夢と暗闇の中で2
「だれかぁ!だれかいませんかぁっ!!」
「・・・・・だからそれさっきから無理だってんだろ」
「いいの!今ちょっと大事なとこだってば!」
「あそ」
あたしたちが閉じ込められた此処
暗くて、湿っぽい床
硬い鉄の檻はどこか胡散臭いほど太く、厚い
窓は付いてるけど・・・・小さすぎてほとんど無いと言っていい
考えられるのは――――
あたしたちが居るこの場所は地下
さっきからこうして呼んでるのに、誰一人注意もしに来なければ
見回りのような人も居ない
人の気配すら、此処には感じられないのだ
「やっぱり誰も来ない・・・・・・」
「だから来ないって」
「なんで君は――あ、“若”だったけ?そんなマイナス思考じゃダメだよ?」
「アーグル―――だ、呼ぶときはアルでかまわない。お前は?」
黒髪の少年―――アーグルは、名前で呼ばれないのが嫌ならしく一瞬顔を歪めて言った
「リツ、日乃川 リツ。呼び方は何でもいいよ」
「変った名前だな・・・・もしかしてお前」
アーグルは少しだけ眉をひそめて言いかけた言葉を飲み込んだ
「ん?なに?」
「魔導師か?」
「いや・・・・・たしかそんなんだけど、魔法導師だってお爺ちゃんが言ってた」
いまいち意味は分からなかったおじいちゃんの言葉
ペンダントが導くって言ってたけど――――
そういえば、あたしペンダントどうしたんだっけ?
ハッとして、自分の首に手をかける
無い
どこにやったんだっけ――――
あたしが慌てて探し始めた時、アーグルが悲鳴とも似つかないような声を上げた
「それほんとかっ?」
「え?あ、うん」
「だからか――――ほら、それお前のだろ?」
「へ?」
アーグルが手錠で繋がれた腕の差すほうに目を向けた
「これ、さっきの・・・・・」
そこにはあたしが少し前まで握っていた杖があった
たしかあたしは―――――
「思い出したか?」
「うん。でもあんまり覚えてない―――杖を握ってからまったく」
「そうか。俺もそん時気ぃ失ってたから全然だけど、お前それ此処に来るとき離さなかったんだぜ?根負けしたオッサンたちはそのまま放置してどっか行きやがった」
そうだった
たしかあたしのペンダントは龍崎の傘と同化して、こんな良く分かんない杖になっちゃったんだった
それから―――――
強い光が出たとこまでは覚えてるのにそこからまったく分からない
さっき気がつくまでの記憶がない
この杖で何かしらしたのは本当みたいだけど・・・・
あたしの脳裏に、さっきまで戦場と化していた船の上が思い浮かぶ
お伽話のようなドラゴンに可笑しな扉、世界、老人、声――――
それは全部何処に繋がってるんだろう?
それに“願いを叶える”
ここに来てるってお爺ちゃんが言ってた龍崎は?
あいつは今何処に居るんだろ?
此処に来てるならあいつも連れて帰らないといけないのかな?
もしかしたら眞子ちゃんみたいに興味本位かもしれないし――――
考え出していたあたしの思考はそこでストップした
それには当然分かっておかないと
リツは真っ直ぐにアーグルを見つめた
「あのさ・・・・アル、教えてくれないかな?」
「何をだよ」
「この世界のことならなんでもいいの、色々――――今のこの世界のこと」
「世界だぁ?そんなのお前知ってるだろ?此処は此処だぜ?」
「そうじゃなくて・・・・・あたし帰りたいの、元の世界に・・・・できたら友達と一緒に」
「は?どういう意味だよそれ」
「それはあたしにもよく分からないんだけど――――」
窓の外にはもう月が出ていた