耳鳴り
「何者だ、お前は・・・まずはそこから説明しろ」
黒髪の少年はさっきよりもより一層あたしの喉元に刃物を突きつけた
怖い
あたしは手に持っていた傘をより一層握り締めて震えそうになる声を何とか抑えた
「いやあたしは・・・・それよりもうちょっと落ち着いて話そうよ」
「俺は十分冷静だ」
「いや、そういうことじゃなくってさ・・・・・」
あたしは何て言ったらいいのか分からなくなって、そこで言葉を切った
いい訳の使用がない
まったくと言っていいほどこの少年は間違っていないように思えたし、
自分の状況を考えて今は下手に言わないほうが身のためだと思ったからだ
とりあえずこの危ないものを避けてもらわないと・・・・
あたしが話し出そうとしたその瞬間、少年の後ろに黒い影が映った
ドサッ
「うっ・・・・」
「え?」
あたしが瞬きをしたその刹那、少年は見事にあたしに倒れ掛かるようにして前のめりになっていたのだ
何がおこったんだろう
あたしがそれを声に出す間もなく、頭の上で濁るように図太い声がした
「はっ!あっけねえもんだぜ!見ろよコイツ!」
「若!!」
「おい船員共!!良く聞きやがれ!お前らの大切なお坊ちゃんはこの様だ!」
「何てことするんだ貴様ら!」
黒い服の男たちは勝ち上がったように声を高ぶらせているが
反対に、「船員」と呼ばれる男たちは悲鳴のような声を上げていた
鈍い音がしていた――――あたしは慌てて少年の頭部を見た
「・・・・酷い」
あたしの手が真っ赤になってしまうようなその血は見る見るうちに床を濡らしていく
誰か・・・早く助けないとこの子は・・・・・・!
あたしが声を上げようとしたその時、少年はゆっくりと口を開いた
「ガン、心配すんな大した怪我じゃねぇから・・・・」
「若!でもその傷じゃ!」
「五月蝿ぇ黙れ」
「!」
その場に居た全員が一瞬身震いするほど、少年は凄まじい眼光を放った
この眼が今こんな死にそうな怪我を負っている人の眼だろうか
「でも・・・若ぁ・・・・」
ガンと呼ばれたその人物はまるで小さな子が泣き出してしまうような声を上げて顔を曇らせている
「あとで迎えに来てくれ、それだけ頼む。でも今は皆を連れて逃げろ―――言ってる意味は分かるよな?」
少年は息も絶え絶えにそれだけ言うと、ガンに向かってニッコリと笑いかけた
「はい!若の仰せのままに!野郎共!引き上げるぞ!幕引きの準備だ!」
ガンはさっきの泣き顔が嘘のような声を張り上げて一目散に駆け出していた
他の船員たちも大声で返事をすると、その場からまるで逃げるように駆け出し始めていた
その中の一人は、あたしの影で見えなかったさっきまで泣きじゃくっていた赤ん坊を抱えて逃げているのが見えた
よかった・・・・
あたしが胸を撫で下ろしたのもつかの間、黒服の男が声を張り上げる
「逃げるのか?!ふざけるな!!こっちにはお前らの大事な――――」
「待て!!」
「追え!今回を逃すとこの前の二の舞だぞ!」
黒服の男たちの静止も聞かず、船員たちは隣につけてあった船に見事に飛び移る
まるで大空を舞う蝶のようにその姿は身軽だった
「ホスナを使え!絶対に逃がすな!!」
そう言って、黒服の男たちはドラゴンに飛び乗っていく
そうこうしているうちに船員たちを乗せた船は見る見るうちに小さくなっていくのがわかる
「待て!泥棒海賊が!!」
叫び声も虚しく、船はどんどんスピードを上げて進んでいく―――
その後を散り散りになって追っていく姿が小さくなっていったその時、あたしの周りには黒服の男たちが集まってきていた
「・・・・で、その少年の身柄は王宮まで連れて行くとして、お前は誰だ?見たところ船員ではなさそうだな」
「あたしのことはあとでいいですからこの子の手当てをしてあげてください!」
あたしの手では押さえきれないほどの血が少年の頬を伝っていく
怖いほどのこのどす黒さはあたしを言い用もない不安と恐怖心でいっぱいにした
「はやくしないと死んじゃいますよ!」
必死だったあたしをまるで笑い飛ばすかのように男は言った
「は?なに言ってんだお前は?コイツはさっきの強盗犯の頭なんだ、行く途中で死んだって俺らには構わない。総理には戦場で野垂れ死にましたって言えば済む話だろ?」
「なに言ってんだよ!」
意味が分からない
この人は今なんて言ってた?
死んだって構わない?そんなことあっていいはずがない
罪を犯したなら、償うのが義務でしょ?
人の死をそんな簡単に決めてしまっていいはずがない
そんなこと、あっていいはずがない
この人は今なんていってた?
「ふざけんな」
「は?」
「ふざけんな!」
あたしが叫んだその時、言い様もない強い光がペンダントからあふれ出した
なにこれ―――
あたしは誰に言われるでもなく、傘を強く握った―――
いや、傘ではなかった
それは、さっきの光を放っているペンダントと同化して長い杖のようなものに変っていた
先端には丸い月の様な不可思議な魔方陣が描かれていてそこから光があふれ出している
あたしはゆっくりと、その杖を持って立ち上がった
「うわあぁぁああ!何だコイツは!」
まるで脳があたしに直接この杖の使いかたを教えてくれているみたいに
身体は何故か自然に動く
あたしは杖を床に突き立てるようにして口を開いた
「アラウカトロロラ」
消え入るようして、その言葉が終わると同時に床には杖と同じ魔方陣が浮き出て、船全体を覆うようにして広がった
「この迷えし汝、少年の心ある場所へと神風よ吹け――――」
床から強い光が放たれたその刹那
足元の力が抜けたかと思うと
あたしの視界はプッツリとそこで途切れた
あたしの耳には雑音のような男たちの声が
耳鳴りのように残っていた
話の進みが遅くて申し訳ないです・・・
中間テストを間ぢかに控えておりますので
次回はまた遅めになってしまうやもしれませんが
次回はテスト終わったらすぐにでも!って感じですので!宜しくお願いします!