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THE TRICK TRAP HUNTERS  作者: 水原翔(みずはら・しょう)
TRICK3 「Junction」
6/23

TRICK 3-1

TRICK 3「Junction」


 病院を無事に退院したミヤビは、探偵事務所に戻り、事件の話を始めた。

「しかし、無事でよかった……。まさか病院内にまで、襲ってくるとは」

 二ノ宮は、安堵のため息をつく。ミヤビは黒崎が淹れたコーヒーに口をつける。

突如現れた白衣の男は、あの後姿を消してしまった。

 あの男が現れなかったら、自分はあのガーディアンにやられていたかもしれない。

 そう考えると恐ろしくなってくる。もし、あの男が現れずに、自分があの状況のまま、何も出来ずにしていたら、今頃どうなっていたことか。

「火炎の攻撃が全く貫通しませんでした。Version2になって、人間を取り込んだ瞬間に」

 ミヤビは、病院で襲われた時の状況を二ノ宮に説明する。

 ガーディアンが人間を取り込み、I am Human と名乗った姿、Version2。

 火炎の攻撃は全く効かなかった。何か二ノ宮は理由を知っているのだろうか。

「なるほど。バージョンアップすることによって、攻撃範囲が切り替わるようになっているのか……恐らく、権限パーミッションが切り替わったんだろう」

権限パーミッション?」

「例えばの話……だ。Version1で攻撃可能な範囲は、ガーディナイザーが“召喚”させたガーディアン。Version2で攻撃可能な範囲は、それを取り込んだ融合体。Versionが同じもの同士でないと、攻撃が噛み合わない。まあ、あくまでも今の君の話を聞いた中での仮説だがな」

《意味わかんねえ……》

 火炎は理解できていなかったが、ミヤビにはなんとなく理解した。

 Version1が攻撃可能なのは、Version1のガーディアンのみ。

 Version2に対抗できるのは、Version2のみ。

 目には目を、歯には歯を。Version2にはVersion2をというやつだろう。

 原理はわからないし、二ノ宮の言うことを全て理解したわけではないが、今の話や、経験をまとめると、つまりそういうことになる。

「つまり、俺は火炎のバージョンアップをしないと、Version2になったガーディアンに対抗できなくなる。そういうことですね?」

「だな……。しかし、ガーディアンが実体化出来る事は理解していたが、それが人間を取り込んでバージョンアップする事例はあまり聞いたことが無い。そのあたりの話は努さんにきいたほうがいいと思う」

