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虚像世界のREAL World  作者: シロクロ
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第一話 虚像世界へのコンタクト

第一話 虚像世界へのコンタクト


20世紀も半分を数えた頃、仮想現実が大幅な進化を遂げた。

いわゆるVR技術が大きな革新を見せたのである。

今年の8月より発売されるオンラインMMORPGゲームもその革新により産まれたものだった。


圧倒的現実感と心踊る異世界感


これをキャッチコピーに売り出されたそれは、今までのVRゲームとは一線を画していた。

従来のコンテンツと言えば、現実の拡張世界である旅行アプリであったりレトロな乗用車でのレースであったり、あくまでも拡張でしかなかったのだ。

しかし《REAL World》は違う。

世界構造から国、人種が現実と異なる完全なる異世界である。本の中のようなファンタジックな世界、古く言えばアニメーションの世界を実際に生きる事が出来るのだ。

剣と魔法を奮い魔獣と戦い、そして英雄へと至る。

これには誰もが心を躍らせた。老若男女関係無く冒険心を震わせた。


8月1日 0:00 深夜


情報露出から実に二年、度重なるテスト配信を繰り返し、ようやく最後のテストが開始された。

定員は一万名。一か月に及ぶこのテストをクリアして初めて正式なオープンとなる。


「ようやくだな」


篠田 照夫は今時の高校生らしからぬ質素な自室にいた。

部屋に備えられた、唯一彩りがある多機能ベッドに横たわりその時を待っていた。

彼もまた定員に選ばれた一万名の内の一人だった。

ダメ元でテスターに応募して、運良く当選したのだ。

彼は感情を表に出したがらない性格だが、この時ばかりは喜びを隠せなかった。


『ダウンロードが完了しました。次に身体情報の最適化を行い、権限者の情報を元にアカウントを同期致します』


完了を告げるアナウンスとともに多機能ベッドーーVRシステムと最低限の生命維持装置、酸素カプセル機能など幾つもの用途を兼ね備えたーーが小さな駆動音と共に照夫を深い眠りへと導いて行く。リラックスを促す周波数の音波により脳の機能を電脳世界へと引き込む技術により、彼の意識は次第に電子の海へと漂っていく。


『VRシステム起動完了ーー権限者:篠田 照夫様。最適化良好。システムに問題は有りません。スケジュール通りVRMMORPG《REAL World》を起動致します』


真っ暗な視界に機械音声が鳴り響き、分かりやすく文字がタイプされた。照夫は了承の意を告げる。すると視界が暗転し、ベッドへと落ちるような感覚を感じた。

落ちる感覚に照夫は一瞬目を閉じた。そして再び開眼した時には視界が一変していた。


「おお…森、か」


そこは新緑に囲まれた森の中だった。

照夫は関心した。目の前の木々も足元の小さな花も、現実と何ら変わりがない。拉致されて森に放り出されたと言われても信じてしまう程だ。

澄んだ空気の爽やかさに深呼吸をして悟った。

ーー匂いだ。今までのVR空間よりも嗅覚が現実に近かった。よくよく調べて見れば五感が現実とほとんど一緒であったのだ。

(なるほど、”リアル”だな)

照夫はまだ見ぬ冒険に湧く心が抑えられなかった。


「初めまして!新たな冒険者さん」


不意に目の前に小さな妖精が現れた。鈴をならしたような声色の少女は、三十センチ程の身体をその小さな翅で浮かしていた。彼女は小さな羽根を静かにはためかせ、照夫の鼻先で言葉を続けた。


「ここでは種族とスキルの選択をしてもらいます!種族は変えられないし、スキルもしばらくは選び直したり出来ないから気をつけて選んでね!」

「なるほど、キャラクターメイクか」

「ですです!私をタップしてウィンドウを開いて下さいね!」


照夫はなるほどと頷き、妖精を軽くつついて設定ウィンドウを開いた。視界の端に現れた透過ウィンドウへ意識を向けた。


この世界ではプレイヤーレベルと言う概念はない。

プレイヤーの強さは本人の技術と自ら学ぶ技スキル、強化系スキルによって決まる。これらは最低8つを同時に装備でき、組み合わせでプレイスタイルが変わるのである。

魂に基づく三つのカルマスキルと肉体に基づく五つのカスタムスキルをうまく組み合わせて好みのキャラクターを育てるのだ。

カルマスキルは特殊条件を満たすことでしか変更が出来ない、いわばキャラクターのベースとなるスキルだ。

一方、カスタムスキルは入手条件は様々でセーフポイントであれば何時でも変更が可能である。


「種族か。何があるんだ?」

「んー、色々たくさんありますけど人気どころだと《技人族》とか《獣人族》《ドワーフ》も人気ですね!」

「比率でいうと?」

「獣人5技人3ドワーフ1あとはその他ですね。あ、リスト出しますね」


よいしょ、と妖精は何もない空間からウィンドウを引っ張り出す。ずらりと並べられた種族の候補は多様で挙げればきりがないほどであった。


「トレント、アルラウネ、昆虫の亜人……リザードスキンか」


数ある中で照夫の目に留まったのは《リザードスキン》と言う人寄りのトカゲ人間だった。造形はほとんど人だが、身体の一部がトカゲの様な皮膚になっていて長い尾を持つ。


「お!リザードスキンですか!渋いチョイスですね!」


種族にはそれぞれ専用のスキルが設定されている。種族毎に幾つか用意されており、何になるかはランダムーーいわば新しい身体の先天的な技能という訳である。

リザードスキンには、当たりスキルとして【尻尾切り】と言う良スキルがある。事前情報で騒がれたが、発現確率が低く過ぎて見向きもされなくなった。同系統のスキルが獣人にも実装されている事も相まっている。


