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CHERRY BLOSSOM ~チェリーブロッサム~  作者: 悠里
第八章「The Cherry Orchard」
82/83

082 始動

注意;今回は視点が割と変わりまくります。

「それにしても、今期の生徒会は華やかだなぁ」

 前期生徒会長の御門(みかど)正弥(まさや)先輩は、俺たちを見回して満足そうに微笑みながら二度頷いた。

 その言葉を聞いて、副会長の香澄さんは自慢するかのように心持ち胸を張り、旧生徒会メンバーたちも肯定するように頷く。

 ただひとり、もうひとりの副会長だった野村だけは面白く無さそうに窓の外を眺めていたが。


「ありがとうございます御門先輩。これからの一年間、皆さまの名を汚さないよう、精一杯努力していきます」

 旧生徒会メンバーの視線を受け、新生徒会を代表してコノエが笑顔で答える。


 本来は会長である俺が受け答えするべきなんだけど、前期からの細かな引き継ぎ内容のやりとりを生徒会に詳しいコノエが代表して行った流れで、この場では自然と御門会長とコノエが会話の中心になっていた。






 生徒会選挙の翌週。

 その放課後に、早速生徒会の引き継ぎ式が行われた。

 生徒会室の長テーブルに新旧分かれて向かい合う形でつつがなく進行していた。

 粗方の情報伝達と書類の受け渡しが終わり、時間がかかる会計面のやりとりは、また後日行うこととなった。


 話し合いが一段落したところで旧生徒会のメンバーを見渡してみる。

 中央に会長である御門先輩。身長は175くらいだろうか。俺や香澄先輩よりも少し高い。

 人当たりのいい笑顔が印象的で、テニス部の副部長を兼任しているらしい。

 テニス部に入っている明美の話では、テニス部女子の間でもなかなかの人気だとか。

 そうそう。名前が気になってコノエに確認したんだけど、やはりこの人が例の写真の時の御門先輩本人だった。

 会った早々に『いろいろと大変だったね』と声をかけてくれたし、コノエの話も合わせると、やはり写真の件は封筒を渡しただけで無関係のようだ。


 御門先輩の右隣には副会長の香澄さん。そして左隣は野村が座っている。

 さらに、香澄さんの隣には会計の立花史郎先輩と書記の門脇春江先輩、野村の隣には広報の石沢美登利先輩が座っている。

 旧生徒会の主要メンバーは計六人。野村と石沢先輩が二年生で他はみんな三年生だった。

 広報って役職は初めて聞いたけど、石沢先輩は放送部員でもあり、呼び出しやアナウンス、司会などをこなし、さらに新聞部や写真部との連携を主に受け持つ、まさしく生徒会の広報面を一手に担っていたとか。


 一方、新生徒会のメンバーは四人。

 生徒会長が俺で、副会長がコノエ。

 そして、書記には立候補してくれた楓ちゃん。

 会計にはコノエがスカウトした一年D組の(ひじり)真秀(まほ)

 聖さんは今日初めて会ったばかりで、まだよく知らないけど物静かな娘だという印象を持った。

 役員は、まずこの四人でスタートして、必要に応じて人数を増やしていくことにしている。


「まるで女子高の生徒会みたいよね~。会長……おっと、“元”会長が言うように、綺麗どころを集めましたって言っても差し支えないくらい、みんな可愛いし」

 広報の石沢先輩に人懐っこい笑顔で見つめられた楓ちゃんが照れて俯く。

 その様子を見て微笑んでいた御門先輩は、俺に視線を合わせると真面目な顔で話し出した。


「それに加えて、今期は話題性が高かったから注目度も高いしね。一年生女子で占められた生徒会は光陵高校史上初。得票数も前代未聞。と、否が応でも今後の行動が注目されてしまうだろうからプレッシャーも比例して大きいんじゃないかと、少し心配なんだ」

