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The blessing of the moon  作者: MI
第二章 麗しの水の精霊
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二章の始まりです。

 ソルディはシエラの前から姿を消すと、そのまま屋根へと降り立った。途中で風が少女の呟きを運んでくる。それを聞き、口角を上げた。

「お前はわかっているのだろうか。俺がそれに応じてしまったら、もう後には戻れないことを」

 知りたいという欲求を否定したいわけではない。シエラが望むならそれを手助けしてやりたいと思っている。

「でもな、別に今すぐじゃなくてもいいだろう?」

 遊んで、と風の精霊たちが集まってくる。彼らに応えるように、微風を生み出して精霊たちと戯れた。

 きゃっ、きゃっと喜ぶ彼らを優しい眼差しで見守っていると、異変を感じ取る。風が支配する空間に、異なる属性の精霊の気配がする。

(この気配は――)

 風の精霊たちが集まる一帯に、無遠慮にやってくるのは、久しく会うこともなかった懐かしい存在。

「水の、精霊か」

 風の精霊たちが肯定するようにくるくる回る。騒ぎ出す精霊をあやすように穏やかな風を生み出していると、すぐ後ろに現れた存在感。それは無視できぬほどに生彩を放っている。

「湿っぽいな」

 からかうように呟いてから振り返る。大胆不敵に微笑む精霊が腰に手を当ててそこにいた。

「懐かしい気配を感じて会いにきてみれば、久しぶりの再会だというのにもっと気が利いた台詞はないのか、ソルディ」

 海色の髪はまるで波のように緩やかにうねる。精霊独特の美しい蒼の双眸を持つ、女性の姿の水の精霊。ソルディと同じ特別な精霊だ。

「お前こそ、あまりに唐突な登場じゃないか。水の精霊を遣いにくれれば、もう少しましなおもてなしはできたのに」

「驚かそうと思ったのだが……ふむ。やはり無駄だったか」

「当たり前だ。俺を誰だと思っている」

 彼女は仕方なさそうに肩をすくめる。

「それにしても、この街には水の気配がないな。風の精霊ばっかりじゃないか。我が眷属がいれば、少しは居心地がよくなるものを」

「ここにはお前が喜びそうな要素はないからな。でも、俺にとってはそう悪い土地じゃない。――ここは、よく風が通る」

 時計塔を中心として広がる道は、そのまま風の通り道となる。そのおかげで、この街は空気が淀むことなく循環し、ソルディにとっては居心地がいい街だ。

「つまらん。いっその事、私が精霊たちに呼びかけてやろうか」

「雨を呼び込むつもりか?」

「それもまたよかろうて」

 満更でもならそうにころころと笑う。この調子だと本気でやりかねない。置き土産にと雨を降らせそうだ。この精霊もまた、気まぐれで自分勝手なのだから。

「――イザルネ。彼が風の精霊なの?」

 見て見ぬふりをしていた存在に、初めて目を向けた。イザルネに守られるように後ろにいた少年。彼が何者か、確認する必要もない。

「そうだよ、リフェ。風の精霊ソルディだ」

 言霊はどこまでも甘い。酷薄な印象を受ける蒼の双眸が、優しく眇められていく。水の精霊から、そんな表情を引き出す存在は稀だ。唯一の例外、それは精霊の愛し子と呼ばれる存在。唯一無二の大切な、愛すべき人間。

「こんにちは、風の精霊。僕はリフェルダ。水の精霊の誓約者だよ」

 茶色の髪の少年はイザルネの誓約者。穏やかに波打つ水面のような雰囲気を持っている。優しく微笑むリフェルダは、いかにも彼女が好みそうだ。

 しかし瞼は伏せられたまま。そう、彼は目が見えない。

「やあ、リフェルダ。お前のことは知っているよ。風の精霊が伝えてきた」

 シエラにするように身を屈めて話しかける。噂好きの精霊たちは何でも伝えてくる。たとえば――その目に関することも。

 彼の盲目は生まれ持ったものではない。穏やかな日差し、吹き荒れる風、満ち引きを繰り返す波、生い茂る木々、すべてを見ることができた。ある日、一瞬で奪われるまでは、光の世界を生きていたのだ。

「本当にいるんだね。生きている間に彼女のような精霊に会えるなんて……とても嬉しい」

 何かを探すかのように手を彷徨わせるせるのを、困ったように見つめた。


旅行に行ってきます。

帰ってきたらまた毎日更新する予定です。

申し訳ありませんが、お待ちいただければ幸いです。

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