真珠湾の空の下 2
アメリカと日本は第二次世界大戦中元々敵同士だった。それは言わずと知れていることだろう。
だが、どこから話したらよいのだろうか、あの《911事件》をそのまま持って来てしまえば、きっとそれが容易かろう。
ただ、それだけでは余りに身も蓋もないので、多少話しは逸れてしまうが、その経緯のところから話を始めよう。
第二次世界大戦中のクロイツ国ドイツ領では様々な秘密兵器が開発されていた。
大型爆撃機をさらに超高高度から迎撃するドッグファイト専用機や、クローンによる人工アーリア人計画。超音波装置によって生み出される思考の乖離現象を利用した、擬似的閉鎖空間の形成実験。
オカルトと現実の狭間のような兵器開発・人体実験が数多く行われていた。
その中でも特に有名な二つ。
大陸間を横断する液化燃料ロケット、および原子爆弾の開発が戦時中行われていた。
大陸間弾道ミサイル(ICBM)は、ヴァルター・フォン・ブラウンがペーネミュンデ兵器実験場にて何千回という失敗をものともしない不屈の精神で実験を続け。
原子爆弾の方は、後に水爆などにまで発展させるエドワード・テラーが中心となってカイザー・ヴィルヘルム研究所にて、それぞれ研究が始められた。
奇しくもその二つともの兵器がほとんど同時に開発され、実験テストも万全に終了といった所になっても、対空戦では優位に立っていたイギリス軍がついぞその開発に気が付くことはなかった。
《太陽の沈まない国》と目されたイギリスは、量産されたV2ロケットの弾頭につまれたプルトニウム爆弾によって、ロンドン市街を中心に何度も焼かれていった。
辺りには放射性物質が飛び交い。二次的被害を出している最中に、間髪を入れずに何度となく追撃をおこなった結果、一次的な爆風による被害で人口は半減し、二次的な放射能汚染でその半分から5%ほど生き残った僅かな人間も、各地で散り散りになったり、といった形で大英帝国は瓦解した。
《太陽の昇らない国》として、ほとんどもう国という形では残されていない。
現在となっては、真っ赤な肌をした人型の生き物が発見されている。などという狂気染みた噂がまことしやかに囁かれている。
実際クロイツ側と内通している人間からの話しらしく、まんざらでもなさそうなのがより一層不気味である。
話がアメリカからだいぶ飛躍してしまったが、この頃はまだ放射性物質の危険性について、旧クロイツでも情報が不十分であり、世論の総意も固まっていなかったらしい。
話がアメリカからだいぶ飛躍してしまったが、この頃はまだ放射性物質の危険性について、旧クロイツでも情報が不十分であり、世論の総意も固まっていなかったらしい。
この実験という名の大殺戮劇に気を良くしたのか、それとも感覚が麻痺してしまったのか……。
今度は更なる新型兵器、V3/V4ロケットと呼ばれる二段式――上の弾頭がV3で、下段部がV4である――のロケットの頭頂部に高濃縮ウラン爆弾を搭載すると、フランスからアメリカ東海岸までを横断したのだった。
ベルギー領からロンドンに向かって放たれたV2が200km~300kmである事から比較すれば、約20倍の飛距離に達していた。
ニューヨークとシカゴにそれぞれ一発ずつV3/V4を撃ち込むと、その輝かしい天国のような眺めは一変、地獄の業火へと焼きつくされた鉄塔は地を這うように熔解した。
多分本格的に原爆の脅威が囁かれたのはあの日からだろう。
アメリカの栄華の象徴であるシアーズ・タワーが焼け落ちる映像は、何度も映画化されていて見たことのある人もいるのではなかろうか?
このミサイル弾頭がニューヨークを灼熱地獄に変えたのが9月11日。
この日から日本とアメリカの歩み寄りは始まったのである。
第三勢力のNACと言えば、ほとんどアメリカか日本を指す体制の代表国二つは、当初こそ双方の国民から反発の声は上がったものの、次第に様々な点が対照的で、望外に相性が良く。
今では日本とアメリカは、お互いの母語が口頭では通じるほどの蜜月関係だ。
幸か不幸か、あの9月11三主義体制に転じてから、3つに分裂した勢力圏は戦争として名目上は続いていたものの、お互いの国土を孕まない。
という暗黙の了解ができあがっていた。これについてはまたの機会で話すこともあるだろう。
そして今日に至るまで、とんでもなく非合理な形で、お互いの兵器と兵器をぶつけ合っているという訳だ。




