14
ふとこれは好機なのではと思い立った。利点も欠点もある。けれど欠点を上回る収穫があるかもしれない。思い立ったら吉日と、ソルディは口元を引き上げた。
「いいだろう。その代わり、お前の誓約者と共に来てくれ」
イザルネが怪訝そうな視線を向ける。
「私だけで構わない。なぜあの子を連れて行く必要が?」
「あの子はその境遇ゆえに、友達というものがいない。リフェルダだって同じようなものだろう?」
丸め込むように畳み込めば、なるほどと頷いた。
「ああ……つまり、引き合わすのはリフェであって、私はおまけだと」
「そういうことだ。悪い提案じゃないだろう? 旅の途中で寄り道したと思えばいい」
彼らは一箇所に留まらず、旅を続けているらしい。盲目、しかもまだ少年であるリフェルダが旅とは無理があるが、傍にイザルネが控えているのなら何の問題もない。
こういった情報は世界中を駆け回る風の精霊たちによって齎される。
「お前に従うのは癪だが、リフェは喜ぶかもしれない」
あごに手を当てて、考えを巡らしている。それでも天秤の傾きは少しずつ増しているように見えた。思いのほか、陥落のときは近そうだ。
「いいだろう。私たちには特に害もなさそうだし、あの子が望めばそうすることにしよう」
イザルネの承諾を得て、早速リフェルダのもとへ向かう。
風の精霊たちは渦を作るように、リフェルダの周囲を回っていた。耳を澄ませば、微かな歌が聞こえてくる。はっきりとした音ではないが、心を癒す不思議な旋律。
上機嫌な精霊たちと、それを心地よさげに聞くリフェルダ。何が気に障ったのか、イザルネは自分の存在を誇張するようにどかどかと乗り込む。水の精霊の帰還に、精霊たちが一目散に逃げ出した。
「イザルネ……戻ってきたの?」
視線を彷徨わせるリフェルダの傍に寄り添い、イザルネが経緯を説明する。その間、ソルディは集まってきた精霊たちと戯れていた。
「お前たち、あまり俺の噂を流してくれるな」
合間に釘を刺すことも忘れない。くすくす、と楽しそうに彼らは踊る。あまりに無邪気で最終的には仕方ない、と許してしまうのだ。
話を聞き終えたリフェルダは当然のように受け入れ、提案は実行されることになった。
「そういうわけだ、ソルディ!」
威勢よく言い放たれたそれに言葉を返すことなく、ソルディは静謐な微笑みを湛えていた。
部屋に取り残されたシエラは、憮然としたまま口を尖がらせた。先刻の会話を反芻しては、ふつふつと怒りが込み上げてくる。
ソルディと出会った頃、望みをと乞われた。その時、あまりに突然な出来事に頭がまっしろになっていて、何も頭に思い浮かばなかった。しかし彼との時間を過ごすうち、これはチャンスなのではないかと思うようになった。
関係が壊れるのを恐れ、何も告げぬことも考えたが、どうしても抑えきることができずに打ち明けた。それなのに、彼は何だかんだと理由をつけて、とめる間もなくいなくなってしまった。
この調子だとしばらくは雲隠れしているに違いない。それとも、あのふわふわと掴みどころのない精霊のことだ。意外と何事もなかったかのように現れるのかもしれない。もし後者なら好都合だ。逃がさないように服をしっかりと握って――もう放さない。激情に身を任せていたところで、はっと我に返る。
(私は……ソルディに触れることすらできないのに)
悲しみが頭を擡げた。本気で逃げたら、シエラなどに捕まるはずがない。だが彼が何事もなかったかのように現れて、それが絶対に捕まらないという自負の行動からだったら許せない。捕まらないから傍にいるだなんて。
(でも、訊きだしてみせる)
開き直って、気合を新たにする。その時、風が動いた。