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入隊式の日 1

「えー、この作戦では空域上に12機を一組とした小隊を六部隊で編成した特別大隊で編隊を組み、戦力差で向こうを押し切りながら、今まで苦渋を舐められていた巨大要塞を撃破した記録です」


「後、このフィルムに写っていない強襲機や支援機も他に12部隊いたから、実に200以上の戦闘機や、航空機以外だと護衛駆逐艦(フリゲート)や空母なんかも参加していました」


「皮肉なことに、これは前世紀に日本が戦艦大和を沈められた時と、ほとんど違わない構図です」


 そういって、冷静沈着さがにじみ出る声が会場内部に響かせながら話し続ける。


「――……つまり、時代や兵器は変わっても、人は変わらないという話ですね」


 声の主は、先ほど隊長と呼ばれていた。映像の中の主人公その人だ。


「……というのが、あの作戦の一通りの流れです。でもこの実写動画フィルムは、結構メディア向けに造られたもので……」


 話の最中にも関わらず、会場は歓喜と拍手が壇上からでも見えるほど溢れかえっていた。


 (とき)の声が、やや羞恥的な笑みを浮かべる主人物の声を掻き消す。




 プロジェクターに映し出されていたのは、日本軍最強と名高いエースパイロット。新世(あらせ)中尉、改め少佐のコックピット機内で撮影した、対クロイツ軍超大型兵器戦の動画がおさめられたフィルムであった。


 もう半年以上前に行われた電撃戦。


 赤星3号作戦の収録テープが、日本軍入隊式前に放映された。


 先ほどの動画フィルムで隊長と呼ばれていた新世中尉、改め新世少佐は本当にすごい人だ。


 僕自身も調べていくうちに、どんどんとその人物像に惹かれていった。


 日本軍最強のエースパイロットというその響きだけでも人々に憧れを抱かせるには充分すぎるのだが、彼の義に厚いその志とマインドも、まさにエース足りえる素晴らしい人格者でもあるのだった。


 例えば、彼の部隊員はこの輝かしい作戦の後で、全員が二階級特進となった。


 もちろん殉職という訳ではなくて、純粋な特別昇進だ。


 なんでも、本当は新世中尉一人がその対象だったらしいが、新世中尉が自分はいいから自分の隊員にそうしてあげてほしいと嘆願したらしい。


 さすがにそこまで大勢の二階級特進は今までに前例がなかったので、上層部の方も手をこまねいていたのだだが、三ヶ月ほど沈黙が続いた後で、折れたのは上層部の方だった。


 日本の英雄に何らかの栄誉をさせないというのは、世論が許さなかったらしい。

 と、そんな言動一つとってみても英雄という二文字が相応しい新世少佐のそばで、僕はこれから働けるのだ。


 何か物事をやってみようと始める時の姿勢は、究極的には二つしかないと思う。


 一つは、強い憧れや、強い夢といった形が挑戦へと導く、自己実現的な姿勢。


 暇つぶし、あるいは目の前の危機や現実から逃れる為という、逃避的な姿勢だ。


 普段は後者の僕も、今回ばかりは前者だった。




 視界を少し遠くへ持っていくと、晴れて僕達と同じ年に志願をパスした女性の士官候補生が、壇上のヒーローに向かってサインをねだったり、質問攻めにしたりと大人気だ。


 みんなの士気が高揚したところで、空軍総帥のありがたいお言葉が水を差さないだろうかと心配していたが、先刻のフィルムの時間と比較してもそれほど長いものではなかった。


 入隊式の後は、配属先を決めたり、特にパイロット志望の人はそれに加えて戦闘機やOS、つまり〝巫女付き〟との適性を見る。


 広い会場ホールに一度集められた後で、配属先や一人ずつアナウンスされ、行列を作って並ばされた。


 整理券の様なものを受け取って、上官に誘導される。


 そうしてパイロット志望の身体適性検査の列に並んでいると、五人程前の列に、見知った顔の男がいた。


黒江(くろえ)!」


 僕の名前が叫ばれた。どうやら、向こうの方が先に気がついていたみたいだ。


「勇次!」


「どうしたんだよ。お前、こんなところに」


「それはこっちのセリフだよ。野球はどうしたんだ?」


 彼は佐々木勇次ささき ゆうじ、中学時代の親友で、高校では、高校野球の推薦入学で僕とは離れ離れになっていた。


 いつの頃だったか忘れてしまったが、彼は名字で呼ばれるのをあまり好まず、いつも僕は名前で呼んでいた。


 こいつとは、ちゃりんこで県境まで走り込んだり、学園祭をサボって抜け出したりしたことや、真夏の夜中に学校のプールに忍び込んで、悪ふざけをしていたことを、今でも覚えてる。


