2,人形
クレオメは学校に通うようになりました。
学校の名前は「クレオメ」です。
クレオメは友達もできて楽しい毎日を過ごします。
それに、勉強だって誰よりも出来るのです。
先生は「クレオメは素晴らしい子供だわ!ご両親の教育がしっかりしているのね」と、感心しました。
先生は「クレオメは賢いわね。先生、驚いたわ」とクレオメに言いました。
クレオメは笑顔で「もっと頑張ります!」と、答えます。
先生は、愛嬌もあるクレオメがお気に入りになりました。
クレオメは、友達に勉強を教えてあげたりもします。
友達も優しいクレオメが大好きでした。
友達が「勉強嫌いだな。クレオメはすごいね」と言いました。
クレオメは首を横にふり「まだまだ駄目だよ」と、謙遜するのです。
友達は、自慢をしないクレオメを尊敬しました。
クレオメは家に帰ると、すぐにお祈りをします。
お祈りが終わると、宿題と勉強をします。
父親が仕事から帰ってきたら、夕食を食べ学校での出来事を話します。
夜に、予習をし寝る前にお祈りをして一日が終わります。
模範的なクレオメの生活態度には、学校の先生、両親、友達までも褒めます。
母親は「やっぱり、ベルガモットは私の教育のおかげで素晴らしく育ってる」と、嬉しそうに話します。
父親は「いや、俺の教育さ。スターチスは確実に賢くなっているからな」と、自慢げに話します。
二人は今だに「ベルガモット」か「スターチス」かでケンカをしています。
最近では、競い合いまで始めました。
しかし、クレオメは気にせず「明日も楽しみだね」と呟き、一日一日を過ごしていきました。
クレオメは、一人で何時間でも遊んでいられます。
元々、一人っ子でお絵かきが大好きなのも理由の一つです。
もう一つは、お人形遊びが大好きだからです。
「ベルガモット」と「スターチス」と名付けてお話しを作ります。
ベルガモットは、敬語で話し優しい性格の女の子にします。
スターチスは、命令口調で話し強い性格の女の子にします。
クレオメは、人形を動かしてベルガモットとスターチスに演技をさせては笑ってしまうのです。
「何か変だね」
クレオメは呟きながらも、面白くて何時間でも遊べてしまいます。
勉強の時間があるから、お人形遊びを仕方なく止めるくらい大好きなのです。
母親は、そんなクレオメを見ては「可愛らしいわね」と、微笑みます。
ある日、母親はクレオメに新しい人形をプレゼントしました。
「お父さんには内緒よ。もっと、遊びなさい」
母親は、遊びを中断してまで勉強をしている娘を、少し可哀相に思ったのです。
クレオメは大喜びします。
「お母さん、ありがとうございます!わぁ、可愛い!」
クレオメは嬉しそうに人形を抱きしめました。
「遊びに夢中になっちゃいそう!」
年相応のクレオメの反応に、母親は満足しました。
「やっぱり、勉強なんて無理させてるのよ」
母親は思い、父親に呆れました。
真ん丸の目が可愛い新しい人形に「クレオメ」と、名付けました。
クレオメは、夢中になって三体の人形で遊びます。
母親は、満足げにクレオメを見て夕食の準備を始めました。
クレオメは、熱心にそれぞれの人物を演じて会話をするのです。
「三人共、本当にいるみたいだね」
クレオメは、一人笑ってしまいました。
しかし、この幸せはすぐに終わってしまうのです。
今日は父親が早く帰ってきたからです。
クレオメは慌ててしまい、人形を落としてしまいました。
父親は、勉強をしていないクレオメを叱ります。
「スターチス、何やってるんだ。人形なんかで遊んでる暇がありなら勉強しなさい」
クレオメは、反省した表情で素直に謝りました。
「ごめんなさい。しっかり、勉強します」
これで、父親は許そうと思ったのです。
しかし、母親が割り込んできて最悪の結果になります。
「ベルガモットは悪くないわ!せっかく、楽しんでいたのに可哀相でしょ。たまには遊ばせてあげなさいよ!」
父親が母親に怒鳴ります。
「やはり、お前か!スターチスが俺の言い付けを守らないはずがないと思ったんだ!勉強の邪魔はするな!」
「邪魔なんかしてないわ!ベルガモットの事を想ってよ!貴方の押し付けがまし教育とは違ってね!さぁ、ベルガモット気にせず遊びなさい」
母親は、そう言うと「クレオメ」と名付けた人形を手に取り、差し出しました。
すると、父親はその人形を取り上げたのです。
「こんな物は勉強の邪魔だ!」
そう言うと、人形を折り曲げてしまいました。
母親は頭に血がのぼりました。
「なんて野蛮な人!!信じられない!ベルガモットの大切な人形を!」
父親も頭に血がのぼっています。
「うるさい!お前が出てこなければ!もう、いい!」
父親は、人形を投げ捨て家から出ていってしまいました。
母親は、父親はいないのに怒鳴り続けています。
クレオメは、折り曲げられた人形を拾いました。
「痛い?」
クレオメは呟き、他の人形と一緒に大切にしまいました。夕食の時間になっても、父親は帰ってきません。
母親は気にもせずに、食べています。
それから、クレオメにも食べるよう言いました。
「気にせず、食べなさい。ベルガモットは何にも悪くないわ。お人形さんは、また買ってあげるからね」
クレオメは首を横にふり言いました。
「いえ、私が約束を破ったのがいけなかったです。何だか、お腹がいっぱいなだけです」
母親はため息をつきました。
「まったく、あの人は厄介事しか持ち込まない」
クレオメは何も言わず下を向いていました。
暗い夕食が終わり、クレオメは部屋でお祈りをしました。
「私は、お父さんとの約束をやぶってしまいました。どうか、お許しください」
ベッドに入ってからも、なかなか眠れず同じ事を祈り続けました。
知らぬ間に寝入ってたようで、目が覚めると朝でした。
朝の祈りをすませ、台所へ向かうと母親と父親もいました。
クレオメは嬉しくなり「祈りが届いた」と、思いました。
母親は笑顔で言います。
「おはよう。突っ立ってないで、朝食を食べなさい」
クレオメは言われた通りにしました。
椅子に座り父親を見ると普段通りの顔です。
クレオメは安心しました。
すると、急にお腹が空いてきたので朝食を食べはじめました。
母親はクレオメに話し掛けます。
「ベルガモット、美味しい?」
あまりにも美味しそうに食べるクレオメが可愛くて聞いてしまいました。
いつもなら、「スターチスだ」と、父親は噛み付くのですが今日は大人しいです。
クレオメは、黙って頷きました。
母親は続けます。
「そうだわ。ベルガモット、お人形さんを持ってきてちょうだい」
クレオメは意味が分かりませんが、言われた通り人形を取りに行きました。
「どういう事!?」
クレオメの驚いた声が響きました。
母親は笑います。
父親は黙ったままです。
クレオメは急いで人形を持ってきて訴えました。
「見てください!元通りになってます!」
昨日、折り曲げられた人形がちゃんと真っすぐに新品のようになっていたのです。
クレオメは全く分かりません。
父親が言いました。
「スターチス良かったじゃないか。まぁ、人形遊びもほどほどにな」
クレオメは、父親に話し掛けられて嬉しくなり頷きました。
母親が父親に言います。
「素直じゃないわね。ベルガモット、実はね…」
「余計な事を言うな。それから、スターチスだ!」
「ベルガモットよ!」
両親も、いつも通りに戻りクレオメは最高の気分です。
「祈りが通じたのね」
クレオメは、心から感謝しました。