試験スタート
じわじわと迫るような暑さに、あたしは瞳を開けた
あたしは今度は何処に来たのよ・・・・
気が付くと、あたしは仰向けになるようにして寝転んでいるのが分かった
少し痛む背中を押さえつつ、あたしは立ち上がった
「また・・・・・扉なの?」
あたしの目の前には蝋燭のような消え入りそうな光を淡く放っている重々しい扉があった
「しょうがない・・・・・かな」
あたしはゆっくりとドアノブのような窪みに手をかけて扉を引いて開け放った
ギィィッ――――
中は何処かおかしくなったペンキを塗りたくったような暗闇に包まれていた。あたしは足を踏み出して前へ進んだ
さっきとはまた違ったような暗闇に、あたしの心臓は大きな音を立てていた
これって試験――――のはずなんだったけ?
不意にあたしの足が止まった瞬間、後ろから大きな音がした
バタンッ
あたしは驚いて後ろを振り返ると扉は閉まっていた
「えっ?」
あたしの声だけが反響して狂ったように響いた。蝋燭の灯が消えた―――扉が閉まってしまった今、暗闇の中にはあたしに見えるようなものはなかった
どうしよう・・・・
あたしが途方に暮れかけたその時、どこからともなく生暖かい熱風とともに淡いほどの光が差してきて、暗かった視界が開けた
「何・・・・・・コレ」
あたしの目の前には司法に伸びた道の先に様々な花の模様が描かれた扉といくつかに連なってあたしの目の前を塞ぐかのように立ちはだかっている意味も無さそうな石像が飛び込んできた
一体何がしたいのだろうか?あたしがあきれ果ててため息をつこうとしたその時、突然石像が口を利いた
『汝、何を望んで此処へ来た』
「え?」
あたしはあまりに唐突な台詞に驚いていて、何のことを言われてるのかさっぱり分からなかった
今この石像しゃべってた―――――?
「その話はさっきしたんじゃなかったですっけ?」
おかしい。明らかにおかしい。語尾がおかしいぞあたし。もっとしっかりしないと・・・・
あたしの頭は完全に訳が分からなくなっていて混乱して使い物にならない。そんなあたしを畳み掛けるように今度は違う石像が話し始める
『汝、何を望んで此処へ来た―――信頼か』
「え?ちょっと待ってまだあたしは――――」
あたしの声は届いていないのだろうか?混乱しているあたしのことを尻目に石像たちは次々に話し出した
『汝、何を望む―――知恵か』
『汝、何に望む―――正義か』
『汝、何が望む―――悪か』
『汝、何を望む―――勇気か』
『汝、何が望む―――孤独か』
『汝、何を望んで此処に来た――――今答えて今選べ』
だからさっきから何だっての・・・・
あたしの耳には後半のほとんどが右から左へと流れ出てしまっていた
あたしがもしも願うとしたら早く此処から帰してほしいよ・・・・・それに答えろって言われてもなんのことだかあたしにはさっぱりわかんないし、選ぶなんて出来っこない
あたしは早く此処から出ようとして、何でもいいから扉を開けることにした。あたしは石像の言葉をほぼ無視して歩き始めた
「とりあえず順番に端から開けてみて――――」
バアァアアアアアアァンッ
あたしの背後からもの凄い轟音が響き渡った
「何の音――――?」
振り返ったあたしの目には信じられないような光景が飛び込んできた。さっきまで動きもしなかった石像が鎌や剣などの何だか様々な思い思いの物騒な道具を持ってあたしのことを追いかけ始めている
やばい。あたしの身体は反射的に走り出していた
「嘘――――でしょっ?」
いや、本気だ。これはマジだ。捕まったりしたらどうなるかくらいあたしにだって予想はついている
あたしは迫り来る怖さを抑えて一番端にあった薔薇の花の扉に手をかけて開けた
お願いっ!此処であって―――
あたしの願いも虚しく、そこにあったのは刺々しい茨の花だった
「此処じゃないのっ?」
後ろには石像が迫ってきている
「あぁもうっ!」
あたしは駆け出して隣の扉―――林檎の実に白い花の扉に手をかけてあけた
「今度こそ・・・・・・ってえぇ?」
あたしが扉を開けた途端、流れ出るように何十冊の本がバラバラと雪崩れ落ちてきた
「何処の扉を開けたら―――」
あたしが駆け出そうとしたその瞬間、頭上で大きな音と共に砂埃が舞った
ゆっくりと上を見ると、あたしの頭上ギリギリに剣が突き刺さっていて、その壁は見事に崩れ去っていた
あたしは血の気が引いていくのが分かった。このままじゃ帰るどころの話じゃないっ!あたしは石像たちから逃げるために、一番遠くにあった扉まで走ることにして一目散に駆け出した
「どうか此処で――――!」
あたしは菊の花の扉に手をかけて勢い良く開け放った
中には井戸のようなものに溢れんばかりの水があった
「此処・・・・・なの?」
あたしの後ろには、さっきの剣を引き抜いてきた石像たちがもうすぐそこまで来ていた
もうコレに賭けるしかない
「いけぇっ!」
あたしは井戸の中に飛び込んだ