芽の小話
私は、蕗の薹といいます。そう、あの植物の蕗の薹です。私は植物だけど、こうやってしゃべることができ、それが一つの自慢です。
私は、小さな森の中で生まれました。物心つく頃には、すでにこの地に根付いていたのです。眼前に広がるのは果てしない緑の絨毯と、凛としたたたずまいを見せる木々たち。それらは私の目にとても美しく映りました。いつか私もそうありたい、そう強く思うことができました。
私は必死に背伸びをして日光を浴びました。けれど、背は一向に伸びません。周りに生えている草たちはどんどん大きくなっていくのに、私だけが取り残されている感じでした。
でも、そんなある日、森で一番長生きの木が教えてくれました。
「お嬢さん。そう焦ることはない。急ぎ過ぎるとろくなことにならないよ」
「どうして? 私は早く大きくなりたいのに」
私は疑問でなりませんでした。この木は森で一番大きいのです。なのになぜ、そのようなことを言うのか理解できませんでした。
が、彼は告げます。
「ほら、よく見てごらんよ。君の周りを」
言われるがまま周囲を見渡して、私は絶句します。それまで伸び続けていた草木は一様に動きを止めているではありませんか。その結果に私は息を呑みました。
そんな私の驚きを見透かしたように彼は言います。
「その草木たちはね、大きくなることを意識しすぎて土台を作っていなかったのさ」
「土台?」
「そう。土台、つまりは根だ。大きくなろうにも、そこがしっかりしていなくてはダメだろう?」
その言葉を聞いて、私はようやく彼が言わんとしていることがわかった気がしました。
私も今までのようにやっていてはおそらく彼らのようになっていたでしょう。それを見い越して、木は教えてくれたのです。
私は彼に敬意を払うことに決めました。少しだけ穏やかな口調で問いかけます。
「私はあなたみたいになりたいのです。どうすれば、いいですか?」
「そうだね……君は、私のように大きくなることはできない」
私は自分の足元が崩れていくような錯覚に見舞われました。その言葉はこれまでの私の人生を否定するに等しいものでした。が、なぜか怒りはありませんでした。それは、そう告げた彼の口調がどこか寂しげに思えたからかもしれません。
木はさらにこう付け加えます。
「私は木だ。でも、君は草だ。結局のところ、大きくなることは無理に等しいんだよ」
「……そうなんですね」
「でも、悲観することはない。大きいというのも、大変なことが多いんだ」
彼は静かにこう述べます。
「私は大きくなりすぎてしまった。そのせいで、雨をしのぐこともできない」
確かに、私は小さいおかげで雨露を凌げています。これは利点だと思います。
彼はさらに続けます。
「それに大きいと雷が落ちやすくなる。私の仲間たちも、それでだいぶ死んでいった」
彼の口調は酷く寂しげでした。もしかしたら、過去の記憶に思いを馳せているのかもしれません。
私も彼の言わんとしていることは伝わりました。ですが、一つだけ。どうしても聞いておきたいことがあります。私はゆっくりと、彼に聞こえるような声音で質問を投げかけました。
「私は、これからどうしたらよいでしょうか? 大きくなれない、ということもわかりましたし、大きければいいというわけでないというのも理解できました。でも、大きくなることは私の夢だったのです。夢を失った私は、これからどうすればよいでしょうか?」
私の言葉に、その木はひときわ大きな笑い声を挙げました。ゲラゲラと、心底楽しそうに、そして同時にどこか懐かしそうに。
木は含み笑いをしながらこう答えます。
「それこそ些細な悩みだよ。私はかれこれ数百年生きているが、夢なんてしょっちゅう変わった」
「本当ですか?」
「もちろんだとも。君はまた悩むこともあるだろう。でも、忘れないでほしい。夢は、可能性は一つだけじゃない。それに、必ず次の夢というのは見つかる。だから、安心しなさい。君はきっとまた夢に向かって歩き出せるよ」
私はその時、目の前にある大きな木がさらに巨大に見えました。
それと同時に、感じたのです。
この木はただ大きいだけじゃない。心が広く、それでいて度量が深いと。
――決めました。私は、この木のようになりたい。
たとえ小さくとも、この木のように大きな度量を持っていきたい。心の底から、そう思うことができました。
……なるほど。確かに夢もすぐに見つかりましたね。
本当に、この木はすごいと思います。
いつか、私もそのようになりたい……いや、なりましょう。
そんなことを思いながら、私は地面に生えている根をゆっくりと伸ばした。