 しかし、勉強や宿題を一緒にやった記憶はなくて、良い悪友といえる関係だった。


 あ――でも、追試は一緒にやらされたっけな……。


「あぁ、実はな……それなんだけど」


 もしかして、聞いてはいけない類だったか……? と内心後悔しかかったが。


「ちょっと肩をやっちまってな、どうしたもんかと思っていたんだがな……体力には自信あったんで、せっかくだからやってみようかと思った訳さ」


「お前も、パイロット志望なのか?」


「あぁ、もちろんだよ。俺にも何か役に立てるかなって思ってな、まぁ別に力仕事はこれだけじゃないけどさ、難しいと思ったら別の仕事も勿論視野にはいれてる」


 赤星3号作戦。


 あれだけテレビや新聞などでも取り上げられてた訳で、僕以外も大いに影響を受けていたのは間違いなかったはずだなと、改めて思った。


「近い所属だといいな」


「あぁ……」




 入隊審査の列も、いよいよ勇次のところまで差し掛かる。


 入隊審査で見られるのは……。


 攻撃性向、防御性向、回避性向、命中性向、幸運性向、特殊性向。


 いわゆるパイロットの戦闘機に対する素体適性と呼ばれるものだった。


 これはAからFの6段階で評価されている。


 ちなみに、大抵のパイロットはほとんどすべてがDやCランクといった所だ。


 もしAとかBが一つでもあれば、それは相当な活躍が期待できるといっても、言いすぎではない。


 ちなみに新世少佐はなんと攻撃、防御、回避特性が全てAで残りはBという。とんでもない適性持ちだ。


 それから、戦闘機特性に加えて機体個別適性なども存在する。


 これはいわゆる好みのような所である。


 人間で例えると、超絶美麗な女子がいようとも全員の男子にとってのストライクゾーンということは当然ないだろう。

少しぽっちゃりした子がタイプ、の人もいるかもしれないし、貧乳は正義という人もいるかもしれない。中には中学生以下の小さい娘を好む人とか、男の娘とか……いや、この話はそれぐらいにしておこう。


 とにかく〝巫女付き〟の個人的な相性に強く依存しているのが機体個別適性だ。


 これが低いと、例え適性を満たしていても、個別で弾かれることもあるし、逆もしかり。


 とはいえ、素体特性と比較するとほとんどオマケみたいなものである。


 つまり。




 ※ただし、イケメンに限る。




 ということだ。まさかこんな用語がOSにまで当てはまるような時代が来るとは夢にも思わなかったが……。


 基本的に機体個別適性は努力で変えられる類のものではないので、もし弾かれたら、諦めるしかない。


 ちなみに素体適性は、努力次第によっては相応の、誤差程度には成長が望めるという情報がある。頑張って背伸びしよう。


 また、新世少佐の話になってしまうが、先程のフィルムで搭乗していた潮凪(しおなぎ)機は本来特殊性向Aが必要な戦闘機だが、潮凪に搭乗できるごく少数のパイロットの中でも、実際に適性通りで乗っている人は僅かだ。


 ここまで適性について述べてきたが、これはつまるところ〝巫女付き〟と一緒に戦闘機で飛ぶ為に必要なものだ。


 では、〝巫女付き〟とは何かという話になるのだが、言ってしまえば戦闘機を動かしている基幹的なシステム、と捉えてもらって構わない。


「戦闘機はパイロット一人で操作するもの」


 そう思われがちだが、実際独りで操縦していることなどほとんどない。


 管制塔からは絶えず情報を受け取っているし、その間にレーダーを感知したり、後は余り聞くことはないが、複座などもある。


 操縦士と副操縦士の二人で操作する旅客機などは、このシステムをある意味受け継いでいるとも言える。


 巫女付きはそれらの役割をほとんど一役で買ってくれる優れものだ。


 受け取った情報を直接返したり、怪しい機影をレーダーに映しつつ、そうでない機影は遮断(マスク)したり。単なる操縦ならほとんど誤差なく全て行ってくれて、下手なパイロットよりもよっぽど上手に機体全体の操縦を行えるだろう。


 とはいえ、悪天候時の乱気流だとか、あるいはそれこそ交戦があった時の対処などは余り得意ではない。


 万能ではあるが、全能ではないということだろう。


 そういうイレギュラーの場面でパイロットの腕が試されるという訳だ。


 それから〝巫女付き〟と、それを纏う戦闘機には二種類あるのだが、この話しはまた今度にしよう。


 ちょっと話が逸れてしまった。まあ、〝巫女付き〟についてはこんな所か――……なんてやってる内に、自分の順番がやってきたようだ。

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