前編
あくまで複数の小説に見られるような「よくある設定」について突っ込みをいれているだけで、個人の小説を攻撃しているものではありません。
5/14 一部訂正・追加。
(痛い……)
俺はどうやら、トラックに撥ねられたらしい。らしいというのは、車が来たという認識すらまともにできないほどの、一瞬の出来事だったからだ。
漠然と辛いのに下半身はんかは感覚がない。息をするのも辛くなってきた。
ああ、死ぬんだ、とそう思った。直後、耳がサイレンの音を拾う。
だがそれをどこか遠くに感じながら、俺の意識は次第に薄れていった。
<完>
+ + + + +
「ちょっと待てや、コラ! <完>じゃねぇだろ! 異世界行ってねぇだろ!」
――現実的に考えてよ。極めて地球と類似した異世界なんかあるわけないでしょ。死んだら終わり。
「そんなんじゃ話が進まねぇだろ! って、お前誰だよ!」
――単なる突っ込み役だよ。気にしないで。で、だいぶ不満みたいだけど、それじゃどうすりゃいいのさ。
「気がついたら真っ白い世界で、神様が居てとかさ」
――神様(笑) 無神論者ですらなくって、何かをお願いするときに漠然と縋る程度の認識しかないくせに、神様(笑)
「う、うっせぇよ! いいからさっさと話進めろよ!」
――はいはい。それじゃ、真っ白い世界に神様がいる設定だね。
+ + + + +
気がつけば俺は、何もない白い空間に寝ころんでいた。否、床という概念のない場所なので、ただ居た、とだけ言ったほうがいいかもしれない。
どこだ、と見回してみれば、白い髭を生やしたじーさんがこちらを見ていた。
「あんた、誰?」
「我は神である」
そのまんま、だな。他に言い方ないのかね。
「そんで、ここ、まさか天国とか言わないだろうな」
「天国? たかだか16年、親の手伝いも勉強もろくにせず、仲間とつるんでチャラチャラしておっただけのお前がか?」
「鼻で嗤ってんじゃねぇよ!」
「口の利き方も知らぬ莫迦が。それが格好いいと勘違いしてるお子様が」
「うっせぇよ! あんた、俺にチート能力くれるんだろ? さっさと寄越せよ」
「やらん」
「はぁ?」
「対人関係能力に問題のある莫迦にそんなもんやるわけなかろう。だいたいにして我は普遍的な傍観者である。ではな」
「ちょっ……!」
言い切ると、じーさんはさっさとその場を去っていった。不思議なことに、俺がいくら走っても追いつけない。そうこうしているうちに、完全に世界はまた、白に埋め尽くされた。
そうして俺の意識も白く塗りつぶされ、ついには何も考えられなくなった。
<完>
+ + + + +
「待て待て待て待て待て!」
――何? 神様(笑)出してやったじゃん。
「チート能力くれるんじゃなかったのかよ!」
――誰もやるなんて言ってないし。だいたい、世界を統べる存在とかそんなのが、一秒に何人死んでんのって世界の中で、とりたてて何が出来るわけでもない小者を相手にするわけないじゃん。
「俺はそこまで小者じゃねぇよ!」
――まったく、最近の子は自己評価だけは高いんだから。
「うっせぇ! とにかく、チート能力寄越せ!」
――仕方ないな。それじゃ、ちょっと巻き戻して。
+ + + + +
「はぁ? 神?」
「うむ。お主の死は予定外でな。我の管理不足だったのだ。そこで、違う世界で第二の人生を送ってもらいたい。わびに、某か、その世界で生きるために役に立つ能力をやろう」
ほとんど棒読みの科白だ。だが、もらえるなら問題はない。
俺は考えた末、イケメン化と身体能力強化、魔法を使う才能、言語理解能力、ハーレム属性を付けてもらった。俺が一番強い世界で美女囲み放題。男のロマンだよな。そうそう、勿論降り立つ世界は剣と魔法と魔物のいる異世界だ。
そして能力を得た俺は、いよいよ異世界へ旅立つこととなった。
「ときに、転生とそのままの旅立ちと、どちらを望む?」
そういや、テンプレってだいたい二種類だよな。
少し考え、俺は転生を願った。神童とか、ちょといいじゃん。
そう神に伝えた直後、俺の意識は急速に薄れていった。
気がつけば俺は、泥の中に転がっていた。腐敗臭が鼻を突く。
「え……」
慌てて起き上がるが、重心がどうにも定まらない。走れば前後左右、予想のつかない方向に倒れてしまいそうだ。
(あれ、俺、生まれ変わって、……赤ん坊じゃねぇの?)
