5,医者と神父
翌日、朝から両親は落ち着きがありません。
一方のクレオメは、昨日から部屋に閉じこもったきり出てきません。
母親は願っていました。
「大丈夫。神父様が来て下さる。どうか、ベルガモットが救われますように」
父親も願っていました。
「大丈夫だ。医者にかかれば治る。早く、スターチスを楽にしてやってくれ」
二人は、会話もせずに訪問者を待ちました。
家の扉が叩かれました。
両親は急いで出迎えます。
先に訪れたのは神父でした。
父親は予想外の客人に驚きますが、母親は喜びます。
「神父様、お待ちしておりました!ベルガモットが待っています。さぁ、こちらへ…」
その言葉を聞き、父親は怒りました。
「お前!また、余計な事をしたな!!今日は医者が来る日だろ!」
母親は医者の事を思い出しましたが、素知らぬ顔で言います。
「神父様の前で失礼よ。医者なんかより、神父様の方が信頼できるわ」
「ふざけるな!医者の方が信頼できる!神頼みで、どうにかなると本気で思っているのか!?」
「なんて失礼な事を!罰が当たるわよ!ベルガモットが、あんな事になったのは貴方が神を侮辱してるからだわ!!」
両親は、神父が来てるというのにケンカを始めてしまいました。
しかし、神父は落ち着いた様子です。
色々な家庭を見てきた神父にとっては、何でもない光景だったからです。
両親がケンカをしていると、もう一人の訪問者が訪れました。
父親は我に返り言いました。
「お医者様、よく来て下さった!スターチスが待ってます」
医者は、神父がいることを不思議がりながらも答えました。
「そうですね。彼女はどこですか?」
父親は、クレオメを呼びにいきました。
その間、母親は神父に謝っていました。
「すみません!失礼なことばかり!何もわかっていなんです。私も夫には疲れきっています。ベルガモットも、きっと夫に疲れているんです」
神父は答えました。
「いや、気にしないでくれ。ベルガモットに会えればそれで良いのだから」
母親は嬉しそうに頷きました。
医者は、神父に尋ねました。
「ベルガモットですか…?」
医者は、クレオメの存在がよく分かっていなかったため神父に探りをいれてみました。
しかし、神父は穏やかに答えます。
「ええ。ベルガモットですよ」
医者は諦めます。
母親、神父、医者は椅子に座り、クレオメを静かに待ちました。
しばらくすると、クレオメがやってきました。
不機嫌そうな表情です。
父親が言いました。
「お医者様スターチスも来ましたし、さっそく診て頂けますか?」
すると、母親が神父に言います。
「神父様、ベルガモットが来ましたわ。さぁ、話しをしてやって下さい」
父親と母親は睨み合いました。
医者と神父は座ったまま、様子を伺っています。
すると、クレオメが鬱陶しそうに言います。
「父さん、母さん、少し黙れ。私の事よりクレオメの事だ。おい、医者よ。ちゃんと対策は考えてきたんだろうな?」
両親はクレオメの言葉に驚き、また静かになりました。
医者はクレオメに言いました。
「え〜と、スターチスで良いのかな?」
「あぁ、スターチスだ。で、薬は持ってきたのか?」
「薬は持ってきてるよ。でも、ちゃんと話しを聞いてからじゃないと出せないんだ」
「どいつもこいつも面倒くさいな。いいだろう、何が知りたいんだ?」
クレオメは言うと椅子に座りました。
医者は続けます。
「眠れないのは、いつから?」
「だいたい三ヶ月前だ。正確には、クレオメとベルガモットだけが寝れないのだ」
「スターチス、君は?」
「私は寝てる。クレオメとベルガモットは繊細なんだ」
医者は悩んでしまいました。
嘘をついている様には見えないからです。
しかし、話しに違和感があるため簡単に薬も出せません。
すると、恐る恐る母親がクレオメに言いました。
「ベルガモット、口の聞き方が乱暴よ?」
クレオメは母親を睨み言います。
「私はスターチスだ。ベルガモットは丁寧だろ?」
母親は、すぐに黙ってしまいました。
医者がクレオメに頼みました。
「スターチス、悪いがベルガモットとも話しがしたい」
「断る。ベルガモットも疲れてる」
