初陣 5
突然、浮島さんと僕以外の会話が割って入ってくる。
【あー、聞こえるかー? 黒江】
入間軍曹だった。
【お前なぁ~陸に上がったら分かってるんだろうな?】
【うっ、な、なんでもやります!】
【何でもか――その言葉忘れるなよ】
【え、あ、やっぱり訂正します!】
【それじゃあ小隊側に切り替えるぞ】
【できる範囲で、善処し……】
ガー、と周波数を調整する際に生じる特有のビープが聞こえた。
……。
まぁ、仕方ない。今は目の前の事に集中すべきだ。
【ははは、入間ちゃんは元は新世少佐の直属だったからねー。意外と仲間想いの所もあるし、可愛い所もあるんだよ】
【そ、そうなんですか? とてもそうは見えないですけど】
【なら、わたくし技術曹長の独自の情報網からなる全部で八つに渡る入間軍曹のポイントを少し紹介してやろう】
【え、え、いいですよ……そ、それより高度が、うわわ】
【まぁまぁ、じゃあ記念すべき可愛いポイントその一、あの言動に似合わない名前がとっても可愛い!】
【曹長っ! その話は部下しないって、言ったじゃないですかぁっ!】
入間軍曹は無線を切り替えていなかった。というより、どうやら会話に入らないまでも、短い間隔で小隊側と黒江・浮島側に切り替えていたらしい。
【おっと、盗み聞きですかい? 軍曹殿】
【失敬しました。ですが……いくら浮島曹長殿でも、流石に、それは許せませんよ!】
【おーこわいこわい。こりゃあ続きはまた今度だな、今は対馬基地に無事離陸させるのが先決か】
【は、はい】
名前か……もし入間軍曹が黙っていたら、僕は果たしてどうなっていたんだろうか? 一日中腕立て伏せをやらされていたのだろうか?
そこからは、特に余り大きなサプライズもなく、無事に対馬の基地に僕だけが無事に離陸する事ができた。
直接この目で見る事は叶わなかったが、入間軍曹殿も感激するのほど、今回の敵にしても小隊の活躍も中々気合が入ったものだった。
その時小隊に囲まれて、笑顔にくっきりとえくぼが似合う姿を見て、浮島曹長の言ってたのもまんざらじゃないなと、この時一瞬だけ思った。
(一瞬だけと断りを入れたのは、後日僕を見つけるや否やその形相は般若の如く変身を遂げ、腕立て、基地内外周、スクワット。異動に際した小隊全員分の荷物運び、等のまさに鬼畜の所業という言葉さえぬるい命令を下したからだ)
こうして僕の記念すべき、鮮烈とも言うべき演習以外での初フライトは終わった。




