再演される悪夢 after side ―破鉄颯―
俺は走っていた。
爆発音が街に響いたのが5分前。
警報が鳴り、慶刀から連絡が来たのが3分前。
そして現在二人組の相方、優希との待ち合わせ場所に走っているわけだ。
ちなみに連絡は慶刀から電話があってすぐにかけているので向こうも走っていることだろう。
俺の家から工場エリアは近い。
工場エリアは壁で仕切られているものの、排気ガスなどが多くあまり好まれない。
だからアパートの部屋代も安く済むのだ。
金欠の身としてはかなり助かっている。
っとそんなことは今はどうでもいいか…
突入ポイントにすぐ到着してしまった俺は優希を待つ間、手持無沙汰になっていた。
既に装備の展開は済ませている。
改造した制服の裏側には無数のダガーナイフ。
両方の袖にはサバイバルナイフを仕込んであり、これにはワイヤーを柄の部分につけてある。
我ながら暗器使いのような装備だが俺の戦闘スタイルの為しょうがない。
「早くこねぇかな~」
慶刀から緊急事態なので単独行動は避けるようにと言われてしまっている。
独り言を言ってすぐに足音とガチャガチャという音が聞こえてきた。
優希の足音と武器のガトリングの音だろう。
とてもアンバランスな武器の選択だがあれが一番使いやすいらしい…。
「ごめん、ちょっと遅れたみたいね」
走って来ても、息を切らしてはいないところを見るに本当に自分に合っているのだろう。
どっちが本体だかな…。
という感想を抱いたが、これを口に出したら撃ち殺されそうなので止めておく。
完全にキレた優希を一度だけ見たことがあるがもう思い出したくもない。
とにかくだ、これで工場エリアの突入を開始できる。
「優希、俺達の今回の目的は人命救助だ。」
「慶刀先輩から聞いてる。戦闘は向こうに任せるんでしょ?」
「そうなるな。あれだけの爆発だし、怪我人がいる可能性が高いだろう」
「でも颯、もしU/Sとの接触があった場合にはどうする?」
「その場合は俺がひきつけるから優希は救助を優先して欲しい」
「了解!」
優希は俺を全く先輩扱いはしないが、これはこれで連携を組みやすい。
軽い打ち合わせを済ませたのちにまた走りだす。
程なくして工場エリアに到達。
しかし様子がおかしい。
U/S警報が鳴ったのだからもっと滅茶苦茶な感じかと思っていたが、案外被害は少なそうだ。
火の手が上がっているのは…
慶刀達の侵入ポイントのあたりだけか?
「優希、周りの情報が欲しい。ちょっと待っててくれ」
そう言うやいなや俺は全力疾走を始める。
近くにあった煙突へと登るためだ。
高さ10メートルくらいの煙突を俺は、はしごを蹴ってジャンプのように登って行く。
ものの数秒で頂上に到着。
辺りを見渡すとあることに気付いた。
ガスタンクだけが破壊、爆破されている?
なんでだ?
狙ったってのか?
今までのU/Sに知能を感じたことはない。
しかしこれには明らかに作意がみえる。
嫌な予感がする。
幸いにも怪我人の姿は見えない。
慶刀達に合流しよう。
そのまま煙突を飛び下りる。
「あんたもう少し性格をなんとかすれば素直に凄いと思えるのに…」
ストンと着地した俺を見て優希が言う。
「作戦変更だ、何かおかしい。慶刀達と合流するぞ!」
また走り出す。
なんだか今日は走ってばっかりだな…。
―ヒュン
という風切り音が頬をかすめる。
同時にそこに熱を感じる。
すぐに横に跳躍
近くにあったコンテナの影に隠れる。
頬から少量の血液が流れていた。
「大丈夫か?」
「うん。アタシは大丈夫だけど、今のは銃撃?いったい誰が…」
確かに今のはおそらく銃弾が飛んできた音だろう。
しかし、誰からだ?
薄暗いといってもまだ視界に支障が出る程じゃない。
一般人に銃は配備されてないはずだ。
警備員は避難したし、軍の奴らが来るにはまだ時間がかかるはずだった。
慶刀や舞華ちゃんの使う銃ならかすっただけで致命傷になりかねない…
なら…不確定要素か?
「お前は隠れててくれ、俺が合図したら援護頼む」
「気を付けてよ…」
頷くと全速力で走り出す。
物陰に隠れたり、建物を回り込んだりしながら銃弾の飛来した方へと進んでいく。
しばらく進むと人影が見えてきた。
あいつか?
おそらく間違いない…が、なんだあいつは!?
