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THE TRICK TRAP HUNTERS  作者: 水原翔(みずはら・しょう)
TRICK1 「Break Out」
3/23

TRICK 1-3

 *

 ――ミヤビたちが品川に行くちょうどその頃。

 東京都内某所、情報庁特別捜査局。水無ミヤビの父親、水無努みずなしつとむの勤め先でもある。

 情報庁。実はこの庁、20XX年から運用の始まった、インターネットを始めとする“情報”の監督官庁である。相次ぐネット犯罪や多様化するインターネットに合わせて、日本国内のみでの“情報”における監督を行っている。その面会室で、水無努と、初老のスーツ姿の男が面会していた。

「いやあ、水無さんには急に東京に来ていただいて申し訳ないですな」

「いえいえ長官。このような話を頂き、私としても光栄です。日本にもいよいよ“情報”を専門に扱う部署ができたと技術屋として喜んでいるところです」

「わたしもこの情報庁設立には苦労しました。それに、そろそろ総務省だけではかばいきれない案件も出てきましたからね。ハッカー対策など様々ありますが、最近は……」

「ガーディアン。ですね?」

「ええ。水無さんが研究なさっているとおり、ここ数年に感染が深刻化したスマートフォンウイルス、ガーディアン。実体化するという事例もよく聞きますが、何しろ現場の目撃情報が少ない。そこで新設情報庁においても専門の調査部署を置くことが急務ですから」

「最悪の状況だけは避けたいんです。ひょっとしたら東京都内のすべてのスマートフォンがガーディアン・ウイルスに感染すれば、大パニックになる可能性があります」

「仰る通り、その状況は避けたいですね。ただでさえ日本はセキュリティ後進国。ガーディアン・ウイルスの脆弱性で都市機能が衰弱してしまえば、諸外国に示しがつきません。しかし、コンピューターウイルスが実体化するなんて、正直私自身、本心では半信半疑です」

「無理もありません。SFめいた話ですから。けれど最近の技術の進歩で、それが可能になってしまった」

「技術については概ね伺っております。どうやら仮想ディスプレイシステムの技術を応用して実体化するような」

「ええ、その通りです。実体化現象による悪用は危惧してはいたのですが、恐れていた事態が起きているようです」

 会話している途中で、館内放送が流れた。

『ガーディアン探知放送。ガーディアン探知放送。品川駅にてバージョン1クラスのガーディアン・ノイズを確認しました。担当部署の職員はただちに所定の場所に待機してください』

「まさか!?」

「長官。申し訳ありませんが緊急の用が出来たようです」

「わかりました。では詳しい話は後日調整します」

 長官は、その場を立ち去り、水無努はその部屋を出て、ある場所へ向かった。

「しまった。品川にはミヤビが……無事だと良いが」

 

 静華灯光学園前駅から品川駅へは、一駅乗り換えないといけないらしい。乗る予定の電車は、新橋方面へ向かう。そこから品川方面へ乗り換えるようだ。電車は5分後に来るようで、ホームで待機していた。帰宅ラッシュのようで、かなりの人が待っている。

 そんな中で、ミヤビは父に渡す黒い箱を見つめていた。別に隠すこともないので、父の用事のことを話した。

「その荷物を、あなたのお父様に渡すの?」

「ああ。郵送すればいいのに。しかも部下の人が取りに来るらしい」

「でも、そんな大事なものを貴方の引っ越しの荷物に紛れ込ませるって、変よね」

「うん。大事なものなら余計にね」

 藍沢の言うように、父さんがこんなおっちょこちょいな真似をするのだろうか。仮に間違えて入れたとしても、自分の荷物と類似した可能性はあるかもしれないけれど、ミヤビはこんな黒い箱を持っていない。荷造りの最後に郵送の手続きをしたのは父だが、その時に入れたのだろうか。

