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Unknown Spirit ―長月慶刀―

柵と町を囲む壁は1キロメートルの間隔が取られている。

それはU/Sの数少ない情報の一つである、約1キロメートル以内に人間がいなければ、破壊行動をしないという性質に理由がある。

この性質も誰が発見したのかも分からないが、機械のようにピタッと破壊活動をやめることから、近づかなければいいと言われている。

もっとも数が多すぎる上、縄張りなども持たずに徘徊する奴らから離れるためになんとか人類が引いた境界線、それが鉄の大きな柵なのだ。


なぜ俺達が近づくことを許されているかというと、

そもそも俺達は奴らのレーダー的な物に引っかからないようなのである。

人間じゃないから。

しかし、視認されれば話は別だ。

柵から出るときは細心の注意を払う。

それから作戦開始だ。


「教官、柵の周囲にU/Sの影は?」

「大丈夫かな~、このまま早めに柵から出ちゃってね~」

「了解。各員戦闘準備!これより、U/S掃討訓練に入る。」

全員の目に闘志が滾る。

と、いってもまだ全員が制服姿で武器すら持っていない。

いくら身体能力が高かろうと素手で戦うのは自殺行為だ。

「「「「リコンストラクション!」」」」

それは再構成を意味する単語であり、同時に掛け声であった。

空間から粒子が集まり物体を構成していく、みるみる内に俺達はフル装備になってしまっていた。

そう、これが俺達とU/Sの主とする能力なのだ。


U/Sの登場で分かったことがもう一つある。

それは新しい元素の発見だ。

U/Sは何もないところから火を吐いたり、爪を異様に伸ばして攻撃したりしてくる。

これは質量保存の法則を完全に無視していることに目をつけた研究者が発見した。

その研究者はこの元素をワイルドエレメンツと名づけた。

なんでもトランプのワイルドカードから取ってるのだとか。

その名の通りこいつは何にでも変化することができる。

もちろん鉄でも、水素のような気体にもなれるらしい。


しかし、これには問題があった。

オーバーテクノロジー過ぎて現在の科学ではこの元素を変換することが出来ない。

できるのは現時点でなぜか使い方が分かる俺達とU/Sだけだ。

だが、俺達もほとんど感覚でやっているため、しっかりと記憶し、理解した物質しか顕現出来ない。

それでもこれは強力な力だった。

例えばこれで顕現した俺の刀はU/Sの硬い外殻を切り裂いても刃こぼれ一つしない。

それに壊れてもすぐに修復できるといった具合だ。

これを切り札に俺達は戦っている。


装備を全て顕現し終わった俺達は柵についた扉に向かって走りだしていた。

ここからはいつ敵の視界に入ってもおかしくない。

ここからは急ぐ必要がある。

しかし、1キロメートルなど俺たちからすれば短距離走みたいなものだ。

フル装備でも約30秒で息を切らさずに到着する。

素早く扉を抜け、扉からまた1キロメートル離れるために走る。


「さて、訓練開始だ。いつも通り索敵を開始、発見の後戦闘に入る。」

「「「了解!」」」

場所は森林と化した元住宅街だ。

障害物が多いため衛星からのサポートの効果が弱くなる。

弱くなった分は自分達でカバーする。

「目標発見、狼型」

舞華の報告が入る。

舞華はこの中で一番、力を身体に扱うのが上手いため、今回は目を強化したのだろう。

そして狼型とはその名の通り狼に似たU/Sだ。

狼型は小型に分類されるU/Sでよく徘徊する群れが発見されている。

「何体だ?」

「1,2……、丁度8体いるね」

舞華は手にした自分の身の丈もあるような大型ライフルのスコープを除きながら数を報告してくる。

「狙撃できるか?」

「みんながキルレンジに入るまでに2体は仕留めてみせる」


さて、そこから計算を始める。

相手の戦力と俺達の戦力どちらが強い?

こちらが強いのは目に見えてる。

だったら被害は?

全員無事に勝てるか?

