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今は秘めたるオモイ ―遠崎舞華―

帰路を途中で別れてから約二時間ほどたっただろうか。

私は台所に立っていた。


作っているのは大量のおにぎり。

もちろん一人で食べるわけではない。

銀刀流道場のみんなのためだ。

最近は米も貴重品だが最前線で戦う私たちには優先的に回ってくる。

しかし貴重品だと思うと、途端に消費できなくなってしまうのが私と慶刀君である。

話し合った結果、米は道場のみんなにふるまおうと決めているのだ。


つい2年前まで私と慶刀君はあの道場で寝泊りしていた。

7年前のあの日両親はいなくなりもちろん家もなくて。

慶刀君を探し回ったはいいけどその後のことは全く考えていなかった。

そんな時銀刀流道場を知った。

確かあの時は軍直属の研究員だった神山先生に連れられて行ったと思う。

立派な門にしては建物の中に活気はなく、広い道場内には慶刀君と老人のかすれた声だけが響いていた。


それからは楽しい日々が続いた。

もちろん師匠の訓練は厳しかったし元々戦闘経験のない私は死にかけたこともあった。

でも隣には慶刀君がいたし、師匠もとてもいい人だった。

そんな道場には先の戦闘で亡くなった生徒達の宿舎があったため孤児達を少しずつ受け入れていった。

一人また一人と増えていく孤児達は最初は心がすさんだ子達が多かった。

しかし、師匠は生き残る力とともに生きる意味を教えてくれた。

今では20人ほどに増えた生徒達は私の家族とも言える存在だ。

それは家が変わっても変わらないことだ。


一通りおにぎり作り終えて道場に到着するころ日は暮れかけていた。

いつもなら外には素振りをしている最年少組がいるはずなのだが…

「いない…」

嫌な予感がする。

何回かこのパターンはあった。

廊下を道場に向かって歩いていくと

案の定、道場の入口に人だかりができていた。

「紗枝ちゃん、これみんなで食べて」

紗枝という年少組の女子生徒におにぎりを渡す。

「あ、舞華お姉ちゃんありがと!」

紗枝ちゃんはよたよたしながらもおにぎりを食堂に運んで行った。

「で、どうなってるの…?」

「それが、慶刀兄ちゃんがししょーの大事な刀折ったらしくてケンカになってそれで~」

「…うん、大体分かったからもういいよ…」

言葉が纏まらなくなって唸り始めた子供を止めながら自分も中を覗く。


「うぉぉら!クソジジイさっさとくたばれ!」

「なぁぁんじゃと!このクソガキもう一回その精神を叩き直してやる!」

どちらも精神年齢が幼すぎる…

とにかく年功序列のため師匠がご飯を食べないと子供達も食べられない。

しかし、まだ年端もいかないこの子達にあれを止めろと言うのは無理がある。

「仕方ない…止めてくるからみんな食堂の支度お願いね」

「「「「は~い」」」」

子供達はあっさり大きな子供二人にに見限りをつけて食堂へと行った。

「はぁ…」


「リコンストラクション…」

再構成を意味する言葉を力なく呟く。

手の中にはいつものライフルではなく木製の長槍。

いつもは後衛援護の私だがこの道場にいた頃は槍術を教わっていた。

槍とは力のない女性でも扱いやすくリーチの問題から刀に対して相性がいい。

「いい加減にしなさーい!!」

出来るだけ大きな声を出して止めるがチラッとこっちを見た切り元に戻った。

「もう止めたからね?」

二人はつばぜりに入り押しあっている。

そこへ駆け込み木槍を思い切り横に薙ぐ。

二人を槍の反りにひっかけて力任せに投げ飛ばす。

私の場合、槍を使うのは筋力の問題ではなく単にこの二人を止めるのに最適だったからである。

「喧嘩両成敗!」

壁にぶつかって仲良く倒れこんだ二人を見下ろしながらいつものセリフを言う。

ここまでがこの二人がくだらない事で喧嘩したときの流れだった。


そのあと食堂に集まった全員でおにぎりを食べた。

子供達が笑って、それを見た私達も笑顔になって―

つい、こんな日々がいつまでも続いたらいいのになと思ってしまう。

3週間後この日常が壊れてしまうことは想像に(かた)くない。


私と慶刀君が自分達の家に着くころには日も暮れていて、私の考えも段々と暗くなってしまった。

そんな私はふと聞いてしまっていた。

「今の私達ならきっとあの子達を守れるよね?」

たった四人の試験部隊。

私達にいったい何が出来るのだろうか?

それが分からない慶刀ではない。

U/Sと人間の戦闘力の違いが分からない慶刀ではない。

私は自分が言ってから彼に難しい質問を投げかけていたことに気づく。

それでも

「あぁ…絶対に守ってみせる。あいつらやもちろん舞華も。」

そう言ってくれる。

しかし、朗らかに言ったその言葉に僅かに焦りが感じられたのを私は気づいてしまった。


長年見続けてきたその顔に浮かんだものはなんだって見落とさない自信があった。

だからそんな彼を私は支えてあげなくてはいけないと思う。

それは日常の些細なことでも、戦場の生死を賭ける場においても。





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