 みんなの視線が集まる中、俺は一拍だけおいて微笑んだ。


「大丈夫です。注目されることは、歓迎こそしていませんが望むところですし。それに……」

 左右に座る新生徒会役員を見回す。

 楓ちゃんたち三人は、十分に分かっていると頷き返してくれる。


「ひとりきりならプレッシャーに負けてしまうかもしれませんが、みんなで力を合わせてがんばります」

 この答えに御門先輩は満足したのか、安心したように大きく頷いた。

 その隣で香澄さんは、やはり自慢げに微笑む。

 うん、我らが料理研会長にも喜んでもらえてるようでなによりだ。


「引き継ぎは大体以上かな。残っている予算の引き継ぎ以外で、なにか質問はないかい?」

「あ、あの。ひとつ、いいですか?」

 ノートを閉じて書類とともに揃えている御門先輩の言葉に、楓ちゃんが控え目に手を挙げた。


「もちろんいいよ。なんだい?」

「あの、どうして副会長が、おふたりいるんでしょうか? 選挙では一名しか選出しないんですよね?」

 楓ちゃんの疑問も、そう言われれば確かにそうだ。

 香澄さんも副会長だし、野村も副会長なのか。


「あぁ、それはね、選挙後に野村くんをスカウトする時に副会長に任命したんだ。副会長として選挙で当選したのは香澄くんなんだけど、人手が足りない……というか、香澄くんの強い希望もあってね」

「なってみてわかったんだけど、副会長って予想外に忙しかったの。だから、惜しくも次点で『落選』した野村くんを副会長待遇でスカウトしたってわけ」

 香澄さんの説明の中で、心なしか『落選』という単語が強調されていた。

 それは野村も感じてたみたいで、苦虫を噛みつぶした表情で俯いている。

 何も言わないのは、こいつも香澄さん相手に逆らう行為が、いかに愚かなことか身を以て知っているんだろう。


 コノエに視線を送ると「必要があれば、今期ももうひとりスカウトするかもね」とウインクされた。


「あの、執行部員の人数制限はあるんですか?」

 聖さんが小さく手を挙げて発言する。


 寡黙そうな印象だけど、別に引っ込み思案とかではないらしい。

 外見は年相応だが、行動や言動はすごく落ち着いている。

 なんて言うか、自分の世界をしっかりと持っているとでも表現したらいいのかな。

 身長は百六十ちょっとくらいかな。楓ちゃんやコノエよりは高い。

 髪はちょうど俺くらいの長さのストレート。深くて吸い込まれそうな漆黒の瞳は、意志の強さを感じさせる。


「どうだったかな?」

 御門元会長も知らないらしく、会計の立花先輩に話を振る。


「上限の規定は規則としてはないね。過去の記録には風紀委員なども含めて十人程度在籍していた年があったと思う。まぁ、俺が知ってる限りだけど」

「だそうだよ」

 御門先輩は自分が答えたかのように話を閉めた。

 聖さんは小さな声で「ありがとうございます」と頭を下げる。


「さて、他になにかないかな?」

「それでは私からも」

 俺も続いて手を挙げる。

 便乗するわけではないが、この際だから聞いておこう。


「はい、どうぞ」

「生徒会長の心構えを聞かせていただけませんか?」

「心構え?」

 俺の質問を聞いて、御門先輩は面白そうに眉を上げた。


「はい。参考までにお願いしたいと……」

「そうだね……」

 そう言って、しばらく考え込む。


「偉そうにしていることだよ」

 自信満々に答える御門先輩の言葉に元生徒会メンバーたちが失笑する。


「と、実際はこんな扱いなんだけどね。それでも生徒会長は生徒の代表たる立場だからね。威張り散らせとか、傲慢になれとか、高圧的に振る舞えってことじゃなくて、自分は偉いんだって自信を、虚勢(きょせい)でいいから持つことだよ」

「虚勢……ですか?」

 御門先輩の言葉を噛みしめる。


「そう。実利は伴わなくてもいいから、生徒会長らしく振る舞えればいいと思う。どんなことがあっても表向きは『そんなことは大した事案じゃない』ってポーズを崩さないことだね。なに、ひとりで解決できなくても、裏でみんなが助けてくれるから大丈夫だよ」

「……なるほど」

 それで虚勢でいいって言ったのか。


 偉そうに、か。

 ちょっと難しそうだけど、確かに自分たちの代表となる人には威厳とか自信とかがある方がいいと俺も思う。


「でも、このアドバイスは杞憂だと思ってるんだ。波綺さんは、すでに十分実践できてると思う。今日の言動然り、先日の演説然りってね」

「あ、ありがとうございます……」

 威厳……あるのかな?

