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初陣 4

「くっそぉ、操縦が」


 悶絶するレイナを尻目に、敵との会戦どころか、僕は離陸すら危ぶまれる状況に陥った。


【空賀機、ユー連哨戒部隊と遭遇、これより掃討に移ります】


【了解した。任務を続行しろ】


 部隊用の無線では、どうやら作戦にない敵部隊との遭遇戦が開始された模様が示唆された無線が飛び込んできた。


 その急先鋒を努めるのは、恐らく勇次の操縦する空賀機だろう。


 空賀は機動性、及び攻撃性に特化した。現代版の零戦だ。そんな解説を聞いたのは、確か一昨日の夕刻だった。


 あの後この富嶽とレイナの機体を紹介されてから、浮島技術曹長の担当になったのは、結局僕と勇次を含めた数名だった。


 その中でも、模造機(レプリカント)側をメインで乗り回そうと考えた連中が多かった結果、最初の浮島さんの受け持ちになったのは、僕と勇次の二人だった。


 さながら個人レッスンにも似た状況だったので、それぞれの機体特性の差を色々と聞く事ができた。


 僕だって、もし模擬演習並の隊列移動でエンストを起こす様な機体以外での操縦適性があれば、そっちに行ってたはずだ。もしそうなっていれば、恐らく浮島曹長の受け持ちは勇次独りだっただろう。


 誰にでも乗りこなせると名高い、汎用性一位の紫電シリーズのいずれかに乗っていたら、僕だって今頃は……緒戦で大活躍! とは行かないだろうが、せめて勇次のサポートぐらいはできただろうし、共闘もできたんじゃないだろうか?


 そう思うと、なんだか切ない気持ちで一杯だった。


「空賀の強みは、その機動性、特に旋回能力と回避力による一撃離脱の戦術だろうな」


「スピードの加速力も中々のものだが、如何せん装甲回りが弱い。そこをいかに佐々木二等の腕でカバーできるかどうかが鍵だ!」


「当たらなければどうということはないですよ」


「おぉ! 君も中々言うねぇ」


「そして、それに引き換え、富嶽機は元々巫女付きの黎明期に発案された、元の原案が大型機だったらしくてな、防御性能の高さは目を見張る物があるよ」


 しかし浮島曹長は、それ以外富嶽については何も言わず、その後も空賀の特性や長所を語り尽くしていた。




(大体、装甲が優秀でも、そもそも敵に会戦できるまでに、こっちが一緒に行軍できなかったら、意味がないだろ……)


「あー、わたがしを、いっぱい詰めて、倉庫の中の圧死したい~」


「ねぇ、も う そ ろ そ ろ 黙ろう?」


【あ、聞こえてるか。あー、あー】


 その時、無線から浮島曹長らしき声が聞こえてきた。


【そ、その声は浮島さん?】


【黒江ぇ、入間だけど聞こえてるかい?】


【はい、聞こえてます】


【まぁ、こうなる事も想定していたから、新人共の専属技術者も今は対馬の基地に居るんだよ。余り公にしたくはなかったんだけど……と……っ!】


 一瞬、入間曹長の無線が途切れかかる。そういえば小隊の声も段々減ってきた気がする。いよいよ本格的に戦闘中の様子だ。


【おっと、危ない危ない。中々やるね。ユー連の敵さんも。でも頭数そろえれば良いってもんじゃない事を教えてやるんだよ! おまえら!】


【ラジャー!】


【了解であります!】


【あ……浮島だけど、このままだと干渉しちゃうから個別型の無線周波数に切り替えてくれ、黒江、周波数帯は今から俺が教えるから】


【は、はい】


 個別型の無線機に切り替えると、当然ながら僚機からの応答もなくなり、すっかりコックピット内部は静かになってしまった。レイナが発狂しているというただ一点を除けば。


【まずは、巫女付きのリカバリーが必要だ。一旦レイナを休止モードにしてやってくれ、そのままだと内部プログラムが破損しかねない】


【了解です】


 ポチッ。


「あんっ♡…………」


 しかし…………OSを休止させるのが巫女のおでこを数秒触れ続ける。なんてシステム設計にしたこの開発創始者は、きっととんでもない変態さんに違いないだろうと、ほぼ確信した。


 荒れ狂う毒電波を撒き散らしながら、雄叫びを上げるレイナに触れ。そして休止させていく過程でついつい考える。


 さっきの狂気っぷりがまるで嘘のように、ものの数秒で大人しくなったレイナは、目を閉じた。


【すー、すー……Zzz】


 こんなにも不完全なシステムを、この発案者は何を考え、何を想いながら設計したのだろうかと……。

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