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入隊式の日 3

 浮島曹長に案内されて、途中たくさん展示機のあるコーナーを通り過ぎた。


 第二次世界大中戦闘機、今はもう使われていない 零式艦上戦闘機や、旧型タイプの巫女が付いてない型の紫電や烈風。


 これらの展示機が飾られた倉庫や、二十機ほどの所どころ傷が目立つ現行機の整備調整ラインなどを通る。


 怒鳴り声を出し、重油染みで作業服を汚した整備ライン工の人達は、目にも止まらないスピードで、ボルトや大型の金属パーツを運び、駆け足ではんだごてをもってきて、火花を散らしながら機体の修理を行っていた。


 待機所を抜けると、いよいよこれから乗る機体の場所へ案内された。


「こいつだ」


 乳白色の機体は、風に煽られて後方の方向舵(ラダー)がしなやかに揺れている。


 それほど兵装は積んでいる様には見えなかったものの、その外観は重戦闘機と遜色がないほどしっかりとした造りになっている。


 どうしてこんな、綺麗なんですか? 黒江がそう尋ねる前に。


「まぁ、それほど乗られてないからな」と納得の行く返事がもらえた。


 そういう顔つきをしていたのだろうか。


「しかし、紫電とは対照的に、妙に複雑過ぎるソースコードの割に性能が乏しくてな、その分丈夫なのは間違いないんだが、重戦闘機と同じ様に運用すれば攻撃は当たらず、かといって練習機にするには操作が難しい。押しても反応しない操作とか、後もっと多い理由として、巫女付き側の拒絶反応が多いんだ……」


 要は彼女のストライクゾーンは相当狭いということか……。


 浮島曹長は、少し難しい顔つきで額にシワを集めた後で答えた。


「今までに約三人ほど適性を備えた奴が現れたが、四人の内一人は別の機体に搭乗中に殉職。残りの三人は別の機体に乗りこなしてたり、あるいはうちではパイロットをやってない」


「うちでは、というのは?」


「そのまんまさ、他でパイロットをやってる。確か一人は旅客機だったかな」


「あー……確かに年収いいですからねー」


 旅客機パイロットは大体僕らの平均年収の四倍~五倍ぐらい。その代わり死傷リスクは僕らと同等か、あるいはそれ以上はある。


 航空会社としても、ベテランパイロットを自分達で育成せずにヘッドハンティングできるとあって、中々中堅の引き抜きは絶えない。軍部や政府にとっても、結構頭の痛い問題でもある。


「もう一人は引き抜きだな、今はユー連に居るらしい」


「あそこですか?」


「あぁ、オリジナル整備士の(よしみ)で俺も説得してみた事があったけどな、ダメだったよ」


「あそこの何処がいいんですか? ユー連なんて行く位ならクロイツか墓場の方がまだいいと思いますけど」


「ははは、同感だ。お前さん結構言う奴なんだな、俺もほとんど同じ内容でそいつに向かっていったが、返事はなかったな」


「で、こんなことを話して何が言いたいか、ってとこなんだが、つまりよ」


「こいつはとんでもなく幸運な機体なんだが、こいつに関わると、パイロット自身は不幸になる確率が高い。しかも、最終的にはみんなこの機体を乗らなくなっていった。お蔵入り中のお蔵入りって訳さ」


 機体後方の冷却フィンから異音が漏れ出した後で。


「もう! 聞こえてますよ! 酷いじゃないですか!」


 甲高いソプラノの声が、部屋全体から揺れるように響いた。


「おっと、起動したままだったか、そーいや念のために搭乗する機体の電源を入れておいたんだったぜ……へへへ」


 笑って誤魔化した後で「でも別に嘘は言ってないぜ」と皮肉って締めた。


「たしかに、そうかもしれないですけどぉ。実際そうですけどー……」


 そのー……、ともじもじさせた辺りで言葉を濁らせて続ける。


「もう少し、言い方あるんじゃないですかぁー?」


 欲しい物をねだりをする駄々っ子のように、富嶽はジェットエンジンを駆動せずに動かせる可動範囲をあらゆる方向に動かして、不満を露わにしている。


「え、僕達の言葉が聞こえてるんですか?」


 その言葉をいずこに向けて発すれば良いのか? 迷った挙げ句、機体に向ける。


「聞こえてますとも」


「あーあ、いいんですか? あんまりそういう酷いことすると、拗ねてタービン焼き切っちゃいますよ?」


 それだけは辞めてくれー、と切実そうな声でコックピット側に向かって浮島さんが懇願している。


 しかし……。


「なんだか本当の女の子みたいですね」


「本当の女の子ですよ!」


「本当に女の子なのかぁ?」


 三人、いや正確には二人と一戦闘機は同じテーマに様々な角度から噛み付いた。


「うーきーしーまーさーん♪」


 分かってますよね? 私を怒らせたらどうなるかって、と恨めしボイスで浮島曹長に向かって吼えたあと。


 それまで機体本体という意味では動いてなかった富嶽機は、かたかたと緩い響きを地面から伝える。


 主脚――離陸や着陸時に使う、いわゆる飛行機の足の部分――を動かして、フロント部分を右側に向ける。


 止まった。


 ダダダダダダダダダダタダッ!


 機銃が連射され、黄色から赤にフラッシュしながら火花が飛び散る。


「ひぇっ!」


 大の大人が驚き、飛び跳ねる。


 コンクリートに穿った穴からは鉄骨が、恥ずかしそうに顔をだしている。


「そーれーかーらーちゃんと名前で読んでくださいね。富嶽だけじゃ、機体(ハード)名ですよ。セットで呼ぶか、名前だけでもいいですけど、ちゃんと覚えてくださいよ? レイナです。レイナ、そこの新人パイロットさんも覚えましたか?」


「でもお前、模造機じゃないから富嶽でもかまわ――」


 浮島さんが何か言いかけた所でバキューン、と軽く一発。


 少し落ち着いた所で、富嶽のコックピットのハッチを空けた。

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