「『BREAK AVATOR Sim -Flame Blade-』……Simって、スマホに入れる小さいカードのことかしら」

「Sim?」

「あら知らない? スマホを契約する際に、電話会社から貸与される小型のICカード。一度は目にしたことあるんじゃないかしら」

「ああ、あのちっちゃいのか」

「そ。日本人はあまり抜き差ししたりしないけれど、一部の途上国ではSimカードだけを持ち歩いて端末を借りたりするらしいわ。そんな感じで、スマホが通信するのに必要不可欠なモノね」

「へえ……」

「けれど、BREAK AVATORって聞いたことないキャリアね。何かしら」

「まあどうでもいいよ。これを渡せば済むことだし」

「それもそうね。貴方のお父様の仕事に関わるものだし、余計な詮索はしないでおくわ」

「けどお前色んなことに興味持つよな」

「お前じゃない。藍沢美月よ」

「わかったよ……藍沢」

「そうね。知ってこともそうだけれど、本当に知らなくて、自分でも気になることって、自分から動いて調べたほうが楽しいと思うの」

「アクテイブなんだな、藍沢は」

「昨日の先生じゃないけれど、私の性分なのよ」

「そうか。俺は……」

 一時期、自分にも藍沢のようになんでも興味もつ時期があったと、ミヤビは思い返した。しかし、そんな感覚はとっくの昔に忘れてしまった。

『間もなく、新橋方面行き電車が参ります。危ないですから、ホームドアから下がっておまちください。』

 駅のアナウンス放送が流れる。どうやら電車が来るようだ。電車は帰宅ラッシュのようでだいぶ混雑していたので、2人は会話を進めず、そのまま新橋へ向かった。新橋から品川方面へ電車の乗り換えをするべく、ホームを歩く。人混みを通り抜け、目的のホームにたどり着いた。

「それにしても、すごい人だ」

「そう?東京では日常風景だけれど」

「多分、慣れるのに時間がかかりそうだ」

「まあ慣れたら楽よ」

「……バイク乗りてえ」

「あら、バイク好きなの?」

「免許は地元で取った。暫く乗ってたけど東京じゃ電車通学が普通って言うからさ」

 16歳で中型免許が取れるし、元々ミヤビの父がバイクに乗っていたことから、親父にすぐ取らされた。最初は嫌々だったけれど、教習を繰り返すうちにバイクに興味を持って、親父とバイクを共有していたこともある。

 平日の通学ではミヤビが使って、休日は親父が乗る。そんな感じだ。

「高校生では珍しいわね。今時3ない運動とかやってて厳しいんじゃないかしら」

 オートバイの免許を取らせない、乗させない、買わない、みたいな奴だ。最近の高校はみんな取り入れて入れており、すっかり免許をとる高校生は減ったという。

 ミヤビの親父はこの制度に対してはあまり良く思っていなかった。最近の世の中はあれやこれやダメだダメだといって、若者を馬鹿にするくせに自由がないじゃないかと。数少ない親父とのやり取りの中で、その意見にはミヤビ自身も同意していた。

「うちの高校はバイク通学可だったから、その影響はなかった」

ミヤビの通っていた元々の高校は、とにかく自宅から距離があったので、バイク通学が許可されていた。

「静華はダメみたいね」

 藍沢はハンターフォンで通学に関する学則を確認した。どうやらバイク通学は禁止らしい。まあ、当たり前だろう。それにバイクはいま所持していないし、買うお金もない。

 ただ、前みたいにバイクで帰っていた日々を懐かしく感じたのだ。

 人が多くても、電車の本数が多いおかげで、思っていたよりも電車に早く乗れた。静華灯光学園から出ていた電車よりも混雑率はより高く、少し窮屈に感じる。

「品川はすぐよ」

「ありがとう」

 品川駅に到着し、人の流れに乗りながら改札を抜ける。ミヤビは指定された番号に電話をかけようとした、その矢先だった……。


『Peeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeee』


 ――モスキートノイズ。鳴り続けるたびに不快感を覚える音。ミヤビはその音に聞き覚えがあった。嫌な予感がする。

 その音を聞いた瞬間、周囲の人々が突如、消えた。

 いなくなったわけではなく、消滅したのだ。

 自分だけになったかとミヤビはあせって藍沢をみると、どうやら藍沢は消えていなかったようだ。また、先程から流れていた駅の案内放送も突如停止し、モスキートノイズ以外、聞こえなくなったのだ。