 自信無さそうにしているのを感じたのか、コノエが俺の肩に手を置いて微笑む。


「御門先輩の言葉のように、私も大体のところでミキちゃんは実践できてると思うのよ。それに、その辺のことは響ちゃんを参考にすれば間違いないしね」

「そっか。そうだよね」

 今日の受け答えも、先週の演説の時も、響のように振る舞おうとしたんだ。

 そのことが御門先輩に評価されている要因なんだろう。

 もちろん響のレベルに達するのは無理かもしれないけど、目指して近づけていく努力はやっていこう。


「以上でいいかな。では、生徒会をよろしく頼むよ。わからないことがあったら何でも聞いていいから」

 御門元会長の言葉で引き継ぎ式は幕を引いた。


 それは、新生徒会の活動が本当に始まった瞬間だった。








 こうして新生徒会が活動を始めて一週間が過ぎた。

 本人はまだ気付いていなかったが、選挙後の波綺さくらに関する周囲の印象は『一変した』と言っていいほど好意的に変化していた。


 それは、演説で見せた真摯な態度や、生徒への影響力が強い『斎藤ちひろ』や『舞浜透子』『赤坂真吾』らの支持を得ていることが公になったこともあって、中立だった生徒はもとより、批判的だった生徒でさえ見直すに値するとの評価が下されたことに他ならなかった。

 もっとも、それは選挙での得票数が裏付けしているのだが、それがさくらに対する実際の反応に繋がってきていた。


 その裏で、未だ反感を持つ生徒に対しては、九重櫻子による極秘裏の介入もあったのだが、内々に実行されたので当事者以外が知ることはなかった。

 自然かつ人為的な要因もあって、波綺さくらが生徒会長を目指した理由だった『立場の改善』は、わずか一週間足らずで、ほぼ達成されたとも言える状況だった。

 推移だけを見てみると、波綺さくらに関する生徒たちの評価は猛スピードで変化していた。

 しかし、そもそも悪評やバッシングの過熱ぶり自体が不自然な変化でもあったのだ。

 それは、何者かが意図的に操作しているように過剰に盛り上がり、そして急激に沈静化した。


 なんにしろ、この推移が偶然であれ人為的あれ、当初想定していた立場と予定が変わってしまったものの、波綺さくらは平穏な学校生活を手に入れられそうだった。








『ランチタイムに憩いのひとときを。放送部がお届けする光陵タイムズ・オンエアー。今日のパーソナリティは二年A組、翠ヶ丘美希がお送りします。この放送は、大盛りランチに魂注ぐ、ゴージャスデリシャスが合い言葉の『ちゅ~か飯店』の提供で、お送りしま~す』

