向こう側
暗い、此処は――――
此処は何処だ?
あたしがゆっくりと瞳を開くと、其処は何もないただ暗闇だけが広がる空間に居た
此処は何処?
あたしのその問いに答えてくれる人は居ないようで、辺りは風の音一つしなかった
何処だ、此処は・・・・あたしは一体――――?
怖いぐらいの震えがあたしを襲った
膝がガタガタと揺れだしてあたしは一歩も動けなくなった
怖い・・・・・のかな、あたしは
思ってもみなかった恐怖心にあたしはしゃがみ込んで力強く歯を喰いしばった
怖い
震えはより一層止まらなくなってあたしを追い詰める
怖い
「誰か・・・・・」
怖い
あたしは誰も居ない此処で無意識に叫んでいた――――自分でも気が付かないくらいに
「誰かぁ!」
怖い怖い怖い怖い怖い怖い
あたしの声が虚しく遠のいたその時、何処かで声がした
『お主、何用で参られた』
「え?」
それはあたしの頭に直接響くような声だった
でも、それでいて優しげで、温かみがある―――でも威圧感があるような不思議な声だった
姿の見えない声にあたしはどうしていいのか分からなくなって、その場にしゃがみ込んだままただ上を見てその声の反応を待った
『何用で参られた』
「えっと―――いや、用っていう用はないんですけど、そもそも此処は何処―――」
『もう一人居ったのか・・・・・』
「はぃ?」
その声は何故か驚いたように、呟くようにため息をついていた
何かあったのだろうか?それともあたしは何かしたのだろうか?
『お主、願いはなんだ』
「願い―――?」
あたしの願いは何なのだろうか?いきなり突然の質問にあたしはかなり戸惑っていたが、身体の震えは消えていて、しっかりとした声が出ていた
この声に安心したのだろうか?あたしは自分でも気が付かない気持ちに安堵して、喰いしばっていた歯を解いている
「分かんないや、そんなこと」
あたしの口からは思っていやよりも素直に答えが出ていた。正直、これがあたしの気持ちだった
分からないのだそんなこと。もし今応えてしまったとしても、ただの一瞬であたしはもう違うことを願っているかも知れないし、もう願いが必要じゃなくなるかもしれない
声はあたしの答えに驚いたように言った
『分からない?願いだぞ?何だっていい、どんな事でもいいんだぞ』
「・・・・・やっぱわかんない」
どうしてあんなに焦ったように言うのか、あたしにはさっぱり分からなかった
何かあたしは間違っているのだろうか?
分からないのだあたしには。どうしたいかなんてまるで見当がつかない
その時、声はあたしを見透かしたように言った
『間違ってはおらん、案ずるな。わしがお主に言ったのは必然なのだ、今にきっとわかるじゃろうよ』
「?それどういう意味?」
『此方に来れば分かること、お主にはまだわしの姿は見えるまい』
「そっちに行く?だって此処には何もないんじゃ―――?」
『お主が願わなかったのもまた必然――運命じゃ、健闘を祈っておる』
「え?何言って――――」
ガシャンッ
少し不可思議な音がしたその一瞬のこの刹那
あたしの身体は宙に浮いた―――いや、堕ちた
『試験開始じゃ』
あたしの耳には声が儚く遠のいて、また訳の分からないならくの底に堕ちた
あたしの頭の片隅には眞子ちゃんのあの青白い顔が思い浮かんだ
ごめん眞子ちゃん、明日は一緒に来れそうもないよ・・・・・
眞子ちゃんの顔は一瞬で溶けて消えた
「うわああぁあぁあぁぁああああっぁぁあ―――――――」
『コレはお主の運命を決める必然の定め。道しるべは運命がお導き下さるじゃろうよ』
暗闇のなかには声の笑い声と、あたしの叫び声がこだまして響いていた