「何? これ」

「まただ」

 ミヤビは、先日の出来事を思い返す。あれは夢だと信じていたが、どうやらそうではなかったらしい。

「また?」

「藍沢、何か聞こえるか?」

「ピーっていう音が聞こえるわ。それ以外はなにも音がしない。ねえこれって」

「スマホだ」

 藍沢はミヤビの言葉でハンターフォンの画面を開いた。すると、画面は一面レッドスクリーンになっていた。

「……赤いわ」

「まさか!?」

 ミヤビも気になって、自分のハンターフォンを見る。完全にレッドスクリーン。東京に来たときに一番最初に体験した、赤い画面になっていた。そしてモスキートノイズの発信源も、このスマートフォンによるものだった。

「周囲はどうなっているのかしら」

「待て。迂闊に動かない方がいい」

「でも、これって異常事態じゃないの?」

「わかってる。……なにか聞こえないか」

「え? この妙な高周波音とは別に?」

「ああ」

 何故、ミヤビだけでなく藍沢もこの現象に取り込まれてしまったのか。という疑問はさておき、音が、何かの足音が近づいてくる。ゆっくりと、ゆっくりと。

「何かくるわ」

「……ああ」

「……っ!?」

 藍沢は、暗い正面から近づいてくるモノが、正体を表し声を失った。

 ――怪物だ。

 それは、地面に垂れ落ちるほどの大量の血を浴びた、怪物だった。

 シューッと荒い息を放つ口は、オオカミのような口と鼻。

 目は大きく、充血し、血が滲み出ていた。

 両腕は熊のように剛毛で、手先の爪は10cmも伸びきるほど長く、硬い。

 藍沢が声を失うのも無理はなかった。その怪物は、姿形もそうだが、なによりもそれ自身が放つ強烈な殺気に、たじろぐしかなかったのだ。

「逃げよう!!」

「え、ええ」

 なんだってこんな東京に、こんな怪物が。ミヤビはそんなことを一瞬思ったが、間違いなく殺されると思い、藍沢の手を握って駆け出した。

 ――逃げろ。逃げろ。逃げろ。

 殺される。

 幸いにも、その怪物の歩く速度は遅く、走るミヤビたちには追いつきそうもない。

 チャンスだ。ミヤビは近くの柱に隠れ、息を殺して隠れた。

 怪物は、歩む速度を変えず、あたりを見回しながら2人を探していた。

 藍沢も察したようで、息を止めていた。


 グォオオオオオオ……


 怪物は、体に響くほどの雄叫びを放ち、あたりを見回している。ミヤビは、武器になりそうなものを探す。目に止まったのは、駅の消火栓の機械だ。あれで放水すれば……と思って足音を建てないように消火栓に近づく。放水の水圧で、多少は効果があるはずだ。緊急事態だし、使っても問題はないだろう。

 ミヤビは消火栓の機械の蓋を開け、ホースを取り出した。放水口に接続し、ノズルをひねって徘徊する怪物に放水する。

(やったか……?)