 スピーカーから流れる聞き慣れてきたフレーズ。お昼の校内放送が始まった。


「ねぇねぇ。今日がさくらちゃんの番なんだよね?」

 嬉しそうに尋ねてくる楓ちゃんに苦笑いで頷く。


「あぁ、例のインタビュー。今日がさくらの番なんだ」

 言葉とは裏腹に、海苔巻きおにぎりに目を輝かせている茜。

 一方、桔梗さんは興味深げにスピーカーに視線を送っている。


 お昼休み。

 いつものメンバーで昼食の席を囲む中、俺ひとりだけが緊張で食事も喉に通らない状況だった。

 収録はすでに終わっているから、いまさら緊張する理由もないはずなんだけど、その内容が今から全校生徒に聞かれるとなれば話は別だ。


『今週お送りしてきた光陵タイムズの新生徒会総力特集~! いよいよ今日のゲストには、この方をお呼びしました!』

『こんにちは。……えと、一年A組の波綺さくらです。よろしくお願いします』

 スピーカーを通したせいで違和感ある自分の声が聞こえてくる。

 その瞬間、クラスから拍手や歓声が沸き上がった。

 見回してみると、みんなが俺を見て微笑んでいるのを知って赤面してしまう。

 こうして視線が集中するのは、やっぱりなかなか慣れない。

 ちなみに昨日がコノエで、その前が聖さんと楓ちゃんのインタビューだった。


『波綺さん。まずは、生徒会長就任、おめでとうございます』

『はい、ありがとうございます』

『先日の選挙では感動的な演説もあって、記録にないほどの得票率でしたね』

『あの結果には自分でも驚きました。そもそも当選できるとさえ思ってなかったですので』

『いやいや、前評判を覆すに足る演説だったと思いますよ』

『あの時はもう、いっぱいいっぱいで、実はよく覚えてないんです』


「んでもさ。下で見てる分には余裕そうだったよ?」

 茜が放送の言葉を継いで尋ねる。


「それは、やせ我慢だよ。必死で取り繕ってたから」

「でも、それが良かったと思う。野次に対しても毅然とした態度を見せたことがね。私から見ても恰好良かったよ」

「そ、そう?」

 桔梗さんの褒め言葉にも顔が熱くなるのを感じて手で隠す。

 なんだかここ最近、真吾の赤面性が移ったみたいだ。


「でも、こうして話している分には、あの時と同一人物だと、なかなか思えないんだけどね」

 照れる様子を面白そうに眺めて桔梗さんたちが笑う。


「だから。あの時もいっぱいいっぱいだったんだって」

 皆の笑い声の中、スピーカーからはインタビューの続きが流れてくる。


『今期の生徒会は、女子だけで占められているそうですけど、これは狙ったものなんですか?』

『結果的にそうなっただけで、女子だけでやろうと決めているわけではないです。入学して間もないこともあって、まだ面識が広くない状態で役員を選んだ結果なんです』

『なるほど。会長、副会長ともに一年生ですから無理もない状況だったんですね。それで、一年生だけで生徒会の運営は大丈夫なんでしょうか?』

『もちろん精一杯がんばります。でも、足りないところは前期生徒会のアドバイスを仰いで進めていきます』

『期待してますよ。あ、手元の資料によると、波綺会長は料理研究愛好会に所属していて、その愛好会の部長……いえ、愛好会だから会長でいいですね。その会長が前期の生徒会副会長だった尾道先輩なんですよね。これは、いろいろと頼れるポジションなんじゃないですか』

