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CHERRY BLOSSOM ~チェリーブロッサム~  作者: 悠里
第三章「Mini skirt actress」
25/83

025 友人

 真吾がシャワーを浴びに行ってる間に、オムライスを作ってしまうべく料理に取りかかる。


「たたった~たらった~♪」

 ついつい口ずさむメロディ。

 料理は楽しく作りなさいと教えられた結果、音楽をかけたり自分で歌いながら作ることが多くなった。

 さすがに人目がある時は歌ったりはしないんだけど、今は誰もいないしね。


 まぁ、それはともかくとして。

 自由にならない左手に苦戦しながらも、バターと微塵切りのタマネギをフライパンで炒めて、それに冷やご飯をほぐしながら混ぜ合わせる。

 よしっと。これにケチャップを加えて混ぜながら炒めればご飯は完成。

 そして、用意したお皿にライスを盛りつける。

 少しだけ味見。うん。合格。

 鶏肉とかグリンピースがあればいいんだけど、あり合わせなんだし今回はこれだけで我慢してもらおう。


 自分の分はチャーハンにしようかな~とか考えながら卵を溶いて塩こしょう。

 小さめのフライパンにバターをひいて、溶き卵を薄く伸ばしていく。

 ギプスのせいで少々ぎこちないけど、指先を上手く使うことでなんとか調理出来る。

 リハビリも兼ねて、家でもやろうかな。


 半熟になったところで火をとめてフライパンの先を傾ける。

 トントンっと、持ち手を叩いて振動を与えながら半熟部分が内側になるようにくるっとまとめる。

 これをライスの上に乗せる訳なんだけど……。


「ん。よし」

 フライパンを左右に揺らしながら無事移し終えたところで、ほぉっと安堵の息をつく。

 いつもここで失敗するからなぁ。


 上手くいったことに満足しながら、包丁で卵の中央に切れ目を入れて中の半熟部分を広げる。

 うん上出来。これでなんとか真吾に自慢出来るだろう。


 さて、次は自分の分を、と思っていると玄関から聞こえるチャイムの音。

 真吾はシャワー中だし、俺が出た方がいいだろうな。

 念のため火の元をチェックして、濡れていた手をタオルで拭きつつスリッパをパタパタさせて玄関へ。


「は~い。ちょっと待ってくださいね~」

 ドア越しに話しかけて、念のためドアスコープで確認する。

 見えたのは学生服姿のふたり組。真吾の友達かな?

