7,賭け
神父は両親に言います。
「危険かもしれないが、ベルガモットに中に戻ってもらおうと考えてる。もしかすればクレオメが現れるかもしれない。ご両親の考えは?」
両親は「危険」という言葉に戸惑いました。
しかし、すぐにでもクレオメに戻ってきてほしかった両親は頷きました。
医者も頷き、神父は落ち着いてクレオメに話し掛けました。
「ベルガモット、一つ良い案が浮かんだ。ただ、ベルガモットとスターチスにも協力してもらいたい」
「クレオメが戻るのなら、何でも協力いたします」
「ベルガモットにも、中に戻ってもらいたいんだ。もちろん、スターチスも中にいてほしい」
「体だけは危険ですわ」
「我々がいるから大丈夫だ。どうだろう?協力してもらえないかな」
クレオメは悩んでいます。
今まで、そんな事をしたことがないので怖い様子です。
すると、クレオメが一人で会話を始めました。
「私も中にいこうと思うの。危険かしら?」
「スターチス、もっと真面目に考えて」
「ええ。でも、これ以外に方法はないのよ」
「そうね。周りにいてくれるから大丈夫よね」
「スターチスも協力してね」
会話が終わったクレオメは神父に言いました。
「覚悟しました。スターチスも納得しています」
神父は頷きました。
医者が両親に言いました。
「体を支えてあげて下さい」
両親は急いで、椅子に座っているクレオメを倒れないように支えました。
神父はクレオメに言いました。
「では、始めてくれるかな」
クレオメは「はい」と返事をすると下を向きました。
静寂が、緊張感を更に増させます。
両親は「どうか、上手くいきますように!」と願います。
医者は鋭い瞳でクレオメを見ています。
神父も同じように緊張しながらクレオメを見つめます。
クレオメの力が抜け、体が倒れそうになります。
両親は「ベルガモットが中に戻った」と分かり、汗が出てきました。
体の力が抜け、腕が力無くぶら下がっているクレオメは異様な雰囲気です。
静かな時間が流れます。
両親はクレオメを支えながら祈るしかありません。
その時、体に力が入ったのが分かりました。
両親に緊張が走ります。
ベルガモットかスターチスなのか、それともクレオメなのか…。
顔をあげた少女の表情を見て分かりました。
「クレオメ!!」
両親は喜び、クレオメを抱きしめました。
神父のホッとしました。
医者も安心しました。
母親は言います。
「ごめんなさい!クレオメの事を考えてなかったわ。それに気づかされたの!貴女はかわいい私の娘よ!」
父親も言います。
「すまなかったな!クレオメが悩んでいる事にも気づかずに。俺の大切な娘だよ!」
両親はクレオメを抱きしめ泣いて喜んでいます。
しかし、クレオメだけは無表情に近い顔でされるがままなのです。
医者は不可解に思いました。
クレオメがまるで、人形のようだからです。
ベルガモットやスターチスの方が人間味がありました。
しかし、両親は気にせず喜んでいます。
医者がクレオメに話し掛けました。
「君がクレオメかい?」
クレオメは笑っているようないないような表情で答えました。
「はい。私がクレオメです」
母親も言いました。
「先生!クレオメに間違いないです。この顔を見たら分かります!」
父親も嬉しそうに言いました。
「そうです!クレオメ以外有り得ません。この穏やかな顔はクレオメ以外有り得ません!」
そして神父が言いました。
「あぁ、いつものクレオメだ」
医者は驚きました。
「で、ですが、何だか違和感がありませんか?」
医者は初めてクレオメを見たので戸惑いが隠せないのです。
一つも変わらない表情、感情の起伏のない口調、全てが人間から遠い存在に見えるからです。
神父は医者に言いました。
「いつものクレオメだ。まぁ、今まではベルガモットと呼んでいたがな。彼女を見たら分かるだろ?今までのは悪魔の仕業だったと」
医者には、そうは思えません。
今のクレオメの方が、悪魔に憑かれているように見えます。
医者はクレオメに聞きました。
「ベルガモットとスターチスはいる?」
「はい、います」
「何て言ってる?」
「良かったと言っています」
医者は勇気を出して聞きました。
「何故、いなくなったのかな?」
「意味はないです」
医者は「異常だ」と、思い同時に助けてやりたくなりました。
クレオメは両親に言います。
「どうして、クレオメなんて呼ぶの?いつも通りが良いです」
両親は、更に嬉しそうに言います。
「幸せ!ベルガモット愛してるわ!やっぱり、貴女は私の大切な娘よ!私の理想の女性に育ってるわ」
「さすがだ!スターチス。それでこそ、俺の自慢の娘だ!成長するたびに、俺の理想の人に育っているぞ」
クレオメは神父にも言いました。
「神父様まで、クレオメだなんて止めてください。いつも通りが良いです」
神父は笑顔で頷きました。
「あぁ、わかったよ。ベルガモット、素晴らしい成長をしたな」
この空気を壊すかのように、医者が言いました。
「まだ、終わっていません」
周りは驚きましたが、医者が続けます。
「初めて見させてもらった私から言わせると、明らかに異常です。クレオメが人形のように見えます」
この医者の言葉に両親は怒りました。
「異常だなんて!何て失礼な医者なの!?ベルガモットは最高の娘よ!」
「信頼していたのに!スターチスは立派に育っているだろ!!」
両親は怒鳴っているのに、クレオメは落ち着き何も聞こえないような雰囲気です。
しかし、医者も言い返しました。
「いや、駄目です。クレオメが可哀相だ!両親に別々の名前で呼ばれ、明らかに苦痛を訴えてるのに無視をしている!」
母親が言い返します。
「可哀相!?どこが可哀相なのよ!ベルガモットは、幸せだと言ってるわ!ねぇ、ベルガモット。幸せよね?」
クレオメは頷きます。
「ほら、みなさい!ベルガモットが幸せだと言ってるのに可哀相だなんて。謝ってちょうだい!」
医者は謝りません。
「違います!クレオメは両親に合わしているだけです!本当の感情は別にあるはずだ!クレオメ、僕が味方だから言ってごらん」
クレオメは言いました。
「いつも通りなら幸せです」
父親が言いました。
「スターチスが幸せだと言っている。この穏やかな表情をみてみろ!嘘なんかついてないだろ!!」
医者は首を振り言い返します。
「その表情が問題なんだ!感情が全くない!わからないのか!?」
クレオメの表情を両親は見ました。
無表情なのに笑っているような、いないような表情。
両親は言いました。
「分からない!」
医者は両親は無理だと思いクレオメに話し掛けました。
「クレオメ、頼むから本心を言ってくれないか?」
「本心を言っています」
「だって、寝れないんだろ?」
「少し安心したので、眠れます。ベルガモットも寝ています」
医者は言葉を失ってしまいました。
両親は勝ち誇った様子です。
医者はクレオメに聞きました。
「今の悩みを言ってくれないか?」
クレオメはすぐに言いました。
「悩みは解決しました。先生、ありがとうございます」
医者には理解ができませんでした。