憂鬱と雨
土砂降りの雨の音にあたし――[日乃川 リツ]の気分は急激に下がった
傘持ってきたっけ?
帰りのHRが始まって、あたしは何気なく窓の外を見ていた
曇っている空は何処かのネジが外れてしまったように泣き崩れてしまっている
あたしはため息をついて前から回ってきたプリントを後ろに回した
どうしてこんな日に限って傘もってないのかなぁ
「―――というわけで日乃川、あとは頼んだぞ」
「えっ?ぁはい・・・・?」
どうした、あたし。頼まれるようなそんな面倒くさいことしたか?いくら考え込んだって分からないものは永遠に分からないままだ
あたしは後ろの席に向き直ると小声で話しかけた
「ねぇ、今なんて山先言ってた?」
「またあんた山田先生の話聞いてなかったの?ほんとにもう・・・・・」
「ごめんっ眞子ちゃん!この埋め合わせは必ず・・・!!」
「はぁ・・・しょうがないなぁ」
ため息をついた主―――眞子はしょうがないとは言いながら薄く笑って返事を返した
「明日の日直あんた達でしょ?龍崎と一緒にやるからって言ってたの。もう、それくらい聞いときなさいよ?リツ」
「はぁい、さっすが女神様!話が分かってらっしゃる」
「はいはい、調子良いこと言わないの」
「わかってるってば」
眞子は「ほんとに分かってるの?」と言いながら笑っていった
「そういえばリツ“開かずの扉”って知ってる?」
「ん〜?なんのこと?」
「え?今日皆話してたじゃない、また聞いてなかったの?」
「・・・・そうだったけ?」
「もう・・・・」
今日そんなこと言ってたっけ?開かずの扉?なんだそれ
あたしは考えても分からなかったので、どうしようもなくなって結局眞子に聞き返した
「で、それ何の話?」
「ほら、最近噂になってる都市伝説のことだよ、ほんとに知らないの?」
「うん」
「どっかの高い・・・いや、違うかな。誰かが自殺したっていうもう廃墟になってるマンショ
ンの屋上に何処かに通じるドアがあるんだって。んで、そのドアを開けた者は自分の本当に望んでる願いが叶うとか叶わないとか・・・・」
「へぇ、暇な人も居るもんだね。そんな都市伝説なんで今頃皆信じだしてんの?」
良く考えれば今頃どうしてそんなくだらない伝説が話しの種になってるんだろうか?あたしの問いに眞子は困ったようにうなだれた
「それが分かんないんだよねぇ・・・・誰が言い出したのかも分からないし・・・・」
「へぇ・・・・」
誰が言い出したのかも分からないなんて随分曖昧なモノを信じるんだなぁ
あたしはあまり興味のない話題に飽きつつ、頬杖をつこうと前を向いた
まだ山先は話している。というかさっきよりも明らかに話しに熱が入っていてまだ終わりそうになかった
早く帰らないと濡れるんだけど・・・山先今日は一段と熱いなぁ
窓の外は一段と暗く、雨は一層強まっていた
「じゃ、また明日なぁ」
やっと話が終わった・・・・
あたしはランドセルを持ち上げてから肩に背負うと、急いで帰ろうと教室のドアに手をかけた
このままじゃずぶ濡れだよ・・・・・
その時、不意にあたしに声がかかった
「日乃川も行こうぜ!」
「・・・・何処に?」
そこまで仲良くない男子に女子の面々の中に――――眞子ちゃん?
「ごめんリツ・・・捕まっちゃって」
「眞子ちゃんが行くならいいけど・・・・・」
「ラッキィーやっぱこういうのは人が多いほうがいいよなっ!」
なんなんだこいつ等は?眞子ちゃんまでちゃっかり誘ってあるし・・・
「で、何処に行くの?こんな雨の中」
外は大降りでとてもじゃないが遊びに行けるような雰囲気じゃなかった
「何処って決まってんだろ、開かずの扉だよ」
「・・・・・例の都市伝説?」
「リツ興味ない・・・よね」
「眞子ちゃん興味満々だよねぇそーいう話ぃ」
「ははは・・・てゆーか“興味津々”ね」
「わかったよ、つき合ったげるよ女神様!」
「ありがとリツっ!」
眞子ちゃんが嬉しそうだからまぁいっか。とりあえずは濡れなくて済みそうだしね
「じゃ、行きますか!」
あたしたちは荷物をまとめると下駄箱へと急いだ
その時、下駄箱から大きな怒鳴り声が響いた
「待てよ龍崎!」
はぁい?龍崎?それってたしか――――
「うわぁまたやられてんじゃん龍崎」
「本当だぁマヒロ君かわいそぉ・・・」
あぁ、同じクラスのやけに女子からの支持率が高い龍崎 マヒロか
あんな容姿だからなのか、すかした態度気取ってるからなのかあいつはかなりの筋金入りの追いかけられやだ
「あっ傘投げた」
「どこ逃げるんだあいつは・・・・・」
足が速いなぁ。あたしは素直に感心しつつも上履きを履き替えながら眞子が差している傘に入った
不意にあたしの目にはマヒロが投げ出していった傘が飛び込んできた
「ごめん、眞子ちゃん先歩いててっ!」
「え?リツ?どうしたの?」
あたしは駆け出して、マヒロの傘を手に取った
「よかった、壊れてないや」
「リツ〜!早くっ早くっ」
「わかった眞子ちゃん今行く!」
あたしはマヒロの傘を持ち直すと、駆け足で眞子のもとまで戻っていった