いや、それよりも今の状況だ。低い視界の中、見回せば赤い水たまりの中に白目を剥いて横たわる人間と、血糊のついた斧が目に入った。
俺は、驚愕に口を開く。
「なんでぇ。ガキがまだ生きてやがったか」
「売るか?」
「馬鹿言え、そんな面倒するかよ」
下卑た笑いが耳を通り、頭の中に響き渡る。
どういうことだ。何故、こんな状況になっているんだ。何もかも判らない上に、深く考えようとしても思考がどうにも定まらない。何か打開策をと望む心は思考の表層で霧散してしまうのだ。
恐怖に引き攣ったまま声も出ない俺を、太い足が取り囲む。
「文句は、シケた村に生まれた自分に言えよ」
体の中心に、影が落ちる。
そうして、男の言葉が頭の奥に到達する前に、俺の意識は頭と共に潰れてなくなった。
<完>
+ + + + +
「待てやコラ! なんで生まれるのが貧しい村とかなんだよ! 普通、大貴族の屋敷とかだろ!? それに、なんで生まれてすぐじゃねぇんだよ!」
――金持ちの家とか、指定なかったじゃん。世の中、豪勢な暮らしなんて夢のまた夢って人の方が多いんだよ。魔物倒してウハウハしたいって野望あるくせに、その魔物に襲われる場所に生まれるとか、なんで考えないのかね。
「だからって、なんで抵抗できねぇガキなんだよ! だいたい、生まれてすぐ親の愛情たっぷりとか溺愛親ばかとか、普通そんなんだろ!?」
――あのさぁ、中世って言えば、子供の死亡率高いんだよ? 無事に成長できるとか大前提じゃないの。それに人間の発達段階って判る? 記憶があるまま転生するのはいいけど、生まれた直後とか離乳食もまだの乳児に、何か考えられるほどの意識があるとか、それって、感覚器とか脳とかの身体的機能という視点で見た場合の発達段階として不可能なんじゃね?
「む、難しいこと言うなよ! 自分が楽しみたい為の設定に、ごちゃごちゃイチャモンつけんなよ!」
――でもなぁ。正直、あんたがさっき体験したみたいに、何か感じることは出来てもそれを表出できる回路自体が脳にできてないわけで……。
「だぁぁぁ! もういい、そもそもすぐに上手く動けないんじゃ意味がねぇ! 転生なんか、やめだ、やめ!」
+ + + + +
「ときに、転生とそのままの旅立ちと、どちらを望む?」
そういや、テンプレってだいたい二種類だよな。
少し考え、俺はこのまま異世界へ旅立つことを選んだ。
「ふむ、ではチート能力とやらとあとは……」
面倒くさいが云々と、精神衛生上聞かなかったことにするほうが無難なぼやきを漏らし(勿論俺は聞き流した)、神が手を振りかざす。
溢れる光。まさに勇者に光りあれ、ってこんな感じだよな。
そう思った直後、神が消え、代わりに装飾過多の扉が現れる。
「よし、行くぞ!」
扉を開け、気合いを入れて一歩踏み出し、――そのまま俺は落下していった。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁーっ!」
まさかの空中。しかも、かなりの高度。
叫びながら落ちていき、そして俺はそのまま地面に激突した。
<完>
+ + + + +
「おい! ここは激突前に俺が魔法でなんとかするところだろうが!」
――あのさ、スカイダイビングもしたことない奴が、いきなり空中に投げ出されて落ちていく最中に、使ったこともない能力を使えると思う? そもそも怖いとかいう感覚以外に具体的に何か考えられると思う? ないない。
「じゃぁ、神様がそれくらいなんとかしろよ!」
――注文多いなぁ。
+ + + + +
……叫びながら落ちていく。何も考えられない。だが完全に落ち切る前に、急にふわりと何かに持ち上げられる感覚になった。落下速度が緩やかになり、殆ど尻餅をつく程度の衝撃で地表へと無事着地。無意識になんとかしたというよりは、神の業なのだろう。
呼吸が整うのを待って、俺は周囲を見回した。鬱蒼とした森。月明かりだけが頼りの夜中。某かの動物か、遠吠えのような声を上げている。
