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まずは反省会から… ―長月慶刀―

薄暗い部屋。

その中央にある青白い光を発するテーブル型のディスプレイのみが、この空間の光源となっていた。

場所は三四校視聴覚室。

と、言う名の特人科作戦会議室なのだが…


午前中に退院を済ませた俺はそのままここに連れて来られた。

一週間前の事や昨日のことなど、話すことがあるのだろう。

「まぁ…その、すいませんでした」

まず部屋全体に謝罪を述べる。

部屋の中には見知ったメンバー、隣にいる舞華以外の特人科二人と神山先生。

一週間も寝ていたことに対して罪悪感があったからだ。


「いえいえ~いいんですよ~誰でも失敗はありますって~!」

嫌味ったらしい笑顔の神山が体の不調を的確にミスと断言する。

当たり前だ。

体の不調などで相手が容赦してくれるのは競技だけだ殺し合いの場においては恰好の的になるだけなのだから。

だから、先生の言っていることは完全に皮肉となる。

「はい。大変申し訳ありませんでした」

この人と口論する気がない、しても勝てないのが分かっている俺は素直に謝る。

「…最近はつれないですね~こう、昔はもっときゃんきゃん吠え…」

「さて、お待たせした分を取り戻しましょう!」

お構いなしに煽り続ける先生を遮るように無視し会議を始める。

まだ子供みたいな声をあげる奴がいるが継続して無視だ。


今回の議題は主に二つだ。

一つは有知能型U/Sについて。

二つ目は俺が眠りについた翌日、つまり六日前の宣戦布告についてだ。


「まず、最初は一週間前に突如現れた有知能型U/Sについてですね~」

流石に先生が会議を仕切り始める。

「このU/Sは現在7体の報告が挙がっています」

「7体!?」

「えぇ…9体です」

「1区に3体、2区に3体、そしてこの3区に2体で計7体ですよね?」

優希が確認をとるように詳細情報を声に出す。

「はい~その通りです~。またそのいずれも人間によく似た外見をしています」

「全くもって厄介な奴っすね…」


その後の情報を要約すると、こうだ。

まず現在まで殺人だけをする獣をU/Sと呼んでいたわけだが今回の件で有知能型が確認された。

有知能型は人間に形がよく似ているのが特徴で、7体の確認がなされている。

いずれも高い戦闘能力を示すが大した損害を出さずに撤退している。

日本の全3区に出現していることから組織である可能性が高いこと。


「てかホントにこれU/Sなんすか?」

今更な疑問を颯がつぶやく。

「まぁほとんど間違いないでしょうね」

「なんで、そう言いきれるんですか?」

舞華も確信が持てずにいるようだ。

「それは、見た目が似ているってのが第一だが、斬りあった俺は断言できるぞ」

「そうなの?」

俺は奴の刃を受けた感触を出来るだけ分かりやすく説明していく。


自分の刀に使っているWE合金

これは俺が作り出したWEが有って初めて作れる超硬度金属だ。

これで作った刀をもってしても互角の硬度だった。

正面から打ちあったのだから当然だ。

あれはWEを扱える俺達、特人科以外の者、つまりU/S以外にはありえないというわけだ。


「なるほど~つまり長月君は敵の刃の性質が自分の刀に近いものだと?」

「はい、あれはWE合金と言っても過言ではないかと」

「破鉄君の方はなにかWEを使った感じはありませんでしたか?」

「あ!そういや相手が蹴りを出すときに踵のあたりが爆発したような…」

「いや、アンタもう少し早く気づきなさいよ…」

呆れた様子の優希の反応に少しだけこの場の空気が和らいだ気がした。


しかし、議題はさらに悪い方に移る。

六日前の宣戦布告についてだ。

敵の発言が正しければあと3週間余りで人間とU/Sの全面戦争が始まる。

今までU/Sは壁の内側つまり柵から1キロ以上離れていれば攻撃をしてこないというのが基本であった。

しかし、前回の襲撃は自分から柵を破り、中に侵入してきた。

つまり奴らは攻撃していなかっただけで、攻撃することはできたことになる。

ならば柵など使い物にならない。

U/Sが攻撃しないことを前提に壁に寄せ付けないようにするための物だったからだ。


「俺が寝てた間の状況は?」

「そうですね~まず壁の強化に工業系の人達が駆り出されていますね。それから自衛隊は軍備の強化を急いでいるようです。傭兵達も雇うくらい大変みたいですね~」

「俺達にはなにか命令は来てるんですか?」

「我々特殊人体開発科には遊撃隊としての命令が出ていますよ」

「遊撃隊ですか…妥当なところでしょうね…」


俺達特人科は確かに戦闘力が高い。

しかし、圧倒的に人数が少ない。

さらに自衛隊からすれば俺達は不明要素が多すぎる。

戦争をするにあたって不確定要素は戦力として戦線に加えるより勝手に動かして敵の数を減らしてもらうほうがやりやすいのだろう。

これは妥当であり…

「俺達も存分に暴れられますね」

きょとんとする舞華以外の特人科3人の目に光が灯る。

特人科は1人を除き、皆この時を待っていた。


ついに実戦だ。

しかも周りに一般人はおらず、派手に暴れまわれるとある。

7年間の訓練の末の初陣としては申し分なかろう。

U/Sを殺すためだけに7年間生きてきた。

普通の生活をしているにせよ復讐心が全く無くなったわけではない。

目的はいつでもU/Sの撃滅することだったのだから…。


会議が終わり各々帰路につく。

俺も舞華と共に帰ろうとした。

しかし、そこで俺のケータイに着信が来た。

俺はケータイの画面を見た途端に固まる。

「この…番号はマズい…!」

「慶刀君どうしたの?」

舞華が俺の様子に気づき聞いてくるので、そのケータイの画面を見せる。

「は、早く出た方がいいんじゃない…かな?」

同じくディスプレイに映った名前に動揺しながらも、やはり真面目なことを言ってくる。

それでも俺が渋っていると、着信コールが止んだ。

そして三秒くらいの一瞬とも言える速さで今度はメールが飛んできた。


そこには―

今わざと無視したでしょ!?

分かってるんだからねぇ!!

アンタの為にアタシは頑張ったんだから、もっと感謝なさい

頼まれてた物ができたのよ!!!

