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The blessing of the moon  作者: MI
第二章 麗しの水の精霊
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 少し離れた場所では、シエラがじっとその様子を見ていた。リフェルダとは初対面と言うこともあって、何を話せばいいかわからなかったのだ。

「あんなソルディ、初めて見た」

「久しぶりの再会だから、二人とも嬉しいんじゃないかな。僕も詳しくは知らないけれど、風の精霊は十年余り眠りについていたらしいから」

「……そうなんだ。二人とも仲がいいんだね」

 ソルディを知る、特別な精霊とその誓約者。他人の口から当たり前のように発せられる彼の名。

 心がもやもやする。どうすれば、このもやもやが取れるのだろうか。

 そうだね、とリフェルダは嬉しそうに微笑んだ。なぜそんなに笑顔なのかわからずに、首を傾げる。

「どうしてそんなに嬉しそうなの?」

「彼らの会話を聞いているのも楽しいし、君と彼らの話ができるのも嬉しいから」

 その言葉を聞いて、自分はどうだろうと顧みてみる。母のことがすぐに頭に浮かんだ。寝物語にと精霊の話をよく聞かせてくれる。でもシエラに見える精霊たちの姿を母は捉えることができない。

 興味を持った精霊たちがふよふよと漂ってくるのに、母はそれに気づかない。こんなにも近くにいるのに。その事実を寂しいと思ったことが、確かにあったかもしれない。

「私も同じ。リフェルダに会えて嬉しい。私の目に映る世界が確かに存在するって、信じることができるから」

 一人にしか見えない世界。それはその他大勢のひとにとっては、妄想と何ら変わらない。第三者によって証明されるまで、存在しないかもしれない世界だ。

「君は精霊が本当にいるか不安だったの?」

「……うん。私しか証明できる人がいなかったから」

 精霊は本当にいるのか、などという質問を母にしようとは思わなかった。普段の様子を見ていれば見えていないことは明らかだったし、否定されたときのことを考えれば、訊こうという気にもなれなかった。

「わかるよ。僕も不安になったことがあるから。だから、あえていうよ。精霊はいる。水の精霊も、風の精霊もちゃんと存在する。君の妄想なんかじゃない」

 はっきりと言葉にされ、世界が肯定されたようで嬉しく思う。自分たちも、普通の人間がみる世界も、どちらも真実。見る視点が違うだけで、ここに確かに存在する。

「……ありがとう」

 心が穏やかな気持ちで満たされる。本を読み終わったあとの充足感とはまた違った、清々しい気分を味わっていると、傍にソルディがやってきた。

「シエラ、俺たちは移動する。お前たちはゆっくり話しているといい。何かあったら俺の名を呼べ」

 あれほど憤っていたというのに、引き止める気にもなれない。わかったと頷くと、彼は満足そうに口角を上げて窓へと近づき床を蹴った。

「あとで迎えに行くよ。それまではゆっくりと語らっておいで」

 甘やかすような響きの声が、カーテンの方から聞こえた。愛おしむように細められた眼差しが、リフェルダに注がれる。それを当然のように受け入れ、リフェルダは頷いた。たったそれだけの動作に、確固たる絆を見せ付けられたような、そんな気分になる。

 イザルネもソルディに続き、二人は壁をすり抜けて見えなくなる。

「シエラ、僕たちは出会ったばかりだしずっとこの街にはいれないけど、友達になってくれる?」

 不思議なひとだと思う。友達になったとしても、気の利いた話なんてできないし、外で一緒に駆け回ることもできない。それでもいいのかとリフェルダに問う。

「友達を選ぶ基準はそれだけじゃないよ。君と僕、二人がいれば世界は広がる。何をしても楽しい」

 その言葉が本心かどうか推し量るのはとても難しい。そもそも、友達と何をすればいいのかよくわからない。今までそう呼べる人間はいなかった。

 それでも、彼と友達になるのは楽しそうだ。だから頷いた。そのあとにリフェルダがいい笑顔を見せてくれたから、シエラはその選択が間違いではなかったのだと嬉しく思った。


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