登りだした道
「ほら、此処だよ!例のマンション」
「・・・・・本当にここなの?」
「うわぁ俺超楽しみなんだけどっ!」
「すっげぇまぢツエェ!」
いや、そのコメントはぶっちゃけどうかと思うわ
あたしはガックリと肩を落としてため息をついた
どうして此処が強いと言えましょうか?
ただのボロボロの工事中のマンションを見て女子達はけっこうな思案顔だが訳もなくただ「キャーキャー」と騒ぎ立てている。一方の男子の面々は何故か強いだの強くないだの訳の分からない言い合いをしている
どうしてこんなボロいマンションでそこまで騒げるんだ・・・・・?あたしがその疑問を眞子ちゃんに向けようとして顔を上げた瞬間、あたしの目には満面の笑みの眞子ちゃんが居た
どうしてそんなキラキラ顔ができましょう?
「リツっ!すごいよ!此処がまさかあのマンションだったなんてさ!」
「うん。でも本当かどうかまだわかんな―――――」
「じゃ、上ってみようぜぇ!」
「さんせ〜い!!」
「ほら、リツもはやく!」
「え?あっうん」
眞子ちゃんはまだあたしが話していたのにもかかわらず、あたしの腕をグイグイと引っ張って階段に足をかけた
「ちょっ待って眞子ちゃんッ転ぶからッ力いっぱい転んじゃうってばッ!」
「はやくしないと日が暮れちゃうでしょっ?」
「・・・・なんでそんなに嬉しそうなわけ?」
「気のせい気のせい」
そんな階段上るところから嬉しそうな顔しなくたって扉は逃げないでしょ?しかもこのマンション思ってたよりも高そうだし――――あたしは前に向き直って足を進めた
階段は思っていたよりも高く、急に造られていて上るごとに息が上がった
まだ上るの?あたしは先頭で上っている男子に声をかけた
「ねぇ、いつまで上ったら屋上につくの?」
「お・・れもわか・・・・・んねっぇ!」
「・・・・大丈夫なのそれ」
眞子ちゃんも辛そうに息を弾ませている。どうにかしないとこのままじゃ皆倒れちゃうんじゃ・・・・?
あたしの脳裏にはこのままの状況から安易に予想がつく最悪の状況が浮かび上がってきた。このままじゃやばいんじゃ・・・・・
あたしが「疲れたのなら少し休もうか?」と言い出そうとしたその時、あたし達の目の前に見慣れた顔の少年が現われた
「小林・・・?」
「あっお前ら―――どうして此処にいるんだよ?もしかして龍崎を追ってきたんじゃ――――?」
「お前なに言ってんだ?」
「大体どうして此処にあんたが居るのよ?」
「さっきまで、マヒロ君追ってたんじゃなかったの?」
そこに居たのはクラスメイトの小林だった。皆に口々に言い寄られてまるで摘まれた狐のような顔をしていた
どうして此処にコイツが居るんだろう?
あたしが思っていた疑問は皆が思っていることと一緒だったようだ
「いや、マヒロは上に―――」
「龍崎も此処にいるのか?」
「あ、あぁそうだけど・・・・」
小林は戸惑ったように下を向いて唇を噛み締めていた
「お前らこそどうして此処に居るんだよ」
「え?俺ら?俺らは探検っていうか・・・・なぁ?」
小林と先頭の男子は親しげに会話をしている。あたしは飽きてしまった疲れからかその場にしゃがみ込んだ
もうダメっぽいなぁ。あたしの姿を見た眞子ちゃんは心配そうに声をかけてきた
「リツ?どうしたの?大丈夫?」
「うん大丈夫。でも眞子ちゃんのほうが――――」
眞子ちゃんの顔は血の気がなく、青白い。早く此処から出ないと・・・・眞子ちゃんは多分限界なんだろう
あたしはリーダーとして仕切っていた先頭の男子に声をかけた―――なるべく大きい声で
「ちょっと!」
「え?何?日乃川?」
「もう十分でしょ?はやく帰ろうよ!」
「は?でもまだ屋上まで行ってない――――」
「眞子ちゃんが苦しそうなの!ツベコベ言ってんじゃないわよ!上はあたしが見てくるからあんた達ははやく眞子ちゃん連れて帰んなさいよ!」
あたしは精一杯の大声で怒鳴り散らした
あたしの迫力に負けたのか、男子の声はさっきよりも小さくなっていた
「わかったごめん」
「もう早く行きなさいよ!」
「リツ、あたしは大丈夫だよ?」
「大丈夫なわけないでしょ眞子ちゃんは。あたしが明日見てきたこと話すから、気に入ったら明日あたしと一緒に来よう?」
「・・・・・わかった、リツありがとうね」
眞子ちゃんは青白い顔でもにっこりと笑った。あたしはその笑顔に安心して大事なことを忘れていた
あたしさっき自分でなんて言ったけ?たしか勢いに任せてあたしが見てくるとか――――言ったりしなかった?
「じゃ、日乃川あとは任せたぜ!」
「よろしくね、リツじゃ、また明日!」
「うぅ・・・・・うんじゃぁね」
なんてこと言っちゃったんだ、あたしは?皆の後姿を見送りながらあたしは深くため息をついて上へと上りだした
今までより上なんて、此処はいったい何階までの予定で建てられたんだろ?自殺だなんだで気味悪がって工事中って言ってもこのまま放置しとくなんて危ないに決まってるのに・・・・・
息を切らしたあたしはようやく最後の段に足をかけた
「やっと・・・・・かな?」
あたしは目の前のドアを開け放った
「まぶしい――――」
やっと屋上に着いたあたしの目に夕焼けの明るい日差しが差し込んできた
閉じていた瞳を開けるとあたしの眼に前には見慣れない大きな扉が見えた
「これ・・・・・・なの?」
あたしは閉じていた扉を勢い良く引いた
扉は思っていたよりも軽がると開いた
「なぁんだ思ってよりも簡単に――――」
その時、あたしの背中を勢い良く強い風が押した―――いや、違う
扉の中に向かって勢いよく風が吹き込んでいる
「!」
あたしは扉の中に引き込まれた
「え?うわぁぁあああああぁああぁああ―――――――」
扉はあたしを一のみすると、音もなく閉じた