奇跡、からのデッドエンド
短いのをちょびちょび付け足していく予定です。
「出落ち」がテーマです。
今日もまたくだらない1日が終わる。
せめて、異世界にワープできれば。
そんで、そこでラノベやマンガみたいにチートな能力が手に入れば。
......はぁ。
ため息をつきながら家までの道のりをトボトボと歩く。
なぜ主人公はああも素晴らしい体験ができるのか。
答えは極めて簡単だ。
物語の主役だからだ。
どうして主人公はあんなにも凄いのか。
理由は単純明快だ。
作り物の主人公だからだ。
なんとも羨ましい限りだ。
「君が人生の主人公だ!」
「君の世界を作るのは君自身だ!!」
......ふざけるな。
そんなのは上辺だけの文句に過ぎない。
そんなことを考えつつ、
この間潰れたラーメン屋を過ぎて右折。
やたらデカいアパートを通り過ぎて自販機の裏手に回る。
これは去年見つけた抜け道で、
俺だけの「秘密の近道」だ。
始めて通った時には顔面に蜘蛛の巣が大量に張り付いて発狂しかけたものの、
何度か通る中での地道な整備によって、
今では駆け抜けても服を汚さない。
そんな見慣れた裏道だからこそ、
俺は異変を見逃さなかった。
これまで何もなかったはずの石塀の隙間に、
ゲート、というか、
中世風のゲームなんかに良くある地味な門のようなものが現れていた。
今朝はなかったはずだ。
だとすると朝に俺がここを通ってからの6、7時間の間に作られたのか。
それにしては作りが巧妙過ぎるし、
そもそもこの裏道を誰かが通るとは思えない。
ましてや、門などを作る理由など皆無だ。
だが、そこに門があればくぐるのが礼儀というものだろう。
俺は半ば中二病的な期待を抱きながら、
その門をくぐった。
途端に奇妙な浮遊感に襲われた。
恐怖感と好奇心が半々で入り混じる。
嘘だ。恐怖心が8割、いや9割。
それとも10割か......
ふと目の前が明るくなる。
遠くの方から見慣れない景色が近づいてくる。
砂漠のような場所だ。
見たことのない植物が生えている。
脳裏に一つの単語が浮かぶ。
「異世界ワープ、キターーーーーーー!!!!!!!!!!!」
日頃から願って止まなかった出来事の到来に恐怖をうち飛ばす程の喜びに包まれる、が。
「がっ............」
呼吸ができない。息を吸おうとする。
吸えない。苦しい。
苦しさに首元を掻き毟るも息はできない。
視界がぼやける。
激しい耳鳴りが響く。
目の前が真っ暗になる。
かくして、俺の命は儚い異世界生活と共に散った。