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真珠湾の空の下 3

「徹底した合理主義か……、そういう意味では日本も見習わないといけないよな」


「徹底した合理主義が、あんなビルを天高く築き上げてたって言うのは少々非合理すぎやしないか?」


「あれだって最初は実利に適ってたんだよ。ああ見えてな」


「そんなもんなのかー……なあ、ところでさ、勇次」




「ん、なんだ?」


「お前って昔からそんなにアメリカナイズだったっけ?」


 この比較的単純な質問は、彼にとってとるにたらないと思われたが、即答ではなかった。


「さあ……――どうだったかな。でも、純粋な強さに憧れるのは男として当然だろう?」


「まぁ、それはそうだけど……」


 勇次もまた、黒江と同様に何かを思い出したようで、話題を切り替えた。


「それより黒江、例のアレ。できたけど。見るか?」


「アレか! うおおお、流石だなお前このゴタゴタの中なのに……」


 どうやら《例のアレ》が完成したらしい。


 初出撃の前日に僕が勇次に頼んでいたことだ。


 しかし、異動の準備もあったのでもっと遅くなってしまうと予想していたが……。


「ほらよ」


「……」


「…………」


「――……っ!」


「……むおっ! ……やっぱ想像以上だったな」


 僕はそれほど多弁ではないため、言葉にするとかえって嘘臭くなってしまうが、とにかく凄かった。予想以上だった。




 ん? さっきの解説? ああ、あれは座学時代の教科書の丸写しだ。




「これでも何度も修正かけたんだからな、ちょっとぐらい親友に感謝してくれよ」


「何かお礼するよ!」


「お礼かー……うーん。何がいいだろうか……――ん?」




 黒江と勇次の二人が見下ろすビーチの反対側で、なにやら騒がしい声が響いた。


二人が振り返ると、赤毛の女性一人が比較的体格の良い二人でも見上げてしまうほどの大男三人に向かって口論をしている様子だ。


「なんだか、騒がしいな」


「男三人に女一人か、きな臭い感じだな……」


 意見を出し合った結果、口論をしている連中に悟られない様に近づいてみる事にした。


 すぐその場で飛び出して助けに行くというのでも良かったかもしれないが、要らぬ取り越し苦労だったり二人の誤解だとしたら、旅の恥はかきすてとはいえ、いい恥さらしだ。


 かといって、そのまま遠くで様子見を決め込むだけでは、いざ何かが目の前で起きた際、手遅れになるのは必至だろう。


 もちろんここハワイ島では、黒髪で黄色に近い色白、いわゆるアジア人であるという事一つを取っても目立ってしまうので、人影に隠れながらゆっくりと近づいていった。




「あんた達がやったんじゃない! いい加減あやまりなさいよねっ!」


「痰が下着に掛かったぐらいで、うっせーアマだなぁ」


「どうもすいませんでしたーっと」


「へへ、今回は勘弁してくれよぉ~……じゃないとさぁ、へへ」


「そんな平謝りで許せると思ってるの? もっと心を込めなさいよね!」


 声を出さずに二人は耳打ちする。


(何て言ってるか聞き取れるか? 勇次)


(あぁ、何か彼女の服装にかかったらしい。それで激怒してるみたいだ)


(それだけかよ。っていうか因縁つけたの女の方かよ)


(たいしたヤツだな……)


 そうして耳打ちをしながら、後走って十歩という距離に二人が接近した時、男達は突然なんの打ち合わせもなく赤毛の女に向かって殴りかかった。


 男のうちの一人、かなりきつめの天然パーマのかかった奴が、赤毛の女に右フックを入れようとする。


(もしかすると、あの無駄なおしゃべりの中に、何かしら暗号のようなものが含まれてたのかもしれないな)


(野球のサインみたいなものか)


(そんな所だ、不意打ちを取れるチャンスは一度きりだ、もっと近づくぞ黒江)


(おう!)


 しかし、驚かされたのは赤毛の女の方ではなく、むしろゴロツキ三人組と黒江達二人の方だった。


 彼女はそれをあっさりと見切ると、小さく振りかぶった右腕を使って喉下に掌打し、一切躊躇うことなく続けて右ローキックを天然パーマの的中させ、ゴロツキの内一人をわずか数秒足らずで床に転がすと、顔面が原型を留めなくなるほどに殴りかかった。


(この女、見た目と裏腹に中々やるな、口だけじゃなかったんだな)


 そんな声はゴロツキの三人組からも聞こえそうだった。


 当初余裕を見せていた二人も、慌てて本気で女に向かって拳を振るい上げた。


「このアマァっ!」


「よくもジョニーの兄貴を!」


 流石に女も体格差と人数差には叶わなかったらしく、防戦を迫られた挙句、両腕を押さえつけられてしまった。


 さらに接近、後五歩。もう飛び込める。


 三人組みの中でも一番体格がある二メートル近い色黒の男が左手首と左肩を抑える。


 残りの一人、奇抜なサングラスにテクノカット髪とアロハシャツの似合うミュージシャン風の男が右手首と右肩を押さえ込んで、赤毛の女の動きが沈静化した。


「あんたら、女相手に二人がかりって、玉付いてんのっ?」


「それを相手に逃げないお前も、大概だろうがっ!」


 彼女の動きを封じ込めたことで多少余裕を持ったのか、男三人グループのミュージシャン男がメリケンサックを右手に装着して、その柔い頬にぐりぐりと押し付けていた。


「へっへっへ……その綺麗な顔が恋しいなら、俺達の言うことを聞――」


 完全に勝ち誇った笑い声が周囲を包んだそのタイミングを見計らって、黒江がアロハシャツに飛び膝蹴りを、勇次が両手を使って色黒男の首と肩の間の付け根に、手刀で殴りかかった。


 不意打ちに加えて、ただでさえ一対一で男をダウンさせた赤毛の女も加わり。


 息の合った見事なタイミングでゴロツキの三人組を伸ばすことに成功した。

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