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まさかこんなに好きだとは  作者: 味噌っ子
4/4

朝日 明広 in 橘 絵里


ピピッピピピッ、ピピッピピピッ


かわいらしい目覚ましの音で意識が浮上してくると、朝日明広はこれまでにない体の軽さと爽快感を覚えた。


ゆっくりと起き上がって目覚ましを止め、大きく伸びをする。


何て爽やかな朝だろう。

こんな爽やかな朝は何十年ぶりか。

そう思いながらあたりを見回すと、そこは見たこともない部屋で、しかも明らかに女物の小物や服ばかりが置いてあった。


なぜ自分がここで寝ていたのかわからないパステルカラーの布団に戸惑いながらベッドから降りると、目の前には全身鏡があり、自分がいるはずの場所には橘 絵里が映っていた。


”なんだ、夢か。昨日の朝変な広告を見たから、こんな風に自分が橘さんになったような夢を見ているんだな。”


さして驚くこともなく、鏡に映った橘 絵里をぼーっと見つめる。完全にすっぴんだ。

やはり化粧をしていなくても美しい、完璧な見た目だ。


”そうだよなぁ、橘さんのスッピンはこんな感じだと思ってた。”


思わずふふっと笑うと、喉が渇いている気がして部屋にあった冷蔵庫を開ける。


ガチャ


”・・・え?”


中にはウィダin●リーとプ●テインバー、そしてミネラルウォーターしか入っていない。


何だこれは。

こんな冷蔵庫でどうやって生きていくんだ。

せめて麦茶ぐらいあっても良いだろうに・・・


そう思いながら渋々ミネラルウォーターを飲むと、そのままふらふらと部屋を巡回してみる。


パンでも置いていないかと思ってテーブルを見たが、そこにあったのは所狭しと並んだビタミン剤とダイエット食品の数々。

”こ、これはある種の薬漬けというやつなのでは・・・?”


だんだん自分(もとい橘の体)の健康状態が心配になってきた。先程まで軽やかだと感じていた身体が、何だか突然、骨粗鬆症のようにカスカスで頼りない身体に思えてくる。


”ダメだ、目眩がしてきた気がする。考えないようにしよう。”


気を取り直して洋服ダンスを開けると、いつも橘が着ていた、見覚えのある上品な服が並んでいた。が、その横には見たこともないボロボロの服もあくつかある。


”これは捨てるつもりの服でも集めていたのかな?”


洋服ダンスを閉じて隣にあった鏡台に目をやると、これまた所狭しと並んだチューブや瓶がたくさん置いてある。

これらのうちの何をどう使ったらいつもの橘フェイスが出来上がるのか、朝日にはまったく想像もつかない。


”いや待て、そんなこともないぞ。

口紅はわかるぞ、それに・・・口紅だけだな、わかるのは。”


若干心が折れそうになったが、せっかくなので橘として会社に行ってみたい。

朝日は気を取り直してしっかりと鏡台の前に腰を据え、見たこともない化粧道具に悪戦苦闘しながら橘フェイスの創造を試みた。





そうしてかれこれ3時間。



橘のスマホにメッセージが届く。

通知欄には橘の上司の名前と共に、「会議始まるぞ、一体どこにいるんだ?」と表示されていた。


時計を見ると今は10時。会社の始業時刻は8時だ。


”なっ!?とっくの昔に会社始まってるじゃないか!?”


あわてて会社に行こうとした朝日はふと動きを止めた。



”あれ?

これ、どうやって化粧が付かないように服を着るんだ?・・・


NOOOOOOOOOOOOOO!”



こうして朝日は女性の日常生活に潜むハイレベルな段取り力試験に、なすすべもなく落第したのであった。

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