これも大丈夫そうだ。

皆強い。

なら作戦を提示しよう。


「OKだ。颯は走り込んでの強襲、優希は魔術での一掃、俺は取りこぼしを拾う」

俺が指示を出すとすぐに2人は走り出し、舞華は狙撃のため片膝をついた姿勢になる。

俺も少し遅れて走り出す。

目標はまだこちらに気づいていない。

銃声

敵の一体が頭を吹き飛ばされ崩れ落ち、霧散。

他の7体がこちらに気づく。

二度目の銃声。

霧散

あと6体


まず一番軽装で走るのが速い颯が敵に肉薄する。

噛み付こうとしてきた狼型の口を切り裂くように右手の逆手に持ったダガーナイフを振る。

そして、あえて切り抜けずにナイフを手放す。

もう一体飛びかかってきた敵に対して右足を軸にしながら反転し今度は左手のナイフを腹に突き刺す。

そのまま走り抜ける。

しかしこのくらいではU/Sは死なない。

「チェックメイトだ!」

颯が指をパチンと鳴らした瞬間、刺さっていたナイフが光輝き爆発。

U/Sは霧散した。

颯は金属を爆破することができる。

やはり感覚でやっているため説明出来ないらしいがその火力は凄まじかった。

戦闘中に無駄なことしやがって…

「第一、まだ敵残ってるからチェックメイトじゃねーだろ!」

「な!?そこは言わないでくれよ~だんなぁ~…」

げんなりする颯は放っておいて…


あと4体となったU/Sが固まって体制を立て直す。

計算通り

「やってくれ優希!」

「汝、紅蓮の銃弾なり。敵を焼き払う炎なり!」

優希には魔術みたいなものが使える。

なんでも今優希が構えているガトリングガンの弾に暗示を掛けるようにして発射するのだそうだ。

そのための暗示が中二病こじらせたみたいな、さっきの詠唱なわけだ。

「バレット=イグニス!!」

優希が引き金を引く。

重なり続ける銃声。

次の瞬間、U/Sの足元の地面から炎の柱が発生する。

敵を焼き焦がす。


爆炎からの煙で出た煙で敵の姿が見えなくなる。

「やったかぁ!?」

颯が嬉々とした様子で目を輝かせる。

「バカ、気を抜くな!」

俺の制止も気にせず確認に行ってしまう。

その煙の中からどうやったか分からないが生き残った1体のU/Sが飛び出してきて、颯に襲いかかる。

完全に反応できてない…

あーもう…


俺は刀の柄に手を添えながら走り出すと言うよりは、前に向かって跳躍する。

一瞬がスローモーションに見える。

これが多分俺の能力、極度の集中によって動体視力が大幅に強化され、あらゆることが遅く見える。

一見地味だが、剣を使う身としては非常に助かっている。

そのまま間合いを詰め、居合の用量で頭から真っ二つに切り捨てる。

一閃…両断

しかし、斬撃が終わって、残身を取る俺に鋭い牙だけが一本飛んできて左肩に突き刺さる。

元々慣性が乗っていたこともあり深々と刺さってしまった牙を、無理矢理引き抜く。

引き抜いてすぐに霧散してしまうが、傷は残る。

思わず呻き声が漏れた。

「お、おい慶刀!大丈夫か!?」

「だから油断するなと…」

説教してやろうと思ったが颯が思いのほか真剣に心配してくるので、また後にしようと思った。

「このぐらいなんともない。舞華もいるしな」

その舞華様は現在こっちに涙を浮かべながら走ってきている。


……。

「い、今手当てい、いたしますですから!」

「まずは落ち着けよ…」

「…は、はい…」

そして、深呼吸する遠崎衛生兵

そうこいつはこんなんでも衛生兵というポジションにいる。

さっきも言ったが舞華は身体に対して力を行使するのに長けている。

それの応用で治療もできるらしい。

便利な能力だ。

だけど、俺が怪我すると慌てるのは昔から変わらないな。

治療を受けながら、昔の思いにふけっていると、顔がニヤついたらしい。

「どうかした?」

不思議そうに舞華が顔を除きこんでくる。

「いや、変わってないなと思ってな」

「え~私だって成長してるよ!」

「そうか?俺には全く分からんな」

「そ、そんな~」

トホホと肩を落とす舞華


そんな舞華だが、治療は完璧に終わったようだ。

痛みが無くなり、肩に力が入る。

「ん、いつもありがとな」

「もう、いつも怪我には気をつけてって言ってるでしょ?」

「まあまあ舞華先輩、痴話喧嘩の続きは帰ってからにしましょう?私つかれました~」

「べ、別に痴話喧嘩なんかじゃ…」

優希が助け舟を出してくれたので乗っかるとしよう。

右耳のインカムに連絡を入れる。

「教官、訓練終了しました。」

「はいお疲れ~、家に帰るまでが訓練だからね~気をつけるんだよ~」

「はいはい、分かってますって…」

この人のテンションは疲れてるときにはついて行けないなと思いつつ、


周囲を見渡して敵がいないことを確認。

「総員撤退!」

また扉に向かって走り出す。

そしてその後はなにこともなく帰投できたのだった。




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