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お人形遊び  作者: ティナ
3/8

3,先生

両親は前の様に戻り、なじりあいをしますがクレオメにとっては日常です。


クレオメは元気に毎日を過ごしていました。


学校の成績も優秀で褒められます。

友達もクレオメを尊敬しています。


クレオメにとって、最高の時間でした。


ある日、学校の授業で絵を描くことになりました。

クレオメは絵が得意なので嬉しそうにです。


先生が「自分を描いてください」と、言いました。


クレオメは、いつも描いてるので自信満々です。

みんなに発表もしないといけないと知り、緊張しながら丁寧に描いていきました。


先生が言います。

「では、発表していってもらいます。名前を呼ばれたら、前に出てみんなに見えるようにして下さい。頑張った所を言って下さいね」


言い終えると、一人ずつ名前を呼びはじめました。


クレオメは、みんなの前で発表する事が苦手で緊張しています。


みんな丁寧に描いた絵を上手に説明して、拍手が起こります。


次々と、みんなが終わっていくのをクレオメは見て更に緊張感が増します。


先生が呼びました。

「クレオメ、前へきて下さい」


クレオメは、ドキドキしながら絵を握りしめ前へ向かいました。

壇上にあがり、みんなの方向をむきます。

みんなクレオメに大注目です。

頭の良いクレオメの絵が、みんな気になる様子です。


クレオメは、小さく深呼吸をしてから絵をみんなに見せました。


「色を綺麗にしました。左がベルガモットです。彼女は髪が金色なので黄色をつかいました。真ん中がクレオメです。彼女は目が真ん丸なので丸く描きました。最後は、スターチスです。彼女は黒が多いので服の色を明るくしました」


