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真珠湾の空の下 1

 灼熱の太陽の下、黒江達はハワイ島ホノルルビーチに来ていた。


 ココヤシの葉が、照りつける砂場の熱気をいい塩梅で中和し、写真でイメージするしかなかった中の場所は、予想の他暑苦しくない。


 サングラスをかけた金髪で色黒のナイスバディの女性達からは、サンオイルが艶かしく照り輝いていた。


 極めつけには、波風とマンドリンの奏でる調べが、見事なハーモニーを彩った。




「死ぬ前にハワイに一度は行くんじゃぞ、あそこは地球のパラッダーイスじゃ」


 黒江は、そんな冗談みたいな言葉を死ぬ間際に呟いた曾祖父を思い出した。


 もちろん今の状況は、大型休暇を貰って海外で水着のお姉さん方と戯れたいとか、入間軍曹の拷問にも等しき猛特訓から脱走して逃げ帰った訳でもなかった。


 そもそも現在の旅客機というのは、会社の経営者と、何かしら財を築き上げた財閥家系の二代目とか、そんな大それた資産家である必要はないにせよ。


 それでも黒江達の様な国家公務を行う階級の人間や、前述した経営者と共に事業を手伝うサラリーで収入を得ている者の、それこそ年収分ぐらいの大金をはたかなければ行く事さえ叶わない。


 一生に一度あるかないかの一大イベントに等しかった。


 穿った視野で考えてしまえば、様々な観光地を含めた地域に仕事の一環として公的に訪れられるという所に、周囲と比較してそれなりに謙虚な黒江でも、優越感を感じずにはいられない。


 その代償として、命をいつ失ってもおかしくはない局面に常に晒される。そう思えば安いもの、それが世間一般の常識的な見解だった。


 しかし、こんな所まで連れて行かれて開口一番の指令内容は『アメリカ空軍の軍事演習部隊が到着するまで待機との事』だった。


 本当なら今頃は、空を飛び回ってアメリカ軍のパイロット達とお互いにシノギを削っている予定だったのだが、予想以上に前線での戦いが長引いているらしい。


 どうやら、アメリカ軍と日本軍のパイロットを巻き込んだ近々大きな作戦があるというのを、入間小隊チーム以外の陸軍や海軍といった様々な面々からも小耳に挟んでいる。


 実を言うと、このホノルルビーチから遥か南、南太平洋を通り過ぎた南南西の先、ニュージーランドは、あろうことか、クロイツ軍の支配下に置かれている。


 今から新世少佐が始めて巨大兵器墜とした約3年前。そこから起算すると5年~6年前になるだろうか、とうとうその巨大兵器の最終実装が完了し、戦時投入を決めたクロイツ軍が猛威を奮った結果。

 それまでメキシコ湾で食い止めていたクロイツの勢力図は一気に拡大した。


 もちろんここハワイも、当時はこれほど穏やかではなかったらしい。

 ここまで、話して貰えば、お分かりだろう。その大規模な作戦というのは、《ニュージーランドを勢力圏から奪回する》為の大作戦だ。


「迷ったらとりあえず壊す。そっから始める。みたいな感性は俺には理解できないなぁ」


 ビーチで異邦人にナンパしたり、踊りや楽器などの教えを請うたり、海水と砂まみれになりながら海辺ではしゃぐ小隊員を横目に、ヤシの木が作った日陰の下、黒江と勇次の二人は語り合っていた。


「確かに、やたらと無駄が多いな」


 久しぶりの休暇兼、待機命令プラス海外観光というのもあって、最初は慣れなかった黒江と勇次も、徐々にここでの生活にも慣れてきた様子だった。


 最初から羽目を外しまくって、黒江の曽祖父と同じか、それ以上にはしゃぎまくって、「俺もう死んでもいいや」なんて言いだす連中も居たぐらい。


 確かにここでの暮らしは快適だったのだが……、流石に二週間も異世界みたいな所に来てしまうと、ちょっとだけ故郷が恋しくなってくる。


 任務で国内の遠方を飛んで基地内に滞在している時とは、また違った心境だった。


「なんというか、あいつら頭じゃなくて、腹筋で物事を考えているような、そんな気がする」


「腹筋か、くくくっ」思わず黒江も笑い出してしまった。


 なんの話かと言われると、それはアメリカ人の話だった。


「けどよ、やっぱあの国は凄いと思うぜ、どうやったら今まで敵さんだった。うちら日本に休戦どころか同盟までもちかけられるんだ? 普通そんな事できないよな」


「まぁな、日本でもアメリカでも最初の頃は反発が凄かったよな」


「あぁ、あん時の運動は今でも何年かに一度はテレビに取り上げられてるし」




 そう……第二次世界大戦の終了間際、日本とアメリカは手を取り合ったのだ。

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