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短編集

この中に1人、人間がいる!

作者: ライアー

鼻で笑って頂ければ幸いです。



「レディース&ジェントルマン! 今宵もやって参りました! 第26回世界征服会議!」


「わー、ぱちぱち」


 手作り感溢れるマイクを片手に、司会のスケルトンはハイテンションだ。それに吊られた様に、幼女な吸血鬼が合いの手をいれる。純粋無垢な笑顔がなんとも可愛い。


「では! 魔王様! 先ずは挨拶を!」


「え? う、うむ」


 ずいっと口許にマイクを押し付けられ、魔王様は困惑気味に頷いた。全身鎧の可動部分からヘタレさが滲み出ている。


「こ、この度はお集まりいただき......」


「あぁん、魔王様。み、じ、か、くぅ」


 長そうな挨拶を始めた魔王様に、妖艶なサキュバスは蕩けきった顔で迫る。露出0な魔王様とは対照的な、露出度99%の美女だ。ガチャ、と音をたて、魔王様が停止した。


「魔王様ー、おーい。魔王様ー?」


 首なし騎士のデュラハンが、軽い調子で魔王様のヘルムを叩く。応答はない。復活には暫くかかりそうだ。


「はじまらないの?」


「困りましたねぇ。魔王様! 挨拶ですよ挨拶! 早く早く!」


 きょとん首を傾げる吸血鬼。困ったと言いつつハイテンションに、スケルトンは魔王様の口許にマイクを押し付けた。ぐしゃぐしゃとマイクが潰れていくがお構いなしだ。それを見た吸血鬼が、せっせと2つめのマイクを作り始めた。可愛い。


「......は! な、なんだ」


「挨拶だよ魔王様。始めらんねぇだろ?」


 復活の代償に、魔王様の記憶が数秒分飛んでしまったらしい。すかさずデュラハンがフォローらしき言葉をかける。流石騎士。


「あ、ああ。えーっと」


「はじめー! でいいよ。まおうさま」


「そ、そうだな。こほん。は、はじめー!」


 それでも戸惑う魔王様に、今度が吸血鬼がフォローを入れる。挨拶が号令に変わろうと、幼女には関係ないことだ。ちょっと畏まって偉ぶりながら、言われたまま言う魔王様。サキュバスが優雅に口許を押さえた。


「はい! ありがとうございます魔王様! それでは議題をば!」


 本日2台目のマイクを片手に、スケルトンはバッ! と両手を広げる。タイミングを図っていたサキュバスが、ここぞとばかりにプラカードを掲げた。そこには【勇者が召喚された件について】っぽい内容が魔族特有の言語で書かれている。


「えぇ?」


 魔王様が情けない声を漏らしながら、首を傾げそこなった。この魔王様、アホである。


「魔王様ぁ。どうされましたあ?」


「い、いや。なんでプラ......」


 プラカードをぐさっと床に突き刺し、サキュバスは魔王様に撓垂れ掛かる。鎧越しでは柔らかさが全く伝わらなかった。そのお陰で停止を免れた魔王様は、けれど自分の意思で言葉を止める。


「魔王様! 進めてよろしいですか!?」


「あ、ああ」


 ずずい! と詰め寄って来るスケルトンに、魔王様は仰け反りそこなった。またか。痛めた腰をサキュバスが撫でてくれる。勿論効果はない。それでも満足したサキュバスは、自分の席へと戻った。


「んじゃまあ、俺から」


「わー、ぱちぱち」


 恒例通りにデュラハンが声を上げ、吸血鬼が合いの手を入れる。スケルトンがマイクを手渡した。


「今から行って潰してこようぜ」


「なんと! 魔王様! いかがでしょう!?」


 騎士道精神の欠片もないデュラハンに、魔王様に振るスケルトン。魔王様の鎧から、困惑した雰囲気が滲み出た。またサキュバスが優雅に口許を押さえる。有り体に言えば吹き出しかけていた。


「えっと......こほん。今からはないだろう」


「いーや、魔王様。早ければ早い方がいい」


 取り合えず無難に流そうとする魔王様に、善は急げとばかりに引き下がるデュラハン。その手に握られたマイクをそっと吸血鬼が受け取った。


「えらぶのはあーと! つぎはわたし」


 決行するかは案が出きってから考えようと、吸血鬼は椅子に登って立ち上がる。靴はきちんと椅子の下に揃えてあった。良い子だ。


「さきにしょうかんじんをつぶさないと、きりがないとおもうの」


「やんっ。鬼畜ねぇ」


 召喚陣というのは、今回勇者召喚に使われた古の魔法具だ。それを潰せばもう召喚は出来ないだろう。勇者より先にそっちだと言う吸血鬼の頭をサキュバスがよしよしと撫でた。出来の良い生徒をみる先生の目だ。嬉しそうに笑った吸血鬼は、スケルトンにマイクを手渡す。


「私の番ですね!? では意見をば!」


 カタカタと下顎骨を鳴らし、スケルトンは勢い余ってマイクを握り潰した。吸血鬼が急いで3つめを作り始める。それを然り気無く手伝うデュラハン。こいつ、出来る......!


「我軍勢の物量! それでゴリ押しましょう! 同時に!」


 ポイっと握り潰したマイクを投げ捨て、スケルトンは本日3台目のマイクを受け取った。先の2台より若干出来が良い。眼窩に灯る紅い光を緩め、スケルトンはサキュバスにマイクを手渡した。


「漸く私ですよー、魔王様ぁ。しっかり、き、い、てぇ?」


「ごふっ......き、きいている」


 腕を組み、胸を強調しながら猫なで声を出すサキュバス。ヘルム越しにどうにか紅茶を飲もうとしていた魔王様がむせた。効果は抜群だ。


「その勇者はねぇ、放置でいいと思うのよぉ」


「ゆ、勇者......?」


 机に身を乗り出し、魔王様がこぼした紅茶を拭きながら、サキュバスは言った。自らの情けない状況に、けれど気づことなく今更なことを呟く魔王様。話に付いて来れていなかった。この魔王様、アホなのだ。


「なら今日も終わりか?」


「さんせー、おわろー」


「では! 終わりの挨拶をお願いします! 魔王様!」


 呆れた様子のデュラハンに、眠そうな吸血鬼。もう夜が明けようとしていた。スケルトンは床に刺さったままのプラカードをへし折り、魔王様にマイクを押し付ける。


「え、あっと。おわりー!」


「はい! ありがとうございます! 解散!」


「はぁい。では魔王様ぁ、お休みなさぁい」


「おやすみなさーい」


「じゃあなー」


 がやがやと騒ぎながら出ていく四天王たち。見送った魔王様は1人ため息を吐いた。魔族領は今日も平和です。








なお、魔王様は気付かれている事に気付いていません。

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