まぁここは許してあげるから早くアタシの努力の結晶を受け取りに来なさいな

PS、一時間以内に来なければ即時破棄しちゃいます♪


神山とはまた別のベクトルのテンションの高い文章。

俺は頭痛を堪えるように、こめかみをつまみながら舞華に別れを告げて帰路から逸れる。

そのまま俺は渋々ある場所へと向かったのだった。


そんなわけで場所は変わり工場エリアの隅にある小さめの建物にいた。

標識には「Dr.チェルのラボ♡」とある。

中に居るであろう人物を考えると正直入りたくはないのだが、元々依頼したのはこちら側なので入るしかない。

俺は意を決すると入口に取り付けられたインターホンを押した。

中から走る足音が聞こえる。

ドアが勢い良く開け放たれる。

中から飛びつこうとする人を俺はひらりとかわして建物の中に入る。

背後でズサーっと派手な音がするが気にしない。


「ごめんくださ~い」

俺がわざと中に向かって言うと後ろでさっきの人影がむくりと立ち上がり近寄ってくる。

そいつの手が俺の肩を掴んだ。

「ケイトちゃ~ん…?」

「あれ?チェルさん外に居たんですか?」

「……あんまり意地悪すると私も意地悪し返すわよ?」

「あはは…すいません」

乾いた笑いしか出ない。

完全な女口調だが声は野太い。

この人はそういう人だった…。

無駄に化粧は上手いのだが線の濃い顔はほぼオッサンという表現で相違ないだろう。

まあ簡単に言えばオカマというやつである…。


もちろん、俺はただのオカマに会いに来るような趣味は無い。

この人はこんなんでもかなり凄い人なのである。

いわゆる医療のスペシャリストなのである。

その中でも専門は脳に関することなのだ。


現在脳科学は5年前より急成長を遂げている。

記憶のデータ化、感情の制御、さらにはリミッターの解除までお手の物だ。

そのほとんどをたった一人で成し遂げたにも関わらず、ある日医療現場からあっさり手を引いた人物がいる。

それがこのチェルなんて明らかな偽名を名乗るオカマなのだ。


「神山君は元気にしてる?」

「ええ…鬱陶しいほど元気ですよ…」

先生とも知り合いらしいがどちらも話したがらないので謎のままだ。

ごそごそと機材をしばらくあさりこちらを手招きしてくる。

「さっそくインストールしましょうか♪」

「よろしくお願いします」

俺は部屋の中央にあるベッドの上に寝転がり、頭を枕に乗せる。

すると電極を体中に貼られ、最後に布を顔にかぶせられた。

「じゃあいくわよ~」

という野太い声を最後にまず意識がシャットダウンされた。


目が覚めると窓から入る日の光は茜色に染まっていた。

「成功みたいね♪」

「今回はなんなんですか?」

頼んだのはこちら側だが頼んだのは先生と師匠だ。

俺は得体が知れないものを脳にインプットされたことになる。

「使い方もインストールしてあるからお師匠様のところで試してらっしゃいな」

「はぁ…わかりました」

ケータイを確認すると俺の剣の師匠から電話が来ていた。

これは、来いってことだな…。

「記憶に実態がイメージされませんが大丈夫なんですか?」

「あ~刀よ。ちょっとサプライズがしたいから詳細は隠してあんのよ」

「どうやって展開したら?」

「キリカゼ…この名前を念じながら展開しなさいこれがキーになってるから」

「了解しました。じゃちょっと行ってきますね」


軽くお礼を述べた後準備運動がてら走って行きつけの武道場へ向かう。

街中では身体能力を一般人レベルまで制限しているが体力は自身がある。

ほどなくして道場の看板が見えてきた。

『銀刀流』

その文字の下をくぐり勝手に道場内に侵入すると

「来たか!」

俺より年下の少年少女が木刀を構えて次々に接近してくる。

そのまま木刀で殴りかかってくる

この道場での挨拶のようなものだ。


「お、腕あげたな」

最初に走りこんできた年長の少年の一太刀。

前見たときより速く、鋭くなっている。

「よっと」

