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THE TRICK TRAP HUNTERS  作者: 水原翔(みずはら・しょう)
TRICK2 「Guardian」
5/23

TRICK 2-2

 二ノ宮が見舞いに来て、説明をしたその後、一通り会話を済ませ、ミヤビは休んだ。

 幸い、転校するのは月曜で、事件が起きたのが金曜だったから、初日から欠席という事態は免れることが出来た。二ノ宮はミヤビの父、水無努との約束を月曜日の放課後に設定した。

 検査入院に関しては、どこにも異常がなく、怪我といいえばかすり傷程度なものだから、あまり気にするようなことではない。

 藍沢は義理堅いのか、そのまま残ると言い出した。が、さすがに悪いので、先に返した。二ノ宮も黒崎にも、異常はなかったから帰ってもらって大丈夫と伝え、帰ってもらった。

「……ほんと、とんだ災難だったな」

 東京に初めてきた日に、起きた事件。

 ガーディアン名乗る怪物に、ブレイクアバターというよくわからないもの。

 一体、これから何が待ち受けていようというのか。

「AIか……」

 本当に、火炎流星丸は人間みたいだなと、ハンターフォンを見ながら思った。

《愛? 愛が足りてねえのか?》

「いつの間に……」

 ハンターフォンから、いつの間にか火炎の声が聞こえる。マナーモードにしたはずなのに、いつの間にか解除されていたようで。

《へへっ、何度でも俺は蘇る!! あ、やめて、マナーモードやめて!! おねがいミヤビくん!! おねげえしやす!! ねー!!》

 火炎を黙らせるためにハンターフォンを再びマナーモードにする。それに焦って

「ガーディアンっていう名前はわかったけど」

 結局、わからないことがある。

 どうやってそのガーディアンは現れるのかについて、二ノ宮たちは知らなかったのだ。

 結局、こういうことが起きているといったことしか分からなくて、それが何故起きているのか、どうやって起きているかまでは分からなかった。

 それくらい、この事件が特殊なのだろうと、感じる。

 さらに、あの紺色のパーカーの青年だ。ガーディアンを火炎が倒した後、スマートフォンになったものを一目散に取っていき、ミヤビに殺害予告をしたあの青年は、何者なのだろうか。そのことについても二ノ宮に訪ねたが、犯人である可能性がどうとか、断定はできないって言っていた。

「まあ、どうでもいいか」

 考えたってしょうがない。わからないことはわからない。考えても答えの導き出せないものは考えるだけ時間の無駄だ。

 ただ……ミヤビ自身、関連の事件について情報を知らなさすぎる点がある。

 そういえば二ノ宮は、病室を出るときに、関連事件について新聞記事をまとめていた。一読してもらうと嬉しいと二ノ宮が言っていたので、そのファイルを借りていたのをミヤビは思い出し、テーブルの上にあったファイルを開いた。

 二ノ宮がファイリングしたのか、黒崎がファイリングしたのかわからなかったが、事件ごとに経緯の新聞をまとめてあり、状況が分かりやすい。

 一つ一つの記事について細かく読むまでの元気はなかったので、一通りどういうものが起きているのか、といったことを見てみた。

「“割れた画面”か……」

 記事に共通するキーワードとして、それがよく目についた。

 ほとんど被害者の死因は首を絞められたことによるものなので、自殺と書かれている記事もほとんどだ。どの事件にも共通していることとして、現場には割れた画面の電子機器が存在していた。ということだろう。