『そうですね。頼りになる先輩がいてくれるので、その点は心強く思ってます』






「頼りになるだってさ。どの角度から見れば香澄が頼れる存在に見えるんだ?」

 三年の教室で、昼食の席を囲んでいる舞浜透子が斜め下から隣に座っている尾道香澄を覗き込む。


「あら。気品よ気品。頼れるオーラを醸し出してるのわからない? まぁ透子の目は節穴だから見抜けないのも無理もないけど」

「抜かせ。副会長の仕事全部を野村に押しつけてた香澄に、なにをどう頼れっていうんだ。こんなのが先輩で波綺っちも不運としか言い様がないね」

「あら。だからこそ、上手く人を使う術を教えてあげられるんじゃない」

「モノは言い様ですな。無能副会長?」

「事実を言ったまでよ。筋肉脳味噌さん?」

「あははは」

「ふふふふ」

 ふたりの視線に火花が飛び散る。

 その様子を飯盛凛は楽しそうに眺め、小椋志保は吾関せずと放送に耳を傾けていた。


「もう、いい加減にしなさい、ふたりとも。さくらさんのインタビューが聞こえないでしょう?」

 苦笑している斎藤ちひろにたしなめられ、ふたりは険悪な視線を交わしたまま大人しくなった。






『話は変わりますが、波綺会長と九重副会長とは、あの斎凰院中等部卒なんですよね』

『はい』

『九重副会長とは、やはり中学校から仲が良かったんですか?』

『実はそうでもないんですよ。顔は見知っていましたが、親しく話すようになったのは高校に進学してからです』

『そうなんですか? ずいぶん親しそうに見受けられましたが』

『九重さんには、例の噂の件で随分助けてもらいましたからね』

『それで親しくなったんですね』

『はい。いろいろと辛いこともあったけど、引き換えに大切なものも手に入れられたと思ってます』

『怪我の功名。ですね』

『そうですね。結果的には良かったんじゃないかと思ってます』






「九重さんどうしたの?」

「ん? なに?」

 級友の言葉に櫻子は伏せていた顔を上げた。


「いや、俯いて動かなかったから。具合でも悪いのかなって」

「ううん。ありがと。大丈夫。放送でミキちゃんに、あんな風に想ってもらえてるんだって知って嬉しかったから」

「そうなんだ。それならいいんだけど。でも、すごいよね波綺さんって。勉強、スポーツ、ルックス、スタイル。ちょっと非の打ち所が見当たらないくらい完璧なんだけど」

「そうそう。ミキちゃんには、もっと自分の価値について自信を持ってもらわないといけないのよ~」

「それにしても、さすがは名門お嬢学校の斎凰院だよね~。みんな九重さんや波綺さんみたいに凄い娘ばっかりなんだ?」

「そんなことはないよ? ミキちゃんは別だけど、私はちょっと勉強が出来るだけだし」

「ちょっと……ねぇ。ダントツの学年首位がなにを言ってるのやら」

「あれはタマタマよタマタマ。マグレだって」

「そこ。女子高生がタマタマ連呼しない」

「もう。なに考えてるんだか……」

 呆れて見せながら、櫻子は『うまく誤魔化せた』と内心安堵していた。


(ちょっと、この感情は自分でも意外ね。目的通りなんだから喜んでいいはずなのにな……)

 級友と笑い合いながら、櫻子は胸に感じたチクリとした小さな痛みに困惑していた。






『先日、さっそく地元のテレビ局が生徒会を取材に来てましたね』

『そうなんです。あれには驚きました。どこから調べてくるのか……』


 そう。一昨日、地元のローカルテレビ局が新生徒会の取材に来た。

 夕方のニュース番組に地元学生を紹介するコーナーがあって、それに光陵の生徒会が選ばれたんだとか。

 確かに、記録的な得票数や、一年生女子で占められたメンバー、おまけに生徒会長は過去に生徒会を経験していない素人という型破りすぎだったから選ばれたんだろう。

 それにしても、どこから情報を聞きつけたのか。発足した翌々日には学校にアポイントの電話があり、自分もテレビに出演出来ると知って喜んだ校長の強い意向もあって、速やかに取材が行われた。


『オンエアはまだなんですよね?』

『十日ほど先だと聞いてます』

『テレビカメラを前にして、どうでしたか?』

『それはもう緊張しましたよ』

 教室で授業を受けているところも撮ってたし、ほぼ丸一日密着取材された。

 執行部員である楓ちゃんはもちろん、茜や桔梗さん、そして明美一党も『友人と談笑するシーン』で出演したんだけど、みんなは結構平気そう……というか嬉しそうだった。


 テレビ出演なんか、個人的には全力で遠慮したかったけど、コノエに『これも生徒会長の有名税みたいなものよ』と諭された。

 有名税だけじゃなくて有名益も出てくるんだから我慢しないとね~……なのだそうだ。

 有名益って、なにがどう得することがあるのか皆目見当がつかないんだけど。


『それはそうですよね。でも、これで九重副会長の演説にあった『学校外でも話題となるような生徒会』が早速実現したんじゃないですか?』

『それはそうかもしれませんが、本来は活動を通して話題にしてもらわないとダメだと思ってますから。今回のテレビ取材は、あくまでも例外として捉えてます』

『なるほど~。にしてもですよ? こうしてインタビューしてて感じるんですが、もうすっかり会長の貫禄がありますね』

『いえ、そんな……』

『それに波綺会長は、一年生とは思えない落ち着いた物腰ですよね』

『そうですか? 落ち着いているかはともかく、強いてその理由を挙げれば、年上の方と多く接していたからでしょうか。中学の時に下宿していて、周りがほとんど大学生ばかりで、子ども扱いされないように背伸びしてたからかもしれません』