縦に振られた木刀に対し、手を横からすり上げて最小限の力でいなす。

バランスを崩した少年の腹を足で蹴るのではなく、ひかっけて投げる。

廊下にいた二人が受け止めた。

その時には後ろに回って二人の頭に手刀を軽くいれる。


次の部屋

二人の男女が左右を囲もうと走りこんでくる。

左からくる少女は足、もう一人の少年は頭を狙って木刀を振るってくる。

「いい連携になってきたな…」

二人掛かりで確実にどちらかは当たるようにしている。

上手い。

上手いが…

「甘い甘い!」

俺がとった行動はサマーソルト

少年の方の手首を蹴りあげると同時に少女の攻撃を躱す。

蹴りあげた際に打ち上げた木刀をキャッチ

そのまま走り抜ける。

目指すは最奥、師範室だ。


いくつかの部屋を生徒達をいなしながら進みやっとついた。

国分(こくぶん)』と名札のついた扉をノックする。

奥から入れ!というしゃがれた声が聞こえる。

「失礼します!」

声を張り、一礼と共に入室する。

頭を上げようとした瞬間感じた。

来るっ!

「隙ありじゃ、馬鹿者!」

「へっ!誘ったんだよじーさん」

豪速の飛び蹴りを放つ年寄り…。

武道において、深い礼はしないのが基本だ。

大きな隙になるから。

それをこの人が見逃すハズはない。

飛び蹴りに合わせて先程拝借(はいしゃく)した木刀を合わせる。

しかし、その程度でやられるような俺の師匠ではない。

木刀を足場にしての跳躍。


「あの速度で姿勢を完全に制御できんのかよ…」

「このガキがそんな手に引っかかると思うたか?」

さらには後ろ手に隠していた刀を空中から放ってきた。

「真剣かよ!?」

木刀で迎撃しようとするが読まれていた。

その木刀を一刀両断される。

後であの子に埋め合わせをしなくちゃな…

一瞬罪悪感に苛まれる。

だがその犠牲は無駄ではない。

空中で一撃を放った敵は無防備。

…ではなく強引な姿勢制御からの回し蹴りによる鋭い一撃が襲ってきた。

とっさに腕をクロスして防御するが衝撃を殺せない。

俺はそのまま対面の壁まで吹っ飛ばされた。


追撃が来る。

距離が離れているから刀一本くらいなら展開できそうだ。

「キリカゼ…」

普段から俺達は体のまわりに粒子化させたWEをまとっている。

それは一度物体をWEにするという工程を省くことによって展開の速度を早くするためだ。

「リコンストラクション」

再構成を意味する単語を呟く。

普段は細かくイメージし、それをWEで構成するのだが…

これは!?

『キリカゼ』その刀が呼び声に答えるように手の中に自動で構成されていく。

普段の展開よりも早い。

しかも複雑な機構をしたその刀を握りしめる。

同時に脳内に説明が再生される。


『機構刀一型・空圧式居合刀キリカゼ』

それがこの刀の正式な(めい)らしい。

鞘に銃のようなトリガー

柄と手首は鎖で繋がれている。

トリガーを引くと鞘の中の空気による圧力を解放し居合の速度を格段にあげてくれるらしい。

初回装填あり。

再装填まで五秒。

再装填の為にWEを用いて空気を生成するが、意識しなくても自動である。

説明は以上だった。

最後のケイトちゃんの愛しのチェルより♡という一文を完全に無視し敵を見据える。


迷っている暇はない。

思考を加速させる。

瞬間がゆっくりと流れ始める。

トリガーに手をかける。

引く。

相手は突きの姿勢だ。

刀は当然前に来ている。

腕が物凄い力に押される感覚。

刀の軌道を相手の刀に合わせる。

振りぬく。

—斬鉄剣

刀で鉄、つまり相手の刀を切り裂く技

精確にはこちらは鉄ではないが…

それでも完全に成功したのは初めてだ。

師匠もこれには驚くハズ!

そう思った束の間…

「おわっ!?」

刀と腕が止まらない。

ごりっと嫌な音がした…。


肩の外れた俺にニヤニヤしながら近づいてきた師匠は力技で治してくれました。



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