「……ていうか、一介の高校生が読むようなもんじゃないな」

 どこぞの小学生探偵じゃあるまいし。読んだところで解決につながる知恵を持っているわけでもあるまいし。

 それに、“捜査”なんて、素人の自分たちより警察がいるはずだ。

 事件と関連するものとしては、どの現場にもスマホやPCなどの、“画面”が割れているというのがほとんどだった。

恐らく二ノ宮たちは、それをガーディアン事件と関連付けて調べているのだろう。

 けれど、それ“だけ”をガーディアンだと関連付けるのは、いささか無理があるような気がしないでもないミヤビだった。

「犯人がただ割っただけの可能性もあるしな」

 そう考えると、結局のところ、何もわからない。

 そんな状況の中で、事件の捜査に協力しろ。だなんて、二ノ宮たちは何を考えているのだろうか。

 考え事をしていたら、頭痛がしてきた。

 もう少し休んだほうが良いのかもしれない。ミヤビはそう思って、ファイルを机の上に置き、ベッドで横になった。



『PEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE……!!』

 どれくらい寝ていたのか、自分でもよくわからなくなっていた。気味の悪いモスキート音に目を覚まし、ベッドから起き上がると、その音はミヤビのスマートフォンから鳴っていた。

 病室の明かりは暗く、すっかり夜になってしまったようだ。

 非常口を示す緑の明かりすら、光っていない。

「人が寝ている時に……」

 ミヤビは眠りの深い時に起こされたため、不機嫌ながらスマートフォンをそのまま机の上に置き、ハンターフォンだけを取り出し、マナーモードを解除した。

 どうやら、火炎のSimカードのおかげからなのか、ハンターフォンは赤い画面にはならなっていなかった。

「火炎、いるんだろ」

《ああ。昨日のやつかもしんねえ》

「にしても」

 ミヤビは靴を履き、自分の病室を出て、あたりを見回し、人の気配がまったくないことに違和感があった。

「なんで、人の気配がなくなっている?」

 品川駅のときもそうだったが、何故人の気配が自分以外にいないのだろうかと、ミヤビは火炎に尋ねる。

《んーしらね。ガーディアンのせいなんじゃねえの》

「ガーディアンは、特定の人間しか狙わないということか?」

《今ん所そんな感じだろ》

 不特定多数の人間を襲う心配がない。だからこれまで事件が表面化せず、警察が手を焼いていたのかもしれない。そして、この人がいない状況を考えると、尚更だ。

 不可解な自殺事件とだけの顛末が記事に多かったから、もしやと思ったが。

「つまり、ガーディアンには意志があるのか?」

 怪物で無差別に狙っているわけではなく、ある理由から特定の人物を狙っている……。

昨日のことはたまたま、ミヤビたちが狙われてしまったということになる。

《意志っつーか。操ってるやつがいるんだと思うぜ》

「操ってる奴? どういうことだ」

《しらねーよ。俺もあんまりわかんねえんだ。ガーディアンについてな》

「……見つけたぞ、水無ミヤビ!!」

 そう、殺気だった声で叫んだのは、昨日の品川のパーカー男だった。ミヤビの背後から、廊下をゆっくりと、足音をたてながら現れる。

「お前は、昨日の」

「ふ、ふふふふふ」

 男は、不気味な笑みを浮かべながら、左のポッケから自分のスマートフォン左手で取り出した。画面は赤い画面になっている。

「何故俺を狙う?」

「覚えてねえのか? ふふ、まあそれもいい。別に今日殺してしまえば、それで済む話だからなァ!!」

 右手から取り出したのは、不気味に赤く発光する、小さなSimカードだった。

「何っ?」

