戦場に突きつけられた刃物
「うわあぁあぁああああぁぁあ―――――」
足元から吹き付ける風に負けそうになるのに
あたしが落ちる速度は一向に変わろうとはしなかった
遙下の足元には地面かまるでゴミのように小さい
この分だと地面に到達してしまうにはまだ先なようだが
どっちにしろさっきの状況と似たり寄ったりであたし自身危険なことに変わりはない
どうしたらいいのッ?
応えてくれるはずもない疑問はあたしの頭の中をグルグルと回って落ちる
何か、何かしないとあたしはこのままじゃ――――
あたしが手に握ったままの龍崎の傘はひらいたところでどうなるかくらい高が知れてる
もうだめ――――なの?
あたしが諦めかけて覚悟を決めたその瞬間、あたしの下から爆音が響き渡った
バアァアァアアアアアァァアンッ
あたしはあまりの音の大きさに身を捩って遙下を見た
あれは・・・・・・船?
あたしの目からはどう考えても船にしか見えないようなやたら大きなものが二つ見える
一つは端から煙が出ていてもうダメそうなのが一目で分かった
その船にあたしは落ちて行ってるから当たり前なんだけど近づいてるのは――――
船にぶつかるっ!
怖いくらいのこの速度でぶつかったら―――
「誰かたすけて――――」
あたしが叫んだその瞬間、持っていた傘を勢い良く何かが引っ張った
ガシッ
「何だ、餓鬼か?もしかしてこの船の船員じゃねぇだろうなっ!」
あたしの傘を勢い良く掴んだ喪服姿のような黒い服を着たこの男は、あたしを見るなり怒鳴りつけた
あたしは驚いて手を離してしまいそうだったが、まだ足が地面についてない空中になっていることに気づいて全身の力を手に込めた
あたしはほぼ宙吊りになっているのだ
あたしの命を支えてるといってもいいこの黒い服の男はドラゴンのような不可思議な生き物に乗っているようだった
怖い
意味の分からない生き物と男の罵声に
あたしは喉まできたその言葉を飲み込んだ
どうしようもない震えがあたしを襲った
「おい、そいつは関係ないだろう!早く火を消せ!」
「ちっ・・・・運が良かったな餓鬼」
「え?ちょっ待って―――」
あたしがまだ言い終わらないうちに男は傘から手を離してしまった
え?
世界がスローモーションになったように
まるであたしだけが時を握ったかのような錯覚
でもそれは本当に一瞬だった
「うわあぁぁあぁあぁあああ――――」
ダアァアアァアンッ
「・・・・・痛い」
さっきよりも船に近かったおかげなのか本当に一瞬で痛い床にご対面だ
あたしが起き上がろうと顔を上げたときにはもうすでに火の手はそこまで来ていた
どうしよう
あたしはとりあえず立ち上がると火の手が無いほうへと駆け出した
やばいやばいやばい
脳ではすでに危険信号が出ていてあたしの身体を突き動かした
さっきまで隣の船はまだ飛び移れるくらい近かったはず
あたしがようやく火の手から免れたその時、視界を遮っていた煙がようやく晴れた
そこにはあたしには考えられないような光景が広がっていた
「うおぉおおぉおお―――――!」
「大砲用意!」
「撃て!!」
「八番班位置に着け!」
「お前らは先に行って逃げる用意だ!」
「手が空いてる船員は救助にあたれっ!」
さっきまでの黒い服の男たちとボロボロの服を着た身長も体格も区々の男たちが剣を手に戦っているのだ
「え・・・・なに此処」
幾人もの人が血を流している横では金色に光る財宝を手にして逃げ惑う人も居た
あたしはただ呆然と突っ立っていた
意味が分からないのと分かりたくないのとで頭の中がグチャグチャになっていたからだ
「うわあわあああああああん―――――」
「!」
あたしは小さいくて幼い泣き声にはっとして辺りを見回した
何処?
その泣き声の主は意図も簡単に見つかった
隅のほうに―――傍らには誰かが居たが―――泣きじゃくっている赤ちゃんがいたからだ
はやく―――
あたしは考えるよりも先に足が勝手に動いているのを止められなかった
「大丈夫っ?」
「わっ!」
「うわわああぁあぁああん」
小さな赤ちゃんは怪我はないようだった
「よかった・・・・・」
あたしは安堵のため息と共に疲れが身体を襲っているのがわかった
「・・・・・誰だお前、この国のものじゃないだろ」
「え?」
あたしが振り返るとそこには
あたしに向かって刃物を突きつけながら鋭い目で睨んでいる黒髪の少年が居た
「いや、あたしはこの子が心配だっただけで怪しいものじゃ―――――」
と言ってて自分では自信がまるでなかった
空から落ちてきたのだ
不信がられて当然だろうし、ましてや此処は戦場に近い状況だ
敵と見られたって文句は言えまい
「どうやってこの船に乗り込んだんだ?この船は王宮のもののはずだろ」
「あたしにはよくわかんない・・・・・んです」
「は?どういうことだよお前説明しろ」
少年はさっきよりもより一層あたしに刃物を突きつけた
あたしの額には脂汗が滲んだ