 やってない。と自問自答するくらいにフラグ臭のするセリフを思ったことに後悔する。

「嘘でしょ、当たってないじゃない」

 放水した水は怪物に当たったが、全く効かなかった。

 そのせいもあってか、隠れている方向を怪物に教える結果となり、うまくはいかなかった。場所を特定した怪物は、そのままミヤビたちのもとへ近づいていき、元々隠れていた柱を真っ二つに切り裂いた。

 受け身の体制をとり、柱から離れるミヤビと藍沢。

 怪物は、ゆっくりとこちらに近づいてくる。

「お前、運動神経はいいんだな」

「お前じゃない藍沢よ……どうするの?」

「逃げるしかないよな」

「どこに? 恐らく追いつかれるわ」

「ならどうする」

「警察を呼びましょう。私達じゃどうにもならないわ!!」

「無理だ。スマホがこんなんじゃ、呼べないと思う」

「けれど……」

 不安を煽ってどうする。ミヤビは藍沢に言ったのを後悔した。人はいない。さっきまで帰宅ラッシュで大量の人がいた品川駅は、ミヤビと藍沢とこの怪物以外、人っ子一人いないのだ。おまけにスマートフォンの画面は赤く塗りたくられ、使用不可。助けなんて呼べない。目の前にいる熊とオオカミと狐の融合体のような怪物に、為す術はない。まさに絶体絶命である。

 そんな、時だった。


 ――オレを呼べ。


「……!?」

 ふと、声が聞こえた。男の声だ。自分以外にも人がいるのかと、ミヤビはあたりを見回したが、そんな人はいない。確かに聞こえたのだ。


 ――オレを、呼べ。水無ミヤビ。


「藍沢、何か言ったか?」

「え? 私は何も。また何かあるの?」

声の正体は、親父が持ってくると指定した、黒い箱だった。


 ――オレを呼べ水無ミヤビ。バイバスを介して、召喚しろ。そうすれば状況は打破できる。


「あんたは誰だ?バイパスってなんだ?」


 ――そんなことはどうでもいい。早く使え。お前が持っている、板切れの機械だ。

 ミヤビは板切れの機械と言われ、自分の2つのスマホを取り出す。元々持っていたスマホは相変わらず赤い画面のままだったが、ミヤビのハンターフォンは違っていた。ミヤビはハンターフォンを握りしめ、赤い画面のままのスマホを左のポッケにしまった。

「……わかった」

「何が分かったの? と言うか貴方のハンターフォン赤くないじゃない」

「どうやらそうらしい」

 とりあえず、何もしないよりかは、なにかした方がいい。これがたとえ幻聴でも、何かしないことには目の前の怪物に殺されてしまう。

 黒い箱の蓋を開けると、中身はとても小さなカードだった。これが、さっき藍沢が言っていた、Simカードだろうか。確か、こんな小さなのを携帯電話契約するときに店員が入れていた記憶が微かにある。

さっき藍沢は、このカードが携帯に差すものだと言っていた。なら……。

ミヤビは、ハンターフォンの蓋を開けた。そこには学園用のSimの他に、もう一つスロットが隠れていた。そのスロットに、黒い箱の中のSimカードを差し込んだ。

 するとその瞬間、怪物の動きがピタリと止んだ。まるで時間が止まったかのように。

「何……?」

「今度は何よ」

 次の瞬間、赤く光っていたハンターフォンの画面が切り替わり、黒く染まった。そして、文字が次々と現れ始めた。


[BREAK OUT SYSTEM Ver.α]

[Loading…]

[ブレイクアバター召喚プログラムをインストールします]

[インストール完了]

[使用者生体認証システム作動]

[認証完了。ユーザー名『ミズナシ・ミヤビ』、登録済みユーザーです。BREAK AVATOR -Flame Blade-,の設定ユーザーとの一致を確認。アバターデータをサーバーより読み込み中です。]

[読み込みが完了しました。ハンターセレクト画面を起動します]


「なんだこれ」

《Select of Hunter!!》

 まるでラッパーが言うようなテンションが高い男の音声とともに、ハンターフォンに表示されたのは、五芒星のマークに、それを囲む5つの円だった。右上の位置に、“火”と書かれたアイコンが、激しく光っていた。