「君1人の話しだけじゃ、薬は出せないんだよ。頼むから、ベルガモットを呼んでくれないかな」
「まったく…。少し待て」
そう言うと、クレオメは下を向き静かになりました。
医者、神父、両親は、ただ見つめています。
クレオメが、ゆっくりと顔をあげ言いました。
「ベルガモットです。すみません、スターチスが乱暴な言葉を使い…」
さすがの、医者も神父も驚いてしまいました。
表情、口調、態度まで全くの別人の様だからです。
両親はお互いを支え合って立っています。
医者は緊張しながら、クレオメに聞きました。
「ベルガモットで、いいんだよね?」
「はい。ベルガモットです」
「さっき、スターチスに聞いたんだけど寝れないの?」
「えぇ。三ヶ月前くらいから寝れなくて…。クレオメも辛そうでした」
「クレオメは、何て言ってた?何か悩んだりしてた?」
「クレオメは、あまり自分の事を話しませんから。ただ…」
「ただ?」
「…寂しいと…」
医者は黙ってしまいました。
嘘や演技ではないと確信したからです。
すると、今まで黙っていた神父が声をかけました。
「ベルガモット、顔をあげなさい」
クレオメは聞き慣れた神父の声に反応しました。
神父はクレオメに話します。
「ベルガモット、悩みがあるのなら私に話してごらん」
「あぁ…、神父様。何て優しい言葉なのでしょう。私の今の悩みは、ただ一つ。クレオメです」
「クレオメが、どうしたんだ?」
「クレオメが姿を消したのです。いくら呼んでも返事をしません」
「どこかに隠れているのか?」
「分かりません。だから、不安で仕方ないのです。神様に祈りも捧げています。ですが、お返事が頂けなくて…」
クレオメは言い終わると、涙を流し出しました。
その涙を見た母親は、クレオメに駆け寄ります。
「ベルガモット、泣かないで。神父様がいらっしゃるわ。安心なさい」
母親はクレオメを抱きしめました。
クレオメも母親の胸の中で泣きながら言います。
「はい。神父様に全てをゆだねます…」
神父は困ってしまいました。
明らかに何か大きな問題があると、確信したからです。
神父は考え、言いました。
「何かに憑かれているかもしれない。悩み、弱った体を邪念は喜ぶからだ」
母親は言います。
「はい!神父様、お助け下さい」
しかし、医者が言いました。
「いや、これは睡眠不足からくる幻覚、幻聴ですよ。睡眠を改善すれば治ります」
父親は喜びます。
「そうです!早く、薬を処方してください」
神父と母親、医者と父親、二つの意見がぶつかります。
神父は医者に言います。
「確かに、睡眠が妨げられ苦しんでいるのは分かるが…。睡眠だけを治した所で解決にはならんだろう。悩みを聞くことが先決だ」
「こんな状態の彼女に悩みを聞いたところで、解決にはなりませんよ。まずは、睡眠を改善し体調を戻し、それから悩みを聞くべきです」
「その、睡眠を改善する策は何だ?睡眠薬だろ。薬なんか体に毒なのだよ」
「それは、使いすぎた場合です。ちゃんと用量を調整すれば何の問題もない。それより、空想的なものに頼り、処置が遅れた方が危険です」
父親も賛成を述べます。
「そうですよ。さぁ、早く薬を出して下さい」
しかし、母親が怒鳴りました。
「貴方!ベルガモットに毒を盛るつもりなの!?頭がおかしいわ!!」
父親も怒鳴りました。
「うるさい!お前の頭がおかしいんだ!俺がスターチスに毒を盛るわけがないだろうが!」
「ベルガモットよ!」
「スターチスだ!」
また、二人の喧嘩が始まってしまいました。
母親が父親に言います。
「ベルガモットは、悩み苦しんでいるのよ!その悩みを聞いてあげるのが親のつとめでしょ!」
「スターチスは寝不足で疲れてるんだ!まずは、疲れをとってやるべきだろ!それから、悩みを聞けばいい!」
「そのために、毒を使うのは嫌よ。ベルガモットだって、嫌って思ってるわ!私には分かるの、ベルガモットは優しい素直な子なの」
「毒ではない!お前のいう、祈りとやらのほうが怪しい。スターチスは、嫌がってるぞ!俺には分かる。スターチスは聡明な子だからな」
医者と神父は、悩んでいました。
両親はいがみ合っています。
すると、クレオメが母親の胸の中から嫌そうな顔で言いました。




