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虚像世界のREAL World  作者: シロクロ
5/5

閑話 篠田 照夫と夏の嵐

今回は閑話です。

テオの中身のお話その1です。



決して爽やかでは無い夏の朝。

陽光差し込む、むせ返るような暑さの中で照夫は瞳を開いた。

朝と言っても正午前の午前、時計の針は10を数えていた。

滴る汗と張り付いたシャツに不快感を感じた照夫は冷房を付けずに眠った事を後悔した。

シャツを脱ぎ捨て、ハンドタオルで軽く汗を拭う。高校生一年生にしてはがっしりした筋肉質な肉体をした彼は、特別にスポーツをしているわけでは無く、ただ筋トレを趣味としていただけである。

唐突に部屋のドアを殴打する音がドラムの如く響いた。家の外にも聞こえる程の非常識なノックをする存在を照夫はよく知っていた。

照夫は溜め息をついた。


「にいさぁぁぁぁん!」


彼には二つ年が離れた妹がいる。

篠田 朱莉は照夫にとって嵐の様な存在だった。両親の不仲によって別居状態の妹は毎年夏休みになると帰ってくる。出て行った照夫の母が仕事の関係で海外へ出張する為だ。

両親とは打って変わり、照夫と朱莉の仲は決して悪くは無い。むしろ朱莉は照夫によく懐いていた。

彼女自身、照夫との生活を毎年楽しみにしていた。


「にいさぁぁぁぁん! 良い加減おきろぉぉぉ!」


ドンドン、と激しさを増すノックを止めるべく照夫はドアへと向かった。照夫が彼女を嵐と称するのはこの加減の無さだった。


「おとうさーん! ハンマー持ってきて!」


放っておけばすぐにこれだった。

ハンマーでドアを破壊されたらたまらない、と照夫はそそくさとドアを開けた。ドアの前には嵐の中心ーー稲畑朱莉が腕を振りかぶっていた。


「あ、ハンマーキャンセルで!危うく兄さんが二度寝しちゃうとこだった」

「さらりと怖いことを言うな」


えへへ、と朱莉は悪戯っぽく笑った。照夫は再度溜め息をついた。

妹の存在は照夫にとって良くも悪くも大きな嵐だった。


「おはよ、兄さん。いくら夏休みでも寝すぎだよ」

「すまん」

「すまんじゃすまん!」


照夫はいつも通り朱莉の頭に手を置いた。こうすれば大人しくなるのは幼稚園の頃から変わらない。


「兄さん、ごはんですよ。お父さんはもう席について待ってるんだから」

「……そんな時間だったか。すぐ行くよ」


照夫はわしわしと朱莉の頭を撫でる。朱莉はやーめーれー、と抗議の意を唱えるが顔は嬉しそうに緩む。朱莉は去年、中学生になったが未だに兄離れ出来ないでいた。


八月朔日 午前十時 自宅リビング


「おとうさーんいってらー」

「行ってらっしゃい」


食事を済ませた後、照夫と朱莉が仕事へ向かう父を送り出す。リビングから声だけで送るのはいつもの事だった。

照夫はソファに腰掛け、ニュースを何気なく眺める。電子犯罪の話や北米の紛争等次々と流れるが照夫の耳には残らなかった。彼の頭の中はREAL Worldの事で一杯だった。

ふと横に視線を送れば、朱莉がスマートフォンを操作し百面相していた。

普段余りスマートフォンを触らない朱莉が夢中になっている事がなんとなく気になった照夫は問いかけた。


「何してるんだ?」

「ふっふっふー」


朱莉が含みのある笑いを照夫に向けた。彼女がこの顔をするときは大抵、照夫にとってロクでも無いことがおきる。一昨年はサバイバルキャンプ、去年はパルクールだったなぁ、と照夫は苦い思い出と帰って来ない中学生の夏に内心涙を流した。