遠目では人間の女性のようなシルエットをしていた二足歩行の生物は、真っ黒の外郭に覆われ明らかに人間ではないもののようだ。
見つかっていないようなので物陰から顔半分を覗かせて様子を見る。
「ふむ…そこの人間、隠れているようだが気配の消し方が甘いぞ?」
「ちっ!ばれてんならしゃーないか…」
なんてこった…
U/Sっぽいあいつは高度な知能を持つ上に言葉も理解できるらしい。
物陰から姿を見せて向き合う。
銃でもなんでも使ってみろ、その瞬間お前の頭吹き飛ばしてやる。
しかし奴からは戦闘意識が感じられない。
「人間とは愚かなものだな…このようなもので我々に対抗できると思っているのか?」
手元を見るとそには警備員用のライフルが握られていた。
「さっき拝借した、しかし落とした彼は私にも気づいていない様子で逃げて行ったが」
思考を読むように先に言葉をつなげてくる。
しかし会話ができるなら情報を得なければ。
もしかしたらU/Sについて何か分かるかもしれない。
「お前の目的は?」
「随分と直球に聞くんだな?」
「生憎とまどろっこしいのは苦手なんでね」
「そうか…しかし私がその質問に答えることはできない」
「なんでだ?」
「そういったことはまだ言ってはならないことになっているのでな」
やはりか…
「ところで人間よ、貴様ただの人間ではないだろう?」
「お前らには言われたかない」
「まあそうだろうが、そうなら少しばかり用があるんだ」
「なんだと?」
少しばかりの静寂ののちに奴から声が発せられる。
とてつもない殺気とともに。
「すまないが、少々付き合ってもらうぞ!」
銃を投げ捨てたのを見たときには爆風に飲まれていた。
会話のせいで完全に油断しきっていた。
相手がWE戦闘系だったとは…
WE戦闘系とは優希などが該当する戦闘スタイルで、主にWEを使って超化学現象を起こし魔法のように戦闘に応用して戦うというものだ。
しかし、発動にはそれなりの準備時間がいる。
それをこの会話の中で済ませていたようだ。
服に仕込んだワイヤーやナイフが防弾チョッキのように盾になってくれたおかげで大した外傷もなかったが後方に大きく吹っ飛ばされた。
埃が舞う中で悪い視界を利用し反撃をする。
ナイフを投擲した。
ワイヤーのついてない普通のダガーナイフだ。
敵は体をそらして躱そうとするが、そうはさせない。
敵に一番近いところで能力を発動する。
ナイフが突然起爆。
今度は奴が吹っ飛ぶ番となった。
「ざまぁみやがれ!不意打ち野郎が!!」
しかし爆風が乱れるとその中から敵が顔を出した。
こちらに向かって跳躍するように突っ込んでくる。
接近戦もできんのかよ!
敵は跳躍のスピードを殺さず、そのまま右足で蹴りのモーションに入る。
さらに踵付近の空間を爆発させて蹴りのスピードを上げた。
マズい!
受け止められない。
左腕を盾にしながら少しでも衝撃を和らげるため足から力を抜く。
今度は恐ろしい衝撃が襲い、俺の体は15メートルほど吹っ飛ばされた。
まだだ!
俺は吹っ飛ばされながら右手で空に向かってナイフを投げる。
―起爆。
これが合図だ!
蹴り後の着地硬直に入った奴の足元から炎柱が上がる。
優希による攻撃だ。
敵は伏兵には気づいてなかったようだ。
わざと目立った甲斐があるというものである。
優希の必殺の一撃をくらったからには流石の奴も無傷では済まないだろう。
炎が収まるのを待つ。
陽炎が揺らぐ中から奴が現れる。
まだ、立ってられんののかよ!?
思わず驚愕を顔に出してしまうがしょうがないことだろう。
なにせ優希のアレは一撃で象を骨だけにできると言われているくらいの高火力なのだ。
実際やったことはないがそれだけの威力はあるらしい。
しかし、いくらU/Sといえども人間サイズの生物が平気なわけ…
いや、実際平気そうではない…か?
「中々やるな人間…まあ及第点か……ここは引くとしよう」
「な、てめぇ逃げんのか!?」
言うが早いが敵は後方に大きく跳躍し消えてしまった。
まぁ、あのままやってたらキツかったかもな…
自分の左腕を見る。
だらりと垂れてしまっているのを見るに骨が折れているようだ。
足にも上手く力が入らない。
すぐに駆けてきた優希に支えられる
「ちょっとアンタ大丈夫!?」
「お、おう…心配かけてごめん」
「そんなことより早く応急手当しなきゃ!固定だっけ!?」
そう言って優希は自分のさげているガトリングの銃弾を繋げたベルトを外して…。
俺の腕に巻き付けてきた。
金属の塊が沢山ついたベルトを…
「ギャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
恐ろしい激痛だった。
舞華の応急手当の上手さを颯が思い知った瞬間であった。