夢と暗闇の中で3
「――――というわけで・・・・」
「ふぅん、そういうことか・・・・随分厄介だな」
「うん・・・・」
リツは自分から全てアーグルに打ち明けた
此処までのこと、扉のこと、夢のこと―――――
今までこの世界に来てからの出来事の全てを
「要するに、願いを叶える前提での魔法導師なのに唯の迷子の旅人ってことか?」
「まぁ、短く言えばそうかな」
「しかもお前そんな状態で連れてこられたのによく他の奴の心配なんかできるな」
あたしがハハハと苦笑いを浮かべると、「お人好し」と吐き捨てるように言ってから「まったくそれには頭が下がるぜ」と言って、膝をおってあたしの前に坐りなおした
「まず、この世界には大きく二つに分かれた伝説がある」
「うん」
「多分、それがお前に関係してると思うんだけどな俺は」
アーグルはそう言って、ゆっくりと話し出した――――
この世界―――パレスが誕生したのは今からずっと昔のこと
初めの生物―――つまり神様は女神との子供を此処ではない何処かへ落とした
「愛情が無かった訳ではない、愛せなかったのだ」そういいながら
まるで恐れるように子から手を放した
幾年もの月日が流れたある日
その子は自分自身の力で此処に帰ってきた
「求めたものはなんだったのか」神の子は震える神様に向かって言う
大地は燃えるように、天空は凍るように
全てが神の敵となる時、子は言う
「求めたものはなんだったのか」
震える声で助けを求める神―――父の前にその声はまるで泣き叫ぶように
冷たく突き放すかのように
子は右手を父に向かって振りかざす
父はしばらくの間、うわ言のように何か呟いていたが
パタリと動かなくなった
女神はその姿を見て恐れをなした
新しい神の誕生に身が震うほどの恐怖を感じた
―――策を考えなければ自分も
そう考えた女神は自己の力だけで世界を作り上げた
だが、その世界を一人で抱えきれるほど女神は強くなかった
疲れ果てていた女神の前に、神は姿を現す
父の時と同じ言葉を口にしながら
右手を母に振りかざした
謝る声も虚しく、女神は弾けとんだ―――だが、父の様ではなかった
七つの光をなって、女神が作った世界―――パレスに流れ込んだのだ
そして、その一つのナミダは神の前で泡になったかと思うと
神の全身を包み込んだ
ナミダが、頬を伝って流れ落ちた
こんなにも母の愛情に包まれていたのかと、神は初めて知った
せめてもの償いに、神はパレスに七つの国と大地を作った
そして言った
「求める願いに叶わないものはない―――ナミダを集めよ」
自分も願いの結晶なのだと言って、そこで自らの命を絶った
キューブのナミダとなって、神は地に墜ちた
神を失った世界には反乱と戦争が起こり、人々の心に影を落とした
パレスも例外ではなかった
七つの国が争うように国のナミダを奪い
女神に願いを叶えてもらおうと誰もが必死だった
人々は神の言葉を信じ、自分の欲のために全てを注いだ
そうまるで、あの頃の神様―――父のように
全てを手にしたものが現われた時、女神が現われた
「願いは――――」
虹のような光を放つ女神はそう言って問いかけた
俺に全てをくれ!
奴はそう言って狂ったように叫んだ
女神はその願いを叶えたとき、また二つに割れた
願いが大きすぎて、自分の身体をもう保つことすら出来なかったのだ
この世界があの子の残してくれたのもなら、せめてもう一度“光”を―――
女神は最後の力を振り絞って双子を産み落とした
勇者と魔法導師を
勇者は誰よりも強く、誰よりも優しく大地を守った
魔法導師は誰よりも賢く、誰よりも気高く海を守った
荒れ狂っていた世界を二人は鎮め、元の平和を取り戻した
だが二人は此処ではない何処かに恋焦れ、思いを馳せた
欠けていたモノを見つけたとき、二人の手にはナミダが握られていた
願いを叶えた二人は、扉を創り、それをこの世界の何処かに隠した
そして言った
「ここからきた者、後継者と為す―――以後何があってもこの二人がパレスを守り、光を切り裂き闇を飲み込む―――」
暗闇があろうとも、光が覆いかぶさろうとも
「永久に」
それだけ言うと、二人は彼方に姿を消したと言う
世界の英雄は今も何処かを彷徨い続けている―――――