畑の方で絡んで来たチンピラみたいなたぬきじゃ。特徴は…」
そう言って、うさぎさんにチンピラたぬきの特徴を話していきます。
それを聞いて、たぬきの特徴をメモするうさぎさん。
メモを書き終わると、おじいさんにお礼を言いました。
『情報ありがとうございます。では、ウチのシマでやんちゃしたたぬきさんはコチラで対応しときますね?』
「好きにせい。では、ワシはそろそろ行くかの」
おじいさんはちょっとそこまで買い物に行くかのような軽装で、東の山に向かって行きました。
『おっと?もう行かれるんですね。では、コチラも…』
うさぎさんもそう言って去って行きました。
え?おばあさん?
あぁ、おばあさんは知り合いの大工に家の再建をお願いしに出かけているようです。
次の日、たぬきが性懲りも無く悪さをしようとフラフラしていると、薄いピンクの可愛らしいリュックを背負った可愛いうさぎの女の子が近寄ってきました。
『ねぇたぬきさん!ここらじゃ見ない顔だね?どうしたんですか?』
少し媚びた様な瞳と、柔らかな声で聞いてきたうさぎさんにたぬきは鼻の下を伸ばしてしまいます。
『あぁ…、最近コッチに引越しをしようと思ってな。その下見だよ。そんな事より、この辺りの事を少し教えてくれねぇか?代わりに何か買ってやるよ!こう見えて、俺の職場の中じゃそこそこ偉くてな。金は持ってんだよ』
たぬきは下心丸出しで、うさぎさんに案内を提案しました。
『うーん…良いよ!代わりにこのリュックを持って欲しいな!意外と重たいんだよねー』
うさぎさんはそう言って背負っていたリュックをたぬきに渡します。
そうしてたぬきの道案内が始まりました。
たぬきの少し後ろを歩いているうさぎさんは火打石を取り出し、リュックに向けて火花を飛ばします。
カチカチカチカチ!
『なぁうさぎさん。さっきからカチカチ音がするんだが、なんの音だ?』
『あぁ、リュックの中にちょっと大き目の綺麗な石が二つ入っていて、それがぶつかって音がしてるんだよ。美術の課題で、デッサンで使おうと思ってて!』
『変な課題だな…』
そう言って深く気にしないたぬきでした。
何度か火打石で着火を試みていると、リュックに火がつき、どんどん燃え広がっていきました。
ボウボウ、ボウボウと音がしています。
おそらく、リュックの外には火がつきやすい様に、ガソリンか何かを染み込ませていたのでしょうか?
おそらく中にも着火剤等燃え広げやすい細工がされているに違いありません。
『なぁうさぎさん。さっきからボウボウと音がし始めたんだが?』
『あぁ、この辺りには絶滅危惧種のボウボウ鳥とか言う変わった鳴き声の鳥がいるんだよ。それが聴けるなんてたぬきさんラッキーだね!』
『ふーん、変な鳥がいるんだな』
あまり気にした様子もないたぬきでした。
すると、どんどん燃え広がってきた火で暑くなってきたのか、たぬきがうさぎさんに言います。
『なんかめっちゃ暑い。何でだ…?』
『あぁ、この辺りは比較的日当たりが良いから気温も少し高いんだよね!それに重たいリュック背負ってるからじゃない?』
普段から運動不足なたぬきはそんな物かと思っていると、ついにたぬきの背中に火が燃え移りました。
『なぁうさぎさん!俺の背中から火が出たんだけど!?』
鈍感なたぬきもさすがに自分に火がついたのには気付きます。
『うふふ。そうだね!安心して!ちゃんと消えにくい様にリュックの中も細工してるし、背中にも少しずつガソリンがつくように細工してるから!簡単には消えないよ!』
うさぎさんはそれは楽しそうにたぬきに教えてあげます。
『なっ!どう言う事だ、てめぇ!ふざけんな!うわっ!火が消えない!水!水!』
たぬきは怒りますが、火が消えずそれどころではないと慌てています。
そんなたぬきを見ながら笑顔でうさぎさんが言いました。
『うふふ。ウチのシマでやんちゃしちゃったからね!大人しく死んどけや!』
『熱い!熱い!熱い!熱い!あれ?だんだん気持ち良くなって…』
たぬきは完全に背中全体に火がついて、転がってもどうしても火が消えない…え?気持ち良く?
『あふん!熱気持ち良い!』
…。いや、ドMでもムリでしょ!?
うさぎさんもそんなたぬきを見てドン引き…『あははははっ!キモーい!』
あれ?
うさぎさんはそう言いながら、たぬきの顔面を踏みつけます。
ねぇ?このうさぎさんも大丈夫?
にやにやしながらたぬきの顔を踏みつけるうさぎさんはたぬきに向かってこう言いました。
『ぷくくくくっ!ねぇねぇ?どんな気持ち?小娘にだまされて火をつけられた挙句に顔面踏まれるの?』
とは言え、たぬきは火が消えないからそんなヒマない…
『もっと!もっと踏んで!』
『うるさい!踏んで下さいだろ?』
『踏んで下さい!お嬢様!』
『誰が踏むか!この汚いたぬき!燃え移ったら困るでしょっ!』
そう言いながらたぬきの顔面を思いっきり蹴飛ばします。
『あふん♪』
…。
…。
しばらくすると、さすがのたぬきも全身に火が周り、のたうち回ってます。
『くそ…背中に火を付けられて女の子顔を踏まれるとか、そんなご褒美…もとい、こんなひどい仕打ちをされるとか思ってもみなかったぜ…』
どんどん声も小さくなって行くたぬき。
と言うか、何故喋れるの!?
『ぷくくくくっ!たぬきのお兄さん。最後に教えてあげるよ!俺は男だよ!』
うさぎさんは急に可愛らしい声から野太い声に変わりました。
『え?』
『バカだなぁw女装だよ、女装。最後に男に蹴られて喜んでたって知ってどうよ?あははははっ!』
そう言って、うさぎさんはたぬきから離れて行きます。
その時の声は、うさぎ組の若頭の声そっくりでした。
若頭を女の子だと思い込み、顔面を踏みつけられて喜んでいたたぬきは、絶望しているのでしょうか?
しばらく呆然と燃えていたらポツリと一言。
『くそ…完全に騙された!女装男子とか……最っ高っじゃん!!!』
そう言って、(二つの意味で)燃え尽きてしまいました。
その日の夜、東にあるとなり山を支配していた組が潰され、ひとつの赤い湖が作られたとか。
おしまいおしまい




