破れたタンバリン5
太一は仕事から帰ってきた。家族が待っていた。妻の真麻と、娘の裕美と、最近引き取った父親の氷室だ。
長らく彷徨っており、老齢になって太一のところへ戻ってきた氷室を、真麻も、裕美も、最初は戸惑いもあったが、結果としては受け入れた。
家族が増えるっていいものね。
妻の真麻がにっこりと笑って言ったのを、太一は思い出す。
おじいちゃんができた! うれしい!
娘の裕美の笑顔も思い出す。
真麻にとっては家事の手伝い役だ。裕美にとっては遊び相手となり、氷室は家族の人気者になった。
あまり話す性格ではない氷室。だが、それでも、親がいるというのは、それだけで素晴らしいものなのだと、太一は内心思うようになっていた。
過去に、捨てられたことに、怒りはまだある。
しかし今は、祖父と遊ぶ裕美を見て、穏やかな日々が過ぎていくことに太一は幸せを感じていた。
「お父さん、お帰りなさい!」
裕美が玄関で待っていた。
「ただいま」
太一は靴を脱ぎながら裕美に言う。
「今日はね、おじいちゃんが宝物を見つけてきたの」
裕美は上機嫌だ。
「見てこれ!」と、はがきサイズの紙を見せる。
そこには植物の絵が描かれていた。素朴なタッチの絵だった。
「……どうしたんだ、これ?」と太一。
「あなた、お帰りなさい。それはね、お義父さんが公園で会った人にいただいたんですって」
真麻も玄関に出てきた。
「ふうん……」
手に取り、しげしげとはがきを見つめる太一。穏やかな雰囲気が作品から感じられる。
「うちに飾るか……そんな場所、あったかな」と太一。
「トイレくらいだけど、それじゃあ、あんまりよね」と真麻が困ったように言う。
「……いらないなら、いい」と、氷室が家の奥から出てきた。すこし不機嫌そうだ。
「ああ、そうだ。親父がお世話になったボランティアの……『こもれび』か? あそこに持っていったらいいんじゃないか」
太一は名案を思い付いたというように、言った。
「……そうだな。連絡してみるか」と氷室。
「ごめんな、親父」
太一は謝った。
「明日、行ってみる」
氷室はそう言って、家の奥に戻っていった。