「これにするか……あまり選んだ人いないだろうしな」

「はいさ!では種族は《リザードスキン》で間違いないですね?」

「オーケーだ」


はいはーい!っと元気よく返事をしたガイド妖精は、光り輝く指先を照夫に向けて光を放った。その光は照夫を包み込み彼の肉体を再構築していく。

数瞬後、彼の姿は本来のものとは変わっていた。

従来の黒髪は変わらないが、瞳孔は爬虫類の様に縦長であり虹彩はアメジストの如く淡い輝きを見せた。

露出した腕は一部が爬虫類特有の皮膚へと変化していた。

そして彼の臀部からは長くすらっとした尾が伸びていた。


「おお……尻尾だ」

「身体情報をベースに外装の最適化をしましたので、現実の肉体とほとんど一緒ですよー!差異は種族特徴くらいな物ですね」

「外見は偽れないって事か?」

「そういう事になりますね!リアルの自分はREALでもリアルってね!」


これもこのゲームの特徴だった。

従来であれば、キャラクターとプレイヤーが一致しない様に外見を自由に設定できるのが当然だった。しかしこの世界はリアルを唄っている事から、そう言った部分も漏れなくリアル志向だった。

発表当初はプライバシーの問題だとかネット発展の犯罪を助長すると言う理由で荒れたが、実際の世界に入った人間達は対して気にする事はなかった。


「まあまあ、多少はこの世界に沿う様な美化はされますよ!あくまでも化粧程度の物ですけどね!」


妖精が慰める様な口調で言い、照夫の肩をぺしぺし叩いた。その物言いたげな様子に照夫はそこはかとない脱力感を感じた。AIの進歩は恐ろしい。


「さてさて!次はスキルを選んでいただきましょうねっ…と!」


妖精が次のウィンドウを引っ張り出した。先程のリストよりも大きなそれを眺める。五十程の種類のスキルが用意されているが、あくまでも初期で選べるスキルが並んでいるだけである。

この場だけで決めるのであれば数時間悩んでしまうであろうが、照夫はすでに組み合わせを決めていた。初期のスキルは公式サイトで公開されていたのだ。


「組み合わせは決めてある。ローカルデータベースのファイル.23を参照して欲しい」

「承諾しました!23番参照します………インストール開始、キャラクターデータに同期しますね!」


妖精は近場の木の虚に腕を突っ込み何かを探す仕草を続けた。突飛な行動が検索とインストールを表現しているようだった。

小さな子供の様な愛らしい姿はプレイヤーを楽しませる為の意味もあるのだろう。現に照夫も内心微笑ましく感じていた。

ほんの数十秒経った位で妖精が飛び上がり照夫の前へと戻って来た。手には琥珀色の結晶を抱えている。

どうぞ!と笑顔で差し出した結晶を受け取れば、それは一瞬で掌に溶け出し浸透していった。


「はぁい!スキル継承完了です!詳細はスキル管理画面から見てくださいね」

「お、おう」


種族選択の時みたいに派手なエフェクトがあるだろうと思っていた照夫は地味なスキル継承に肩透かしを食らった気分だった。

とりあえずスキル確認をする為に呼び出し用コマンドを口にした。


「コール・スキルツリー」


ぼそりと呟いたコマンドにしっかり反応して、視界の中にスキルウィンドウが現れた。

ーーーーーーーー


No name


種族 リザードスキン


カルマスキル

・魔力の源⑴

mp最大値上昇

・体力の源⑴

hp最大値上昇

・状態異常耐性⑴

全状態異常抵抗1%


カスタムスキル

・付加魔法《四元下級》

武器、防具、アイテムに短時間の属性エンチャントを施す

・ボウガン技能⑴

ボウガンでの射撃技能に補正

・ 移動強化⑴

移動性能に強化補正

・索敵⑴

範囲50mの敵対反応を索敵できる

・投擲⑴

投擲時の威力と命中率に強化補正


種族スキル

蛇眼:温感視界を扱える



ーーーーーーーーーーーーーー

「ん、【尻尾切り】は出なかったか。まあ良いや」

「そうそう当たるものじゃ無いですしね!【蛇眼】も使い道は有りますよ」

「それもそうだな……よし!スキルには問題無いぞ」


スキルツリーを見物して、間違いが無い事を確認した照夫はうんうんと頷いて妖精に先を促した。


「ではでは!これで最後の設定です!いよいよ冒険のお時間ですよー」


妖精がくるくる踊りながら高らかに宣言した。照夫はようやくか、と内心呟く。落ち着いて様だがその実は早く遊びたくて仕方が無いのだ。

そんな彼を見た妖精は無邪気な笑顔を浮かべ言葉を繋げた。


「これから貴方が挑む世界は虚構なれど真実の世界。私たちは貴方に世界を生きて欲しい!もう一つのREALを堪能して欲しい!」


妖精の弁に熱が籠る。


「これはその一歩です。貴方がこの世界で生きる為の証を……貴方と言う冒険者が産まれ生きる証を私に下さい。

私にーー貴方の名前を教えて下さい」


まるで歌うかの様に告げられた言葉に、思わず心が震えた。照夫はまるで戯曲の主人公になった気分だった。世界に引き込まれた、と言っても過言ではない。

照夫はこれから始まる冒険に胸を高鳴らせながら、目の前のストーリーテラーに口を開いた。


「テオーー俺はテオとして生きる」


瞬間視界が白く染まり身体が無重力空間に投げ出された。平衡感覚が消し飛び有るのはささやかな五感と、耳に残った妖精の言葉だけだった。




「ようこそーーテオ。貴方に良き旅が訪れん事を……」


次回からようやくゲーム内のお話になります。

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