ブレイクアバター召喚プログラムって何だ。

 登録済みユーザーって、こんな訳のわからないものに登録した覚えなんてない。

 ミヤビは、そんなことを思いながら、自分の握るハンターフォンを見つめた。


 ――オレを、選べ。水無ミヤビ。


 声が、呼んでいる。

 この、“火”アイコンをタップするだけだ。


「これを、タップするのか」

 ミヤビは心のどこかで、何か取り返しのつかないことをしようとしているのではないかという気持ちがあった。理由はわからない。けれど、怪しすぎるのだ。

 そして、うまく行き過ぎているのだ。だから余計に不安になる。

 半信半疑になりながら、ミヤビは、アイコンをタップする。

《Flame Blade Ready!!》

 再び、テンションの高い音声とともに、ハードロック調の音楽が流れ始めた。その瞬間に、ミヤビの足元には、

「……どうすればいい?」


――壊せ。そして始めろ。


「壊せって、これをか?」

 ハードロック調のサウンドがハンターフォンから鳴り響く。

 携帯を壊すことになんの意味がある?

 声は、壊せと言った。けれど壊して何があるっていうんだ。

 けれど、従うしかないだろう。それ以外に思いつく方法がないのだから。恐らくこの怪物は生身で戦えばあの鋭い牙で体ごと切り裂かれてしまうのだ。

 なら、それならば。

 ミヤビは覚悟を決めた。深く深呼吸をする。先程まで感じていた不安もなくなり、躊躇いはなかった。

 ニヤリと笑みを浮かべながら。

 ハンターフォンを、まっすぐ上げ――。

 そこから垂直に、突き落とし、叫んだ。

 その言葉を、まるで初めから知っていたように。

「ブレイク……アウト!!」

《BREAK OUT !! Flame Blade!!》

 刹那。ミヤビが突き落としたハンターフォンは相変わらずテンションの高い音声とともに粉々に砕け散った。普通なら、スマホを床に落とせば、画面が割れる程度で済むはずだ。しかしスマートフォンそれ自体がまるで一枚のガラスかのように、砕け散っていく。