「へ、ここが異世界か……」
魔物の居る世界だ。ぼやぼやしている暇はない。いくらチート能力があると言っても、警戒するにこしたことはないだろう。第一にまず、この森を抜けなくてはならない。
「ちょっと走ってみるか……」
身体能力上昇がある。それも確かめなければならない。
思い、走るべく先に深呼吸を行い、
「ぐっ!」
俺は、急に血を吐いた。驚いている間にも、呼吸困難が襲う。
「な、何が……」
周囲には誰もいない。何に攻撃されたのか、そう確認する間もなく、俺は意識を失っていった。
<完>
+ + + + +
「ど、どーいうことだよ!」
――つまり、あれだ。異世界も空気が同じとは限らないってことだね。
「はぁ?」
――だから、その世界の大気の構成の中に、地球人には有毒な成分があったってことだね。剣と魔法と魔物のいる異世界ってだけで、大気が同じとは指定なかったじゃん。
「それくらい、常識だろ!」
――常識(笑)。チート求めてる奴が常識(笑)
「うっせぇよ! なんでもいいだろ! とりあえず、俺が無事に生きていける構成の世界にしろ!」
+ + + + +
走るべく、先に深呼吸を行い、そうして俺は勢いよく地面を蹴った。
「!」
一気に、十数メートルの跳躍。それを繰り返せば景色は線となって流れ、はじめの落下地点などあっという間に見えなくなった。身体能力上昇というレベルではない。あらゆる生物を凌駕するかのような能力、これはまさにチートだ。そう認識し、俺は顔に喜色を浮かべた。
これで、おもしろおかしく生きていける。
とりあえず、得た能力に満足を覚え、俺は一旦足を止めた。息も乱れていない。これならばおそらく、大概のことは余裕でこなせるだろう。軍隊を率いてようやく討伐可能な凶悪モンスターを一撃で仕留め、尊敬と憧れのまなざしを皆から受けるだろう未来。想像だけで垂涎ものだ。
そんな明るい未来を想像しはじめた時、不意に背後で音がした。自然現象、単純に言えば風が鳴らすような音ではない。つまり、何かが居る。
(上等だ、殺ってや――)
能力を試す良い機会だと振り向き、巨大な影を認め、――しかし次の瞬間、そこで俺の体は横へ吹っ飛び、意識は当然のようにそこで途絶えた。
<完>
+ + + + +
「なんでだよ! 何があったんだよ!」
――背後から魔物とかそんなのに襲われたってわけだ。
「俺、チートだろうが! さっと避けてすげぇ力でぱっとやっつけて、それが実は凶悪な魔物で、角とか持っていったら高額で売れるとか、そういうパターンだろうが!」
――まぁ、仮にそういう美味しい敵だったとしても、やっぱり死ぬんじゃないかな。チート(笑)でも。
「なんでだよ」
――身体能力に優れてても、魔法が使えても、反射行動は生来のものだからね。日本で適当に生きてた高校生が、まともに反応できるわけないじゃん。
「殺気とか感じてぱっと逃げるとか、できるだろうが」
――殺気? それどんな感じ? トラックが近づいても判らなかった程度の注意力しかないくせに? 異世界来ていきなり凶悪な魔物の攻撃を紙一重で避けるとか、ないない。人間の表情とか思惑とかすら読み取れない奴が、魔物の気配とか読み取れるとか、ないない。仮に殺気とやらに気づいて早く振り返ることができたとしえも、すぐに対応できる思考回路なんてないから、結局詰みだと思うね。
「身体能力上がったンだぜ? そのあたりも速さ倍増だろうが」
――はぁ。ようするにさ。一流のアスリートが目隠しした状態で、小学生が投げるボールを全部避けられるかって話。身体能力が優れてるのと、何かを察知して対処する能力とは別物でしょうが。
「ぐっ……。けど! そこんとこなんとかすんのがチートだろうが!」
――人生経験を積むことによって得る能力ばかりは、さすがに誰にも与えられないんじゃないかなぁ。それとも何? 現代社会じゃ親が怒鳴り込んできそうなほど凶悪な実戦訓練させる道場に通いまくって強かった高校生(笑)とか、そういう設定にしとく?