クレオメは、ちゃんと言えた事に安心しました。


しかし、教室は静かなまま。拍手がありません。

クレオメは焦りました。

絵には自信があったのに、みんなの反応が全くないからです。

クレオメは、先生を見ました。

しかし、先生も固まっています。

クレオメは、すぐに壇上からおりて自分の席に行きました。

先生はハッとして、拍手をします。

それにつられて皆も拍手をしました。

クレオメは下を向いたまま、小さく固まっています。

教室の空気を変えようと、先生が言いました。

「クレオメは友達も描いてくれたのね!ありがとう!さ!次、行きますよ」


クレオメは、訳が分かりません。

「違う。ちゃんと自分を描いたわ!!」

心の中で叫び、悔しさと恥ずかしさでいっぱいになりました。

クレオメは、その後ずっと下を向いていました。



その日は一日、クレオメは静かでした。

学校が終わり、帰ろうとしているクレオメに先生が声をかけてきました。

「クレオメ、少し良いかしら?」


クレオメは小さく頷きました。

先生は、あの絵と発言が不可解だと思いクレオメに話しを聞こうと思ったのです。

先生とクレオメは、相談室に入りました。

クレオメは、緊張しています。

先生が話し出しました。

「急にごめんなさいね。何だか元気がないみたいだったから。何かあったの?」


「いいえ」


クレオメは小さく答えるだけです。

先生は、悩みましたが絵について触れてみる事にしました。

「クレオメの今日の絵。綺麗に描けていたわね。お友達は近所のお姉さんかな?」


クレオメは首を横にふりました。先生は続けました。

「ご姉妹は居ないものね。親戚のお姉さん?」


クレオメは首を横にふります。


先生は困りました。

「先生に教えてくれない?」


「自分です」


「クレオメは真ん中にいたわね。あの周りの女の子は?」


「自分です」


先生は、理解できません。

クレオメは嘘をついてる様子もありません。

先生が悩んでいると、クレオメが話し出しました。

「ベルガモットとクレオメとスターチスは私なんです。先生が自分を描けと言ったから描いたんです」


「クレオメ、ごめんなさいね。もう少し詳しく教えて」


「詳しくですか…。何が分からないのですか?」


「クレオメは、今ここにいるわ。他の二人が自分とはどういうこと?」


「他の二人?違います。ベルガモットとスターチスは私です」


先生は全く分かりません。

しかし、クレオメがとても心配になってきました。


先生は聞いてみます。

「そうね。ごめんなさい、先生が分からず屋だったわ。それはそうと、クレオメは、いつも勉強を頑張ってるからご両親にお伝えしたいわ!今日は、ご両親はいらっしゃる?」


先生は、両親に聞くのが早いと考えました。

クレオメは言います。

「はい。夕方にお父さんが帰ってきます」


「じゃあ、夕食後くらいの方が良いわよね?ご両親に伝えてもらっていいかしら?」


「はい、わかりました!」


クレオメは元気に返事をしました。

先生も、少し安心しました。

しかし、クレオメの事を考えると心配になります。

「ご両親は知っているかしら?」

先生は、不安が増しました。


クレオメは急いで家に帰り、母親に伝えました。

「今日、先生が家にきます」


母親はあまりにも急だったため、何事かと思いました。

クレオメは、笑顔で言います。

「先生が褒めてくれたんです。だから、お父さんとお母さんとも話したいと」


母親は、喜びました。

「さすがベルガモット!先生は、いつ頃お見えになるの?」


「お父さんとも会いたいみたいですから、夕食後って言ってました!」


クレオメも嬉しそうです。


母親は、急いで部屋の掃除を始めました。


父親が帰ってくると、さっそく先生が来る事を伝えました。

父親も最初は「何事だ?」と、驚きましたが事情を説明すると「さすがはスターチス!」と、喜びました。


両親は喜び、クレオメも嬉しく思っていました。

しかし、先生は褒めるだけでなくクレオメの気になる点を聞くつもりなのです。



「どうぞ!お入りになって!」

母親の元気な声で、先生が来たことにクレオメが気づきました。

すぐに部屋へ急ぎます。


「急にすみません」


「いえ、いえ!気になさらずに!貴方、先生がいらっしゃったわよ」


先生と母親の話し声が聞こえます。

クレオメも、すぐに部屋にきました。

先生が笑顔で言います。

「あ、クレオメ。お母様、クレオメは立派な子ですね」


「やだ、そんな事ないですわ」


母親は照れながらも、上機嫌です。

クレオメも母親の隣に座りました。

父親もすぐに現れる、先生と挨拶をして椅子に座りました。

先生が話し出します。

「急にすみませんでした。クレオメが、あまりにも優秀なもので。一体、ご家庭でどのような教育をされてるのか、お伺いしたかったのです」


両親は、上機嫌です。

母親が話しました。

「やはり、規則正しい生活ですわ!朝と夜にしっかりお祈りをさせています。時間を意識しますでしょ。それに心が綺麗になります」


父親も話します。

「あとは、やはり勉強です。宿題は当たり前として、予習と復習をしっかりさせる事ですな!継続は力ですから!」


先生は、素直に感心しました。

「はぁ、素晴らしい!才知が備わるのも頷けますね。クレオメ、素晴らしいご両親ですね!」


クレオメも上機嫌で頷きます。

しかし、ここから話しがややこしくなります。両親と先生は和やかな雰囲気でした。

先生が思い出したように、言いました。

「今日の授業で、自分の絵を描いてもらったんです」

先生は言いながら、絵を取り出しました。


「クレオメは絵も上手なんですね」

先生は、この絵を見せれば両親も異変に気づくと思ったのです。


しかし、三人が並んだ絵を両親は当たり前のように笑顔で見ています。

先生は、少し焦りましたが話します。

「クレオメが真ん中の女の子なんです」


両親は「そうですよ」と、笑顔です。


先生の頭の中は疑問でいっぱいです。


すると、母親が言いました。

「やっぱり、ベルガモットが1番上手ね」


父親も言いました。

「いやいや、スターチスだろ」


先生は呆気にとられました。

「両親は知っている」

先生はクレオメを見ます。


ニコニコと上機嫌な様子のクレオメ。


先生は、必死に考えました。

そして、ハッと思い言いました。

「すみません。ご姉妹なんですね。私ったら、気がきかなくて…」


両親とクレオメは意味が分かりません。

先生は、言いました。

「ご姉妹が亡くなられたのは残念です」


両親は大笑いしてしまいました。

先生は、また呆気にとられます。

クレオメが言いました。

「先生、ちがいます。言ったじゃないですか。三人とも私です」


母親も「ベルガモットですよ、全て」と笑いながら言います。

父親も「スターチスですよ、全て」と笑いながら言います。


先生は、だんだん怖くなってきました。


先生は、勇気を出して言いました。

「すみません。三人ともクレオメだなんて意味が分かりません。教えて頂けませんか?」


母親は笑顔で答えました。

「そんな深い話しじゃありませんよ。ただ、私はベルガモットと呼んでいるだけで、夫はスターチスと呼んでいるだけです」


先生は、緊張の糸が解けました。

「そうでしたか。愛称のようなものですね」


しかし、母親は首を横にふりました。

「いえ、愛称ほど軽いものではないです。私はベルガモットと思って育てていますから」


父親も言いました。

「まぁ、愛称ではないですな。私もスターチスとして育ててますし」


先生は、また緊張しました。しかし、すぐに聞きます。

「では、クレオメは誰が育ててるんですか?」


両親は「ちゃんと育ててますよ」と笑顔で答えました。


先生は、お手上げです。

クレオメを見ると、満足げに頷いていました。

先生は思いました。

「クレオメが幸せなら…、それで良いか」


それほど長く話した訳でもないのに、ひどく長い時間を過ごした気分です。

クレオメは先生に言いました。

「ちゃんと、自分を描いたのです」


先生は、頷くことしかできませんでした。


その後は、当たり障りのない話しをして先生は帰っていきました。


両親はクレオメを「ベルガモットは素晴らしい」「スターチスは最高だ」と、褒めちぎりました。


クレオメは最高に幸せでした。

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