 足もとには従者のようにジョンが寄り添っている。

 なにかあってもジョンがいれば安心かな。


「お待たせしました」

 ドアを開けると、それぞれにスポーツバックを担いだ学生服姿の男の子がふたり。

 サッカーボールを持っているところからも真吾の友達に間違いないだろう。


「あの~すみませ」

 なぜか、言葉途中で口をつぐむ。


「こんにちは。真吾くんのお友達ですか?」

「え? あ、はい。あの、シンゴ……いますか?」

 戸惑いが混ざった答えが返ってくる。


「今、真吾くんちょっと手が離せないんですよ。どうぞ上がって待っててください」

「あ、いや、大した用じゃないから……」

「すぐに終わると思いますから、どうぞ遠慮せずに」

 片方の子の手を引き、やんわりと玄関に招き入れる。


「そ、それじゃ。おじゃましまーす」

 ふたりをリビングへ通して麦茶を用意する。


「お腹は空いてませんか?」

「あ、はい。実は……」

「ばか」

 ひとりが正直に頷き、もうひとりがたしなめる。


「あはは。チャーハンで良かったら今から作りますよ。ええっと」

「あ。仲賀市基っす。ヨロシクっす」

「僕は香本仁です」

「波綺さくらです。よろしくお願いしますね」

 完璧なよそ行き口調で自己紹介する。

 未央先生の言葉が頭に浮かんだけど、どうも反射的に演技が入るんだよなぁ。


「えっと。おふたりともチャーハンでいいですよね」

「はい。すみません」

 ふたりは恐縮したようにペコリと頭を下げた。


「そうだ。ちょっとごめんなさい」

 そういや真吾に伝えておかないと。ふたりに会釈して浴室へ。


「真吾~」

 バスルームのドア越しに真吾を呼ぶ。


「な、なに?」

 妙に慌てたような真吾の返事。


「友達が来てる。仲賀市くんと香本くんって人」

「え? あいつらが来てるの?」

「うん。リビングに通して待っててもらってるから」

「あ、うん、わかった」

 返事を確認してからキッチンに戻る。

 さて、ささっとチャーハン作らなきゃ。

 ん~。自分の分をふたりに回すとしても、ご飯が少し足りないかな。

 でも夕飯までのつなぎだし軽くてもいいか。


「どうぞ召し上がれ」

 仲賀市くんと香本くん。

 それぞれに出来上がったチャーハンとフォークを準備する。


「こりゃまた、どもども~」

 言葉遣いがフランクなのが仲賀市くん。


「ご飯足りなくてちょっと量が少ないけど、ごめんね」

「あ、いや気にしないでください」

 比べて礼儀正しいのが香本くん。


「味の方もあんまり保証は出来ないですよ」

 このよそ行き口調が俺だ。

 他人に対しては完璧に、この口調で通せるんだけどなぁ……。


「いや、うまいっすよ」

「ってハジメ。おまえ、もう食べてるのか!?」

 先に食べ始めてた仲賀市くんに香本くんがツッコミを入れる。

 そんな、ふたりのやり取りに小さく笑いながら、減った分の麦茶を注ぎ足す。


「どうもすみません」

 やっぱり香本くんは礼儀正しい。

 仲賀市くんの方は、口いっぱいに頬張ったまま、片手を立てて会釈する。

 やることがひととおり終わったので、ふたりと同じテーブルに座る。

 さて、おもてなししとかないと。


「その校章からすると、おふたりは里愁高校ですか?」

「はい。真吾とは中学が一緒だったんですよ」

 香本くんが食事の手をとめて答える。だけど、


「もぐ……高校は別々になったけど、アイツもまだサッカー続けてるし、今でもちょくちょく遊びに来てるんだ」

 仲賀市くんは、食べるのと喋るのを同時にやろうとする。

 こんなところにも性格出るんだよな。

 俺にも、そんな癖みたいな部分があるんだろうなと思う。自分じゃ気がつかないけど。

 さっき変わってないって言われたのも、真吾だから気がつく癖みたいなものを見つけたからなんだろう。


 そう言えば、女性としての立ち振る舞いを習っている時に『日常の動作のひとつひとつにも気が配れるようになれば終了です』なんて言われたことがあったけど……。

 そこまではなかなかね。

 例えば、このふたりを前にしてる今は、それなりに出来てると思うんだけど、ちょっと気を抜いたら以前の『地』が出ちゃうんだろうなぁ。

 気をつけないと。


「えっと。波綺さんは、真吾の親戚なんですか?」

「いいえ。私は幼なじみです」

「そうなんですか。いや、真吾にこんな可愛い幼なじみがいるなんて知らなかったですよ」

「ははぁん。さてはアイツ、俺たちに隠してたな」

「あはは。別に隠してた訳じゃないと思いますよ。三年ほど実家を離れてたので、こうして会うのも久しぶりなんです」

「でも、その制服は真吾と同じ光陵のだよね?」

「ええ。またこっちに戻ってきたんです」

 なんてことを話してると、真吾がバスタオルで頭を拭きながらリビングに入ってきた。


「よ。今日はなんの用なの?」

 ふたりに対し真吾が親しげに話しかける。


「なんの用って、近くまで寄ったついでにな」

「顔でも出しておこうと思ったんだよ。でも……ひょっとして間が悪かったかな?」

 香本くんが俺の方を見た。


「う~ん。それは言えてるな」

 真吾が真顔でポツリと呟く。


「をい!おまえ正直すぎるぞ!」

「あはは、悪い。冗談だよ」

 仲賀市くんのツッコミに真吾が笑う。

 へぇ。真吾ってば、こんな冗談も言えるんだな。知らなかった。


「真吾の分も出来てるよ」

 オムライスと麦茶を準備する。


「あ、ありがとう」

「っと、私もシャワー借りていい?」

「ん?いいけど」

「うん。それじゃ失礼します」

 みんなが食べてる間にシャワーを浴びようっと。





「おい真吾。あの娘って本当に幼なじみなの?」

 香本がさくらの出て行った方を目で指しながら尋ねる。

 その口調は、さくらを前にした時とは明らかに違っていたが、ふたりにとってはこっちの方が当たり前なのか、特に変には思っていないようだった。


「あぁ、そうだよ」

「マジ? はぁぁ。い~よなぁ~。あんな娘が幼なじみなら、俺も赤坂家に生まれれば良かった」

 未練タラタラの感で仲賀市がテーブルに肘をつく。


「シンゴ。今、ご両親は居ないんだろ?」

「うん。七時頃に母さんが戻ってくるって言ってたし、父さんはそれよりもう少しあとになると思う」

「家にあんな可愛い娘とふたりきり……」

 香本が仲賀市に視線を送る。


「しかもお互いにシャワーを浴びて……」

 仲賀市も香本と視線を合わせて、ふたりは意味深に頷いた。


「おい! おまえらなに考えてるんだ!」

「なにって別になにも言ってないだろう?」

 涼しい顔で香本がはぐらかす。


「でも、ジンも見たろ? セーラー服にエプロン姿。あぁ……あれは男のロマンのひとつだよなぁ」

「ちなみに、ハジメのロマンは他にどんなのがあるんだ?」

 香本が尋ねる。


「セーラー服エプロンの他は……まず、裸エプロンは押さえなきゃダメだろう。それにセーラー服の上だけプラススク水とか、あとあとナースとかメイド服とかバニーガールの網タイツにもロマンを感じる!」

「ハジメは制服関係にめちゃめちゃ弱いからなぁ」

「勝手に感じてろ」

 真吾が呆れたように笑う。


「まぁまぁ。ハジメの病気は今に始まったことじゃないのは知ってるだろ?」

「そうそう。今度シンゴにも、この道の良さを伝授してやるぜ!」

「……遠慮しとくよ」

「そう言うなって。ほら、さくらさんだっけ? メイド服とかバニーガールとか似合いそうじゃん。今度頼んでみろよ」

「で。承諾したらハジメも駆けつけるんだよな~?」

 香本が、わかってると言わんばかりに相槌を打つ。


「もちろん! 頼むぜ? シンゴ」

 キラリと笑顔で親指を立てる仲賀市。


「ゼッタイ呼ばない」

「え~? そんな冷たいこと言わずにさっ。なっ? 今度ラミス奢るから。このと~り!」

「ハジメもここまで言ってるんだし、その時は僕もついててやるから」

「お!? ジンも興味あるか!? そうか~」

 満足そうに頷く仲賀市。


(まったく。さくら……一樹がそんなの承知するわけないのに)

 盛り上がるふたりを見ながら、真吾はひとり心の中で溜め息をつくのだった。

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