《チェッ、折角俺のいいとこ見せられるようになったと思ったのによ・3・》

 火炎は、唇を尖らせる顔文字を使いつつ、悔しがる。

「バージョンアップすればいいだけだ。やり方はわからないけど……二ノ宮さんはその辺、知ってます?」

「いや……正直俺達はそこまでのところは、つかめていない」

「……分かりました」

「技術的な点に関しては俺達はあまりカバーできない。ただ逆に、俺達の得意分野から攻めていこうと思う。今回君が何故襲われたのかという理由、知りたくないか? 黒崎」

「はい」

 二ノ宮が合図すると、黒崎は一冊のファイルをミヤビに見せた。

 まず目についたのは、一枚の新聞記事。

「成人男性、謎の不審死。側には割れたディスプレイが。それがどうかしたんですか?」

「……良く、見てみろ。特に被害者男性の顔写真をな」

 二ノ宮が言うように、ミヤビは新聞の顔写真を眺めた。

「!?」

 そこに写っていたのは……。

 ミヤビを襲った、ガーディナイザーである、フード姿の男だった。

 以前資料を渡された時は、そんなに気にしていなかったのに。

 フードが外れ、素顔が露わになった時の顔と、全く同じ顔だ。

 ただ、写真は会社員時代の時に撮られたものらしく、ミヤビが見た時は、やせ細り、目に隈が出来ていた。

「こ、これ?」

《オイオイどういうことだよ、死んでるやつと戦ったってわけか?俺らは》

「……まず確認しよう。君がこれまで戦った男は、こいつで間違いないな?」

「は、はい……はっきりと顔を見ましたから」

「その人の名前は田中貞夫たなかさだお。会社をリストラされ、自宅で引きこもっているところを、ガーディアンに襲われたらしいの」

 記事には、その経緯が書かれていた。

 割れたディスプレイに、何者かに首を締められた跡。自殺を図ろうとしたわけでない。

 その時部屋は鍵がかけられ、家族すらもしばらくまともに会ったことがなかったという。

「そしてPCからガーディアンの腕が出てきて、殺された……。だけで済めばいい話だったが……」

「私たちは、ミヤビ君が倒れている間、藍沢さんに、先に話を聞いていたの。その時に不審死だった被害者の顔写真を並べて、それに近い人を選んでもらったの」

「その時から俺たちはある程度目星は付けていたんだが、これで確信だな」

「理由はわからないけど、“死んでいる人”がガーディナイザーとなった」

「また、もしくは本当は“死んでなかった”という可能性もあるな」

《意味わかんねえよ……》

 火炎の言うとおり、意味がわからない。

 けれど、二ノ宮達が言うように、この新聞記事に映る田中貞夫という男が、ミヤビたちを襲ったガーディナイザーであることは、間違いないようだ。

 顔をはっきりと覚えているから、かなり似た他人でない限り、本人そのものだ。

「とにかく、これまでガーディナイザーに関しては何一つ手がかりがつかめなかったんだ。これでひょっとしたら捜査に進展が生まれるかもしれない」

「……その事実は、警察に伝えるんですか?」

「一応伝えるが、聞いてはくれないだろう。もうその男は、“死んでいる”扱いだからな」

《嘘だろオイ》

「じゃあ俺は、一体何と戦ったんですか?」

「……これまでの話はあくまでも仮説だ。君が戦ったガーディナイザーが何者だったのかは、現時点では判断できない」

「……そうですか」

「ところで話が変わるが、努さんの所にいく日程が決まった。今週末の土曜日だ。開けておいてくれ」

「わかりました」



 ミヤビは、一通り話を済ませた後、自室へ戻った。

 ――田中貞夫という男。死んだはずなのに、生きていた。

 ――Version2。

 いろんなことがあって、疲れている。

 体は既に、クタクタだった。

 今にも倒れそうなくらい、疲れている。

 ミヤビはシャワーを浴びて、着替え、ベッドに倒れ込む。

 火炎が何かを言っているが、相手をする元気がない。

 そのまま、深い眠りに着いた。

「忘れてた……」

 朝起きて思い出す。

 今日は、転校初日だったということを。

 ついこの間まで、金曜だったのに。時間というものは恐ろしい。

 ガーディアンに襲われて。火炎を召喚して、その反動で入院して。

 月曜日を、自然と迎えてしまった。

 初日だからか、初日だからこそか、月曜日というやつは何故これほどまでに憂鬱なのだろうか。

《何がだよ?・3・~♪》

 火炎が、口笛を吹きながら

「君は呑気だな……」

《おうおう、わけわかんねーことばかりだけどよ、落ち込んでばかりはいられねーぜミヤビちゃんよ》

「別に、落ち込んでいるわけじゃない。面倒くさいだけだよ、月曜日が」

《なんで?》

「始まり、というのは気を使う。何でもかんでも」

 ましてや、自分が望んでいない展開になるなら尚更だ。

 そもそも、転校の件に関しては未だにミヤビは納得していない。

 父が勝手に決めたことで。

 さらに、この事件に関してもだ。

《そんなに事のせいばっかにしてたら後悔すんぞ。逆にお前、やりてえことあんのか?》

 確かに、火炎の言うことは一理ある。

 状況のせいばかりにして言い訳がましいのは、自分でも理解しているつもりである。

「やりたい事……か」

 脳裏に浮かんだのは、一台のバイクだった。

 けど、今は。

《流されることばっかりで気にしてたら埒が明かないぜ~!! 俺はいっぱいあるぜ~!!》

「羨ましいな」

《お前にもあんだろ、一つやふたつ。ま、それはさておき、そろそろ時間じゃね?》

「ああ」

 時間は、電車の発車時刻から逆算して30分前となっていた。

 そろそろ、下に降りて朝食を摂らなければいけない。

 ミヤビは、制服に着替え、充電していたハンターフォンと、もう一つのスマートフォンをカバンに入れ、部屋を出た。

「誰もいない……」

 書き置きが残してあり、既にミヤビの分は出来ているようだった。黒崎と二ノ宮は、捜査があるようで朝から出かけていたらしい。戸締まりは電子ロックでできるようなので、朝食を終えてそのまま出かけることにした。

 ポッケに入る、ヘッドフォンを着ける。

 聞いているジャンルは様々だが、今日はジャズを聞くことにしよう。

 特に何が好きだとか、音楽に対しては特段の好みはないが、大体なんでも聞く方だ。

 今日は、気分的にジャズが聴きたい。

 眠い目をこすりつつ、プラットフォームで電車を待つ。

 それにしても、人が多い。これは慣れるのに時間がかかりそうだ。

 いつもは、SNSばかりをみていたミヤビも、今日は気になってスマホのニュースを開く。

《何か気になってんのかー?》

「電車内では黙ってくれ」

《えー》

「えーじゃない」

 ミヤビはハンターフォンをマナーモードにして、火炎を黙らせる。

 しかし、マナーモードにすると声がミュートになるというのは、便利だ。

 火炎はよく喋る。考えたい時に邪魔してくるから、そんな時はマナーモード一択だ。

(……不審死、多いな)

