初陣 1
「いやぁ~ぁっ やめて、マスターそんな……」
「う、うるさいっ! レイナがいけないんだ! 大人しくしろ!」
「ちょっとヤバすぎます……よぉっ、あふぅ」
「だいたい わたしたち。まだ初めてなのに、あぁぁっ!」
「誰だって最初は初めてだろ! も、もう少し、やれないのか?」
僕は操縦桿を力強く上下運動させて、ブーストをスロットルの限界ギリギリまで稼動させた。
それに加え、さらに激しい刺激を与える。
「はぁ……はぁ……」
「うわああああぁぁ~」
「いやぁ、もうだめぇぇぇ~っ」
ちょうどレイナが絶叫すると、ポフンッという間伸びした音がコックピット内で響いた。
ブースターメーターが、限界を超えて、一回転しはじめた。
あらゆる計器が、踊りはじめる。
「はぁ~ あっはっは~ 今日は絶好のBBQ日和ですぅ」
モニター中央の右側に、メッセンジャーが来ていた。
とても、こんな状況では小隊の無線通信をONにする訳にもいかなかったので、僕としては、しばらく小隊内の無線を遮断していた。
しかし、恐らくそんな秘め事でもするようなパイロットは僕だけだったのだろう。(いや、秘めたくだってなるでしょう? こんな状況なら……)
流石に上官から直接応答が来ている状況で、それを断る訳にもいかなかったので、僕は無線の周波数を小隊側に合うよう調整した。
【おい、黒江二等。隊列から遅れているが、お前大丈夫か?】
入間軍曹から連絡が来ていた。無線応答のパネルをタッチして応答する。
黒江は本当にここがコックピット内でよかったと痛感した。
僕はさっきの話を聞かれずに良かった。と内心ほっとしたのだが、その一縷の安堵は、一瞬にして粉砕されたのだった。
「ひつじがいっぴき。ひつじがにひき~~ あば~~」
【は、はぁ?、ちょ……レイナ! おい!】
【おやぁ~】
【なんーか変なの聞こえなかったか?】
【お前ら、うるさいぞ。作戦に集中しろと言う入間上官の指示が聞こえなかったのか?】
【ぐ、軍曹。遅れて申し訳ありません……】
【おう、どうした? 早く隊列を戻せ。 どうしてもと言うなら、ブースターを大幅に使ってもかまわんぞ、止む終えない状況だからな】
【そ、その、それが……えっと】
【どうした? ミサイルの誤射でもしたのか? その程度なら目をつぶってやるぞ? 俺は優しい方だからな、それより今の声はなんだ? まさか女でも連れ込んだんじゃないだろうな?】
【黒江ーお前見かけによらないな?】【お、女だってー うっひょー】
誤解です。こいつはもう巫女付きですらない。ただのアホです。
【だから静かにしろっていってるだろぉぉ、あああ~軌道がぁ――ウッ】
それなりに演習で乗りなれてはいるとはいえ、流石に三回転半はないでしょ。と思わず口許を押える。
【じ、実は止む終えなかったので、ブースターを使い続けたら、その……ブースターがオーバーヒートしました】
【なにぃ~っ!】
【レイナわぁ~、えへへ、ラム肉のぉ~対空砲風味がいいですね~】
いや、それってどんな味だよ! 薬莢の味しかしねえよ。
【ちょ、レイナっ!】
【あ~、なんだろ。なんか変なのが聞こえた気がするが、俺は何も聞いてないからな】
【シメサバと】
【らっきょうは】
【最強の組み合わせです♪】
はぁ……――――。
そういえば、聞いたことがある。
巫女付きは自己の能力で機体の機動修正や速度修正を行うのだけど、パイロットと行きたいと思う方向性と必ずしも一致する訳ではない。
それがあらゆる意味で合わなくなってしまい。
その許容度を大幅に超えてしまうと……。
【あぁ――刻がみえる】
拒絶反応を起こして。
【やぁクラムボン。今日の夕飯は蟹味噌? 共食いかっ!】
様々な変異を起こしてしまうのだと……。
そんな所まで人間みたいに設計する必要もないでしょうと、この時ばかりはシステムの創設者を激しく恨んだし、それ以上に困惑した。
【メインディッシュは海老のチリソース和え。ってだから共食いかっ!】
暴走巫女は止まらない。
【所で、どうしたら、いいんですか、ね。これ】
この言葉が今の状況を示すには最も的確だろう。
どうしてこうなった……。それは僕が一番聞きたい。
でもこうなったのにはちゃんと訳があるんです……本当なんです。信じてください。