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The blessing of the moon  作者: MI
第二章 麗しの水の精霊
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 彼女が嘘をつくなど考えがたく、それが本心なのだと窺わせる。勿論、ソルディもそれを疑っていたわけではない。誰よりも身近で彼女たちを見てきたのだ。

「私は後悔しない。あの子に後悔させる気もない。……私は独占欲が強いんだ。もう一生手放さない」

 眼差しは一片の曇りなく、揺ぎ無い意思が見て取れる。

「私は誓ったのだ。共に生きる――それが私とリフェの誓約」

「彼の異能がなくなれば、お前の声は届かない。それに耐えられるのか?」

 改めて言わずとも、イザルネは承知の上なのだろう。

 誓約は永遠の絆を約束するが、永遠にはなり得ない。愛し子は成長するにつれ、異能を失う。もはや月の魔力をもってしても補えない。

「確かに、あの子は私を認識する力を失うだろう。姿も声も届かなくなる。しかし、あの子はすでに盲目の身。失うものは一つだけだ」

 そう、それが月の女王の慈悲であるかのように、辛うじて残されるものがある。それは触感。手と手が触れ合って感じるような感触ではないが、確かにここにあると感じるもの。

「私はあの子を導く手があれば十分だ。そうだろう?」

「……ああ、その通りだ」

 イザルネは勝気に笑った。そんなこと、大したことではないとでもいうように。

「それに、随分と今さらな話だ。我々は何度もそれを受け入れてきた。今回が初めてのことでもない」

 呆れたように言われる。それはそうだ。誓約の数だけ、経験してきた。

「我々が誓約者へ向ける愛は、人間の愛とは違う。我々には我々の愛し方がある」

「……消滅さえも厭わない、献身的な愛か?」

 茶化すように言葉を続ければ、イザルネはにやっと意地の悪い笑みを浮かべた。

「献身的な愛、ねえ……。お前に似合いの言葉だな。傍から見れば、私もそれに当てはまるのかもしれないが、私の認識は異なる。私が消滅する時は、あくまでも自分のためだ」

「誓約者のためではないと?」

「先のことは知らぬ。だが、今さら消滅を恐れる気持ちはない。むしろ、私がどのように消滅するか興味がある」

「そんな考え方だと、誓約者が嘆くんじゃないか」

「同類のくせによく言う。――私が消滅し、彼らが嘆き悲しむ。実に精霊冥利に尽きるじゃないか。消滅しても、私は彼らの中で生きることができる」

 相手の気持ちなど考えない、傲慢で自分勝手な言動。こういうとき、彼女は特に精霊らしいと感じる。しかし、そうは思えども否定する気はなかった。ソルディも特別な精霊だ。イザルネの考え方を異常と切り捨てることはできない。

 精霊は儚い存在。誰かの心の中に生き続けたいと思うのも道理だ。

「消滅した後まで責任は持てない。そんなことをぐだぐだ考えるのは人間だけだ。人間が精霊を振り回すのではなく、精霊が人間を振り回す。それこそが正しいあり方」

「……確かに」

 肯定してやると、イザルネはそうだろうと満足そうに笑った。無邪気な残酷さ。まるで子どものようだと思うが、自分に返ってきそうなので言わない。

「話が脱線したな。イザルネ、なぜこの街に来た? 俺はまだその理由を聞いていない」

 片腕を腰に当てながら、何気なさを装って問いかける。それに対し、彼女はあっけらかんと答えた。

「噂好きの精霊たちが、私の耳元で囁いていったのだ。……お前の噂が大半を占めていたぞ」

 意味ありげな目線を跳ね除けて、頭痛を抑えるように米神を押さえる。予想内といえばそうだが、あまり嬉しいものではない。

「どうせ碌なものじゃない。聞きたくもないな」

「そう言うな。まあ大抵は笑い話にもできないものだが、興味をひかれるものもある」

 ちらりとイザルネを見ると、顔を輝かせている。退屈が嫌いだと公言する水の精霊は、とても噂に敏感だ。

「例の少女を見てみたい」

「見ればいいだろう。誰もお前をとめはしない」

「馬鹿を言え。お前に遠慮していたのだ。許可なく行動に移すわけにもいかないと」

 確かに一言もなく接触されるのは気分がいいものではないが、許可を与える立場にいるかと言われれば、首を傾げざるを得ない。そもそも許可する立場の者は他にいる。


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