 気にしたことはなかったが、画面が割れて殺されたというニュースが今日だけで3件起きている。殺人事件一つで一つのワイドショーで埋まるくらいなのに、1日で同じような事件が3件起きているというのは、少し異常な気がする。

 ミヤビは、事件だけでなく他の記事も見ることにした。

(情報庁……。そんな庁ができてるのか)

 記事には、情報庁の長官が開庁式を開いている。情報庁長官は、黒崎信雄という名前のようだ。スーツ姿の男達が何人か、テープカットをしている写真が表示されている。

(長官は黒崎信雄くろさきのぶお、黒崎?)

 なんだか既視感のある名前だ。

 まさかとは思うが、事務所の黒崎と何か関係があるのだろうか。

 ただ、それはそうなら何故二ノ宮のところにいるのか余計に分からない。

(まあ、たまたま名前が同じだけか)

 長官の娘なら、こんなアルバイトなんてする理由なんてないはずだ。

(日本の、サイバー警察ってとこか)

 情報庁なんて出来ているなんて、全く知らなかった。

 やはりニュースはたまに気にしておいたほうが良いだろう。

 今後のためにも。

 気づけば、もう駅にたどり着いていた。


「藍沢美月です。1年時はアメリカの学校に交換留学してました。いろいろとわからないこと、あると思いますが。色々教えて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします」

 藍沢の紹介でクラス中が湧き上がる。まあ美人だからしょうがないだろう。というか転校生ではなかったのか。

 そんな中で同時紹介されるわけだから、当然あまり目立たない。

 逆にそれが良かったようで、転校生への視点は思いっきり藍沢に向いていた。

 ミヤビも名前の自己紹介を終えて、席についた。

《へいへい~不人気者~》

「ややこしい関係が無くて助かる」

 転校生によくある、どこからきたの~だとか何してたの~とか。そういう興味を引く対象が自分に矢印が向いていないだけでも、助かることはない。

《お前って捻くれてんよな》

「うるさい……けど逆に」

《あの藍沢ってやつが、疲れんじゃねーかって思ってんのか? あいつはお前じゃねーぞ》

「何で考えてることが分かる?」

《なんとなくだよ。あの女は気遣いだとかそういうのじゃなくて、自然に振る舞ってんだよ。お前と違ってな》

「そんなことはわかってる」

《そこがお前にねーとこだな》

「うるせえ黙れ」

《へいへい。まーお前の好きなようにやれよ》

「最初からそうしてる」

 1日目は、藍沢に人が集中し、ミヤビに話しかける人間はあまりいなかった。

 ミヤビはほっとして、放課後、そのまま帰宅することにした。

「あら、帰るの?」

 声をかけてきたのは、藍沢だった。

「ああ。特に予定もないしな」

「……予定がないんだったら、一緒に帰らない?」

「うん」

「シャイなのね貴方」

「ただ、面倒なだけだ」

「モテないわよ?……いや、最近の子ってこういうのが好みなのかしら」

「別にいい」

「友達はできた?」

「いや。君は沢山出来ているようだけど」

「沢山出来るから良いこと?」

「そうは思わない」

「そう。同意見で助かるわ。皆、まあ皆という考えを一概にするのはどうかと思うけれど、友達の数の方を重視してるんじゃないかって思うの。貴方も入った?このグループ」

 藍沢は、クラスのSNSをミヤビに見せる。いつの間にそんなものが。

 まあ確かに、藍沢の意見も一理ある。友達数が多ければ良いというわけではない。

「いや」

「距離を置かれてるのね」

《嫌われてやーんの》

 火炎が茶々を入れる。

「そうではないみたいだけれど。貴方女子にはかなり好評みたいよ?」

《嘘だろオイ》

「興味ない」

「そ……。ところで、話があるのだけれど。私を助けてくれた御礼、させてくれない?」

「御礼?」

「ええ。貴方がいなければ、私はここにいないかもしれないし」

「そこまで義理を感じる必要はないよ」

 律儀なやつだな。とミヤビは思った。

「義理とか、そういうのじゃないわ。私がしたいからするだけ」

「わかった」

「決まりね。今度貴方のお父様の所にいくわけでしょ?それが確か土曜だった筈よね」

「ああ」

「じゃあ、その翌日の日曜とか、どう?」

「……構わないが」

「了解。あ、連絡先教えてくれる?」

 ミヤビは、藍沢と連絡先を交換した。


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