「へぇ。さくらって下宿住まいだったんだ。実家はこっちだって言ってたもんね」

 茜の言葉に頷いて見せると、楓ちゃんと桔梗さんは、なぜか感心した様子だった。


『と言うことは、今も下宿されてるんですか?』

『いえ、今は自宅から通ってます』

『そっか。斎凰院は、ここから通うには遠すぎますからね』

『ですね』

『なるほど。大人びている秘密は下宿生活にあったんですね。何も知らなければ私よりも年上だと思っちゃいそうです』

『それは……よく言われます。年より老けて見られますから。中学の時から大学生に間違えられたこともありました』


「あはは。ボクと同じこと言ってる」

 ケタケタと笑う茜たち。

 しかし、こうまでみんなに言われると軽く落ち込むな。くすん。


「……そんなに老けてるのかなぁ」

「別にオバサンっぽいとかじゃないんだからいいじゃん」

 と茜は言ってくれるけど。


 まぁそれで困ることは、軽く落ち込むくらいだから良しとしよう。

 対策取れることじゃないしね。


「まぁね。茜みたいに子どもっぽいより、私は全然いいと思う」

「ボクのどこが子どもっぽいんだよっ」

 しみじみと話す桔梗さんに茜が即座に抗議する。


「その『ボク』ってところを筆頭に言動ほぼ全部。自分でもわかってるんじゃない?」

「う、あ、それは……」

 いつものやり取りで、いつものように茜が劣勢になっていく。


「ふふ。茜はまだ十六歳なんだから、子どもっぽくてもいいんじゃないかな?」

 楽しそうに取りなす楓ちゃん。しかし、それはまったくフォローになってないと思うよ?


「でも、ボクも大人っぽいって言われたい!」

 耳元で怒鳴る茜に、桔梗さんは迷惑そうに頭を離す。


「じゃぁ、なおさら『ボク』を直さないと」

「それは、なんとなくわかってるんだけど……」

「わかってるなら直せばいいじゃない」

「それはアイデンティティが崩壊しちゃうと言うか、なんと言うか……」

 口調が尻窄みになっていく茜。その様子に桔梗さんと楓ちゃんが可笑しそうに笑う。

 それに、放送から聞こえる笑い声が加わった。


『それは……ふふ。あ、ごめんなさい。笑ってしまって』

『……いいんです。慣れてますし』

『でもでも、老けてるんじゃなくて、大人っぽく見えるってことですよ! ここは同じようで、大きく違うポイントですよ!』

『そうですか?』

『そうですよ! 私も波綺会長のようになりたいって憧れます』

『それは、ありがとう。でいいんでしょうか?』

『いいんですよ~それはもうバッチリ。こうして話してみて、私もすっかり波綺会長贔屓になってしまってますから』

『それは……どうも、です』

『いえいえ。それは別にしても、我が放送部は新生徒会に対し、昨年と変わらぬ協力をお約束させていただきます』

『助かります。よろしくお願いします』

『こちらこそよろしくです! それでは、最後に一言、お願いします』

『はい。生徒会役員一同、楽しい学校生活が送れるよう整備を進めています。今以上に、みんなが楽しいと心から思える学校にしていくため、ご協力をお願いすることもあると思います。その時は、どうぞよろしくお願いいたします。それと、生徒会では、皆さんからの要望や意見を随時受け付けています。生徒会室前に意見箱を用意していますし、役員に直接相談していただいても構いません。悩んでいることや困っていることなどを教えてください。待っています』

『はい。新生徒会会長、一年A組の波綺さくらさんでした。今日はありがとうございました』

『こちらこそ、ありがとうございました』


 終わった……。

 編集のせいもあるけど、うまく受け答え出来てたんじゃないだろうか。

 内容は事前に打ち合わせしてたし、考え込んだりした部分はカットされてたし。


「波綺~。割とカッコ良かったんじゃない?」

 離れた席から明美が話しかけてきた。

 視線を向けると、周囲のクラスメイトも同意するかのように頷いている。


「編集のおかげでね」

「なんだ。やっぱりそうか」

 真顔になって答える明美の物言いに苦笑してしまう。


「うるさいな。あれが精一杯なんだよ」

「まぁ波綺なら、あれでも仕方ないか。よければ今度わたし自らがレクチャーしてやんよ」

 にひひと笑う明美。


 そうなんだ。あぁ見えて、明美は弁舌……というか演技力に特筆すべきものを持っている。言うなれば猫っかぶりスキル。

 先日のテレビの取材で、すわ二重人格か!? ってくらい、その豹変ぶりに驚いた。


「……うん。今後、頼むときがあるかもしれない」

「ふふん。高価いぜぇ。あたしのレクチャーは」

「それは身体で払ってあげよう」

 微笑みながら、手をワキワキと動かして見せる。

 明美の表情が一変して蒼白に変わる。以前、身をもって体験したアイアンクローを思い出したのか『遠慮シテオキマス』と呟き、肩を竦めて小さくなった。

 その姿にクラスが笑いに包まれる。

 そんな他愛もない出来事が、俺にはすごく嬉しかった。

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