 ミヤビが見た、火炎を召喚するのに使ったSimと、酷似していた。ただ男のもつものは、ミヤビが持つものとは対象的に、かなりの不気味さを醸し出している。


「ふふふ……」

 そして、男がその不気味なSimカードをスマートフォンに指した瞬間、メタル系の音楽のデスボイスのような、震える声がなり始めた。

《Chaos System. Boot up.》

「カオスシステム!?」

《なんか、やな予感がすんぞ》

《Select your Guardian.》

 男のスマートフォンには、不気味な髑髏模様のアイコンが浮かび上がり、男は躊躇いもなくそのアイコンをタップする。

「ふふふ……カオス、アウト」

《Chaos Out !! Infection!!》

 その不気味な音声が流れた瞬間、男のスマートフォンは赤く光り始め、手のひらの上でドロドロの液体になり、床にゆっくりと垂れていき。

 その液体が、少しずつ、形を形成していく。

 まるでヘドロだ。

《Version1 Making》

 ――また、あの怪物だ。

 ドロドロの液体は、次第に形を成していき、大量の血を垂れ流しながら、ガーディアンになって現れた。

 ミヤビがブレイクアウトした動作と、似て非なるものに。

「うそだろ……」

《ガーディアンが来るぞ!! ミヤビたのむ!!》

「あ、ああ」

 目の前の光景にただ驚いていたミヤビは、火炎の声で我に返り、ハンターフォンを取り出した。

《もう俺がインストールされてるから、そのまま召喚アプリを起動してくれ!!》

「……これか」

 ミヤビは、ハンターフォンのメニュー画面に表示される、五芒星のアイコンをタップした。そして、文字が次々と画面に現れ始める。

[BREAK OUT SYSTEM Ver.α]

[Loading…]

[使用者生体認証システム作動]

[認証完了。ユーザー名『ミズナシ・ミヤビ』、登録済みユーザーです。BREAK AVATOR -Flame Blade-,の設定ユーザーとの一致を確認。アバターデータをサーバーより読み込み中です。]

[読み込みが完了しました。ハンターセレクト画面を起動します]

「いくぞ」

《Select of Hunter!!》

 テンションの高い男の音声とともに。ハンターフォンに五芒星のマークに、それを囲む5つの円が表示された。

 ミヤビは迷いなく、右上にある火のアイコンをタップした。

《Flame Blade Ready!!》

ハードロック調のサウンドがハンターフォンから鳴り響く。

 ミヤビは、深く深呼吸をし、ハンターフォンをまっすぐ上げ――。

 そこから垂直に突き落とし、叫んだ。

「ブレイクアウト!!」

《BREAK OUT !! Flame Blade!!》

 スマートフォンは粉々に砕け散っていく。

《Flame Blade Version 1!! 燃エル・ココロ・叫ブ・アッツイタマ~シイ!!》

 相変わらず、場に似合わないテンションの高い歌がなった次の瞬間、ハンターフォンが砕けた後の破片が、人形へと変化していく。

 あたりを爆炎で包み、それを切り裂くように、彼は再び現れた。

「……なあ、この歌、どうにかなんないのか?」

《歌は気にすんな!!》

「はあ」

「……さあ、殺せ殺せ殺せ!!」

《グォオオオオオオ!!》

 男はそうガーディアンに命令すると、大きな雄叫びを上げ、物凄い高くジャンプし、そこ

から両腕の牙をミヤビに振りかざした。

《させねえ!!》

 ミヤビを守るように、火炎はガーディアンの腕を切り裂いた。

《グォオオオオオオ!!》

 腹に来る叫び声。火炎がいるからなんとかなってはいるが、これを一人で相手していたとなると、恐怖しかないだろう。普通の人間が熊に襲われるときも恐怖だが、それ以上かもしれない。