《Flame Blade Version 1!! 燃エル・ココロ・叫ブ・アッツイタマ~シイ!!》

 再びフレイムブレイドと合成音声が復唱した後、急に歌いだした。

「何今の歌!?」

 藍沢は驚く。ミヤビも驚く。何今の歌。それにスマホが壊れたのにどこから音がなってんだ。

 その歌があった次の瞬間、破片が広がって再構成を始めた。ハンターフォンが、その破片が、人の骨格を形成する為、人形へと変化したのだ。

 そして爆炎があたりを包み、それを切り裂くように、彼は現れた。

 真っ赤な長髪に、黒いローブで身を包み、腰に付いている刀に手を当てて。

《フレイムブレイド、火炎流星丸かえんりゅうせいまる。只今参上ォ!!》

「火炎……流星丸!?」

 業火と物凄い風に、吹き飛ばされそうになる。怪物はたじろぎ、少し後退する。

 ミヤビは、突如現れた赤髪の青年がそう叫び、名乗った瞬間、内心驚いていた。

 ――火炎流星丸。その名前には聞き覚えがあった。

                 *

 同時刻、情報庁特別捜査局中央管制室。

 巨大な4枚の大型ディスプレイ上に、東京都内の情報が映し出され、品川駅を注意心とする箇所から黄色い円模様が広がっていた。

「ガーディアン反応の他に、アンチ・ウイルスAI、ブレイクアウトシステムの起動を確認、莫大なパケット量です。サーバーが動き出しました!!」

 オペレーターが、キーボードを叩きながら水無努に状況を伝える。

「なんだって!?」

 驚く努。

「ブレイクアウト反応も確認、ブレイクアバターはフレイムブレイド。バージョン1での召喚です!!」

「ミヤビまさか……」

         *

《初めましてだな、水無ミヤビ》

「お前は、一体」

《まあ詳しい話は後だ。この場は俺に任せて、その女を連れて離れてろ。あいつさえ倒せばこの空間は元通りになるからな》

「……分かった。頼む」

 彼の言葉を信じるしかないだろう。他に手はないのだから。未だに状況を理解することができていなかったが、ミヤビはとりあえず頷いた。

《ああ。任せろ》

「行こう、藍沢」

 ミヤビは、藍沢の手を取り、火炎と怪物たちから距離を取った。

「もう、何が起きているのか理解できないわ。あなた一体何をしたの?」

「俺にもわからない。ハンターフォンを壊したらああなった。けれど、今はアイツに頼るしかない」

 怪物に襲われて、それを倒すために親父の黒い箱のSimを使って……。出てきたのが人だ。この状況を素直に受け入れろというほうがおかしい。だけど、召喚した火炎と名乗る男は、怪物を倒すための手段を持っているようだ。

「それもそうね。けど、本当の人みたい」

「ああ」

 ミヤビの召喚した火炎は、真正面から怪物に近づき、腰に据えていた刀を抜刀し、振りかざした。その刀は、刃渡り60cmほどの長さの日本刀だ。

しかし、怪物も動きが見えていたようで、ひらりと避ける。

《やるじゃあねえか》

《グォオオオオオオ》

 怪物は攻撃を避けた後、雄叫びを上げ、右と左の腕で火炎に斬りかかる。火炎はそれをひらりひらりとかわし、バックステップで間合いを取った。

《そっちがその気なら、セイッ!!》

 地面を踏み込み、刀を正面から振りかざして、怪物の正中線を狙った。見事に当たり、怪物の正中線からきれいに亀裂が入った。

《グォオオオオオオ……!!》

 しかし、亀裂は瞬く間に回復していく。どうやら効いてないようだ。火炎はあきらめず、ふたたび攻撃を続けた。しかしいくら切り裂いても、怪物の傷は回復するばかりだ。

「全く効いてないじゃない」

「ああ。でも大丈夫だ」

《おま、回復すんのかよ、チッ。仕方ねえな》

 火炎は舌打ちをしながら、刀を一旦鞘にしまった。そして目をつむり、左足を後ろにずらしながら、もう一度抜刀した。

 ミヤビは、火炎がする次の攻撃をわかっていた。

 その瞬間、刀には激しい業火が灯り、その業火で怪物を切り裂き、叫んだ。

《必殺ッ!! 火炎斬ッ!!!!》


                 *


 怪物は引き裂かれ、砕け散った。

 それを確認した火炎は、姿が消え、元のハンターフォンの形に戻った。ミヤビはそれを手に取り、握りしめる。一回割れてしまったというのに、何故元の形に戻ったのかは気にしないでおいた。

 助かった。

 何が起こったのかは理解できなかったけれど、とりあえず助かった。

 怪物も、切り裂いた破片が再構成を始め、ミヤビのハンターフォンと同じように、スマートフォンに変化し、床に落とされた。

 自分がスマホを壊して、召喚したときと原理が同じなのかとミヤビは思った。

「倒したの?」

「どうやらそうみたいだ」

「そう……。見て、赤い画面も消えているわ」

 さっきまでの出来事が嘘だったかのように、あたりがすべて“普通”に戻った。品川駅は人が戻り、沢山の人が行き交っている。スマホの赤い画面も消え、モスキートノイズもなくなった。

 ミヤビは、怪物が変化したスマートフォンを、何か手がかりになると思って、取ろうとした、その瞬間。

 突如現れた、紺色のパーカーに身を包んだ青年に、取り上げられた。

「こ、こここれは僕のものだ……!! 水無ミヤビ、覚えていろよ!! 絶対に殺す……」

 そんな、捨て台詞を残して。走り去っていく。

「……え?」

 気づいたときには、その青年は、駅の雑踏の中に消えてしまった。

 そして、急に暗転する……。

「ちょ、ちょっと水無君!? ねえ、ちょっと、ねえ!!」

 ミヤビは、そのまま倒れ込んでしまった。



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