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使え魔

「おい、リツ聴いて来れたのか?」


 あんな短い時間で聞いてこいと言うほうがどうかしていると思う

 鈍くうずく頭をかかえながらあたしは起き上がった


「その袋、貸して。黒いの」

 それが全部教えてくれるっておじいちゃんが言ってたから

 そういって、あたしは袋の方向を指さした

 でもア―グルはきょとんとした顔であたしのことを見た

「何言ってんだよ?黒い袋なんて何処にも無いぞ」

「・・・・?」


 いや、たしかにそこにあるじゃないか

 あたしは腕を引きずりながら袋に手をかけた

 やっぱり、在る


 あたしは黒い袋を両手に持ちながらア―グルのほうに向き直った

「ほら、これだよアル。黒いでしょ?」

 高くもちあげて見せる

 でも返って来た反応はちっとも変らなかった

「だから、何も無いじゃねぇかよ」

 そういって切れ目の瞳をうざったそうに開く


 どういうことだろう。ア―グルには見えないのだろうか

 その時、袋の中から声がした


『リツ、この袋の紐を解いてくれ。その空賊の少年にはこの袋が見えないはずだ。この袋に触れるのは魔法導師の資格を持つお前だけだ。早く解いてくれ』


 その声は暗闇の中で聴こえたあの声だった

 でもその声もア―グルには聴こえてなかったらしい

 さっきと同じ、壁に寄り掛かったまま窓の外を見ている


 あたしは重い手錠を腕ごと持ち上げて、袋の紐に手をかけた

 シュルシュルと音がして、紐が解かれる



 中からは真っ黒な色をした黄金色の瞳の猫が出て来た



「初めまして、新しい主」


 それはあたしをみながらそう言ったのだ

 途端、ア―グルから叫び声ともにつかない悲鳴が聴こえたのはすっかりあたりが暗くなった頃だった



 ◆ ◇ ◆


 

 袋の中からは猫のような狐のような動物が出て来た

 あたしの両腕で抱えきれるくらいのヒョロリとした細い身体は綺麗、というよりもしなやかという方が似合うきがする


「俺の名前はムーン、魔法導師の使え魔だ」


 畏まったような挨拶をされて、あたしとアルはぽかんと口を開けているままだった

「君、がそうなんだ。宜しくムーン、あたしはリツ」

「俺はア―グル」

 宜しく、というア―グルの声が震えていたのは気のせいではなく、いきなり(アルに袋は見えていなかったので)空中から出て来た猫のような動物に腰が引けているらしい

 ムーンは軽く頭を下げると、のんびりとその場に座った

「リツ、この格好だと面倒なんだが変化してもいいか?じゃないと説明ができない」

「え?」


 言われてる意味がわからない


 返事ができないあたしをみかねて、ア―グルの口が開いた

「反獣っていうのは、人と動物のどちらにでも身体をツクリカエルことができる種族の事で、自分の好きなように身体の切替コパードができるんだ」

 他にも種族がいるけど、今はとりあえずそれだけ言っておく。といってアルは頬杖をついた 

「へぇ、じゃぁいいよムーン」

 なんだか知らないことがいっぱいでわくわくしていたあたしの返事を聞いたムーンは「そうか」とだけ返事をした


 途端、ムーンはあの猫のような姿ではなく、人の姿になっていた


 年はあたしよりも少し上か下くらい

 身長も大体同じようにも見える。真っ黒い髪の毛と黄金色の瞳は変わっていなかった


「では主、教えるぞ」

 あたしはムーンの姿がかわったことに驚いていて返事が遅くなった

「え?あ、うん」

 大丈夫なんですか?

 ムーンはそういいながらあたしの手錠に手をかざした

 すると、ムーンの掌から淡い紫色の光がでてきて、音もなく手錠が外れた

「!すごいっ!」

「では、杖を」

 そういって、あたしはムーンから杖を受け取った

「ほいで、どうしたらいいの?」


「この杖には呪文などは不要です。一番始めに使う時だけ呪文で封印を解けば良い。ただし、この杖はあなた専用ですから、使え魔の僕と主以外は触ることができません」


「そうなんだ」


「いいですか、強くイメージしてください。なんでも結構です。おもいの強さだけ、あなたの魔法は現実リアルになります」


「・・・・なんか意外と簡単な説明なんだね」

 拍子抜け、というかなんだか力の無い笑いがはははと口の端から零れ落ちる


「念いを維持するのは並み大抵のことではありません。気持ちの強さで負ければ、自分にその対価が跳ね返ってきます。その痣のついた手でも杖のような強い魔法は使えませんがそれと同じ容量で魔法が使えますよ」


 ムーンがにっこりとそう言って微笑んだ

「跳ね返る―――――リバウンドか、・・・・・・・」

 その時、ア―グルの呟くような声がした

 リバウンド、そう聞き取れたのは間違いではなさそうだ

「リバウンド?アル、それなんのこと?」

 あたしが聞き返すと、ア―グルは困ったように唸りながら「聴こえてたのか」といって頭をかいた


「術者によくある自分の魔法が手に負えなくなって暴走するパターンのことだ。自分の念いよりも大きくなり過ぎた魔法は術者自身を喰らい尽くして、最期には術者が死ぬ」


 少しだけ、杖をもつ手が震えた

 怖いよりも恐ろしいと思うほうがはるかに勝っている


「まぁそんな魔法使うのなんてそうないから安心しろよ」

 ア―グルはにっこりと笑って、それよりもこの手錠取ってくれ。といって、あたしの前に両腕を差し出した

「うん―――――――」


 深めに息を吐いて、杖を握る手にちからがこもる

 イメージ、イメージ、手錠が外れることを考えればいいんだったよね?

 あの足についてる鎖も取れて・・・・



 途端、杖から蒼い光が出ていた



 カシャン、とア―グルの手錠と鎖は外れている

「大成功ですね、良かった」

 ムーンが声を出したとき、ア―グルは手足を動かしながら服についている汚れを払った  

「ムーン、お前は俺と同じ反獣族か。しかも魔力があるんだな」

 ムーンは目を見開いてア―グルを見た

「あぁ、この辺の空賊の頭はお前なんだろう。どうして人間の身なりでいるんだ?お前は切替コパードした方が力がだせるんだろう?」 

「それは、この方が王宮に目を付けられにくい、といってももうすでにご厄介になってるみてーだけどな」


 ア―グルも反獣族、ということは何かの動物にコパードできるんだろう

 あの船の船員たちも皆そうなのだろうか

 あの泣いていた赤ん坊も、ガンという男も・・・・・・・


 そこまで考えていたとき、誰かが階段を降りてくる足音と何かの動物の轟音のような鳴き声が鳴り響いた

 

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