「なっ!?」

 すぐに腕を切り落とされたからか、フード男はその姿を見て驚いていた。

《二度も同じ手は食わねえ!!》

「……ふふ、ふふふ……」

「何がおかしい?」

「いや、ちょうどいいと思ってね。バージョンアップだ」

 フード男は、笑いながら、手がなくなったガーディアンに手を触れる。

《Eat human……》

「!?」

 うめき声しか挙げなかったガーディアンが、突如低い声でそうつぶやいた。

 つぶやいた瞬間、ガーディアンは液体のようにドロドロになり、フード男の全身を取り込み始めた。それは、言葉通り“人間を食べていた”。

《Version2……I am Human》

 ミヤビはその気味の悪い光景を見て一瞬吐き気がした。だが怯んではいけない。

 今何が起こっているのか、自分の理解が追いついていない……と、同時に何かヤバイ感じがした。ガーディアンが、人間を食べる……。

 取り込まれたフード男は、顔だけ残り、体全てがガーディアンの体へと変化していく。

 I am Humanと言っているが、とてもその風格をなしているとは思えない姿になっていた。

《サア、ミズナシ……ミヤビ、貴様ヲ、殺ス!!》

「……!?」

 ミヤビは驚いた。

 これは、一番最初に東京に来た時に、夢に出てきた怪物が放った言葉だった。

 一体、何故自分はこれほどまでに殺意を向けられているのか、全く意味がわからない。

 それもそうだが、人間を取り込んだことによって、ガーディアンそのものが人間の言葉をはなせるようになり、避けに気味悪さが増していく。

《怯んでんじゃねえ!! ぶっ倒すぜ、火炎斬ッ!!》

 火炎は人間と一体化したガーディアンに斬りかかる。

「まて、中には人が!!」

 自分を襲っている奴とはいえ、殺すわけにはいかない。

 そんなことはあってはならないと、ミヤビは思っていた。

 しかし、そのように、ミヤビが心配するまでもなかった。

《フフッ、バージョン違イノ攻撃ナド、聞ク筈モナイ……》

 奇妙な声で、そいつは余裕の表情を見せる。

 火炎の攻撃は、聞くどころか、当たってすらもいなかった。

 火炎が持っていた刀は、斬れずにガーディアンの体を貫通する。

《な、なんでだよ!?》

「……攻撃が、効いていない」

 *

情報庁、特別捜査室。

「ガーディアン、病院内に出現!! Version2になりました!!」

「何だと!?」

 オペレータが、焦燥した声で水無務に伝える

「Version2ハンター、霜村静文が急行中です」

「静文君に任せるしかないか……」

《フハハハ……!!今ノオレハムテキ!!ヤット貴様ヲ殺スコトガデキル!!》

「……改めて、聞いていいか?」

《ナンダ?》

「何故俺を、殺したがる?」

 ミヤビには、思い当たる節がない。

 第一、このフード姿の男になんて、出会ったことがないのだ。

 ましてや、人に殺意を刻むほど、何かした覚えもない。

 そこまで深く他人とは、関わっていない筈。それなのにこの、目の前の怪物は自分を殺したがっている。そうまでする理由が何処にある?

 ミヤビは単純に、疑問に思っていた。

《“ハンター”である貴様ヲ殺セバ、オレハ莫大ナ富ヲ得ルコトガ出来ル。“ガーディナイザー”ニハ、約束サレタ権利ガアル!!》

「……ハンター? ガーディナイザー? 何のことだ?」

 ガーディアンが話すうちに、片言な日本語が、だんだん正確になっていく。

 ハンター。ガーディナイザー。約束された権利。

 一体、何のことをいっているのか、ミヤビには理解できなかった。

 つまり、要約すると。

「君は、自分の欲望のために、俺を殺そうとしている?」

《ソウダ!!ダカラ、死んでもらウゾ!! 水無ミヤビ!!》

《マズイ!! 逃げろミヤビ!!》

 火炎が叫ぶ。

 ミヤビは、余計にガーディアンを煽っただけに過ぎなかった。

 火炎の攻撃が貫通しない今、ガーディアンを倒す手立てはない。

 そんな絶体絶命の中、鋭い爪が、ミヤビに襲い掛かる。

 火炎が必死にかばおうとするが、その攻撃は貫通する。

 まるで、火炎が幽霊になっているかのように。

 しかし、次の瞬間。


 ――銃声。


《ナ!?》

「……全く。世話が焼ける」

 ガーディアンの攻撃を、何かがが拘束で貫き、右手を貫通した。

 そして、現れたのは。

 白衣を纏った、メガネの男だった。

 彼が手にしていたのは、銃。

 銃弾が、ミヤビに襲い掛かるガーディアンの右腕を、貫通したようだった。

《何ナンダ貴様は!?》

 ガーディアンが、現れた白衣の男に話す。

 男は余裕の表情で、フッと鼻で笑う。

「名乗る必要もない」

《何故この空間にいれる!? しかもその銃はナンダ!?》

「わからないのか? Version2だよ」

 白衣の男は、メガネを左手の中指でかけなおし、にやりと

《何!?》

「自分がVersion2になれて、ハンター側のVersion2を知らないのか?」

《も、もしやその銃ハ……!!》

「……トリックタップだ」

 白衣の男は、トリガーを引き抜いた。

 銃弾は、ガーディアンの腹部を貫通し……。

 粉々に、砕け散った。

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