「兄さん、REAL World始めたんでしょ?」

「お、おう」


照夫の頬に嫌な汗が伝う。

嫌な予感がした。自分の平穏が今年も訪れないと言う、予言めいた予感だった。


「私もやろーかなって思ってさ、友達に聞いたらテストアカウント余ってるからって譲ってくれるんだって! その子がうちに来るんだよー」

「そ、そうなんだ。よかったな! あの世界は面白いぞ。友達”と”しっかり楽しみなさい」


と、を強調する照夫は二重の意味で安心していた。一つは兄離れが出来ない妹にも友達がいる事。もう一つは言わずもがな、今年は妹の矛先が自分では無いと言う事実にである。


「その子はいつ来るんだ?」

「そろそろ着くみたい。でね、兄さんには悪いんだけど、ベッド貸して欲しいんだ。設定とかして動かすくらいだから夕方までには終わると思う」


なるほど、そんな事か、と照夫は再度安心した。だめ?と申し訳なさそうに問う朱莉の頭を撫で照夫は了承した。

家には照夫と朱莉のVRベッドが二人分ある。朱莉は普段はいない為父が事務用に使用している。

しかし、帰ってきている時期は彼女が独占していた。

今回、朱莉がベッドを貸して欲しいって言ったのには理由がある。

《REAL World》はオンラインゲームであるからして、友人とは向こうであって遊べば良い。しかし、彼女の友人がわざわざ来るのはアカウントの譲渡が関係していた。

原則、運営会社はアカウントの不正な譲渡を禁じている。脅迫による強制譲渡やリアルマネートレードなどの不正行為を防ぐ為だ。ただ、様々な理由によってあぶれたアカウントが出来た場合、条件によって譲渡を許されていた。

それが、既にソフトウェアをインストールしてある端末で既にアカウントを持ったプレイヤーが、ローカル接続のベッドによって二人でアカウントの譲渡手続きと登録作業を行う。と言うものだった。

この方法であれば、様々な情報をゲーム内で把握できる為、不正を発見しやすいのだ。

つまり、朱莉がベッドを二人分必要とするのは友人と登録作業を行う為だった。


「それくらいなら良いよ。俺はちょっと出てくるからさ」

「兄さん! ありがと!」


屈託無い笑顔を見せる朱莉に照夫は自然と頬が弛緩した。照夫は邪険にするような態度を取ったりするが、根本的には彼女の事を妹として愛していた。



八月朔日 昼 一時半 VRカフェ


あの後すぐに朱莉の友人が来訪した。友人は足が悪いらしく車椅子での来訪だった。照夫は軽く挨拶をした程度だが、その少女は朱莉と同い年とは思えない程の落ち着きを持っていた。黒髪の綺麗な少女が貴族令嬢なら朱莉はアマゾネスだった。


朱莉の友人を迎えてすぐに照夫は家を出た。最寄りの駅から二駅行った近場にあるVRカフェへと訪れていた。暖色の照明がレトロな雰囲気を醸し出す完全個室の室内には、比較的安価なVRベッドが備え付けられている。

照夫はベッドのチェアー機能を使い深く腰掛けていた。ディスプレイになっている頭を覆うカバーに検索情報を写す。VR機能を使わず現実世界でネットサーフィンをしていた。

スレでの情報収集は重要だった。

照夫は気になるスレタイを逐一開いて読み漁っていた。モブの出現位置やイベントNPCの条件や報酬など様々な情報が出回っていた。まだ半日しか経っていないのにもかかわらずである。粗方読み終わった照夫の視界に新しいスレが現れた。迷うことなくスレを開いた。

ーーーーーーーーーー


【情報】ヤバい何かpart1【下さい】


荒らしは即通報


南の丘陵地帯で変な奴みた。何が変って訳じゃないんだけどなんだか凄い変な感じがした。見てると胃のあたりがムカムカしてくるというか、とにかく気持ちが悪い奴だったよ。

そう言うモンスター見たことある人いない?


1. 匿名@情報提供

とりあえず胃薬飲んで病院行け


2. 匿名@情報提供

オカ板でどうぞ


3. 匿名@情報提供

見た目はどんな感じなん?


4. スレ主@注意喚起

黒いタキシードで背が高い、何をするでも無くこっち見てるんだよ。イベントかと思ったけどキモさが勝った


5. 知ってるかも@情報提供

あ、それ知ってるかも


6. 匿名@情報提供

kwsk


7. 知ってるかも@情報提供

友達が言ってたんだけど、西の草原にもいたって。見た目キモいからすぐ逃げたって言ってたんだけどなんだか調子悪いみたいで今寝てるらしい。なんというかオーラ見たいのが出ててそれにずっと見られてる様な感じがするんだってさ


ーーーーーーーーーーーー


良くある都市伝説スレだった。

照夫はそこで読むのをやめて時間を確認した。もうすぐ二時になるが、まだまだ時間があった。本来なら適当にぶらぶらして帰るつもりだったが一度冷房の効いた部屋に入ると、おいそれと出たくは無くなるものだ。

(出先だけどちょっとインするか)

思い立ったが吉日、早速VR機能を起動しアカウントを同期、ソフトウェアを起動させた。

朝方別れたルミナの事も気掛かりだった。彼女とはPTを組むときにフレンド登録しておいたが、今後の事を話す前に落ちてしまった。もしかしたら連絡が入っているかも知れない、と照夫は考えていた。


閑話はこの程度の長さで、現実側のお話をメインで書いていこうと思います。


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