「……」
――しゃーないね。それじゃまぁ、避けられたことにしておこう。
+ + + + +
能力を試す良い機会だと振り向き、巨大な影を認め、俺は反射的に後ろへと飛び退いた。
「でかっ……」
距離を取って改めて襲ってきたものを見れば、俺の身長などゆうに越える熊のような獣が、森全体に響くような咆吼をあげていた。赤く光る目が剣呑に細められている。
殺意むき出しのまま近づいてくるそれを見ながら、俺はどうしたものかと考えた。さすがに、直接殴る、蹴るという行動に踏み切る勇気はない。となれば魔法を使うのが一番だが、どの魔法を使うかが重要だ。
(火……はダメだな。森だからな。でも凍らせたら対処できないし、ここは切り裂く、でいいか?)
イメージはカマイタチだ。そこまで決まれば、迷っている暇はない。
「敵を裂け、エア・カッター!」
叫びながら右腕を左から右へと真横に振る。若干の不安はあったが、魔法は上手く発動したようだった。肘より先の腕から何かが放たれる感覚が生じ、次いで大気を裂く甲高い音が響く。
そうしてそれは、巨大な獣の腹を、真一文字に切り裂いた。
「やった!」
だが喜んだのも束の間、獣から吹き出した血飛沫が、生臭くも錆び付いたような臭いをまき散らす。更には未消化の食べ物、糞便の悪臭まで混ざって辺りは酷い状態となった。戦利品を漁りになど、行けたもんじゃない。
氷漬けの方が良かったと後悔しながら、俺はその場を慌てて走り去った。途中、出現した獣か何か、よく判らないものは強化した腕でなぎ払い、森が途切れるところまで突き進む。
とりすぎるほどの距離を取った後、さすがに息を切らせ、俺は足を止めた。森からは抜けたようだが、人家はない。鬱蒼と茂る木と枝葉、植物の濃い臭いがなくなったせいか、随分と空気が爽やかになった気がする。
そのまま更にしばらく探索を続け、小さな川を見つけた俺は、近くに何も居ないことを確認してから座り込んだ。疲れはあまり感じないが、さすがに小腹が空いている。
「とりあえず、魚とかなら食べられるかなぁ……」
魔法で川の中に網を作り、かかった小魚を炎で焼く。魔法って便利。
焼きたての魚は随分と香ばしい匂いで、ふんだんに俺の食欲を刺激した。やや小骨が多いことを気にしながら白身を咀嚼し、殆ど味がない事に落胆しながら飲み込んでひとつ息を吐く。
食べるものも水もある。ここにしばらく居ても死にはしないだろうが、快適とはほど遠い。森などでほぼ隠棲して数年って設定のあれ、調味料とかどうしてんだ?
どうでもいい疑問を脳裏で展開しながら、俺はごろりと横になった。まだ異世界へ来て数時間しか経っていない。無理をせず休むべきだと結界を張って目を瞑る。
このまま朝を待つつもりだったが、そうはいかなかった。まだ暗いうちに、突然の苦痛に目を覚ます。激しい腹痛、そして嘔吐。そのうちに痙攣までが加わった。動けない。周囲には誰もいない。
そうして俺は安全な結界の中、糞便と吐物にまみれながら息絶えた。
<完>
+ + + + +
「食中毒かよ!」
――食べても大丈夫とは限らないのに、安易に食べるからだ。
「わかさぎとかああいうのに似てたんだよ!」
――似てても、異世界じゃん。もしかしたら、水質の方だったかもしれないけどね。
「ねぇよ、そんな設定!」
――安全に加工された食品しか口にしたことがないくせに、これだから狭い世界が全てとか勘違いしてる子供は。ちなみに、あんたがもってる病原体がこの世界に悪さしないようには処理されてるから、そこんところは安心していいよ。
「は!? いつ!? つか、お前、こっちの世界に対する気遣いあるんだったら、俺にもそういうのやっとけよ!」
――いつかって言われたら、チート能力加わったときだねぇ。さすがに滅菌するわけにはいかないし(死ぬし)、こっちにはない病原体だけ除去するのって難しいんだよ。正直、召喚ものってこの手の危険、存分に含んでいるんだよね。それに対して先手を打った神、うん、さすがさすが。
「胸張るな! いばるな! 俺にも優しくしろ! ……。いや、して、ください。……頼むから、無病とかの能力付けてください」
――はいはい。下痢嘔吐はよっぽど堪えたらしいね。
+ + + + +
そうして気がつけば、朝になっていた。若干薄い雲はかかっているが、おおむね良好な天気だ。
結界を解き、伸びをして川の水で顔を洗う。今日こそは、村を見つけないといけない。
「けどまぁ、平地に出たんだからすぐあるだろうし」
少なくとも水だけは確保しなければと、川の流れていく方向へと足を進める。道という道はなかったが、背の低い草で覆われた地面であったことが幸いしたのだろう。別段何に妨害されることもなく歩き続けた俺は、陽が落ちきる前に石壁に囲まれた人工建造物を発見することとなった。
遠くから見るぶんに、さほど規模の大きい囲いではない。だが、街であることには違いなさそうだった。
「おっしゃ!」
勢い込んで、街へと向かい走る。
「獣人きた!」
身体能力強化に伴い、遠くまで詳細に見ることの出来る目が、鎧を着た二足歩行の狼の姿を捉えた。ふたり一組で門の前で槍を携えている。その様子はまさに、思い描いていた通りの中世ヨーロッパ風ファンタジーだった。
土煙を上げながら走りきり、草を分けて作られた道なりに進んで門の前に立つ。そんな俺に、あからさまに不審な目を向けた狼型獣人のひとりが、槍の穂先を向けて声を上げた。
「異形……、魔物め!」
「いやいや、俺、人間だって!」
「喋る魔物……!? 聞いたこともない!」
唸り声が消える前に、同じく門番をしていた獣人が銅鑼のような物を叩く。何事かと遠くから顔を覗かせていた街の人は、それを聞いて一目散に去っていった。
代わりに現れた物々しい格好の獣人たちが、敵意を顕わにそれぞれの得物を構えて臨戦態勢となる。
「ちょっと待てよ! 街に入りたいだけだってば!」
「本当に喋ったぞ!」
「隊長、如何なさいますか!?」
「魔物の変異種かもしれん! 被害が出る前に討伐を許可する!」
「捕縛なさらずともよろしいので?」
「構わん。このような毛もないつるりとした魔物、新種として報告するのもおぞましいわ」
「では、そのように」
「ちょっと待てってば!」
殺意が急激に膨れあがる。俺は慌てて距離を取り、話し合うべく害意がないことを示し両手を挙げた。
直後、雨が降った。矢の雨だ。壁の上からの斉射。防御結界をも突き抜ける。
そうして俺は、まさかという思いと共に意識を失った。
<完>
+ + + + +
「異形!? 異形ってどういうことだよ! 俺、イケメンだろ!?」
――だからさ、それはアンタの基準なわけ。異世界に人という生物が居て、さらにその顔が美形とされるかなんて判らないでしょ。転生の場合なら人型から生まれないとおかしいけど、単なるトリップなら、そうじゃなくても不思議じゃないよね。
「つまり、獣型しかいなくて、それが普通でってことか?」
――そうそう。でも良かったね。「剣と魔法の」異世界って指定したからちゃんと文化があったけど、それがなかったら恐竜が闊歩してるような世界だったかもしれないよ。
「よくねぇよ! それに、なんで俺の無敵結界に矢が通るんだよ!」
――これだから井の中の蛙は。アンタが強いと思ってる基準と、異世界の強さの基準が違ったら、アンタの能力もたいしたことない、ってことで終わり。オッケー?
「冗談じゃねぇ! 今すぐ変更しろ! 地球人と同じ姿の人が暮らしてる文明があって、俺が美形の基準で、俺が規格外に強い世界! 判ったか!?」
――あー、はいはいはい。